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019 ご招待していただき、ありがとうなの

「ご招待していただき、ありがとうなの。お土産はこれなの」


 一階のホテルのロビーで、睡蓮がそう言って、隣にいる花蓮の背中を押す。


「では遠慮なく」


 木広は花蓮の手をとって引き寄せた。


「何をする! よせ、抱きしめるな」


「まあ、いいじゃない」


 抱きしめた手を振り払われてしまう。


「ふたりの事は今後話し合おう」


「話さないわよ。木広、あんたがそうだから・・・・・・・・・。まぁ、今日はいいわ。私は今日は妹の付き添いできているだけだからあまり文句は言わないでおくわ」


 花蓮はそのまま離れて距離をとった。


「そう言えば、妹さんはどうしたの?」


「サラちゃんならもうすぐ来ると、思う。お、来たか」


 サラが階段を下りてくる。ひとりだったのでワタルとタマはおとなしく部屋に引っ込んだ様だ。


「ちょっと手が離せない用事があったので、失礼しました」


 サラが花蓮を見てそう言った。敵意を隠そうと視線を向けている。


 花蓮はその視線を正面から受けても、平然としている。相変わらず無表情なので何を感じているのかは分からないが、サラのそんな視線くらいでは恐らく何も感じていない気がする。


「さら、今日の主賓は睡蓮よ」


「分かっている。ようこそ」


 サラはぶっきらぼうにそう言って、一瞬睡蓮に視線を向けるが、すぐに花蓮に戻す。


「サラさんはわたくしのお姉さまが嫌いなの?」


 睡蓮が他意のあるような、意味深な事をきく。


「ええ。ライバル会社のトップだし、お姉様のことを何度も傷つけている人を好きにはなれないから」


 サラも思っていることを口にする。


 木広はサラと花蓮の様子を交互に見て、まあ大丈夫そうなので放っておくことにした。


「サラちゃん、あたしは睡蓮と話をするから、その間、花蓮のお相手をしてちょうだい。花蓮、後で将来の事を話し合いましょう」


「話さないわよ」


 花蓮の目が細くなる。僅かに無表情が崩れたので、満足する。


「仕方ないわね。庭でも行きますか」


 サラがそう言って花蓮がうなずくと、ふたりは出て行った。




「今日来てもらったのは友達としての招待だけど、あとできちんと睡蓮の使い魔を見せてもらるのよね? 使い魔はどこにいるの?」


 すると睡蓮が片手を伸ばして何がをつぶやく。すると睡蓮の手に平から、水が溢れる。そのまま腕に水が絡みつき、剣のような形になった。


「これが私の使い魔。人型ではないの」


「珍しいわね」


 使い魔は人型である方が一般的に力が強いから、睡蓮の使い魔が物の形をしているのが意外だった


「わたくしとは相性がいいの。たぶん最強の組み合わせなの」


 少し、照れているのかもしれなかった。花蓮に比べれば表情を読みやすい。


 花蓮に比べると、まだ人間味がある。


「わかったわ。では夕食後にでも実力を見せてもらおうかしら」


「構わないの。ところでワタル様はどこにいるの?」


 居ないと言いかけたが、嘘をつくほどではないので、


「三階の部屋で待機してもらっている。この面子でワタルがいると、いろいろ面倒くさい事になりそうなので今日はずっと部屋にいてもらうつもりよ」


「・・・・・・・・・わたくしの相手をしてもらいたかったの」


 僅かに眉を寄せて、残念そうにする。


 睡蓮のてを取って、ニコリと微笑む。


「まあ、もしかしたら姿を見せるかもしれないから、その時に頼んでみたら」


「木広が命令すれば従わないの?」


 そうだったら楽だが、首を振って否定する。


「ワタルさんはサラちゃんと契約してるからサラちゃんに頼んでみて」


「分かったなの」


 睡蓮がふと窓の方を見て近づいていく。


「どうしたの?」


 木広も気になって窓に近づいていく。


 見ると外の中庭にサラと花蓮がいた。サラが花蓮に食って掛かっている感じだった。


「あのふたりは争って欲しくないんだけれど」


「ムリなの」


「何故?」


 睡蓮は少し考えるような間を開けて、


「花蓮もサラさんもワタル様の事が好きなの。だから争っているの。だから仲良くなる事は考えられないの」


 と答えた。


 睡蓮の言う通りかもしれない。なぜワタルの事を好きになるのか花蓮は気持ちが分からない。正直に言えばワタルの事は好きになれない。花蓮がワタルに好意をいだいている時点でワタルは敵と思っている。


 ただ、それだけでなく時々ワタルに感じる違和感が心を苛立たせるのだ。そしてそもそも、


「わたしはワタルさんが怖いわ」


 なぜ睡蓮に正直に言ってしまったのか分からないが本音を打ち明けた。


「木広さんもなの?」


 目を見開いて睡蓮がおどろく。


「わたくしもワタル様がときどき恐ろしく見える事があるの。なんというか、ふとした時に時々見せる表情がとても底引き悪いの」


 睡蓮も同じ者をワタルから感じていたのは以外だった。


「でもお姉様は感じないらしいの」


「サラちゃんも感じた事がないみたいなの」


 別にワタルが悪い奴だとは思わないが、どこか受け入れがたい部分があり、それが得体の知れない不安をかき立てて理由のない恐れを抱かせるのだ。


「ワタルさんに感じるモノをどう表現していいのか分からないけれど、本能的に危険だとかんじてしまうの。だから、サラちゃんや花蓮がワタルさんの近くにいることは正直いやだわ」


 理由が分からない。強いて言うなら理由が分からないから、自分が理解できないからワタルにサラや花蓮が無防備に近づく事がやたら不安で危なかしく感じてしまう。


「やはりワタル様と一度戦いたいの? 戦う事で何か理解するモノがあると思うの」


 木広はその考えになんとなく合意する気にはなれなかったが、否定する材料もない。


 自分は以前に病院で一晩共にしてワタルを理解しようとしたが結局出来なかったが、もしワタルと睡蓮が戦えば、睡蓮なら何か分かるかも知れない。


「いいわ。あとでワタルさんを呼んできて上げる。何とか戦わしてあげるわ」


「ありがとうなの。ところでワタル様はほんとうにお姉様の使い間を倒したの?」


「私、恥ずかしい話だけれど途中で気を失ってしまったの。でもワタルさんが使い間を軽くあしらったのは見ていたわ」


 木広としても未だに信じられない。


「ねえ、花蓮が手を抜いて………そんな事はないか」


 そういえばサラはワタルが花蓮のスパイではないかと疑っていたが、もしスパイだったら花蓮の腕を落とすようなことはしないだろう。


 いくら再生するからと言ってもそこまでする必要はないだろう。


 それに睡蓮の態度や話している内容からするとスパイとは考えにくい。


 ワタルはいったい何者なのか、混乱する。


「そろそろ夕食の用意ができるころだから、ふたりと呼びにいきましょう」


 いつの間にか話し込んでいたらしく、丁度良い時間になっていた。


 木広は窓を開けてふたりに軽く声をかけた。


「そろそろ食事しましょう」



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