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011 サ、サラ………。緊縛プレイが趣味だったの?

「サ、サラ………。緊縛プレイが趣味だったの?」


「な、何を言っているのよ。変な事言わないでよ」


 突然部屋に入ってきた木広の方を向いて、サラはそう言った。


「変な事って、じゃあ、手足を縛られたワタルさんの上に、スカートでまたがっている状況を説明してみてくれる?」


 ドアのところで、こちらを見て唖然としている木広が呆れた声で言った。サラはうまい旨い言い訳を考えたが、思い付かなかった。


 沈黙。


「やっぱり言い訳できないじゃない」


「ち、違うわよ。これには訳があって」


 自分の顔が火照るのがわかった。


「………ねえ、まさかそのスカートの下で、実はわたるさんとつながっている。なんて事は………無いわよね」


 木広が少し顔を赤らめて両手を頬に当てながら、視線をそらす。


「何言ってるのよ、ちゃんとパンツはいてるわよ」


「じゃあ、ワタルさんは、縛られて、下着で擦られるのが好きなの? 若いのにディープな趣味なのね。あ、それに口も塞がれてるし。………ふたりとも変態?」


 ワタルが何か言おうとして暴れるので、軽く殴ると大人しくなった。


「あらあら、さらに殴るんだ。それ以上は、ちょっと付いていけないわ。ごめんなさい。見なかった事にするから」


「ちょっと、お姉様」


「お邪魔さま」


 そっと木広がドアを閉めようとする。慌てて呼び止めようと僅かに体を持ち上げた瞬間、ワタルがウナギのようにニョロッと下から抜け出す。


 慌てて捕まえようとするが、遅かった。


 縛っていたロープから一瞬で自由になったワタルは脱兎の如く、部屋の窓に頭からぶつかる。


 ガラスが割れる音が周りに響く。


 ワタルは窓枠ごと外に飛び出る。


 ちなみにここは三階だった。普通の人間だったらケガをする。慌てて窓の近くに駆け寄って外を見た。


 どうやら無事なようだった。


 ケガはしていなさそうだった。というか、脇目も振らずに、走り去ろうとしている後ろ姿が見える。サラはワタルを追うために、自分も飛び降りようとしたが、木広に止められた。


「ちょっと話があるの。ワタルさんの事は今はそのまま放っておいて」


「ワタルの事だ。調査結果が届いた」


 せっかく捕まえて逃げられないように拘束したのに、このまま逃がすのは、なんか悔しい。


 今すぐにワタルを追いかけて殴りつけたい気持ちも強かったが、ワタルの調査結果の方が興味があったので、ワタルを追いかけるのは止めた。


「下で話しましょう」


 木広がそう言って歩き出したので、その後を小走りで追う。


 一階にあるリビングに行くと、引き出しから封筒を取りだして、サラに渡す。


「読んで」


 封筒を受け取り、ざっと斜め読みする。


「あやしい処があり過ぎてコメントしようがないわね。いちばんあやしと思うのは、去年に交通事故にあって、半年間、入院している点ね」


「サラもそう思う? 私もそれが気になるのよね」


 木広も同じところが気になっているようだった。


 半年も入院すること自体が単純におかしいのだ。


「または、魔石川学園に入学したことに何か理由があるのかも知れない」


 木広の意見にサラも頷いた。


 魔石川学園に入学する為には、成績以外にもいくつかの条件がある。その条件のひとつが不死身であることだった。


 東京西部に落ちた隕石の影響なのか、その後に魔界と繋がった影響なのか、まだ原因は分かっていないが、当時、隕石が落ちた地点を中心に半径三十キロ以内にいた人間の大半が何らかの特殊な能力を身につけていた。


 特にその時にまだ幼い幼児達の中で一番多かったのが、不死身化だった。


 魔石川学園はその創立理由からどうしても不死身である者を求めており、逆に不死身でない者は他にどんな能力があっても入学する事ができない学園だった。


 それなのに、ワタルは魔石川学園に入学している。


「確かにワタルさんは戦闘能力は以上に高いけれど、再生力はそれほどでもなかったわよね」


 確かに木広の言った通りだった。それははじめにあったときに木広がワタルの舌を咬み契り掛けた時に一晩かからないと回復しなかった時から、気にはなっていた。


 ワタルの回復力は、一般人に比べてたらそれなりに高いが、不死身レベルとは言い難い。なにしろ学園には木広のように腕を失っても一瞬で復活するレベルの不死者がざらにいるのだ。


「まさか裏で魔石川商事が何かしたとか」


 サラとしてはそう疑いたくもなる。魔石川学園は表向きは神宮庁管轄の教育機関であるが、名前からして元々魔石川商事の関連グループだった。それを神宮庁が強制的に国有化したのだが、魔石川商事の影響力はまだ残っている。


「もしかしたら、あいつはスパイなのかも知れない」


 考えたくないがサラはその可能性が高いと思った。


 召喚を妨害して、新しい採掘場権の入札を結果的に妨害した事は、そのまま魔石川商事を利する事に繋がっている。


 しかも………。


「サラの言っている事は分かるけれど、でも、もしワタルさんが魔石川商会と繋がっているとしたら、花蓮の邪魔を何故したのかしら? それにあのヴェルンドという使い魔はワタルさんにやられて復活にしばらくかかるんでしょう? それを考えたら魔石川商事と繋がっているとは私は思えないんだけれど」


