023 決めた。睡蓮と戦って死になさい
「決めた。睡蓮と戦って死になさい」
木広がそう告げる。
「待ってお姉様、あたしが殺る」
「それはダメなの。ワタル様とは私が戦うの」
睡蓮がトコトコ歩いてくる。
「サラちゃん。私だって我慢しているのよ。でも、睡蓮と約束しているの、それにあなただって睡蓮の戦い方をみたいでしょう。我慢してね」
花蓮がサラにそう呟いているのを横目で見ながら、ワタルは後ろに一歩下がった。
何かが襲いかかってきたのだ。
「よけたの? 偶然?」
睡蓮が両手を前に突き出して何か呟くのが分かった。
真横に何か不可視なモノの気配が現れ、ワタルはその場にしゃがんで前方に飛んだ。
足を何かに掴まれる。
「ワタルお兄ちゃん!」
「タマは手を出すな」
「でも………」
「命令だ。安定するまで、力は使ってはだめだ」
こちらに駆けつけてこようとするタマを制した。
少なくとも朝まではタマは戦えない。今タマは傷付いたら、そこから体が崩壊してしまう可能性がある。
「タマちゃん、なの? でも全然別人じゃない?」
木広が怪訝そうにタマを見ながらいった。
「タマちゃん?」
睡蓮が呟いた。
「おれの妹だ。木広にサラ、タマが完治するには、もう少し時間がかかる。だから守ってやってくれ」
「………いろいろ分からない事があるけど、とりあえず分かったわ。でもその代わり、きみは一度死んで反省しなすること。いいわね。睡蓮、殺すつもりで戦っていいから」
花蓮が睡蓮にそう言った。
「うん。分かったなの」
「タマちゃん、危ないから離れていましょう」
いつの間にかタマの近くに花蓮がやってきて羽交い締めにしていた。
「花蓮とは話がついているんだけれど、ワタルは双葉重工でなく魔石川商会につく事になったの。だから仲良くましょうね。ただし、あなたが本当にワタルの妹だったときの、話だけど」
ワタルの方から花蓮の顔は見えないが、相対しているタマの顔は見る事ができた。何故かみるみる蒼白な顔色になる。そしてその場に倒れそうになり、花蓮に抱えられる。
「睡蓮、ワタルの事を殺さなければ何してもいいわ。本気で戦っていいわよ」
「そうするの」
「ちょっと待って、おれには睡蓮と戦う理由が思い付かない」
「女の敵」、と睡蓮とサラ、そして木広が言った。
「浮気者」、と花蓮が言った。
「「「「いちど死ぬべき」」」」
四人が声を合わせてワタルを罵倒する。ここにいる全員が自分の敵だった。
「わかったよ。でも今タマはかなりデリケートな治療をしたばかりだから丁重に扱ってくれよ」
そう言うと、花蓮が頷いた、
「では、改めて行くの」
いままでのやり取りを待っていた睡蓮がふたたび向かって来る。
「来な」
ワタルはそう言って立ち上がり、睡蓮を待ち受けたる。
「これって水だろう?」
体の近くで具現化されるモノを叩き受けながらそう言った。
「アクアスネイク。わたくしの使い魔なの」
水が周りを多い、二メートル以上の長さの水の剣と一体になった睡蓮の腕が伸びてくる。そしてもう一方の腕が同じタイミングで横から胴を真っ二つにする勢いで襲いかかってきた。