030 遥香、今日ヒマ?
★登場人物紹介★
天野ワタル:世界征服をたくらんでいるが、訳あって双葉サラの下僕となる。おんな好き(?)
双葉サラ:世界平和を思う女の子。魔族を召喚して契約している最中にワタルに邪魔をされる。
タマ:召喚された猫鬼。ワタルに角を折られて少女の姿になってしまう。何故かワタルの使い魔になる。訳あって人間になる。
双葉木広:サラの姉。ワタルに助けられる。百合で花蓮ラブ。花蓮とワタルの中を裂こうと、サラに無茶な事を言う。
魔石川花蓮:魔石川商事の代表取締役。新しい魔石発掘場を巡って木広と戦うが、途中で現れたワタルにエロい事をされてしまう。ワタルの事が好き。
魔石川睡蓮:花蓮の妹。ドイツに留学していたが花蓮に呼び戻されてワタルとサラのクラスに転入してくる。花蓮の事をワタルが騙していると思って、ワタルの事を殺そうと狙っている。
「遥香、今日ヒマ? よかったら遊びに行かない?」
「うーん、ごめんなさいです。また夕方からお仕事があるから、これから保健室でねてきます。なので遊べません」
鞄を持って教室から出ようとしたところを友達の桜ヶ丘洋子に呼び止められた遥香はそう答えた。
「たいへんね。しっかし、あの教会は遥香のこと働かせすぎじゃない?」
「そうなんです。教会は人使いが、荒いんです。この一週間ずっと夜も呼び出されて、ホントに寝てないんです。だから、さすがに眠いです」
「何やってるの?」
「一応あたしはシスターなので困った人の助けをしたり、布教したり、してます。それに人の道を外れた人がいたら、悔い改めるよう教戒する事もしてます。
ただ、この一週間は布教しようと現場に行っても誰もいなかったりして、惨々です。このままだとノルマが達成できないので、お給料を減らされてしまいます」
「ふーん、布教ね。なんで夜に呼び出されるの? なんか変だよ」
あきれ顔をしている。
「変ではありません。神の道から外れそうになる方達を救う事に夜昼は、関係はないのです。ちなみに夜は深夜手当がついて、お得なのです」
「あ、そう」」
「しかし、この一週間は何か悪意を感じます。あたしの予感がそう言っています」
「まあその予感と言うモノで、今度テストの問題を当ててほしいね」
「洋子は意地悪です。あっ、もう行きます。バイバイです」
背を向けたまま片手を振って教室をでる。
「あーあ、高等部になって、急に髪の毛短くしたから何かあったのかと、思ったけど、相変わらずみたいね。ボーイフレンドでも作ったら、人生変わるかも知れないわよ?」
教室から洋子のため息。何を言っているのか聞こえないふりをするが、無意識に右手で髪の毛を触る。
ちょっと前までは肩下まであった髪の毛がいまは首の部分で切られて、おかっぱになっている。昔の髪型が気に入っているだけに、ちょっとだけ残念だった。
「仕方ないです。切れた髪はくっつきませんから」
独り言をつぶやきながら廊下を通って保健室に向かう。途中、担任の板倉満里子に会った。こちらに気づいて近づいてくる。偶然でなく待っていたようだ。
「また今日もお仕事なの? いい加減体壊すわよ。それに今日の布教はちょっと危険よ」
「別にかまいませんです。それより、その言葉は担任としてですか? それとも保護者としてですか?
もし協会の上司として体調不備の執行者では務まらない布教だと判断した結果の言葉であれば、今日は中止してもかまいませんです」
「友達としてよ。まあこの前みたいな危険な事はないと思うから、適当に片づけて切り上げてね。それと明日の授業中に寝ないように気をつけなさい。あっ、最後のは教師として言ってるからね」
この前みたいな事ですか・・・。目がニヤっと笑って短くなった髪の毛を見ているのが気に入らない。
今後からポニーテールにするかどうか、悩む。ただ似合わないのだ。
「この前は真理子さんがいなければ、何も問題なかったです。………これからは、あまり邪魔しないでほしいです。あたしは、まだ怒ってるんですよ」
「そんなぁ、あれでも助けたのに………」
ジッとにらむと真理子は目をそらした。
「よけいな事です。これでもあたしは執行者なんです」
「それは分かってるんだけどさ、やっぱり、自分の教え子がピンチの時は助けたくなるじゃない。しかもキミは、家族だし」
困った顔で頭をかきながら、そう言ってくる。一応心配してくれているのは分かるが、現場をリタイアした人に心配されてしまうのは、ちょっと体裁が悪い。
「友達っぽく言っても、許してあげません」
「もしかして遥香って根に持つタイプ?」
「首ごと切断されたら、誰だって怒るです」
言いたいことは沢山あるが、自分の首を伸ばして指先を当てる。
「まったく、首はつながったけど髪の毛はつながらないんです。あそこまで伸ばすのに1年はかかります。なんで髪の毛まで切るんですか」
「いや、普通は首を切断した事を問題にするでしょう。あっいや、普通だったら死んでるから、文句は言えないかも」
絶対に反省していない。
文句が言い足りなかったが人に聞かれると気まずい内容になってきたので、ちょっと辺りを見渡す。他の生徒が歩いてくる。
「とにかく、夕方の布教が終わったら、一度、教会に報告してに戻りますから、その時にじっくり話をします」
遥香は会話を切り上げた。一週間寝ていないので、少しでもいいから、早く寝たい。
「あっ、その時に次の布教対象の資料を見せるから」
「分かりましたです」
ってことはその人が改心してくれたら、ボーナスがあるかも知れない。力ずくで改心しなければいけないかもしれないが、ボーナスは魅力的だった。
校門を出てすぐ隣りには教会が建っていた。その教会は病院と併設されており、遥香はそこの教会の修道女、つまりシスターだった。魔石川学園と同様に国立病院だった。
「とにかく、眠いです。早く寝るです」
あくびをしながら保健室に入って行った。
しばらくは遥香編です。