第7話 鋭人との再会
深夜更新、見る人すくないだろうな。
でも、更新時間見てくれれば一定の法則があると察してくれるかな。
よろしくお願いします。
ナユユとトーモが面会に来た同じ日、入れ違いにもう一人、意外な人物が面会に来た。金髪で、つり上がった目。白いカッターシャツに黒ズボンと、あの日会った格好そのままで。
「お前は……。」
まさか、来るとは思いもしなかった。
「そのあとの言葉が続かないってことは、忘れちまったのか? 俺の名前。」
「いや。」
あの日の〝イセノ〟勝負はトラウマ、忘れられない。
「はあ、頭打ったってきいたからそうか、思いだせないのか。ならもう一度自己紹介だ。オレは広王大附属中一年で、カナデの兄、横尾鋭人だ。」
「それは前にも聞いたよ、鋭人さん。」
「まーた、さん付けか。俺が一応一歳年上ではあるけどさ。」
「ご、ごめんなさい。つい、こう面と向かって話すと。」
「オレの誕生日が3月、お前の誕生日が10月ってだけで、オレとお前の生まれた年、同じなんだから。鋭人でかまわないぜ。」
「じゃあ、鋭人。今日はどんな用で?」
「もちろんお見舞いにだよ。お前が事故にあったって知って、飛んできたんだぜ。ほんと、お悔やみ申し上げます、だぜ。」
「俺は死んでないよ。」
鋭人のブラックジョーク。なんか、なつかしさを覚える。
「で、鋭人だけなのか。カナデは?」
「前会ったときも説明したが、カナデとオレは兄弟でも、父親が同じだけで母親は違う。異母兄弟ってやつ。だから、俺の名前は横尾鋭人で、カナデは三好カナデだ。だから俺は母さんと一緒にこの福ノ山市に残ってるわけだし、カナデは転勤族の父母に連れられて海外に行ったわけ。分かる?」
「その、家族の事情が複雑なことはわかったよ。」
「それが分かったなら、分かるだろ。カナデは海外、ここにいるわけはない。それに今はカナデにとっても大切な時期なんだ。お前もそうだろ。」
大切な時期? カナデも向こうで受験するのかな。みんな、頑張ってるってことか。
「ごめん、つい、会いたいって気持ちが先走ったっていうか……。」
「分かればよろしい。」
その後、鋭人は一息ついて、神妙な面持ちになった。
「イッセー、まずは謝る。お前が事故にあう前、俺はお前に強く言いすぎたのは悪いと思ってる。」
鋭人は九十度腰を曲げて、謝罪した。意外だ。
「そんな頭を下げなくても。あの時は俺の不注意で事故にあったわけだし。」
「そうだな、ちゃんと病院でメンタルケアもしてもらえよ。」
「わ、分かった分かった。」
なんていうか、鋭人は一言多い。そして一応、メンタルケアでノーデっていう人工知能がいるはずなんだが、これが出てきてくれない。
「だが、俺は事実を言ったまでだ。このことも理解しておいてほしい。カナデはイッセーのこと覚えちゃいないさ。もっと大切なことがあるんだからな。」
「大切なこと?」
「そう、なにせカナデは、〝イセノ〟の世界大会に出たんだ。」
「カナデが、世界……。」
驚きだ。大会に出たってことは前会ったときに聞いた記憶がある。けど、世界がつくと……。思ってた以上にスケールが違う。
「カナデからそのことを聞いたのか?」
「定期的に連絡は取り合ってるからな。でも、〝イセノ〟はもう昔のこの地方限定のローカルゲーム、ってわけじゃない。日本、いや世界に名が轟く、グローバルなゲームになってきてる。ネットでも本戦の試合は中継されているぜ。」
ってことは。
「カナデの試合も、か?」
一瞬、鋭人の口が止まる。
「ああ。」
中継されるくらい、勝ち残ってるってことか。だから、住む世界が違うのか。
「お前が話しかけてきたのは、ちょうど世界大会の頃だった。だから俺はカナデにとって大会の支障になるかもしれないと考えて、冷たく言った。それが言葉足らずでショックを受けて、早まったのなら俺に責任がある。すまなかった。」
そうか、鋭人は俺が自殺でも計ったとか考えているのかな。
「心配してくれてありがとう。でも、俺の不注意で引かれただけなんだ。そのことは関係ないから。」
「そうか、ならいいんだ。」
鋭人も鋭人なりの考えがあったんだ。でも、俺はカナデとのつながりを久しぶりに見つけられた気がして、鋭人の言葉を素直に受け取れなかった。
「まあ、俺のそんな努力もあって結果的にカナデは、大会で3位になったよ。」
「えっ。」
世界で、3位……! そんなところまで。
俺は、足踏みしすぎた。心のどこかでつっかえるモヤモヤを抱えたままずっと。
でも、やっぱり戦いたい。
「鋭人、カナデに伝えてくれないか。もう一度、一回だけでいいんだ、〝イセノ〟で勝負してくれないかって。」
