序章 暗闇での出会い
書いてみたはいいが、誰にも見せずに終わるのもという思いで
初投稿です。よろしくお願いします。
「勝ちたかったんだ。せめて一度だけでも〝あの技〟を使ってカナデに。」
負けて、とぼとぼ歩く。
ずっと自分の手を見つめて。
夜道、星一つない空。地面、黒いアスファルト。
太い白線は白さを際立たせ、
振り返れば眩い光とクラクションの音。
ガシャン。
トラック、暗黒の空、アスファルト。次に強い衝撃。生暖かい液体。
なんだろう、手が赤い……。
体が動かず、まぶたは徐々に閉じていく。
夢を見ていた気がする。
目を覚ますと、そこは薄暗い霧の中。地面がなく、俺は宙に浮いていて、学生服っぽい服に革靴、腕時計もしている。しかしその時計の針は止まったまま。
「ここは? 俺は……。」
『身長150センチ、体重40キロ、細見な体型。そして何より黒髪に、数字の1を模した独特のくせ毛、間違いないですね。』
俺の外見を事細かに言っている声がする。女の人の声っぽいけど。
『九山一誠、あなたは今、生死の狭間にいます。』
俺の名前を呼ぶこの声はどこから……。
と、俺よりはるかに上の方で、まばゆい光を放つ人が現れた。たぶんその人が俺に話しかけている。でも光が強すぎて、その人の顔の形や着ている服などは全然みえない。
それとは別に、生死の狭間って、どういうことだ?
「あなたは、神様? それとも、天使様?」
俺は、天の声の主に話しかけてみた。
『私は神でも天使でもありません。私はAI。あなたの脳に埋め込まれた、チップに内蔵されている最新式の人工知能です。』
…………?
「俺の脳に……埋め込まれたあああ?」
いや、いきなり何言ってるの? 俺はそんなチップを埋め込む改造手術なんて、受けたことなんかないぞ。
『チップを埋め込む手術は、今時普通に行われているものですよ。ただ問題はそこではありません。手術自体がだいぶ前に終わったにもかかわらず、あなたの意識はまだ戻っていないことが問題なのです。それだけ脳に深いダメージを負ってしまったと推測されます。』
まるで、俺がしゃべらなくても、天の声の主(自称AI)は、俺の心を読み取るようにすらすらしゃべる。
それにしても……。
「脳にダメージ? 本当、何言ってるの?」
『覚えていないのですね。どうやら、死にかける直前の記憶が欠如しているようです。私が説明しましょう。一誠、あなたは車にひかれて、救急車で病院に運ばれました。すぐに緊急手術が行われ、一命はとりとめました。しかし頭を強く打っていたようで、植物状態になりました。』
「しょくぶつじょうたい?」
『小六のあなたには少し難しい言葉でしたね。要は、あなたは今も病室で、ずっと寝続けているのですよ。今日で丸一週間になります。』
「俺が一週間も……。ってことは、今、」
『2030年9月20日、現在の時刻は午前4時、あたりです。』
情報が多すぎて、頭に入ってこない。それに整理できても、天の声がいうことを受け止めきれはしないってなんとなく分かる。
『現実では一誠の家族、友人が皆悲しそうな顔で寝たきりのあなたと面会しています。ツンツン頭の少年はあなたとの思い出を語ろうとして、途中で涙をこぼして退出していきました。』
思い出語りするツンツン頭で、涙を流すほどこう、情熱的っていえば、トーモのことか。
『また水色髪の三つ編みで眼鏡をつけた少女は、無言で終始あなたをずっと、悲しそうに見つめ続けていました。』
水色髪で、あまり言葉を発さない、眼鏡の子っていえばナユユだろうな。
『また病室に来た回数が一番多かったスーツの男性は、悔しそうにあなたの名前を連呼し、病室に一番長くいたエプロン姿の女性は、あなたが帰ってくることを信じて、あなたの好物であるリンゴをひたすら剥いていました。』
間違いなく父さんと母さんの事だろう。父さんは仕事は忙しいけど、俺のことになると真っ先に飛んでくるし、母さんは外出するときでさえエプロン姿だから。
『皆、あなたが戻ってくるのを信じようと必死でした。』
そうか、そうだった。
徐々に記憶がよみがえってくる。
俺は何かショックを受けていて、それで呆然と歩いてて、道路を横切るときに俺の方にやってきた車に気づかなくてそのまま――。
「俺、死んだままなのか?」
『生き返る方法はあります。それはあなたの脳に、強いプラスの刺激を与えるのです。再び脳が正常に機能するように。』
「プラスの……刺激?」
『生きたいと願えるほどの強い思い、喜びや嬉しさといった感情です。それもこれまでに経験したことのないくらいのね。』
「これまでに経験したことのない、喜び、嬉しさ。」
落ち着いて考えればわかる。そんなの、こんな見渡す限り何もない暗闇の中でどうやっても感じられないということくらい。ゲーム機やテレビがあるわけでもないし、遊園地みたいなところに行くってことも当然できないし。今までの楽しいこと思い浮かべても、それはあくまで経験した喜びだ。それに俺は生きたいとも……。
『私はそのプラスの刺激をあなたの脳に直接与えるために、手術で埋め込まれました。そして、楽しいと、普通の子供ならまず間違いなく喜ぶであろう、様々な夢をあなたに見せました。それは確かに、プラスの刺激でした。』
俺がさっきまでみていた夢はそのことなのかな。それはゲームしたり、マンガ見たり、旅行で観光したり、大きなアスレチック遊具で遊んだりとそんな感じだった気がする。
『しかし、あなたを生き返らせるどころか、私とこうやって会話できるこの空間にすら呼んでくることはできませんでした。ただし、さっき見せたある夢を除いては。』
「ある夢?」
『とある指あそびの夢です。あなたが当時好きだった女子から教えられ、その子が転校して以来、ずっと勝てないままでいる指あそびの。』
指あそび……たぶん〝イセノ〟のことか。指が上がった数を当てるゲームの。
『そしてこうして死にかける直前もやっていたのでしょう? 負けてショックを受けるくらいに。』
急に頭が痛くなる。思い出してしまうと。
俺は車に引かれる前に公園で昔の知り合いに会って、そこでバカにされて、「取り消せよ。」って格好つけて勝負して、結局負けた。そしてそれがショックで頭から離れなくて……、生き返るのをためらう自分もいる。
情けない。俺はただ……。
「勝ちたかった、それだけなのに。」
『ならまずは生き返りましょう。』
「でも……、どうやって?」
『それは簡単です。』
その後、天の声の主は一段と声を張り上げた。
『あなたが勝てばいいんです。その〝イセノ〟で、私に。』
次回は2/26の予定。
感想書いてくれる人いるのかわかりませんが、お待ちしております。