 木広がワタルを擁護している。見た目は無表情にしているが、生まれてからずっと一緒にいるサラには感じるものがあった。


 木広はワタルを気に入っているのだ。


 おそらく本人は築いていないが。だから無意識に庇っているのだ。


 それが信じられなかった。


 木広は今まで男性に興味を示した事がない。木広は原因は分からないが男嫌いだった。そんな木広がはじめて男性に興味を示しているのだ。


 ………ユリユリしているのに比べたら歓迎すべき事なんだろうけど。


 木広は商売敵である花蓮に熱をあげており、そのため花蓮と真剣に戦う事ができないでいた。木広自身はそれを否定しているが、サラからしてみれば明らかだった。


 なぜなら木広は自分よりも遙かに実力があり、強い。


 しかし、サラは正直言うと花蓮に負ける気がしないのだ。魔石川商事のトップの花蓮と戦う事ができるのは、おなじく双葉のトップの木広だけなので、サラは一度も花蓮と戦った事がなかったが、ふたりの戦っている姿を何度も見て、いつもそう感じている。


 要するに、木広は好きな子に本気になれていないだけなのだ。


 なので木広が花蓮以外を好きになれば、花蓮に負ける事はないはずだった。


 本来ならば歓迎すべき事だった。


 しかし、もしそれが何らかの策略であった場合の事を考えるとサラは嫌な気分になる。


 木広がもしもワタルの事を好きになって、最悪結婚した場合、ワタルが魔石川商会に通じていたら、双葉重工を乗っ取られるかも知れないのだ。


 だから木広がワタルに好意を持つ事を何とか防がないといけないと感じる。最悪は自分の身を犠牲に………。


「サラ? いきなり黙ってどうした?」


「あっ? ごめんなさい」


 不審そうに顔をのぞき込んでくる木広に両手を振って何でも無い事をアピールしながら、サラは少し顔を赤らめる。


「でも、ワタルは花蓮とキスとか、抱き合ったりとか平気でするし、花蓮のこと好きとか言ってたし………」


 とっさにそう呟いたが、木広の表情を見た瞬間、失言したと後悔した。


「どういう事?」


 木広が間近に近づいてきた。素早い。


 鼻が微かに触れ合い、木広の息を感じてしまう。思わず離れようとしたが、両腕を押さえられているので動けなかった。


「ワタルくんが花蓮の事を好きと言ったのは本当なの?」


「お姉様、あ、あたしに怒っても」


「ち、あの、エロガキ………、あたしの花蓮に手を出すなと病院であれだけ言い聞かせたのに」


「お、お姉様、何を言っているの?」


 睨まれた。


 掴まれた腕が痛い。


 木広がギョロリとした目で見つめてきた。


「なあ、サラ、頼みがあるんだけど。ワタルさんとエッチしてくれない?」


「な、な、なんてことを」


 買い物を頼むような気軽な口調だったので、はじめは何を言われているのかぴんとこなかったが、意味が分かると顔が熱くなり、何故か焦ってしまう。


「いいじゃないか、サラはワタルさんの事、好きなんでしょう? 私もワタルさんの事は嫌いじゃないから、サラと付き合う事は反対しないわ」


「お、お姉様、ワタルさんの事を気に入っていたのでは?」


「ああ、ワタルさんであればサラと付き合わしてあげても良いと思うくらいには、気に入っているわ」


 サラは溜息をついた。


 ………木広のユリユリな性癖が少しは直るかと思ったのは、大きな気のせいだったようだ。


「ねえ、ワタルさんの事を花蓮から引き離すのを、協力するために、おねがいだからワタルさんとエッチして」


「そ、そんなこと出来るわけないでしょう。べ、べ、べつにワタルのこと嫌いなわけではなけど、いきなりエッチなんか恥ずかしくて出来るわけないわよ」


 ニヤリ、と木広が笑い、掴んでいる手をはなす。


 サラはとっさに後退り、距離をとる。


「恥ずかしくなければエッチしてもいいのね。だったらまずは付き合って慣れなさい。そしてワタルさんと花蓮が会うのを邪魔して」


 ………だめだ、お姉様はまだ花蓮さんが一番だった。


「とにかく、花蓮がワタルさんの事をどう思っているのか、問いたださないと行けないわね」


 淡々と独り言をブツブツ呟きながら、考えている木広は近寄りがたい雰囲気があった。


「しかし、その話をもう少し早くしてくれていたら、みすみすワタルさんの事をあのまま逃がす事はなかったのに。残念だわ」


「ふふ、あたしのモノを横取りするなんて、ワタルさんもずいぶんだわね」


 木広の、小さな笑い声を聞いて、サラは体が震えてしまう。


「お、お姉様、落ち着いて」


 しかし木広は聞いていない。


「とりあえず、ワタルさんは一ヵ月くらい拉致って、その間で、絶対に花蓮を私のモノにしてみせるわ。だからサラ、ワタルさんを拉致るのを手伝ってね」


「それは、かまわないがエッチはしないわよ」


「あら、私のお願いがきけないの? でもまあ今はその話は置いといて、ワタルさんを捕まえたらもう一度話しましょう」


「ぜぇぃったいに、イヤですからね」


 何度も、しつこく拒否するが、木広は真剣には取り合ってくれない。このままでは無理矢理そういう状況に放り込まれてしまう気がする。


 危険だ。


 とにかく、木広とワタルがくっつく可能性が低いのが分かって、ちょっとホッとする。………なんでホッとするのか考えるのは止めておく。


 ただ、そうなると、花蓮の話をしたのはまずかった。


 花蓮ラブな木広の心に、妙な火を付けてしまったから、きっと木広は暴走する。


「さあ、すぐにワタルさんを追うわよ。サラも用意を急いで」


 いつの間にか、今からふたりでワタルを追う事になっている。このままふたりでワタルをとらえたら、そのままエッチするまで同じ部屋に監禁されてしまう気がする。


 サラは外出の用意をしながら、途中でどうすれば木広と別行動がとれるか考える。


「はぁー」


 サラは溜息を大きくついて、木広に続いて外に出て行った。



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