026 今日からあんたは花蓮の世話になりなさい
「今日からあんたは花蓮の世話になりなさい。でもあたしとの約束は忘れてはだめよ」
「なあ、とりあえず全く事情が分からないんだけど。説明してくれないか?」
いきなり睡蓮と戦わされたと思ったら、明日から花蓮の屋敷に行って来いといきなり告げられても、納得できない。
そもそも、自分の家があるから花蓮の屋敷に行く意味が分からない。
「あんた、タマと二人っきりで寝泊まりするつもりだったの?」
「いや、べつに妹なんだからいいじゃないか」
両親は海外におり、妹がひとり帰国したのだから、ふたりきりで住むのが普通の流れだとおもう。
「ワタルお兄ちゃんと、ど、同棲なんてイヤ」
ソファでぐったりしているタマが即答した。隣りで解放しているサラがうなずく。
「やらしい」
確かにホントの兄弟でないことを知っているサラには、そう言われても仕方はないが。軽蔑する目で見られるとつらい。
「兄弟なんだから一緒に暮らしても、変じゃないだろう」
「変じゃないわよ。ワタルさんが変なことしなければ。でもするんでしょう?」
ワタルの隣りに座っている花蓮が腕を絡ませてきて、耳元で呟く。
ついでに息を茎かけられた。
「いいからしばらく花蓮のところでやっかいになりなさい。いいわね」
サラは目の前に仁王立ちになり、手に持った亜サバイバルナイフを震わせている。あまり刺激したくはないが、花蓮と一緒に住むことは納得いかない。
「お姉様がそう決めたのよ」
サラが木広と花蓮の間で話し合われたことを簡単に説明する。
◇◇◇
「・・・・・・・・・つまりおれは魔石発掘場の権利を得るために売られたってこと?」
おもしろくない。
サラは反対したようだが、双葉重工のトップである木広の決定には逆らえないらしい。
「だから、私と一緒に暮らしましょう」
嬉しそうだが、やはり無表情の花蓮を、ため息をつきそうになりながら見た。
「花蓮はそれでいいのか?」
「いいわよ」
ワタルが嫌がっているのが分かっているのに、花蓮は平気らしい。
結局、ワタルの意志とは関係なくワタルとタマは花蓮の屋敷に住むことになってしまった。
サラが約束を忘れるなという言葉だけがたよりの、なんとも心細い気分だった。
翌朝、ワタルとタマは魔石川学院の理事長室に花蓮と一緒にいた。
「それで、この子を中等部に入学させろという連絡があったとおり、手続きはしましたが、本来はきちんと手続きをしていただいて、」
「あ-、分かった。今度から気を付けるから。では手続きは済んだのであればさっそく今日からタマは中等部の一年として、授業を受けてもらうから」
「ちょっと、花蓮様、話は最後まで聞いていただかないと」
理事長が面白くなさそうに文句を言うが、花蓮は聞いていない。
「タマ、なかなかその制服は似合うよ」
ワタルはタマを見て感想を述べた。
小柄で子供っぽい顔付きをしているから小学生にしか見えないタマだったが、中等部の制服をきていると、それなりに見える。
「ワタルお兄ちゃんに、褒められてもうれしくない」
タマはそっぽを向くが、それなりに制服を気に入ったようで両手でパタパタと肩とか膝とか触って落ち着かないでいる。
「ただ、今日の放課後に身体検査だけは受けてさせてくださいね」
「ああ、分かっている。それと、」
「痛っ!」
花蓮に髪の毛を抜かれた。
「DNA鑑定をしてもらいたい」
花蓮がワタルの髪の毛を理事長に渡す。それを受け取りながら理事長が怪訝そうにしている。
「わかりました。制度はどれほどで」
「トップレベルでお願い」
花蓮は様がすんだらしく、立ち上がって理事長室から出て行こうとしたので、ワタルとタマは慌ててそのあとに続く。
「そんなの、調べなくても兄妹なのは間違い何のに」
「気にしないで。ただ私が安心したいだけだから。でもね」
花蓮が迫ってきた。
「もしも、ふたりが兄妹でなかったら、きみの事を社会的に抹殺するからね」
後退ってもその分押してくるので、ワタルはそのまま壁に背中をぶつける。タマは何とも言えない困った顔をして様子を伺っている。軽く目配せすると、諦めたように何も言わなかった。
タマが元魔族なのは絶対秘密だったから、花蓮にもばれるとまずい。それはタマも分かっているのだ。
花蓮とはそこで別れて、タマと一緒に職員室に向かった。
「ワタルお兄ちゃん、いちおうお礼は言っとくね。ありがとう」
タマが自分を人間にしてくれたことに対して礼を言ってきた。ワタルは少し恥ずかしくなる。
「いや、おれこそ、例え魔族だったとしても女の子に対してあんな事をしたんだから、それなりの責任をとらないと行けないと思っているし。たいした事はないから、気にしないでくれ。でもいきなり人間にしたのは、悪かったとも思っている」
「ワタルお兄ちゃんのことをワタルお兄ちゃん手言わないといけないのははじめはいやだけど、もうなれたし。私は人間になれたのはうれしいわ。ワタルお兄ちゃんには感謝している。このお礼はいつかするつもり」
「別にいいよ。それよりもばれないようにしてね」
職員室のドアの前で立ち止まる。
「ワタルお兄ちゃん、もう行くね」
「ああ、先生の言う事を良く聞いて。しばらくは大人しく様子を見てね」
タマが少し困った顔をする。
「出来る限り努力してみる」
タマが職員室に入って、クラスの担当教師の方に行けたことを確認して、ワタルは自分のクラスに向かった。
タマを学校に通わせる事が、唯一ワタルが花蓮に出した条件だった。
タマがそれを歓迎するかどうかは分からなかったが、今後人間として暮らしていくための大事な事を経験するには学校に通うのが一番いいと思っている。だからワタルも学園にわざわざかよっているのだ。
「ただ、この学園が結構常識がないのが不安と言えば不安だった」