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031 うわっ! 寝過ごしたです!

「うわっ! 寝過ごしたです!」


 遥香は自分の携帯電話の着信音で、飛び起きた。


 慌てて時間を確認すると午後6時だった。待ち合わせは5時だった。


 完全に遅刻だ。


 「………何をしているの? 相手からクレームが来たわよ。なに、寝坊した?」


 真理子からだった。


 「ごめんなさいです。ごめんなさいです。最近寝てなかったので。でもアラームをセットしていた筈なのに、あっ! 止まってます」


 携帯のアラームはいつの間にか誰かが止めていた。誰もいないから、きっと自分で止めてそのまま寝てしまったのだろう。


 「アラームが止まってます!」


 言い訳をする。


 「えい、分かったわ。とりあえず減給しとくから、とにかく早くしなさい。あと十分待ってくれると言ってるから。相手が怒って帰ってたら、あんた一生、ただ働きだからね、覚悟しときなさい!」


 「ふえーん。それだけは、許してくださいです」


 半べそになる。


 とにかく急いで保健室を出て屋上に向かった。




 屋上のドアをあけると、その場に倒れ込み上半身だけを起こした髪の毛の長い女性がいた。その隣には、男が立っている。


 夕焼けがその男の背中にあるので、逆光で暗くなって識別する事ができなかった。男の影が。黒く、そして細く長い線となり、屋上にうつる。


 敵か?


 遥香はイヤな気持ちに従って、走った。


 男も動く。


 女性、だと思っていたが、それは魔獣だった。その魔獣の首が一閃する。


 黒い何かがこぼれる。


 ?


 男がこちらに向かって来た。下半身を狙って手に持っていた大鎌を振るうが、あっさりと躱されて、そのまま腕を掴まれて振り回される。


「きゃあ!」


 そのまま半回転して放り投げられた。


 軽く上空に飛ばされたのが幸いだった。二,三回転して足から着地する。


 ………大丈夫、どこもやられていない。


「やるますね。って、あれ? ワタル君」


 一瞬、夕日が雲に隠れた際に、目の前の男の姿が見えた。


 同じクラスのワタルだった。


 ふたたび、夕日が雲から現れてワタルの姿を隠す。


 夕日、魔獣、ワタルそして遥香の順で一列になっていた。


 だから遥香からは魔獣が見えない。


 一瞬、ワタルの黒いシルエットが大きくふくらんだと感じた。しかし、それは魔獣が立ち上がったのだと分かった。魔獣が何かをワタルに投げてきた。


 ワタルがそれを避けずにたたき落とした。


 横に弾かれたそれは、魔獣の頭だった。


「そこにいて」


 ワタルがこちらに呟いて、魔獣の方に向かっていく。


 魔獣が飛んだ。


 殺気を感じる。ワタルではなく、自分を狙っている。このままワタルを飛び越して自分に襲いかかって来ようとしている。


 じゃっかん涙目になりながら、大鎌を構えなおして待ち構える。


 こんな事があるなんて予想もしていなかった。まだ寝起きで体が覚醒していないし、そもそも何日も寝ていないから調子は最悪だった。こんな状態で魔獣と対戦して勝てるわけがない。


 空中の魔獣が咆哮した。


 まずい。


 大きすぎる。このままだと、魔獣に押しつぶされてしまう。しかし、左右に逃げる余裕もなかったし、聖石を使う余裕がない。


 その時、空中にいる魔獣に空から光が落ちてきた。


 その一瞬後、魔獣が消炭になる。


 ボタ。


 目の前に魔獣だったものの塊が落ちてきた。


「えっ?」


 訳が分からない。


 魔獣は灰になって、カサカサと風に崩れてい行く。


「あーあ、これでホントにエネルギーが切れちゃったよ」


 ワタルが独り言を呟いて近づいてきた。


「大丈夫?」


 魔獣だったものを蹴ると、崩れるように全て灰になって風に飛ばされていく。


 ワタルが手を左手を差しだしてきたのでその手を掴んで、立ち上がった。


 見るとワタルの右手はへんな角度で曲がっていた。


「わ、ワタルさん、う、腕が折れてます」


 魔獣の頭をたたき落とした時に、折れたらしい。ワタルは大丈夫と呟いて、魔獣の頭の方に近づいていった。


 魔獣の頭を思い切り蹴り上げる。


 壁に激突した。


 壁にしぶきを掛けて、魔獣の頭は四散した。


 そこまでしなくてもと、ワタルを見た時、遥香は覚悟を決めた。


 しばらく力が使えなくなる事を覚悟して、聖石を胸元から取りだして握りしめて祈った。


「ブースト」


 全ての動きが止まった。


 その中で、ただひとり、遥香はワタルの方に向かって行った。


 そしてワタルの腕を食いちぎっている新たな魔獣に大鎌を叩き付ける。何かを断ち切る感覚が大鎌から伝わってくる。


 何かが落ちてきて、それを掴んだ。それは暖かかった。


 魔獣の生首だった。


 叫ぶように大きく口を開いて、顎を向けてくるそれを、片手で放り投げる。


 ワタルがキョトンとした表情で、こちらを見つめている。間抜け顔だったので、つい渡ってしまった。


 ………あれ?


 急に視界が暗転した。


 その場に崩れ落ちそうになるが、ワタル支えられた。


「おい、大丈夫か?」


 ああ、ブーストしたからもう力が入らない。


 それに眠い。


 とても眠い。


「どこかケガをしたのか?」


 ……・・・ワタルさんの方が、腕を噛み千切られているじゃ、ないですか。


 私は大丈夫だから、自分の心配をした方がいいのに。


 そう呟こうとしたが、無理だった。だんだん意識が、かすれていく。


 これから教会に行かないと、いけないのに・・・・・・・・・。


 最後に、満里子の怒った顔を思い浮かべながら、遥香は意識を失った。



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