第4話 「スリンガー・ビヨンド」
〜スリンガー・ビヨンド〜
…物を引っ掛けて空中を浮遊する時
この魔法があると非常に便利になるだろう。
特に非常に柔軟な移動手段が必要なら尚更だ。
…窪みの無い壁面やガラス、紙であろうと
なんだっていい。とにかく引っ掛けて使う物
をどこにでも理想的な形で刺せるのだ。ただ
差し込む対象だけはイメージしなければならない。
…余談だが慣れないうちは遊び使うに限る。
初心者がビルからビルへ飛ぼうなどすれば
思想がタイミング悪く切れて、真っ逆さまだ。
「さて、と…丘咲、筑前。
どうしてこんな危険なことをした」
「お、俺はカズが行くから…」
「じゃあ、筑前。何故こんなことをするんだ」
「………」
野上先生は溜息をつくとそのまま二人を
生徒指導室へ連れて行った。
「なあカズよぉ…お前なんで先生に
あんな生意気な口聞きながら教室でたんだよ?」
「…見たかったからだよ。」
生徒指導室は職員室の近くにある。
先生が鍵を開けるとふっかふかのソファに
面と向かって座って話し合いが始まる。
「…筑前、お前さっき見たかったって言ったろ」
「はい…」
「つまり…"通り魔を追っかけて自分から
危険な目に遭えば先生が助けてくれる"
そう思って丘咲を呼び出し役に駆け出した…
そういうことだろ」
「…はい」
「な…!お前ふざけんなよ!?」
「どうして友達を利用してまで死にに行くような
真似をしたんだ」
一貴は震えた口で答えた。
先生は相変わらず怒りに躍動している。
「ボールを太陽に変える魔法を見た時
思ったんです。先生が戦ったらカッコいいんだろうなって…それが見たかったからなんです」
「そんな物見てどうする」
「…やる気が出てくると思いました」
一息付いた先生は立ち上がると胸ぐらを強く掴んだ。
「いいかよく聞けよ、俺は先生という立場で
ある以上お前達を守る義務がある。
それを踏み躙って友達を殺しかけて
お前がやったことは好奇心の探究だ。
それでどれだけの人が心配するのか
わかっているのか!!!?」
白い闘気を帯びた怒りビンタが一貴を
部屋の端までぶっ飛ばした。
「あっ…先生!今のはヤバい…!」
「心配すんな。それと…丘咲、頼みがある」
「な、なんすか…?」
「今日はもう早退させるから、一貴を
送ってやってくれ。」
「え…でもそれじゃあ俺怒られる…」
「ちゃんと言っておく、安心しろ
間違ってもあの通りには戻るなよ。」
「ひー!言われなくてももう見たくねえっすよ!」
生徒はいずれにせよ五限は中止で調査のために
学校閉鎖。少しだけ早い帰宅だ。すでに正門付近には警察が駆けつけていた。
…その帰り道。
「…サト、ごめん」
「はぁ〜…お前ゴメンで済んだら警察いらんわ。
ま、でもスカッとしたからええわ」
「お前よ…」
「あ、いや別にビンタされたから
とかじゃねえよ!?」
鳩尾に蹴りを喰らった挙句先生から
は猛烈な平手打ち。一貴は心身共にボロボロだ。
「てかさ、先生どうだった?
俺半端気絶してたから全然見れなかったわ」
「え?…ま、まあもう魔法も使わせず
カウンターナックルで一発KOだよ…」
「あー…そう…」
一貴は屈辱を感じていた。
見たい物は見れず、初めて習った魔法は
全く役に立たせることができなかった。
準備魔法だけじゃ歯が立たない。それどころか
真理はつかれて言われなくてもわかることで
説教をくらい、挙句の果てには満身創痍である。
現状を振り返ると、松葉杖変わりに自転車に
ブレーキを掛けながら歩くのやっとなことに
惨めさが心を抉ってくる。
「…カズ、泣いてんの?」
返答はなし。ただ大粒の涙を流さずには
いられなかった。恥ずかしさに俯いている。
電車の中では座席に座れるが、
徒歩の部分はどうしようもないので
里流が肩を貸している。
やっとの思いで家につくと今度は母から説教だ。
部屋にたどり着く頃にはもはや
何もする気に慣れていない。
だが…何かが心の中で沸々と燃え上がっていた。
正しい…周りが正しいのはわかっている。
ただ一貴はどうしても納得がいかなかった。
知りたいという気持ちがはち切れんばかりに
衝動を与えているのだ。
「へへ…ノガ先のバカが。
学生が知識欲抑えきれっかよ…!」
布団を払って魔術科の教科書を開く
「プリファール・マークスなんて魔術、
今時ガキでも知ってんだよ。
俺が知りてえのはあの黒づくめを
どうすればねじ伏せれるか、それなんだよ」
目次には基礎、応用、上位と項目が分かれている。一貴は基礎を飛ばして応用の魔術を見たが
理解はしたものの使えなかった。
「(コンセント・レイト・プリファール)…
魔術の高速詠唱を持続的に行うことで、
与える思念を更に強力に伝えられるだけで
なく、微妙な変化を伝えられる。か…
やりたい事はわかったけど、俺たちって
(詠唱)をした事が無いんだよな。」
詠唱文は書いてある。が、発音が上手くいかず
集中が続かない。こんな時、(魔素物質)が
あれば…と考えるも河川敷や公園に落ちている
石の魔素では風船を浮かせる程度の魔力しか
持っていない。
それでもたまにかなり強力な物だったり膨大な量の魔素を含んだものも数多く転がっている。
「…よし、ケガも治ってきた
今ならいける…!」
時計の針が24時を回る頃、
一貴はちょっとワクワクしながら
家の扉を音を立てないように開けて外に出た。
…しかし河川敷まで少し遠い。
なのであらかじめ基礎魔法で便利そうな物を
覚えておいたのである。
しかし、この魔法は外でしか使えない。
「あ、あの電柱とかいけるか…
よし、あとは持ってきたこのお手製スリンガー
ハズレ棒で…」
祭りのハズレくじでよく見かける
景品の伸びる紙の棒をエアーガンと組み合わせて
先っぽにアロンアルファでフックをつける。
これで完成だが、ここである魔法を使うのだ。
「(スリンガー・ビヨンド)!」
放たれた紙はなんと3メートルにも伸び、
ブックの先駆けは鋭く電柱をキャッチした。
「少し力を抜いて…ふっ!」
地面を蹴り上げて紙を縮めると反動で
ブランコを漕ぐように体を縮める。
体がふわりと浮いたら次は民家の屋根だ。
あとは河川敷か開けた場所に出るまで
これの連続である。夜をかける今の一貴はまさに
一線級の魔術師だろう。
「…よし!ここでストップ!
おっしゃー!着いたー!…って静かにしなきゃね」
河原には様々な石が転がっている。
普通の物から強力な魔力を秘めたものまで、だ。
夜は短い。早速探索を開始した
閲覧いただきありがとうございます!
高度な魔術を求める一貴。一体何をしていくのでしょう




