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001 女の子が襲われていたら、ふつう助けるよね?

「女の子が襲われていたら、ふつう助けるよね?」


「ふつう助けるわよね、たぶん」


 助けた女の子はさっきから困った顔をしている。微妙に余計なことをするな系の目で見られた。


 自分は何か間違ったことをしたのだろうか?


「あのね、あたしはその魔族に襲われてたけど………。ねえ、このまわりの模様ってなんだか分かるかな?」


「分からない」


 即答すると女の子は肩を落として大きく溜息をする。


 ワタルは目を合わせ続ける事に耐えられなくなり、片足で踏んづけている魔族を見た。両腕と両足の骨を折ったので、もがくことしかできない。


 念のため、魔族の口にかかとを突っ込んで顎の骨が辛うじて折れない程度の力を掛けている。魔族は動きたくても動けないでいる。


 恨みがましい目で睨み付けてくる。


「ねえ、魔、方、陣、って知っている?」


「知らなくはない」


 実は見たことなかった。たぶん女の子の周りに描かれているのが魔法陣なのかもしれないと、言われて気付いて。知識として知っていても気付けなかった。


「助けてくれようとした事は嬉しいわ。でも、


 その子のツノを折ったらだめじゃない。ツノがなかったら鬼族は人並みの力しか出ないんだよ。


 やっと召喚したのに。


 どうしてくれるの?」


 小さなツノがふたつ足下に転がっている。先ほどへし折ったツノだった。


 どうやらただ襲われていたのでは、ないらしかった。


「だってこいつ、こうしないといつまでたっても大人しくならなかったから、仕方がなかったんだよ」


「仕方がなかったぁ?」


 ドスの効いた低音で女の子が凄む。美人だけに正直怖い。


「お、怒るなよ。ひょっとして余計なお世話だった?」


「だったわよ」


 首を少し傾けてニコリと微笑んで(?)女の子がそう告げてきた。


 笑っているけど笑っていない。


 目が笑っていない。それに唇は微笑んでいるが見方によっては牙を向いているようにも見えた。


 もう一度言うけれど美人な女の子だった。


 怒気のオーラがまがまがしく立ち上っている。殺気という見えないトゲにさっきから何本も体を刺し貫かれている。


「わ、悪かったよ。でも、助けなかったら顔を引き裂かれてたじゃん」


「だから?」


「だからって………。せっかくのきれいな顔なのに、それで良かったの?」


 女の子の顔から、微笑みが消えた。無表情になり無言でにらまれる。


 ………更に怒らせた? それとも少し収まった?


 見た目の変化では気持がどちらに傾いたのかよく分からない。


 あせった。


「何だよ。きれいなものをきれいと言ってもいいじゃないか」


「もしかしてあんたバカ? あたしにどんな回答を期待してるのよ」


 あきれられた。


「女の子なら誰でも顔を一番大切にしてるとは思わないでよね。とても、とても不愉快だわ。あなた、死ぬ?」


「えっと、そんなに睨まないで。ごめんなさい」


 なぜ謝らないといけないのか、よく分からなかったけれど女の子の凄みに小心者になってしまった。


「今まで会った女の子の中で一番きれいだとずっと思ってたから。嫌ならもう言わない」


「別に嫌だとは言ってないでしょう。


 ふーん、


 ふーん。


 ねえ、いつからそう思っていたの?」


 僅かに視線がやわらいだ気がした。


「ねえ」


 人差し指を唇にあててニヤリと微笑んでくる。


「いつからそう思っていたの?」


「始業式で初めてあった時からそう思ってた」


「じゃあ、三ヶ月も前から思ってたの」


「べ、べつに四六時中そう思ってた訳じゃないぞ。ただ時々、ほ、ほんとに時々そう思ったりしただけで、」


 なんかとても変な事を言った気がする。


「もう一度、私の事をどう思っているのか言って」


 とても楽しげな目になって女の子は髪の毛を描き上げた。


「な、なあ、顔に、こだわってないのでは?」


「もちろん」


 ………だったらなぜもう一度言わないといけないのだ?


