013 あなたは、わたくしと同じ匂いがしますの
「あなたは、わたしと同じ匂いがしますの」
久しぶりに学園に登校途中に後ろから声をかけられた。
振り返ると、はじめて見る女子生徒が鞄を両手で掴んで立っていた。目鼻がすっきりしていてきれいな顔をしているが、無表情でこちらを見つめている。
………ほう。
木広は背が高い方だったこともあり、頭ひとつ分小さいその女子生徒を上からじっくり観察するように見た。
魔石川睡蓮。
直接見た事はなかったが、写真では何度か見た事がある。
花蓮の妹であり、最近、日本に帰国した事もサラから聞いている。ちなみに独自に調査もしている。
「どんな匂いなのかしら? 睡蓮さん」
「わかりませんの?」
首を軽く傾げる様子はとても愛らしいが、木広は少し距離を置いて、さらに睡蓮を眺めた。
「ああ、なるほど」
合点がいった。
目を見て分かった。
確かに睡蓮と自分は同じカテゴリに属している事が分かった。お互い、ユリなのだ。
「でも声を掛けたのは、違い理由なの。勘違いしないでほしいの」
「私も花蓮の妹に手を出すつもりはないわ」
花蓮の妹でなかったら、かなり好みーーー花蓮の妹だから、花蓮に似ているから木広の好みなには、あたりまえだがーーーだったから、当然アプローチする。こんな可愛い子で同じ性癖を持っている子がいれば手を出さないことはあり得なかった。
しかし、花蓮の妹だから、ぐっと我慢する。
「それで、お話があるの」
「いいけれど、こんな道端で話せる内容なの?」
わざわざ学園外で声を掛けてきた事に不審をもつ。
「姉さまとワタル様のことでお願いがあるの」
………と言う事は、花蓮にはあまり知られたくないのだろう。
だから睡蓮は学園の外で声を掛けてきたのだろう。
しかし、正直あまり往来で突っ込んだ話をするわけにはいかない。自分はそれなりに学園では目立っているのでこうして立ち止まって睡蓮と話をしている間でも、何人もの生徒に挨拶をされるし、睡蓮も見た目が、生徒会長の花蓮に似ているので、やたら目立つ。
面識がない生徒も、挨拶はして来なかったが、自分と睡蓮に視線を向けて通り過ぎていく。男子生徒はともかくとして一部の女子生徒もふたりに熱い視線を向けてくる。
そんな状況で花蓮やワタルの話をする事は避けたい。断片的な会話から、妙な噂が流れるのがイヤだった。
「とりあえず、歩きましょうか」
そう言ってふたりで歩き出した。
「睡蓮さんは、あのふたりの事をどう思っているの?」
周り聞こえないように睡蓮の耳元に顔を近づけるが、それだけで周りの生徒がざわめく。それが結構鬱陶しかった。
「耳に息を吹きかけないでくださいなの」
微かに赤くなりながら、睡蓮が離れる。
………かわいいな。
木広は少しドキドキしてしまう。
「ワタル様は女性にちょっかいを出し過ぎなの。わたくしは姉さまに近づいてほしくないと思っているの」
睡蓮も周りに聞こえないように、少し近づいてそう言った。
「はっきり言って、ワタル様には姉さまの近くから居なくなってほしいの」
「………、でも、花蓮はワタルの事が好きなのだろう?」
「だから困っているの。それで、木広さんに協力してほしいの」
言葉通りに受け取る気は更々ないが、睡蓮の表情は無表情なので、裏の事情を推測事ができない。
「協力してもいいけれど、それなりの対価が必要になるわよ」
自分も花蓮とワタルが仲良くある事がイヤなので睡蓮に協力する事はやぶさかではないが、それを正直に言うつもりもない。
「協力してくれたら、新しい魔石採掘場の入札を放棄してもいいと思っているの」
意外な申し出に木広は目を丸くする。
「ゲートの魔物を封印するのは、早い者勝ちになったけれど、姉さまの使い魔のヴェルンドはしばらく役に立たないの。だから封印は姉さまでなく、わたくしがする事になるの。本当はその為に日本に帰ってきたのだけれど、しばらく封印する事はしないでおくの。その間に双葉重工が封印すればよいの」
睡蓮が日本に帰ってきた理由については、今、睡蓮が話した事は、こちらで把握している情報と一致している。しかし、睡蓮が花蓮の使い魔であるヴェルンドの変わりに封印できる使い魔を召喚している事実はまだ掴んでいない。
「もし、それが本当であれば喜んで協力するけれど、あなたの使い魔がはじめから封印できるほどの実力がなかったとしたら、この話は成り立たないと思わない?」
「確かにその通りなの。ではどうすればよいの?」
「あなたの使い魔の実力を見せて欲しい。そのうえで納得できたら協力するわ」
睡蓮が海外に居たために、睡蓮の使い魔の情報が殆どなかった。これからの事もあるので睡蓮の使い魔の情報が欲しかった。
「分かったなの。でもそれだと取引としてはバランスが悪いの。だから、もうひとつお願いがあるの」
「言ってみて」
木広は大抵の事は承諾するつもりだった。
微かに俯いた睡蓮が、意を決したように回を上げる。
「あたくしと友達になってください、なの」
上気した睡蓮の顔を見て、思わず自制心が無くなってしまい、睡蓮の事を抱き締めてしまう。
無表情のまま、睡蓮の首から上が真っ赤になる。
かわいい。
「よろこんで」
木広は周りにいる通学途中の学生の視線を浴びながら、睡蓮を抱き締めたまま持ち上げる。
「や、止めて下さい、なの」
足をバタバタさせて睡蓮が離れようとするが、離さない。
たまたま目の前にあった睡蓮の耳たぶを、つい甘噛みしてしまう。
びくっ。
睡蓮の体が痙攣する。
「では、友達として、あたくしの事を木広さんの家に招待してくれませんか。そこで具体的な相談をしたいの」
「いいわよ」
ようやく睡蓮を解放した木広は、睡蓮の頭を撫でる。




