020 お姉様、ワタルの気配がしない。ちょっと見てくる。
★登場人物紹介★
天野ワタル:世界征服をたくらんでいるが、訳あって双葉サラの下僕となる。おんな好き(?)
双葉サラ:世界平和を思う女の子。魔族を召喚して契約している最中にワタルに邪魔をされる。
タマ:召喚された猫鬼。ワタルに角を折られて少女の姿になってしまう。何故かワタルの使い魔になる。訳あって人間になる。
双葉木広:サラの姉。ワタルに助けられる。百合で花蓮ラブ。花蓮とワタルの中を裂こうと、サラに無茶な事を言う。
魔石川花蓮:魔石川商事の代表取締役。新しい魔石発掘場を巡って木広と戦うが、途中で現れたワタルにエロい事をされてしまう。ワタルの事が好き。
魔石川睡蓮:花蓮の妹。ドイツに留学していたが花蓮に呼び戻されてワタルとサラのクラスに転入してくる。花蓮の事をワタルが騙していると思って、ワタルの事を殺そうと狙っている。
「お姉様、ワタルの気配がしない。ちょっと見てくる」
食事の途中でその事に気づいてしまったからサラは食べているものの味を楽しめなかった。食事中に離席しようか何度も迷ったが、マナーが悪いし、花蓮と睡蓮に勘ぐられるのもイヤだったので食事が終わるのをずっと待っていた。
「私にはワタルさんの気配は感じられないけれど、サラちゃん凄いわね」
「………」
木広の冗談にかまっている余裕はない。
「まあ、いいわ。それじゃついでにワタルさんを連れてきてもらえない?」
サラは驚く。ワタルはずっと引っ込んでいてもらう事になっていたはずなのに。
「睡蓮がワタルさんと手合わせしたいんですって。サラちゃんも睡蓮の使い間を見ておきたいでしょう? だから、おねがい」
睡蓮を横目で見ると、目が合った。
軽く頷かれた気がする。
「分かったわ。でも以内と思うわよ。それを確認しにいくんだから」
サラはそう告げて廊下に出た。
軽く走りながらワタルがいる部屋まで行き、ドアを乱暴に開ける。やはりワタルはいなかった。
タマもいない。
「ちィ、やっぱりいない」
窓が開いているので念のためバルコニーに出てみたが、そこにもいなかった。
なんとなく面白くない。
自分に黙っていなくなることが面白くない。
タマと一緒にいなくなったことが面白くない。
そんなふうに面白くないと思ってしまっている自分が面白くない。
しばらく冷静になるために夜風に当たっていると、人の気配を感じた。
「ワタル、あなたいったい何処に、いたのよ、って睡蓮がなぜここに?」
ワタルではなかった。
睡蓮だった。
「ワタル様はいないの?」
「勝手に家の中を歩き回らないでもらえるかな」
ちょっとばつが悪い。
「一応、木広の許可はもらったの。だから勝手ではないの」
木広の考えがよく分からない。って事はなく、とても想像することができた。
「まちがってたらアレだけど、お姉様は花蓮さんとふたりきりになりたいから、あなたの事をここに様子を見によこしたんじゃない?」」
睡蓮が頷いた。
サラは頭を抱える。
「急いで戻らないと」
「何故戻るの? ワタル様を捜さないの?」
睡蓮をじっと見た。
「あなたも、お姉様、えっと木広と花蓮をふたりきりにしたら、ちょっとまずいと思ったりしないの?」
睡蓮が少し腕を組んで考え込むが分からないようだ。
「もしかしたらふたりがエッチな事をすると思っているの? であれば大丈夫なの、姉さまはノンケだから。それにもし木広が無理矢理迫っても、姉さまなら全力で何とかするはずなの」
「まあ、そうだろうけど。だからといって放っとけないでしょう」
何かあったら、それはそれでイヤだったが、そもそも花蓮に迫る事自体を防ぎたいのだ。その為に早く戻りたい。
ワタルの事は気になるが、今は木広の行動を阻止するのが先だ。
「ねえ、ワタル様を捜してほしいの」
「だから、そんな暇ないの。すぐに戻らないと」
睡蓮が首を微かに傾けて、指で鼻を頭を擦る。
「うーん。やはりここで戻るのは良くないの。せめてしばらくここにいてほしいの」
………何となく、イヤな予感がした。
「もしかして、お姉様になんか頼まれたりした?」
「サラさんをしばらく戻ってこないようにと頼まれているの。だからこの部屋にしばらくいて欲しいの」
………睡蓮、自分の姉を襲おうとしているヤツの言う事をきくのは、どうかと思うよ。
「ちなみに、わたくしも木広と同じユリです」
サラはすでに睡蓮から距離を取っているので、サラはビックリしながら睡蓮から飛んで離れるような行動は取らなかった。
「それはお姉様から聞いている」
「だからさっきからお姉様のことを呼び捨てにしているのね。まったく」
木広の性癖は、ホントたちが悪い。
「あのふたりは放っといてもいいの。それよりもワタル様を連れてきて欲しいの」
「どうして、そんなにワタルと戦いたいの?」
「ワタル様の事を理解したいのが半分、もう半分はあわよくば殺せたらと思うの」
ああ、睡蓮もやはりこっち側の人間だと言う事が分かった。
「そんな考えでいるのでは、会わせる訳にはいかないわ」
サラは足をほんの少し広げて腰を少し落として身構えた。
「もし、どうしても、と言うなら私と勝負して、もし勝ったら一緒に捜してあげる」
「いいの? わたくしは強いの」
わずかに口元に笑みを浮かべて、いや実際には浮かべていないが何となく挑戦的な態度を取っている気がした。
「私も強いわよ」
だから、サラは売られた喧嘩を買った。