027 魔石発掘場に行く日を決めたわ
「魔石発掘場に行く日を決めたわ」
昼休み時間、校庭と校舎を隔てる低い土手の上にそびえている大木の下で弁当を食べていたサラに木広がそう言った。
「準備ができたのね」
神宮庁がやっと魔力を半減させることができたという連絡があったのが昨日のことだった。サラも同席していたが、木広はその連絡を受けてすぐに神宮庁に向かった。そして今まで封印するための日程を調整していたのだ。
「次の新月。つまり明後日の早朝に決まったわ」
「ひとりで大丈夫なの」
睡蓮も一緒に昼飯を食べていた。サラの隣りに座っている。
「大丈夫よ。べつに初めてではないんだし」
ただし、前は使い魔が一緒にいたはずだ。木広はまだ新しい使い魔を召還できていないから、今回はひとりで行くしかない。
「どうしたの? 何か不満そうね」
「何でもない」
ワタルは最後のご飯を乱暴に口に入れて、その場に寝転んで、顔をそむける。
「もしかして、心配してくれるの?」
木広のクスっと笑う声が聞こえた。
「あいかわらず、ワタルさんは甘いわね」
「ワタルお兄ちゃんは、意地悪だけど、やさしいです」
「タマちゃん、それ褒めてるつもり?」
サラはタマに厳しい。タマがシュンとなる。
「私のこと恨んでいるのにね」
「別に心配なんかしていない。ただ木広が怪我すると、サラが不機嫌になるからあまり無茶はしないでもらいたいだけだ」
「な、何をいっているの」
サラが慌てだす。
「ワタル様、今の発言は不適切なの。魔石川商事の人間として、訂正する必要があるの」
睡蓮から、サラと木広にはあまり親しくするなと何度も注意されている。あまり親しくしすぎると花蓮に報告されて、いろいろ面倒なことになる。ワタルが仲良くしすぎると魔石川商事が先に封印してしまう可能性もある。
サラと木広と話すときはかならず睡蓮が一緒にいなければだめだと言われているので、結果的にワタルはいつも睡蓮と一緒にいる。なにしろ、どこに行くにも睡蓮がついてくるのだ。
「訂正するの」
睡蓮に催促された。
「わかったよ。サラが不機嫌になると八つ当たりされるからあまり無茶はしないでくれ」
「八つ当たりなんかしないわよ」
「ぐふぉ」
サラが肘鉄をお腹に落とす。思わず今食べたものを戻しそうになった。
「ふん、裏切り者が何を言うの。この、この、この」
グリグリ力を入れてくる。妙なところに入っていて、とても苦しかった。
「サラさん、こんなところで抱きつくなんて、信じられません、さっさと離れてください」
睡蓮がサラの手を掴んで引きはがす。
今のはどう考えても抱きついていないだろう。
そう言いたかったが、タマが抱きついてきたので言えなかった。
「ワタルお兄ちゃんに変な子としないでください」
うん、タマはだいぶ人間としての立ち位置を掴んでいるようだ。はじめに感じていたワタルに対する違和感は今はない。
「それじゃ私は教室にいくから」
木広が去っていこうとする。
「そういえば、ワタル様。姉さまがDNA検査結果が出たので放課後話があると言っていたの。一緒に会いに行くの」
睡蓮が用事を伝えてきた。
「分かった」
睡蓮に返事をしながら、木広を見る。
「なに?」
「べつに。・・・・・・・・・怪我するなよ」
「ほんとに、ワタルさんは甘いな。他の子だったら惚れてしまうだろうに。でもホントに心配無用よ」
片手をひらひらさせながら、木広は振り返らずに校舎の方に歩き去っていった。