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いっせいノーデ!  作者: 乙島仟
第9章
168/174

第159話 コンサート⑥

だんだん作中と同じ春になり、季節感があってきましたね。そして春、それは何かを決意する季節――。

今回は終始、ナユユ視点でどうぞ。


 Turn 19

 Issei 0pt         Mozu 0pt 

【〝3〟】

 R               R○○○●●

 L()()()()●          L


 投影が終了し、〝魅惑の不協和音(セイレーン)〟も、その歌声も消えていきます。ほんの少しの余韻を残しながら。

 九山君の勝利。ということは――。

「仕方ない、とりあえず手錠は外そうか。」

 高木さんは九山君に近づき、手錠に鍵を差し込みます。するとカチャッという音と同時に、手錠の半円部分が自重で下に下がります。解放された両腕を離したり、近づけたりして自由を実感する九山君。今の彼は、両目を開けているので九山君本人のようです。

「最後の4連続数あて的中はお見事。でもそれゆえに、もずちゃん気になっちゃうな。アタシには、普通の人間にできる芸当じゃないと思っちゃうけれど――。」

 高木さんはそんな彼を見つめて言葉をかけますが……。やっぱり疑ってる。

 あの最後の数あてをみたら、ある意味当然の反応。でもこのままでは、九山君の中のノーデさんの存在にたどり着いてしまいます。高木さんは警察、そしてノーデさんはあまり公にはできない存在。つまり……。


 本当に逮捕される、かも。


「そ、そんなことはないです。九山君はただ……〝イセノ〟が得意なだけの、いたって普通の人です!」

 私なりにフォローしないと。

「そうですよね、九山君?」

「え、ええと、その、ふ、普通……。」

 なんかちょっとショックを受けていそうな反応。言葉のチョイスをミスっちゃった、かも。

「そうか、でも〝イセノ〟が得意ならこのバトル始める前、あんなに渋ることもなかったんじゃないかって、思うけどなぁ♪」

 ああ、やっぱり言葉のチョイスをミスりました。むしろ高木さんにますます疑われています。

「我が見込んだ男が普通のわけがないだろう。なあ、同胞よ。」

 鵜飼さんは九山君の肩に手を置いて、同胞認定しちゃってますが、九山君はその手を払いのけて言います。

「同胞、ではないけど。とにかく俺は高木さんが思ってるような悪い人じゃないからその、信じてください!」

 彼はストレートに言葉をぶつけます。まっすぐに目を向けて。


 ああ、この目だ。


 小学校最後の私の懇談会に九山君が割り込んできたときも、こんなまっすぐな目をしていました。それが自分の気持ちを言い出せなかった私の目に、輝いて見えた。


 その時からだ。本当の意味で彼のことを、好きになったのは。


「まあ神辺さんにも言われたし、君個人のことについてはこれ以上は詮索しないでおくよ。」

 高木さんのその言葉に九山君も私も、胸をなでおろします。

「ああ、あとこれね。」

 そして高木さんは星のマークが入った黒い宝石の指輪を九山君へ。それはたぶん十指選、左中の指輪。

「ありがとうございます。」

 そう礼をしながら、九山君は受け取ります。

 そういえば、サブグラウンドで弼さんと試合したときも、ロープウェー乗り場で副会長さんと戦った時も九山君は十指選の指輪を受け取っていました。ということは、これで3つ目。

「これでノーデさんの手術にも近づきましたね。」

「ああ。えっ、ナユユその件知ってたの?」

「はい。パパが教えてくれて。」

「あの人、意外とおしゃべりだよな。それとも、我が子には甘いのか……。」

「そうですね……。最近はちょっと、会話することが増えたかもしれません。」

「そうか。それはそれでよかった。」

 これも全部、九山君のおかげです。

「ではクヤマ、次は我らの宿命の対決だな。」

 鵜飼さんがそういって臨戦態勢に入るのを、高木さんは止めました。

「おっと、それはまた今度だ。本物のコンサートの開演時間が迫ってきたからね。」

 次の瞬間、このアリーナのドアが一斉に開き、中に流れ込む大量の人。

「聞き込みはいったんここまでかな。今日のメインはこっちだから。」

 14時を過ぎて、入場時間になったようです。

「本当にコンサート、するんですね。」

「いったでしょ、九山君。もずちゃんは今日ピンチヒッターできたんだから。演奏はちゃんとするよ。」

「高木さーん、準備お願いしまーす。」

「ああ、呼ばれちゃった。」

 高木さんはスタッフらしき人の方をちらっと見た後、自分の横笛を少し上げて私たちに問います。


「聞いていくかい?」

「「はい。」」


 そこからは圧巻のコンサートでした。普段スマホやこの腕輪から聞いている音を、生で聞くとやっぱり迫力があって。

「ああ、この曲。アンコールしてくれるんだ。」

 隣でそう、小声でつぶやく九山君を見るのも、なんかいい気持ちで。




「楽しかったですね。」

「うん。俺こういうのあんまり聞かないから、なんか新鮮だった。」

 帰りの電車の中、私と九山君が隣り合って座っています。

「迫力もだけど、楽団の人一人一人が一生懸命、演奏しているのを見ると、普段聞いている何気ない曲も、こんなにたくさんの人がかかわってるんだなって思ったし。」

「なんか、達観してますね。」

「頭の中の誰かさんの影響かな。まあ無事終わってよかったよ。」

 そんな楽しい時間も終わりがやってきます。

「次の駅か。ナユユも気を付けなよ。」

「なんのことですか?」

「ああ、ハンターの件。」

 コンサートが終わった後、私たちは高木さん達警察に、事情聴取を受けました。といってもオリエンでの一連の出来事を語っただけ。ノーデさんのことについては言及されませんでした。でもその時に聞いた、不穏な動き。


「最近、まだ被害は少ないけど他人のものを強奪するハンターって呼ばれる奴らが出てきていてね。そいつらは強引に〝イセノ〟の勝負を挑んで、負けたら身ぐるみはがすっていう野蛮な連中だ。くれぐれも用心しなよ。」


 と、高木さんも言っていました。

「お互い合意せずに強引に勝負して、負けたら人のもの盗んでいいって理屈、間違ってる。そもそも〝イセノ〟でちゃんと勝負してくるかも怪しいし。」

 フード男の一例がありますからね。

「私も、気を付けます。だけど、私は九山君のこと、心配してないです。」

「どうして?」

「今日、十指選の人に勝ってましたし……。」

「あれはほぼノーデのおかげだ。俺一人じゃ、勝てないよ。」

「でも私は……九山君は、九山君なりに頑張ってると思います。」

 その姿を近くで何度も見てきたから。

「俺も必死なのかもな。もちろん、ノーデを助けるってこともあるけど。追いつきたい人が、たくさんいるから。」

 ここで、電車が止まります。

「ナユユ、誘ってくれてありがとう。じゃあ、また!」

「こちらこそ、です。また、学校で。」


 追いつきたい人がいる、ですか。


「私も……です。」

 この日、下車する九山君の背中をみながら私は決めました。

「私もいつか、なります。」


 あなたの横に並び立てるくらい、強い自分に。


コンサートでどんな音楽が流れたのかは、読者の想像にお任せします。

(なかなか音楽を文章で表現するのは難しいので。このコンサート回で嫌というほど実感した作者です。)

次回は少しお時間をいただき、4/11までに更新予定です。よろしくお願いします。

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