「私の事をどう思っているのかもう一度言って」


 クスクス笑い出しはじめた。見た目に比べて中身は腹黒いと思った。


「きれいだよ」


 正直に言うしかなかった


 ………べつにウソじゃないけど、なんか納得いかない。


 それに何度も言うたびに恥ずかしくて顔が赤らむ。


「それじゃダメ。いつから、どのくらいそう思っているのかもよ」


「ごめんなさい。恥ずかしくて泣きそうです。もう許して下さい」


 ワタルはその場で土下座したくなった。憂さ晴らしに魔族を踏んでいる足にちょっと力を入れる。魔族がくぐもった悲鳴をあげる。


「だめ、許さない。さっさと言っちゃって」


「オレはお前よりもきれいな女の子を知らない。お前が一番きれいだ」


 やけくそというか泣きながらそう言った。何か大切な物をひとつ無くしたような喪失感に耐えられない。本気でこの場から逃げだそうとした。


「ねえ、」


 何となく少し赤くなった顔をして女の子が近づいてきた。目がうるうるしていて、とてもとても嬉しそうだ。両手を胸の前で祈るように握りしめて体を左右に振る。


 ………あー、お前はかわいいよ。でも、ぜったい腹黒い。


「ねえねえねえ、いつからを忘れてるよ。もう一回言っちゃって」


「………」


「なにそんなに嫌な顔して睨むのよ。まあいいわ。でも今度から忘れてはダメよ」


 今度があるのか………。


「あたしのこと、気にいった?」


「何を言っているの?」


「どうなの?」


「………」


「ハッキリしないわね」


 ここでどう答えればいいのか分かっている。そしてこの答え次第でこれから先の運命が大きく変わる事も感じ取っている。正解は、


「気に入るわけがない」


 だ。


 当たり前だ。


 こんなわがままそうなヤツを気に入るなんてよっぽど変わっている。見てみたい。


 ワタルにはこんな女の子を気に入るヤツの気が知れない。


 理性的に冷静にそう結論した。


 だから、


「………気にいってる」


 と答えた自分に気付き、その場に跪いた。


 逃げようとする魔族をつかみながらその場で泣いた。本能に理性が負けた瞬間だった。


「つまり、あたしのこと、好きってこと?」


 ドキっとする。


「ならその子の代わりに、あたしと契約して。そしたら許してあげる」


 無言を肯定と受け取った女の子が続けて言った。


「もし契約してくれたら、もしかしたらあたしのこと好きにできるかもよ?」


 ………いったこの子は何を言っているのだろう?


「オレにこのこの魔族の代わりに下僕になれというの?」


「どう?」


「どうと言われても、オレは、魔族じゃないし」


「だいじょうぶ。気にしないから」


「気にしてくれ」


「その子はもう力を失ってもうダメなのよ。その責任はあなたが取るべきじゃないの?」


「………おれはやる事がある」


「責任とれないの?」


「やる事がある」


「責任とって」


「ぐっ」


 女の子はニヤリと笑った。


 勝負はついたと言わんばかりだった。


 ワタルはその場に倒れた。


「ちなみに、あなたのやる事って何?」


 勝負が付いたと思ったのだろう、少し緊張を解いたそう言ってくる。ワタルはためらっても仕方がないと思ったので、正直に言った。


「地球征服だ」


「………ふっ」


「いま鼻で笑った? バカにした?」


「いえ、違うわよ。ただあたしの願いと同じくらい、馬鹿馬鹿しいからついね」


「やっぱりバカにしてるんじゃないか。バカにするならこれ以上話はしたくない」


「怒らないでくれないかな。ちょっと短気すぎるわ。もう少し私を見習いなさいよ」


「いや、おまえはもっと感情をきちんと表現すべきだ。無表情だと何を考えているかわかりにくい」


「まあそれは置いといて。もし私の願いを叶えてくれるのなら、あなたの願いもかなえられるかも知れないわよ」


「本当か?」


「ええ」


 即答。顔付きを見ると嘘でも冗談でもなさそうだった。つまり真剣だった。


「おれは魔族でもないし、実は人間ではないぞ。それでもいいの?」


「あたしの願いを叶えてくれるなら、何者でも構わないわよ。魔族でも、神族でもかまわないわ」


「おれは神族でもないし」


「だから、何者でもかまわないって言ってるでしょう」


「……自分の顔を引き裂かれても使い魔を必要とする理由がなんなのかわからないけど、そうまでして叶えたい願いなら、地球征服の前におまえの願いをかなえるべく協力するよ」


「ホントね」


「ウソはつかない」


「んじゃ、私の望みを教えてあげる。世界平和よ」


「地球征服と真逆じゃん」


「そうね」


「………ごめん、急に様を思い出したから、急いで帰らないと。んじゃ、おれはこれで」


 振り向いて逃げ出そうとしたが襟首を掴まれて引き留められた。魔族が逃げようとしたので、上に蹴り上げて片手で掴む。


「逃がさないわよ」


「危なかったね。もうちょっとで魔族に逃げられるところだった。


「あなたを逃がさないっていったのよ」」


「やっぱり?


 ねえ、ちょっと用事を思い出したんで、すまないけど掴んでいる手を離してくれると、ありがだいんだけど」


「協力してくれるっていったじゃない」


「しかし、」


「嘘つき?」


「ぐっ………」


「卑怯者?」


「うぐ………。わかったよ。でもその後におれは絶対に地球征服してやる」


「がんばってね、でも地球平和をした後に、あたしと結婚したら労せずして地球制服した事になるんじゃない? だからあたしの望みにがんばって協力してね」


「地球人なんて全員死んでしまえばいいのに」






◇◇◇






 きっかけは、ある隕石の落下だった。


 その隕石は大気中で燃え尽きる事を免れ、東京は八王子に衝突した。


 冬至の十二月二十二日。


 半径三十キロ圏内。東京二十三区以外、埼玉の飯能市や日高市、神奈川の相模市の半分そして山梨の上野原市の一部にある全てのモノが吹き飛んだ。


 森も


 林も


 木も


 花も


 草も


 すべて、吹き飛んだ。


 獣も


 虫も


 魚も


 すべて、死んでしまった。


 人間も例外でなく、すべて死んだ。


 隕石が墜落した瞬間、すべてが滅んだ。


 悲劇。


 ひとりの人間にとっては普通は一生遭遇する事はレアな事だったが、長い地球の歴史から見ると、うんざりするほど起きているごく普通の出来事だった。


 しかし……。


 隕石が落ちて新年を迎えた一月一日。


 隕石が落ちた周囲が突然元の状態に修復された。


 森も林も木も、


 全てが元に戻っていた。


 日本政府の発表は次の通り。


 死者、負傷者ともにゼロ。


 建物などの被害もゼロ。


 つまり以前と何も変わらない状態。


 日本政府はじめ世界各国はこのありえない現象を調査する為に多摩地区に調査団を何度も派遣したが、結局、原因は何も分からなかった。


 ようやく原因と思われる仮説が発表された。その内容は世界を震撼させた。


 魔界移転。


 世界は少しずつ狂いはじめたのであった。



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