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いっせいノーデ!  作者: 乙島仟
第1章 一誠&ノーデ
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第1話 仮の名前

まだまだ序盤

とりあえず,書きたいとこまで 書いてみる



「俺が、勝つ――。」


 って冷静に考えたら。

「いや、たぶん無理。」

『なぜですか?』

「理由は3つ。」

 俺は左手の人差し指、中指、薬指を立てる。

「1つ目はそもそもお前の指が俺に見えないこと。これじゃ当てたかどうかわからないだろ。それにお前、そもそも指ってあるのか。〝イセノ〟は一人につき、指10本いるんだぞ。」

 さらに俺は声を荒げ、ご丁寧に両手を開いて10本を強調。人工知能ってこんなことも分からないのか?

 でも天の声は取り乱す様子もなくこう答えた。

『それなら問題ありません。私があなたも知っている人の姿になれば解決です。』

「えっ。人の形になれるの? っていうか、今のその姿は人じゃないの?」

『この姿はあなたが初めて私の声を認識して、神様みたいとでも思ったからこういう抽象的な、ぼんやりとしか映らない物に見えてしまっているだけなのでしょう。あなたが私の姿をちゃんとイメージすればどんな姿にでもなれます。試しにOperation code 可視化(ビジュアライズ)と唱えて、私がこういう姿だったらいいなと思うものを指定してください。』

「えっと、オペレーションコード、ビジュアライズ?」

 なんでもなれるって言ってたな。なら……。

「リンゴになれ。」

と、天の光が徐々に消えていき、暗くなった。と思ったら、なにかが降ってきて俺の方に……。

「痛っ。」

 思わず目を閉じた直後、それは頭にぶつかった。ぶつかってくる場所くらい、俺のイメージとかで何とかなったと思うんだが。

 それはそうと俺は目を開けた。すると、俺の数十センチ先にあるのは手のひらに乗るサイズの……赤いリンゴだ。

『少し時間がかかりましたが、どうです? 言ったとおりでしょ。』

 リンゴがしゃべった? いや口とかはないから、声が聞こえてきたが正しい。そして色味やてかり方、ほのかに香る匂いが俺の食欲を誘う。

『でもさすがにこの姿では、その〝イセノ〟という遊びはできないのでは?』

「いや、さっき母さんが剥いてくれてるって言ってたから、食べたいなあと思ってイメージしたんだ。いただきます。」

 俺はそのリンゴをつかんで、口を開く。

『ちょっと待った、さすがにそれはやめてください。私の意志があなたの意志に飲み込まれて、私の自我が保てなくなります。それだけは勘弁を。』

「じょ、冗談だよ。本当に食べるわけないだろ。昔話じゃあるまいし。」

 まあ、ほんのちょびっとだけ食べようともしたけど。

「でもお前って本当に俺の思い通りに姿を変えられるんだな。」

『私は最新式の人工知能ですからね。ただし、この空間であなたと接続しているときのみですが。それより本題に戻りましょう。誰でもいいので、今度はちゃんとした人のイメージでお願いします。』

「分かったよ。ちゃんとイメージすればいいんだよね。」

 って言ってもなあ。こいつに俺の両親や友達のイメージをしたところで、それはそれで違うというか、混同するというか。

『できる限り、愛着のわく人物がいいかもしれません。この空間は私と一誠しか入ってこれない空間ですからね。』

 そりゃ、俺の脳内空間っぽいからな。にしても、本当誰にしよう?

