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015 ………もうすぐ睡蓮がくるのに

 ………もうすぐ睡蓮がくるのに。


 木広はワタルとタマを見ながら、溜息をついた。


「それで、あなたはタマの事をどうするつもりなの?」


 自分の隣に座っているサラが呆れている。


「魔族を人間にするなんて聞いた事ないわよ。タマもよくそんな事したわよね」


 サラは事の重要性が分かっていない。


「ワタルさん、自分が何をしたのか分かっています?」


「ん、だって魔族のままだったらタマはエネルギーが無くなって消滅してしまうところだったんだぞ、しょうがないじゃないか?」


「ワタルさん、別にそれは責めていないわ。私が聞きたいのは、ワタルさんが何をしたのか自覚しているのか聞いているのよ」


 キョトンとしているワタルを見れば、何を言われているのか分かっていない。木広は頭がいたくなった。


「………なぁ、魔族を人間にするのはまずいのか?」


 木広の態度を見て、何か察するところがあったらしく、ワタルが尋ねてきた。


「あんた常識がないわね。いままで魔族を人間にしたなんて聞いた事ないわ」


「そ、そうなのか?」


 サラにそう言われてワタルが狼狽える。


 ふたりとも分かっていない。


 サラはともかく、ワタルが分かっていない事が信じられない。


 タマを見た。


 先ほどからボーとソファに腰掛けている。心ここにあらずといった様子で、ワタルの腕を両手で掴んだまま動かない。


 ワタルが言うには、ずっと手を離さないでいるらしい。無理矢理引き離そうとすると暴れるのでそのままにしている。まあ、ふたりがくっついていてもサラが不機嫌になるだけで、問題ない。


 タマと話をしたいが、先ほどから話しかけても、相づちくらいしか反応がない。


「タマはいつ頃、まともになるの?」


 ワタルにそう尋ねたところ、明日の朝には意識がしっかりしてくるらしい。それまではこんなボーとした状態のままらしく、話をすることができない。


「あなた、タマが貴重な戦力なのは分かっていたわよね」


「それはそうだけど、これしか手がなかったんだから仕方ないじゃないか? それともタマを見殺しにした方が良かったの?」


 不機嫌そうにワタルがそう言うと、サラが目つきを悪くしてワタルに食って掛かる。


「そんな事は言ってないでしょう。それより、魔族を人間にする事ができるなら、逆もできるでしょう? タマの事を魔族に戻しなさいよ』


 サラが無茶な事を言う。そんな事ができたら、軍人をすべて魔族化する国がでてきてあっという間に軍事バランスが崩れて、世界中が混乱してしまう。いまは辛うじて東京西部を日本、いや世界が監視することで絶妙なバランスが保たれているに過ぎない。


 馬鹿な事を言うな。


 木広はそう言おうとする前に、ワタルが信じられない事を言った。


「人間を魔族にすると、恐らく精神が耐えられないから止めておいた方がいい」


「ワ、ワタルさん、と言う事は物理的には人間を魔族にする事ができるということ?」


「あっ………。ソンナコト、デキルワケ、ナイデショウ」


 ワタルが棒読みで否定をして目を逸らす。


「ワタルさん、魔族がなぜ人間に召喚されたり、ゲートを通ってこちらの世界に来るのか知っている?」


 何か答えようとするが、結局知らないと、白状した。


「全ての魔族はね、人間になりたがっているのよ。でもね、いままで人間になった魔族はひとりもいなかった。タマがはじめてなのよ。それがどういうことだか分かる?」


 木広はワタルの様子をうかがった。


「ねえ、それってどういうこと?」


 サラにはピンと来ないようだ。人側はすでにそれが不可能だと諦めてしまった技術だからサラがその重要性をすぐに認識できなくても分からなくはない。しかし、ワタルは顔をしかめて頭を抱えている。


 どうやら状況を理解したようだ。


「タマの事を知られたら、全ての魔族がワタルさんに人間にしてほしいと大挙してやってくるわよ」


「それって」


 サラにも事の重要性が分かったようだ。


「そうよ、魔族は人間になれるんだったら、ワタルのどんな言う事にも従うでしょう。全ての魔族を従える事ができたら、ワタルさんは世界を征服する事ができるわよ」


 そういえばワタルは世界征服を目指しているとサラから聞いていたが、その時には冗談だと思ったけれど、もしかしたら本気なのかも知れない。


「そして、もしも人を魔族化する事が可能だと、どこかの国に漏れたら、ワタルさんは確実に拉致られるわ」


「………」


 一瞬だけ目を合わせたワタルを見て、何か隠しているのだと分かった。


「とにかく、タマの事は絶対に秘密にしないといけなくなったわ。幸いまだタマの存在を知っている人はそう多くないからギリギリ何とかなると思う。そうね、ワタルさん、あなたの妹と言う事にするけれど、それでいいわね」


 ワタルには妹がいるが、海外にいっている事になっているので、その戸籍を使わせてもらう。


「ワタルさんの妹だったら、誰がどんな調査をしても大丈夫なはず。そうよねワタルさん?」


「な、なんのこと?」


 明らかに狼狽えている。


「ワタルさんの事は徹底的に調査しているのよ。徹底的って言葉は分かる? ねえ、ワタルさん、ここまで来たらある程度は事情を話してくれても良いんじゃない?」


「別に隠している事はないよ」


 目を合わさずに落ち着きがなくなっている。それでは完全に何か隠している態度だった。木広としては徹底的に問い詰めたい。


「ワタルさん、ウソは良くないわよ。自主的に話してくれないのであれば、強制的に話をしてもらう事になるけれど、良い?」


「だから、何も隠していないよ」


 まだとぼけるようだ。


 地下に使われていない部屋があるから、そこを拷問室に改造するのにどのくらいかかるかちょっと計算する。


 ………三日もあれば可能かな。


「まあいいわ。とにかく今から睡蓮さんが来るから、絶対にタマの事は感づかれないようにね。とくにワタルさんはタマの側にいてタマが暴れないようにしておいて。睡蓮と会わせたくないから、二階には来ないようにね」


「分かった」


「じゃあ、サラ、ふたりをどこかに連れて行って、私は睡蓮を待っているから」


「ごめんね」


 部屋を出る時にワタルが一言謝ってきた。


「三日後にまた訊くわよ。その時にはせめて話せる範囲の事は話してくれる事を期待しているから」


 ワタルは無言でこちらを見つめてしばらくじっとしていたが、結局何も反応せずに部屋から出て行った。


「まったく、ワタルさんは何者なの?」


 木広はソファに座ったまま目を閉じてその問いを考えるが、自分だけでは答えは出なかった。






◇◇◇






 それから5分後、睡蓮が到着した。



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