第7話 「ドレイン・カルテ」
〜ドレイン・カルテ〜
…カルテとは診療記録という意味の単語だ。
なら吸収を意味するドレインを組み合わせると
どんな魔法になるのか。
…記録の吸収といっても対象の状態を
カルテにまとめ上げて吸収するものだが
ここでは診療する対象に"恐怖を植え付けられる"
ことができるのだ。
…例えば検査で見るだけ見ておいて、
ガンでも見つかれば戦慄するだろう。
ドレイン・カルテとは診療によって
精気や運、戦意を喪失させる。
情報を得るだけ得て、相手には死の恐怖を薬にして
処方するのだ。
「勝負は明日」
「え…?ちょっと待ってください
カズは魔力も使ってクタクタなんですよ!?
せめて三日にしてあげてくださいよ!」
「条件が飲めないならこの件は引くぞ」
「っ…」
「いいよ、明日で。
むしろこっちからすれば目的は果たしたんだ」
帰り道、カズは少しぼけーっとしながら
道を歩いている。なんというか心ここに在らず。
そんな感じで上の空だ。
家に帰ってやることはまず昼寝…
ではなく今日に限っては宿題だ。
明日未提出で試合中止なんてことはもってのほか。わからない部分はセボドで聞いた。
「そうそう一貴、明日のことなんだけどさ」
「どした?」
「もし、負けそうになったらだけど…」
「イカサマは使わねーぞ」
「ちげーよ。そうじゃなくて」
…迎えた翌日の放課後
剣道部は練習を休みにしてもらい
一貴と野上は剣道着を纏って向かい合った。
「言っておいたとおりだ。異論は無いな」
「当たりめーだよ、全力で行かせて貰うからな」
両者構え。
「それでは…始めっ!」
合図とともに一貴は一気に押しにかかる。
化身を相手にしていたせいか、とにかく
強めの押しを何度も仕掛けては野上を追い詰めていた。
「(ルールは覚えたようだな。
だが…"それだと窮屈そうだな")」
野上が反撃の一手を繰り出した。
早速弱点を見極めてはカウンターを繰り返し
距離を詰めて形成を逆転させた。
「(やっぱ強えな!なんというか化身相手
してる時よりか怠いっていうか…)」
「どうした筑前!その程度か!?」
試合時間も残りわずか。一貴は魔術を使う事にした。
「さぁ…て、やらせて貰おうか…
(ドレイン・カルテ)…!」
「(魔力反応?こんな状況で何を…)」
一貴は魔術結界を召喚したのち、
撃ち合いながら引きを繰り返し
野上の体を診察する。
聴診器で心拍音、心拍数を測るように。
手のひらを額に当てて体の温度を探るように。
動き、呼吸、全てを相手に集中する。
「(右の守りが甘い!なら…)」
右側を集中して攻撃すると体勢が変わっていく
ついに野上はノックバックをモロに喰らい
大きな隙を見せた
「(なるほど…ドレイン・カルテは
診療を行なった上で恐怖を植え付ける魔法。
右の守りを甘くすればそちら側に意識を
向けてしまう…まだまだ甘いな。)」
そう思い剣を構え直す。一貴は目の前に迫っていた。
「(さあ来い一貴!全力で返してやる!)」
観客にもわかっていた。一貴がどう戦うのか、
どうすれば逆転できるのか。その全てを
昨晩話した通りに流している。
だからこそ野上の最後の構えを危険だと
感じ取れた。
「カズ!罠だあああ!!!」
スパーン…!と音を立てる。
一本を取ったのは一貴の方だった。
「な…!?」「え…?」「すげえ!」
力無く竹刀を持つ腕を下げて面を取る野上。
「先生はよ、魔術科担当なんだろ?
だから俺さ…(本来の扱い方だけしか使えない)
って考えたんだ。」
一貴はこう考えた。
先生という立場場、自らはそれを身をもって
教える義務がある。だからこそ予習しているな
と思わせたら、教科書通りに技を実行するものだと考えていた。要はそういう風に慢心していると
一貴は察したのである。
ならば後はもうやる事はただ一つ。
その魔法を用いてどう先生を欺くかを
考えつくだけだ。
「なるほどな…教えられたのは俺の方だったか…
よくやった!完敗だ!」
「なら約束守ってくれよ」
「無論だ。寧ろ今のおまえなら
用心棒に欲しいくらいだ」
クソガキ扱いしていた数日前が既に懐かしく
感じるほど清々しい気分だ。
その日は解散となった。その後
セボドで通話しながら課題を終えていると
少し耳寄りな話が聞こえてくる。
「あ、カズ。はつねかちょーの新動画見た?」
「俺その人興味ないんだわー」
「そうなんか。なら端的に話すけど
その人の動画で(台風の卵で目玉焼きを作ると
どうなる?)って動画があるんだけどさ」
「なんやそれw」
「その卵の中身ってドレイン・カルテで
見てんだよね。おれ思わずあって声出たわ」
「はいはい、よかったよかった」
「…オイ、まだ話のオチを言ってねえだろ」
「まだあんのかよ?」
気怠げに聞き流そうとしたその時だった。
お母さんが顔を真っ青にして扉を開けた。
「一貴…明日は休校になったわ…」
「え…?」「ん?おーいもしもーし?」
電波が悪く里流の声が聞こえづらい、
数秒後急にJアラームが鳴り出した。
「うお!?うるせっ!」
内容は連続殺人事件が発生したとのことだ。
犯人は人間では無いとのこと。発生箇所は
街で一番の大都市で発生した。
「ごめんカズ!今親に呼ばれたから切るな!
なんかアラームがなったわ!おやすみー!」
「おう!またな!」
お母さんはソワソワしている。
夜番で父親はもうすぐ帰ってくるが
職場はその大都市にかなり近い。
心配していると父のGT-Xのエンジン音が
聞こえてきた。無事に帰って来れたようだ。
「ただいまー」
「お帰りなさい、向こうは大丈夫だった?」
「あー…みんな騒いでたよ。
ただかなり酷い惨状だったなあ」
父の話によると工場は港近くなので必ず
帰り道に都市部を走るのだが爆破跡や
人が倒れている姿を目撃した。なんなら
走る側で爆撃があり、GT-Xをスレスレで
交わして行った。
「なあ親父…もしかして犯人って
動くものに反応する、みたいな特徴を
もってたりする?」
「ああ〜…まあ、そんなところかな。
ただ落陽橋を越したら急に攻撃がなくなったな」
「とにかく明日は休校だから、
それとあなたもお休みをもらいましょう」
「んー…その方がいいかもな。連絡しとくよ」
明くる日、父は血やススで汚れたGT-Xを
洗車しに出かけた。母は街の様子を見たいと
フラグでも立てるように買い物へ出かけた。
家には自分一人、一貴は学校へ連絡を入れてみる。
「…た、助けてくれ…!」
「…!?どうした!?先生!?」
「準備室…黒板…あと…た…の……む……」
プツッ。
何かあったに違いないと思わざるを得ない
通話内容。一貴は里流と優大に連絡を入れて
書き置きを残すと家を飛び出した。
走って向かった駅で学校から逆連絡が入る。
「…はい、筑前ですが」
「おお、筑前君か。どうしたんだ?」
「野上先生って今日来てますか?」
「え?あ、ああいるよ。変わろうか?」
野上にこの事を伝えると校門前で集合する事を
約束し、電話を切った。
駅を降りた先の市営駐輪場で二人と合流。
そのまま自転車をかっ飛ばす。
校門前には既に野上が待っていた。
閲覧いただきありがとうございます!
度重なる不審な事件。一体何が起こっているのでしょう。




