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016 おまえ、もしかしたら怒っているのか

「おまえ、もしかしたら怒っているのか?」


 サラの後ろについて歩いていたワタルは、我慢ができずにサラに声を掛けた。


 するとサラがその場に立ちどまり、体ごと振りかえってこちらを冷たい目で睨んでくる。汚物を見るような目つきだった。どうも激しくお怒りのようだ。


「あんた、女の子だったら見境なしに手を出すの?」


 何故か指を突きつけられる。


「そ、そんな事はない。そ、そうだ、おまえには手を出していないだろう?」


 それで見境があることを分かってもらえるはずだった。実際に、サラは驚いた顔をして下を向いて近づいてくる。


「確かにそうね。あなたはあたしには何もしていないわね」


 サラの震える声なんて初めて聞いたが、自分が間違っていたのが恥ずかしいのだろうか?


 目の前まできたサラが、手のひらをワタルの胸に触れてくる。


 ドキッとする。


 何故だろうか、心臓の鼓動が早まる。


 サラが上を見上げて、ワタルの方を向いた。


 !!


 とっさに横に飛んだ。だが胸に当てられたサラの手がシャツを握りしめてきたのでうまく避けられない。それに片腕はタマがしがみついているから拘束されているようなものだから普通に動けない。


 ビュッ。


 とっさに上半身を傾けてて避けたワタルのあごの近くを何かがきらめき通り過ぎる。かすかに耳たぶをかすり、そこから微かに血が滲んだ。


「絶対にいけると思ったのに・・・・・・・・・」


 ワタルはサラが舌から突き刺してきた軍用ナイフを目線で確認する。


「い、今のはシャレになってないぞ。マジにヤバかった」


 さらは、舌打ちをしながら軍用ナイフを腰のあたりにしまう。とても残念そうだった。


「あなたは私と契約しているのよね」


「契約というか、約束はしている」


 サラの世界平和実現の夢を手伝うことを、不本意ながらワタルは約束している。


「じゃあ、あなた死んでくれれば人類の半分は安心するから、今ここで死んで」


「ちょ、ちょっと。おまえなんでそんなに絡んでくるんだよ。人類の半分って、もしかしたら全女性って事か? だったら逆だろう。おれが死んだら全女性が不幸になる」


 サラが黙る。


 また怒るかと思ったが、はぁー、と大きなため息をつかれてしまった。サラは人差し指を自分の頭の横でくるくる回す。馬鹿にされる。


 サラは無表情を装っているが、全身から軽蔑しているオーラを発している。


「・・・・・・・・・こんなやつだとは思わなかったわ」


「ど、どんなヤツだと思ってるのさ」


 再び歩き始めたサラの後ろをついて行きながらそう言っても、今度は止まらない。


「女たらし」


 振り返りもしない。


 ワタルは渋い表情を浮かべるが、前を歩いているサラには分からない。隣にいるタマが顔をのぞき込んでくるが、まだ何か話せるほどにはなっていない。


「女たらしと言われても・・・・・・・・・。女の子と親しくなるためには仕方ないじゃん」


 サラが立ち止まりかけるが、そのまま歩き続ける。


「もういいわ」


 それきり無言のままサラは3階にある一室の前まできた。


「しかし、大きい家、屋敷か、だな」


「そう? もともとどこかの宗家だったらしいから。もっとも生まれた時からここに住んでいるから、あたしは広いとか感じないけれど」


「こういった所に住んでいる人間の事を、いわゆる上流階級と呼ぶのか?」


 ワタルは一応確認すると、サラは肯定した。


「そうね、自分では否定したいけれど客観的に見るとそう言うことになるわ」


「理解した」


 ワタルはそう言って部屋の中にはいる。


 シックな作りで奥の窓近くにベッドがあった。


「眠い」


 タマがそう呟いて別途に潜り込む。


 ワタルの腕ごとベットに入ろうとするので、自然に一緒にベットに入りかかると、サラが無言で腕を掴んできた。視線を合わせると、サラがやや慌てたそぶりで手を離す。


 どうやら一緒に寝てはいけないらしい。


 サラの行動の裏を読んで、ワタルはタマをベットに寝かせてベットの横に椅子を持ってきてそこに座った。


 タマがグズるので、タマの手を握るが、そのくらいは勘弁してほしい。


 サラはタマと握りあっている手をジーと見つめる。


 ・・・・・・・・・。


 ・・・・・・。


 ・・・。


 無言。


 まだ見つめ続ける。何か分からないがいい心地がものすごく悪い。


「なあ、おまえも睡蓮の相手をしないといけないんだろう」


 その場の雰囲気に耐えきれなくなって、ワタルはそうサラに声をかけると、はっとしてサラがこっちに顔をむける。


「あっ、ああ、そうだな。もう行かないと」


 しかしサラは今度はこちらを向いたまま無言になる。


「?」


 サラがどうしたいのかいまいち和からに。


「タマは大丈夫だ。もうすぐ寝ると思うから。そうしたら多分、朝まで値をさますことはない。そのう、もし気にしているのなら、タマには何もしないと約束する」


「そ、そんなことを気にしているんじゃないわ。まあいいいわ。あたしはいくけど、タマにちょっかい出したら今度こそ殺しちゃうからね」


 顔を赤くして、サラが出て行った。


 出て行くときのサラは頬をふくらませて怒った顔をしていた。どうも本人は常に無表情でいようと意識しているようだが感情が高ぶるとそれなりに表情に出てしまうようだ。


「自然な表情をすればいいのに」


 ワタルはそう呟くが、当然サラには届くことはない。


「さて、タマよ、最後の仕上げをするか


 タマが眠ったのを見計らって、ワタルは部屋の窓を開けて蒼空を仰ぎ見た。


 いい天気で、満月がよく見えた。


 それからタマが起こさないようにそっとタマをベッドから抱き上げて窓からバルコニーに出る。


 ワタルは目をつぶって暗号のような言葉を詠唱すると、ワタルとタマの姿がブレで、その一瞬後、ふたりの姿がバルコニーから消えた。




 開け放たれた窓に風があたり、カーテンが大きくめくれ上がる。しかし、それを元に戻す者は誰もいなかった。



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