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010 生徒会の雰囲気は最高に悪かった

★登場人物紹介★

天野ワタル:世界征服をたくらんでいるが、訳あって双葉サラの下僕となる。


双葉サラ:世界平和を思う女の子。魔族を召喚して契約している最中にワタルに邪魔をされる。


タマ:召喚された猫鬼。ワタルに角を折られて少女の姿になってしまう。何故かワタルの使い魔になる。


双葉木広:サラの姉。ワタルに助けられる。


魔石川花蓮:魔石川商事の代表取締役。新しい魔石発掘場を巡って木広と戦うが、途中で現れたワタルにエロい事をされてしまう。ワタルの事が好き。


魔石川睡蓮:花蓮の妹。ドイツに留学していたが花蓮に呼び戻されてワタルとサラのクラスに転入してくる。花蓮の事をワタルが騙していると思って、ワタルの事を殺そうと狙っている。


 生徒会の雰囲気は最高に悪かった。


 普通の教室の半分程のスペースに机が相対した状態で中央に島を作っており、出口に一番近い椅子にワタルは座っている。


 正面に座っている生徒会長、つまり花蓮はワタルの隣に座っているサラと先ほどから話をしている。


「では明日には双葉木広さんは退院できると言う事なのね。良かったわ」


 花蓮が言うには、積極的に話をしたりする事はないがふたりはそれなりに親しいらしい。ただ木広が言うにはお互い惹かれ合っている仲だと言っていたので双方の食い違いが気になる処ではあったが、いずれにしてもお互い仲は悪くはない様だった。


「魔石採掘権を争うライバルではあるけれど、木広の事を嫌っている訳ではないから、無事退院できて私もほっとしたわ」


 感情の起伏が花蓮も睡蓮も乏しいのは魔石川という家系の特徴なのかも知れない。ただ、今の言葉には素直な安堵が含まれている事がワタルには分かった。


 花蓮は決して嫌なヤツではない。どちらかというとまじめなのだろう。


 ………じゃないと生徒会長にはなれないから、当たり前か。


 サク。


 何故か真後ろに座っている睡蓮にコンパスで刺される。


 痛い。


 ワタルは声を上げそうになるのを堪えて、後ろを振り向いて睨んだ。


「ワタル様、イヤらしい目で姉さまを見るのはわたくしが許さないの」


 そう言って睡蓮がコンパスで目を潰そうとしてくる。慌てて避けると、隣のサラが隠し持っているサバイバルナイフがワタルのお腹に軽く刺さる。


 前に見たモノよりも刃渡りが長い。新しいサバイバルナイフを仕入れたようだ。


「おまえは、黙ってて」


 花蓮はサラから視線をそらさないで、そう言った。


「はい」


 サラは満足そうに軽く頷く。


 こんな姿を見ているとますます花蓮が誤解してしまう。


 ………でもこれって、無理矢理言う事をきかされているんだから花蓮の認識は間違っていないかも。もしかして自分の認識が間違っているのか?


「なあ、オレはお前の奴隷?」


 思わずそうきいてしまう。


「喋るなと言ったのに。奴隷………、それはいいかも知れない。気に入った」


 サラがギョロリと冷たい視線の目を向けてくる。文句を言おうとしたが、何か言った瞬間、サバイバルナイフがお腹に刺さっていそうなので、ワタルは口をつぐんだままじっとしている事にした。


 サラが満足そうにニヤリとふてぶてしい笑いを浮かべて、ふたたび花蓮の方を向く。花蓮がじっとサバイバルナイフを見つめている。


「ねえ、サラさん。いい加減その凶器を仕舞ってもらえないかしら、私、いまこの瞬間に、あなたの事を襲わないように自制するのにどのくらいの精神力を使っているか教えて上げたいわ」


