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003 魔石が無くなったって、まだまだやれるわよ


「魔石が無くなったって、まだまだやれるわよ」


 木広は最後の魔石を使い切ってしまったけれど戦意をうしなっていない。目の前の人間を睨み付けるくらいの気力はまだまだ残っている。


 ひざを地面についてボロボロになり土で薄汚れていたとしても、まだ気持は折れていない。相手は無傷でも関係ない。


 対峙しているのは木広と同い年の女の子だった。いま木広は無表情で見下ろされている。その女の子の隣には木広の魔石を使った攻撃を全て防いだ使い魔がいた。片ひざを折りその場に腰を落としている。


 人の姿をした使い魔、エルフ族。この使い魔がやっかいだった。


 腕力は大した事ないけれど、とにかく動きが速い。


 それに頭も良かったから木広の攻撃の先を読んですべて防いでしまう。


「ねえ、まだやるの? 人間がヴェルンド相手に戦っても勝てないのは、何度も戦って分かってるじゃない。


 いいかげん諦めたら?


 木広に使い魔がいないから仕方ないとは思うけど」


「うるさいわよ花蓮。使い魔なら、もうすぐ妹のサラが召喚して連れてくるわ。それまでは何としても耐えてみせる」


 木広は唯一残った短剣を構えて立ち上がる。


 使い魔が立ち上がろうとすると、花蓮は手を動かして止めた。


「まったく、そんな簡単に使い魔を召喚できるわけないでしょう。木広も分かっているのに。………そんなに会社が大事?」


「うるさいわね。ええ大事よ。これでも私は双葉重工業のトップだからそのくらいの自覚と責任感はあるつもりよ」


「今回も、納得してくれないか」


 小さく溜息をする花蓮を見て、木広は無性に腹が立った。


「花蓮のことは絶対に倒すわ」


 そう言いながら花蓮に突っ込んでいった。


「ヴェルンド」


「はっ」


 花蓮の手に一振りの剣が現れた。


 魔剣ミームング。


 この剣に、双葉重工の使い魔は、ことごとく倒されてしまっていた。だからもう双葉重工には使い魔がいない。


 木広が今回の入札に一人で挑んでいる間にサラに力ある使い魔と契約してもらう。そうしないとヴェルンドにはもう勝てない。


 花蓮の心臓を貫こうとした剣先を、魔剣ミームングに弾かれる。


「ぐっ」


 腹部に衝撃。そのまま後ろに数メートル飛ばされた。


 花蓮に蹴られたのだ。


 衝撃で手に持っていた短剣を取り落としてしまう。とっさに周りを見渡して捜すと、かなり離れた所に落ちていた。拾っている隙はない。


「大丈夫?」


 いつの間にか背後に回った花蓮に、余裕の言葉をかけられる。悔しい。


 花蓮に勝たないといけないのに、どうしても勝つ必要があるのに勝つすべを見つけられない。くやしいけれど自分では花蓮を倒せない。


 もう武器さえない。


 素手で挑んでも勝ち目はないだろう。


「くそ」


 しかし木広は立ち上がった。


「下品ね」


 瞬間で目の前に現れたヴェルンドは鈍器を振りかざした。とっさに右腕で頭を守る。


 腕に激しい痛みを感じて木広はうめき声を上げた。


 その場に横倒しに倒れてしまう。


 右腕は折れていた。


 木広は残った左手dヴェルンドの目を狙った。


 ヴェルンドは剣を大きく振りかぶって木広に振り下ろす。


「ヴェルンド!」


 花蓮の叫び声が響くと、木広の肘に剣が食い込む。骨の手前まで断ち切られた。


 花蓮の制止する声の意味をヴェルンドが察して、本来切断するつもりで振り下ろした太刀をぎりぎりで止めたのだ。なさけない。


「なんて事するの! 大丈夫!?」


 花蓮に腕を押さえかけられる。


「触らないで」


 木広は叫んだ。


「花蓮、私の事、舐めてるでしょう?」


 木広は真剣に戦っているのに、花蓮は本気をだしていない。


 負ければ会社が潰れてしまうかもしれない。


 それだけは避けたかった。


 だから木広は必死の覚悟で今回のコンペに参加している。それなのに、もう後がないのに花蓮にあしらわれている。


 木広は、再び立ち上がった。


「私は負けないわ」


 こちらに伸ばした手が止まった。


「その状態でどうするの?


 ねえ、この勝負、魔石川商事の勝ちでいいでしょう?」


 花蓮が横を向いて叫んだ。


 視線の先にいた複数の人影の中からひとりが進みでる。


 委託元の日本政府神宮庁の職員だった。


「ダメだ。きちんと相手が降参しなければ勝利した事にはならない」


 彼らはこの入札を管理しているのだ。


「みればもう戦えないって分かるでしょう。だった木広、あなたに降参と言わせてあげる」


 それから木広は何度も何度も殴られた。


 しかしその度に木広は立ち上がった。


 立ちあがれないように片足の骨を折られた。


 それでも立ち上がると、もう一方の足の骨も折られた。


 木広は膝立ちして、花蓮に立ち向かった。


「ねえ、これ以上やったら死んじゃうよ。お願いだから降参してよ」


 花蓮が哀しそうな顔をしてそう告げるが、


「何を言っているの、私は、まだまだやれるわ」


 木広は花蓮を睨んで、花蓮の方に近づいて言った。


 鬼気とした気配を放つ木広に、花蓮が思わず後退る。


「主」


「分かってるわ」


 花蓮が僅かに声を強張らせながらヴェルンドに頷く。そしてゆっくりと体の力を抜くと魔剣ミームングを再び手に取った。


「ごめんなさい。ここまで覚悟があったなんて、どうやら私は木広の事を見損なっていたようだわ。だから私も覚悟を決めたわ」


 魔剣ミームングを構えた花蓮がゆっくり近づいてくる。


「勝負」


 そう言って花蓮が全力で斬りかかってきた。


 木広はそれを防ぐ事ができない。


 しかし、威圧するように花蓮の事を睨み付ける。


 太刀が正面から打ち下ろされてくる。


 頭の上に迫る太刀を無視して、木広は花蓮を凝視し続けた。



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