「誰でもいいって言われると難しいな。」

『では例えば、転校して以来会えていない例の少女とか。』

 それって……。

 リンゴが光だし、俺は思わずそれを手放した。リンゴは形を崩して大きくなり、人の形を帯び始める。そして光が消えると、金髪のショートヘアで七歳くらいの、白のワンピースを着た裸足の子供がいる。その姿はまるで、いや間違いなく

「カナデ――。」

『この姿はさきほど一誠が想像したイメージをもとに構築したものです。身長113センチ、体重20キロ、少し華奢な体つきですね。転校した実際のカナデさんは今、あなたと同じ年齢のはずですし、声は似せていませんから、たぶん区別がつくでしょう。』

「でも、さっきの変なコード、唱えてないのに変われるのかよ。」

『ついさっき詠唱したばかりなので、まだ効力はありますよ。』

 俺が最後にこの目で見たカナデ、その時とそっくりな姿で笑っている自称AIのそいつは、自分の体を確認しながら、口を流暢に動かして話す。身長も体重もそんなに小さかったけ? それとは別に、五歳の女の子にしては、口調が大人っぽくて違和感満載だ。

『ところで名前がないと不便でしょう。カナデが私の名前、でよいですか?』

「いや待ってくれ。お前はカナデの姿をした別人だ。いや、俺の想像の産物、なのか。とにかくお前はカナデじゃない。ニセカナデだ。」

『ニセは悪役な感じがして嫌ですね。確かに私は一誠の思い浮かべるカナデさん本人ではありませんが、私は一誠の記憶から、カナデなる人物が一誠とどういう関係にあるのかは把握しています。小学一年生まで同じ学校に通い、一誠の隣の家に住んでいた……。』

「分かった、分かった。今のお前はカナデ(仮)だ。」

『ではとりあえず名前はカナデ(仮)で。それで1つ目はクリアですね。一誠が勝てない残り2つの理由とは?』

 ニコニコ笑いながら、カナデ(仮)は聞いて来る。いや確かに俺の記憶では、7割型カナデ=笑顔なんだけど。笑いがわざとらしく見えてしまう。こいつ、本当は分かってて俺に言わせたいだけなのかな。まあ、言うけど。

「2つ目はお前が俺より絶対、強いこと。俺の心読み放題だろ。さっきも俺の想像で姿変えてたわけだし。〝イセノ〟は数あてゲームだ。でもお前は俺が上げる数字も分かるし、逆に俺が言う数字だってわかる。それじゃあ、俺に勝ち目なんてないじゃん。」

『それも問題ありません。そもそも、このカナデ(仮)の姿でいる時は、私の回路はあなたの記憶をつかさどる部分には干渉できません。それに私が見れるのはあくまで映像です。あなたが何を考えているのかは、私自身が一誠の仕草をみて判断しているにすぎません。だからこうやってただ一誠と会話できる程度です。私がいくら最新式といっても限界があるのですよ。』

「そう、なんだ。」

 その姿で言われても。俺の記憶から正確に再現されてるから、本当に映像だけで再現してるのってなるんだよな。それにやたら最新式って強調するし。怪しいけど。

 まあ仮にそうだとしても……。

「3つ目、これが最大の理由。そもそも俺が、このゲームをする気がない。だから対戦はしない。」

『それなら私の見せた夢にまで反応することはないはずですよ。やってみたいという気持ちはまだ多少なりとも残っているのでしょう?』

 ――こいつ。

「お前やっぱり俺の心を読んで……。」

『読まなくてもわかりますよ、状況を考えれば。それはそうと面白そうですし、やりましょうよ。私、そもそも〝イセノ〟って具体的にどうやってするものなのか知らないんですよ。』

