国宝級?
朝起きると憂鬱になった。
なんで今は夏休みなんだろう。まさか私みたいな落ちこぼれが早く学校が始まって欲しいと思うなんて。
お父様からもらったお小遣いを使い切ったから、金目のものを蔵に探しに行っただけなのに……。
顔を洗って食堂に行く。
姉2人は既に他家に嫁に行っている。本当は侯爵家に嫁いだ長女が産んだ男の子を1人養子にもらいブランバル伯爵家の後継ぎにする予定だった。
今ではアイヴィーが後継ぎだ。そして私がアイヴィーの婚約者になった。
姉と弟でも、養子の場合には教会の許可が降りれば結婚が可能だ。血を濃く残すための手段である。
昨日、アイヴィーと私の結婚をする許可が出た。
食堂にはお父様であるサバル・ブランバルとアイヴィーがすでに食卓についていた。
「おはよう、エルシー。今日もアイヴィーと王都ダンジョンに行くのかな?」
お父様のサバルの言葉にアイヴィーが答える。
「はい。今日もエルシーに王都ダンジョンで鍛えてもらう予定です」
キラキラした満面の笑みを浮かべるアイヴィー。完全に子供の仮面を被ってやがる。
私は無言で食卓につく。お父様はご機嫌な様子だ。
「アイヴィーは努力家だな。これならブランバル家は安泰だ」
ブランバル家どころかロード王家ですら危ういのに……。
「任せてください、お父様。ブランバル家の為に頑張ります」
なんて儚い会話なんだろ。
食欲がわかないが何か食べてないとダンジョン探索についていけなくなる。無理矢理、朝食を腹に入れる。
王都ダンジョンに行く為に軽装に着替える。
今日は腰の剣を使う時があるのだろうか? 昨日はただアイヴィーに付いていって、魔石を拾うだけだったからな。
用意ができたためアイヴィーの部屋に行く。
朝日を浴びてアイヴィーの透き通るような白い肌が眩しい。アイヴィーは優雅に私に近づく。
両膝を着く私。
アイヴィーが私の首筋に牙を立てる。チクリとした痛み。
ただその後に来る快感を身体が覚えてしまっている。
身体が震える。
アイヴィーが私の血を吸う音が聞こえる。
快感で身体が歓喜を上げる。もう私はアイヴィーから逃れられない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
王都ダンジョンまでの道を歩きながらアイヴィーに話しかける。
「ねぇ、世界征服ってどうやってやるの?」
「なんだ、興味が出てきたか。まずは俺の力を全盛期まで戻さないとな。それまではおとなしくしている予定だ。ついでに眷属のお前の力を上げるつもりだ。あとは学校に入って眷属候補を探す」
「アイヴィーは学校に入る予定なの? それにあなたは何歳なのよ」
「新しいアイヴィー・ブランバルの戸籍では13歳になったところだな。あと2年ちょいで王国高等学校に入れるからな。年齢の見た目は変えられるから心配するな」
「心配なんかしてないわよ。本当に世界征服できると思っているの?」
「できる自信しかないな。俺がしなくて誰がやるって言うんだ」
「でも500年前は失敗したんでしょ。どこからその自信がくるのか分からないんだけど」
「お前は眷属のくせに俺の傷口をえぐるなぁ。その失敗があるから次は成功するんだよ。同じ轍は踏まん!」
王都ダンジョンの入り口に着いた。
今日は朝から来たため、ダンジョン入り口脇の魔法陣と魔法石が混んでいる。
魔法石を触る前にアイヴィーと手を繋ぐ。魔法石に二人で触り、6階層と唱える。視界が歪みダンジョンの6階層に転移した。
すぐに魔法石の場所から移動する。次の人が来る可能性があるからだ。
今日もアイヴィーはスタスタとダンジョンを歩いていく。
6階層ともなると魔物も強くなっている。一番多く出るのがオークである。
オークは豚が進化した魔物で体長は180㎝を超える個体も出てくる。徒党を組んでいる事が多く、力が強く、耐久力も高い。一体倒すだけでも相当な労力が必要だ。中には武装している個体もいるため、慎重な戦いが求められる。
それなのにアイヴィーは昨日と変わらず進んでいく。
アイヴィーの後ろを歩いていて気が付いた事があった。アイヴィーは索敵能力がズバ抜けている。オークが視認できる前に魔法を撃っている時がある。
まるで散歩をするような雰囲気でダンジョンを進む少年。ただただ唖然とするばかりだ。苦戦どころじゃない。戦いにすらなっていない。
私はただ魔石を拾うだけだった。
8階層を歩いている時に気がついた。
アイヴィーの身長が伸びている!?
「アイヴィー! ちょっと待って! あなた身長が伸びていない?」
「あぁ、やっと魔力が戻ってきたんだな。それで身体が成長したんだろ。家では元の子供の姿になるから大丈夫だ」
身長が伸びたアイヴィーは私より少し背が低いくらいだ。
「それ、服はどうなっているの? 身体が大きくなったのにあつらえたみたいにピッタリじゃない?」
「この服は俺の魔力を使って編み上げているからな。大きさの調節は自動で行うものだ」
なんだその訳の分からない魔法は。
アイヴィーと一緒にいると自分の常識が全く通じない。
改めて身長が伸びたアイヴィーを見る。
青年に少し幼さを残した感じ。色気が増している。
少年のアイヴィーは芸術品だが、これは国宝級だ。
私は一つため息をついた。
もう諦めよう。私はこのアイヴィーに身体だけじゃなく、心まで奪われている。認めたほうが楽になる。
世界征服。
ふん、それも面白いかもしれない。
私は魔石を拾いながらアイヴィーのあとを追った。