 サラから僅かばかりの表情も消えて完全に無表情になる。こうなると危険だ。


「ふん、別に我慢しなくてもよい。受けて立とう」


「サラさん、あたしは木広さんより強いわよ」


 自分は木広よりも強いから、サラには負けないと言っているのだ。


 痛っ。


 サバイバルナイフを持っているサラの手が震えている。指に力が入りすぎて、真っ赤になっている。顔はこちらも無表情を装っているが、怒って目が赤くなっている。


「フン、お姉様は、自分でもあなたの方が強りと本気で思っているけど、それはちがう」


 そういってサラが椅子を後ろに押しながらゆっくりと立ち上がった。


「お姉様はね、あなたの事が………。いえ、何でもない」


 ワタルは他人の歯ぎしりの音を、はじめて聞いた。


 サラが花蓮に近寄っていく。


「おい、ちょっと冷静になって」


 サラを押さえようとしたが睡蓮に止められた。


「あのふたりは放っといても大丈夫、それよりも話がしたいの」


 腕を掴まれて部屋の隅に連れて行かれる。丁度ロッカーがあったので向こうから何か跳んできた時の弾除けにするために睡蓮が扉を開いたままにする。


「姉さまはワタル様の事を全面的に信頼しているようなの。でもわたくしはワタル様が姉さまを欺していると思っているの。サラが怒っているのも、きっとお芝居なの」


 こちらを見ている睡蓮の目は濁り無く澄んでいた。自分の言っている事に一点の疑問も持っていない目だった。


 ………うーん、花蓮が少し誤解をしているだけで、欺しているわけではないんだけれど。でも睡蓮にとってはどちらも同じ事かも知れない。


「ワタル様、姉さまは、あんな気性なの、でも人を疑う事が苦手なの。だから、わたくしは嘘をついているワタル様の事を近々殺す予定なの」


 淡々と自分を殺す事を予告されてしまった。


「えっと、近々ってことはしばらくは殺さないってこと?」


 戸惑いながらきいてみた。


「前言撤回、隙があればいつでも殺すの。でもワタル様はスキがないの」


「じっと、コンパスを見つめられてもちょっと怖いんだけど。いや、だから、刺さないで」


 繰り出されるコンパスを避ける。


「やはりワタル様は隙がないの」


「ひょとして、いま試したの? 危ないからやめて」


 ワタルはコンパスを取り上げた。


「あっ。あたくしのコンパス………取ったの」


 手を伸ばして取り返そうとしてくるので、後ろに隠す。すると睡蓮が体を寄せてきた。


「返してなの」


 目の前で睡蓮がジタバタするから、もつれてその場に転んでしまう。


 ………。何故かサバイバルナイフをこちらに向けて見つめているサラ。


 ………。何故か魔剣ミームングを出現させてこちらを見つめている花蓮。


 ………。何故かワタルの体に押しつぶされている睡蓮。


「あたくしの大切なものを奪ったの」


 ポツリと睡蓮が涙声でつぶやいた。見るとホントに涙を流していた。


「おまえってやつは」


「き、きみはいったい、何をしているかしら?」


 睡蓮の言葉を何か勘違いして、にじり寄るサラと花蓮。


「あ、その、えっと、こ、これは偶然で事故なんだけど。で、でもオスとメスは引きつけ合うからこのくらいは笑って許してもいいよね」


「きみに一応伝えておくけど、えっちい事は好きな者同士しかしてはいけない事なのよ。まさかきみは妹を好きになったりした? そ、そんなことはないわよね、きみは私のことを好きだと言ってくれたもの」


 花蓮の無表情の顔が僅かに引きつっている。


 ここで睡蓮の事はどちらかと言えば好きだと答えたら、確実に死ねそうなので、回答に窮してしまう。


「なぜ答えてくれないの?」


「おれは、」


 ギロ。


 サラに睨まれる。


 ………睡蓮が好きといったら、花蓮とサラに殺される気がする。


 ………花蓮が好きといったら、サラとさりげなくしたから手刀をたたき込もうとしている睡蓮に殺されそうな気がする。


 ………サラが好きといったら、三人に殺されそうな気がする。


「お、おれが好きなのは、」


「「「好きなのは?」」」


 サラと花蓮が横に立ち、倒れているワタルを見下ろしている。生徒会室の蛍光灯がまぶしくてふたりの顔が陰になり表情が読み取れない。


 「この際、正直に言ってしまた方が良いわ。さあ、魔石川花蓮の事を愛しているともう一度、皆の前で告白して」


 花蓮の双眸、サラの双眸だけが識別できた。


 同じく下から見ている睡蓮の体が震えた。自分に向けられていないが、怖いのだろう。


 ワタルも、もの凄く怖い。


「わたくしが殺す前に、ここでワタル様は死ぬの?」


 睡蓮が縁起でもない事を言ってくる。やめてほしい。


「オ、オレが好きなのは、やさしい女の人だ!」


 叫んで出口に向かって奔る。


「サラも、花蓮も、睡蓮も好きだけど、暴力女は嫌いだ!」


 ドカ。


 ドアに肩から激突して、ドアが外れ、ドア毎廊下に飛び出した。


「私はやさしいでしょう?」と、花蓮。


「あたしだってやさしいじゃない」と、サラ。


「よく分からないけど、わたくしは周りからやさしいとよく言われますの」ついでに睡蓮。


 ………みんな勘違い女だった。


 しかしさすがに襲いかかってくる事は躊躇している様だ。


 その隙に、ワタルはその場から全速力で逃げ出した。






◇◇◇






 後に残った三人は、ドアをはめ直した後、


「ドアを壊したまま居なくなるとは、下僕、いや、奴隷としての示しがつかないわね」


「まったくですわ。これでは私の恋人としてふさわしくありません」


 サラと花蓮がそうつぶやいてから、


「「だから、やさしいあたしが教育して上げる必要があります」」


 とふたりは声をそろえてそう言い、ゆっくりと生徒会室から出て行った。


「どこに行ったのかしら」


 そんな声が廊下から聞こえてきた。


「やっぱりわたくしが殺さなくても、ワタル君は大丈夫、きっと今日が命日になるの」


 近くに落ちていたコンパスを見つけて少しだけ嬉しそうに微笑んで、睡蓮も生徒会室を後にした。


「でも、ワタル様のことは、ホントはわたくしがいじめ殺したかったの。残念なの」



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