「いやさすがに騙されないぞ。ルールくらい知っているくせに。」

『いや、指スマに似たようなゲームというのは知ってるんですが……。』

「いや、指スマ、って何?」

『親指2本を上げ下げして、数を当てあうゲームです。結構全国的には有名ですよ。』

 へえ、そうなの。確かに似てるけど……。

「ってそれだけ?」

『はい。』

「技も、特性も。なんかそれ以上のものがないの?」

『私には5年前までのありとあらゆる辞書、参考書のデータを把握しているのですが。なかなか見つかりませんね。』

「いやなんで5年前なんだよ。」

『そう、そこは問題なのでアップデートが必要なのです。私は最新式の人工知能なので……。』

 いや、最新式じゃないじゃん。アップデートしてそうなろうとしてるだけでしょ、とつっこみたいのはさておいて。こいつにあのゲームのこと教えなきゃいけないのか。

 と、思い出したようにカナデ(仮)は言った。

『あ、そういえば。この地方の郷土資料に十本の指で占うと書く〝十指(じゅっし)(せん)〟なる指遊びが載ってましたね。それが確か〝昔、神事として祭りの際に未来を占う手段として用いられた遊戯〟とか、派生して〝現代でも物事を決める際に使われる手段の一つ〟になったとか。あと、〝指10本で行う数あてゲームで数当てを有利に進めるため様々な技が存在する〟と記載されてはいましたが。』

 いや、絶対それだよ。知ってるじゃんか。

「たぶん、昔は名前が違ったんだな。でも〝イセノ〟はまとめると、今お前が言ったとおりだぞ、何が分からないんだ?」

『数当てのやり方もですけど、やはり技ですね。』

「本当に知らないのか? 〝雨〟とか〝晴れ〟とか、ブ、〝ブラックホール〟とか、名前もその効果も?」

『雨も晴れも天気のことですが、ブラックホールはスケールアップしすぎですね。強い重力で何でも飲み込んでしまう天体のことですよ。』

「いや、一般的にはそうなんだけど……。」

 こいつのペースに乗せられてる気がする。でも、こいつの目の輝き様を見ると、教えないっていうのも悪い気がしてくる。

 俺は頭をむしゃくしゃ掻いて答えた。

「仕方ないな。ルールだけ教えてやるよ。えーっと、まずは先攻後攻決めて、先攻側から始めて、先攻の人が技か数当て宣言して、それでその宣言時に各プレイヤーが同時に指を上げて……。」

『説明が分かりにくいです。実際に対戦しながら教えてもらえませんか? その方がずっと理解できます。』

 ――こいつ、はじめからそのつもりだったな。俺の説明下手見越して。

 でも……。

「俺はやらない。」

『何でですか? 生き返るために現状、一番確率が高いのは〝イセノ〟をしてみることなのですよ。』

「生き返っても、その先どうするんだよ。」

 いくら、お前がカナデそっくりになろうが、俺とカナデが対戦する日なんて、もう来ないんだから。

『もう一度、家族や友人と楽しい日常を過ごしたり、とか。』

「その日常のなかに〝イセノ〟があるんだよ。そして、俺はずっと勝てないまま。もう楽しいとさえ思えない。俺がまた生きる意味って、あるのか。」

『ふふ、ふふふ。』

 カナデ(仮)は突如、口に手を当てて笑みをこぼした。どこか俺の思いを見透かしているその笑い方までカナデそっくりで、イライラする。

「何がおかしいんだよ。」

『いや、変なことで迷ってるなあと思いまして。答えはシンプルなのに。』

「なに?」

『一誠、1つ質問です。あなたにとって〝イセノ〟とは何ですか?』

「それは、ただの遊び……。」

「ただの遊びなら勝てなければ、楽しくないのですか?』

 ――。

『すぐに答えが出ないのは一誠が〝イセノ〟について真に理解していないからです。だから対戦しましょう。そうすれば改めて気づくこともあるでしょ。それに純粋に私もやってみたいですし。』

 最後のそれはお前の勝手な感情だろ。……ん、感情?

「お前、感情とかあるんだな。面白そう、とかやってみたい、とか。」

『そりゃ、人に近い思考ができるように作られた最新式ですからね。』

 カナデ(仮)は胸を張って答えた。人の姿になったからか、AIなのに人間臭い。

『それにここでの対戦は、あくまで一誠が頭の中で描いている空想みたいな扱いなので実際の試合数にはノーカウントです。これで安心して私と対戦できますね。』

「まて、俺はまだ対戦……」

『だめなのですか?』

 く、カナデの顔で目を潤ませるなよ。はあ。

「ああ、もうやってやるよ。」


 こうして俺とカナデ(仮)は対戦することになったんだ。



次回,2/27予定 ついに対戦かな

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