「イッセー、お前は今、怪我で片手しか使えないだろ。」
鋭人はあきれ顔で答えた。
「明後日にはこの包帯とれるんだ。そのあと、ちょっとなじむのに時間かかるかもしれないけど、一週間後には何とかなるはず。あと一週間はこの病院に入院してるし。」
「でも、どうやって勝負する? カナデは海外だぞ。手紙や電話越しとかは無理だぞ。」
「それは……。」
「それなら、リモートでやればいいじゃない?」
口をはさんだのは病室に入ってきた、エプロン姿の母さんだ。
「一誠はスマホとかパソコンとか、そういうハイテク機器は何も持ってないから、お父さんのものを使わせてもらえるよう、相談するわ。カナデちゃんの方もお仕事上、父母どっちかはそういう器具持ってるはず。あとはこっちから招待するから、その時にリモートのアプリを立ち上げて、ⅠⅮとパスコードさえ入力してくれれば、つなげるでしょ。〝イセノ〟だってできるはずよ。あとは、連絡先ね。」
ナイスだ、母さん。その手があった。にしても
「母さん、盗み聞きしてたでしょ。」
「いや、入るタイミング見計らってたのよ。雰囲気壊したくないでしょ。」
母さんは俺と鋭人に視線を移しながら言った。
「でも聞いたぞ。お前受験するんだってな。大事な時期だろ? そんなことに油売ってていいのかよ。」
「それは……。」
鋭人はまた痛いところをついてくる。
「いつまでも過去をひきずるな。あいつは世界で戦ったんだ。前みたいにオレにも勝てないイッセーの実力ではつり合うはずもない。お前がショックを受けるだけ。それにカナデはお前の事なんて覚えちゃいない。この前のオレみたいにな。」
鋭人の言い分も最もだ。
鋭人とばったり会ったとき、最初俺も半信半疑で「鋭人さん、ですか?」って聞いた。それに対する鋭人の回答は「どちら様?」だった。
「お前も前を向いていけ。オレの今日言いたいことはこれで全部だ。そろそろ帰るよ。」
「待って。鋭人!」
しかしこの言葉では、出口に向かう鋭人の足を止めることはできなかった。
何か言わなきゃ。このまま、あきらめたくない、俺の本心を……。
「俺なりの、けじめなんだ。」
鋭人は出口のドアの取っ手に手をかけようとして、止まってこっちを見た。俺を、確かめるように。
「勝負する必要、あるのか? 話すだけなら必要ないだろう。」
「俺、だいぶ昔に約束したんだ。〝イセノ〟で勝負したら教えてくれないかって。あの時のカナデの気持ちを知りたいのなら、勝負に勝つしかない、それがけじめだと思ってる。」
「それで、あきらめがつくのか?」
「……ああ。」
鋭人はあまり乗り気ではなかったようだが、ため息交じりにこう答えた。
「お前って、そういう性格だったな。粘着質っていうの?」
「一誠は粘着質なのよ。納豆よりもね。」
母さん、それ俺のフォローしてるのかな。
「俺は納豆が嫌いです。」
鋭人のそれは知らなかった。
「……分かったよ。それならたぶんできるだろ。カナデの連絡先を教えてやるよ。」
「ありがとう。」
「ただし条件が2つある。」
鋭人は人差し指と中指を立てて言った。
「条件?」
「まず1つ、カナデと話すのはイッセーの受験が終わった後だ。その頃にはお前も退院してるし、都合が悪いなんてことはないだろ。」
「そ、そうだね。」
「ならちょうどいいわ、お父さんに頼まなくても、中学入学祝いで一誠に買ってあげる奴を使えるかもしれないわ。」
母さんの言葉を聞くと、話早い気がするけど、入学祝い楽しみになって来た。
「もう1つは?」
「カナデと対戦するなら、まず俺に勝つことだ。ただしチャンスは1回しかやらない。ちょうど1週間後の今日、お前誕生日だったな。その日に来る。」
このチャンスが誕生日プレゼントだ、とでも言いたげだな。
「その勝負で勝てれば、お前に実力を認めて、カナデと戦わせてもいい。でも、負けたら諦めろ。お前では勝てない。」
「――分かった。」
「なら1週間後のこの時間に来る。もちろん勝負は手加減なしの一発勝負だ。ただ、ルールは前やったときの覚えてる技を使うガバガバルールじゃなくて、もうちょっとちゃんとした、イセノの公式戦通りのルールにしよう。それでいいか?」
「うん。ありがとう。」
俺の言葉を聞いた鋭人はドアの取っ手に手をかけて、開けた。そして病室を去る際に
「最後に一言、しつこい男は嫌われるぞ。」
と言って、出て行った。
「ほんと、鋭人は一言余計なんだよ。」
と、こんな感じでその日は疲れて、夢も見ずぐっすり寝れると思ったんだが。
役者は徐々にそろってる。
次回は3/6です。
よろしくお願いします。