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不老不死

夏休み明け2日目。

今日の午後の授業は魔法実技だ。

アイヴィーから魔力球の使用は禁止されている。

大人しく魔法を詠唱しよう。


魔法実技の授業は的に向かって魔法を撃つだけである。

この的は魔道具になっており、指定の場所で魔法の詠唱を始めると作動し始める。

そのまま的に魔法を当てると、詠唱速度、魔法精度、魔法威力が数値となって出てくる。

数字で自分の実力が出てしまうため、言い訳が効かない無慈悲の魔道具である。

現在の課題魔法はファイアーボールである。


魔法実技の授業はまずは精神集中を教師の指示に従い、皆んなでやる。

その後、指定の位置からファイアーボールを5回撃って終了である。


私の番が来た。

指定の位置に着き、精神を落ち着かせる。

詠唱をして魔法を撃つのは2ヶ月ぶりだ。

丁寧に呪文の詠唱を始める。


【原初なる火、我の意志に従え!ファイアボール!】


私の右手に50㎝を超える火の球ができる。

周囲から驚愕の声が上がる。

ファイアーボールは一直線に的に撃ち出され、的に当たると爆音を立てた。

呆然とする周囲。

私も呆然とした。

通常、ファイアーボールは10㎝ほどの火の球だ。

それが50㎝を超えていた。

私のファイアーボールの記録が出た。


詠唱速度 C

魔法精度 A

魔法威力 3,652


詠唱速度は平均だ。

魔法精度はAランクになっている!?

ただ魔法威力が桁違いだ。

平均は400〜500くらい。

7倍以上の威力だ。

夏休み前の私のファイアーボールの威力は450付近だった。


魔法実技の担当教師が大声を上げて近寄ってきた。


「エルシー、凄いじゃないか!この威力はファイアーボールの歴代最高記録じゃないか!宮廷魔導師を超えているぞ!何か特訓でもしたのか!」


特訓?

ダンジョンで地獄の特訓をしていたなぁ


「夏休みに王都ダンジョンに行っていたからですかね?毎日通ってました」


「そうか、ダンジョンか。それでもこの記録は信じられないな。でも魔道具が出した記録だからな」


半信半疑の担当教師を無視して、その後もファイアーボールを撃ち込んだ。

全ての魔法威力の数値は3,500オーバー。最後の5発目は最高で3,812の数字を叩き出した。


学校に置いてある魔法の威力を測る魔道具は簡易的なものらしく、次回の魔法実技の授業では精密に測れる魔道具を私のために用意するそうだ。

魔力球を撃ち込んだらどうなるのか私は少し興味が湧いた。




帰宅してアイヴィーに学校での話をする。


「今日の魔法実技の授業でファイアーボールの威力がとんでもなかったんだけど」


「まぁ当然だな。俺の眷属筆頭なんだからそれくらいしてもらえないと困る」


「普通にしていても目立ってしょうがないわ」


「エルシーと500年前の俺を繋げて考える奴がいなければ問題ない。それも俺が全盛期の力に戻ればバレても大丈夫だ」


「そういえば今日の家庭教師達はどうだったの?」


「数学は必要ないな。語学は500年で変わっているところだけ確認しているところだ。1ヶ月くらいでいらなくなるな。歴史の家庭教師は良かった。500年の間の各国の動きが良くわかる。あいつの授業だけは当分必要だな」


「明日からは貴族学が追加されるでしょ」


「ロード王国の貴族の歴史は覚える必要性があるな。あとは他の国、特にエクス帝国の貴族情報が欲しい」


「それでも家庭教師の授業が少ないわね。暇な時間はどうするの?」


「1人で王都ダンジョンに行く予定だ。久しぶりにドラゴンでも倒してくる。もう充分力が戻ってきたからな。装備も充実させておきたいから試練の間をこなす感じだ」


あっさりドラゴンを倒すと言ったよこの人は。

何をどうしたらあんな物を倒せるというのか。

ドラゴンなんて天災レベルなのに。

この人は天災どころじゃないってことか。

アイヴィーって吸血鬼なんだよね?

しっかりと聞いてなかったな。


「ねぇ、アイヴィーって吸血鬼なの?」


「鬼ではないな。吸血は魔法だよ。血から直接魔力を吸収する魔法さ。逆に俺の魔力を流し込んで魔法をかけると眷属になるのさ」


「前にアイヴィーは不老不死って言ってたけど?」


「魔力の制御が精微になれば不老になっていく。常識だな。不死は魔力制御の極致だ。特殊で精巧な魔法陣で極大魔法を使えば不死になる」


魔力制御が上がれば不老になる!?

そんな事聞いた事もない。

アイヴィーと常識と私の常識には隔絶している。


「エルシーも俺の眷属になって魔力の精度が上がっているだろ。魔力球が使えるからな。だいぶ不老に近づいているはずだ」


私が不老になるの!?

喜んで良いのか悪いのか判断がつかない。


アイヴィーが私に近づいてくる。

私は両膝を付く。

不老であろうがなかろうが関係はない。

結局私はこのアイヴィーに囚われているんだった。

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