21話
「ちっくしょう! アレだけやらかしといてアイツらまんまと逃げやがった! 」
黒い穴が閉じ、風も吹き止んだ後で床に降ろされたロイが床を叩いて悔しがる。
「…あんな大事な場面で妨害が入る事を失念してたなんて、ちょっとなまったかしら。
ごめんなさい、あなたの秘密を守れなくて」
「秘密…私を構成する陣の事なら気にするな。
それよりも私の不手際の方が問題だ、傷を見せろ」
そう言うと外側の方はロイに、内側の方はレベッカに、それぞれ近寄って膝を着いて手をかざした。
「お、おい、アンタ何する気だ? 」
「知らん」
「いや知らん事すんなよ! 」
そんな明らかに乗り気でない態度をよそに、かざした手は謎の輝きを放ち出す。
「何それ! 怖い! 怖いってお前! 」
いよいよ焦って上手く動かない身を必死に身をよじるロイだったが、抵抗虚しく遂に手から溢れ出した輝きに全身飲み込まれてしまった。
そして再度現れたロイは…
「うわあああ…あ? って、なんだこりゃ。
痛みがすっかり消えちまったな…それに怪我も治ってやがる」
一連の戦いついた傷が完璧に治った姿でそこに横たわっていた。
「やっぱり治療用の魔道具の光だったのね…ありがとうございます、随分楽になりました」
「ふむ、やはりか」
「効果の予想ついてたなら教えてくれ…」
「すまない」
事務的に頭を下げてからアーゼムは続ける。
「私は私自身にどのような機能があるのかほぼ知らん。
従って今の行動も治せる確信があって実行した訳では無かったのだ」
「へー、そりゃ面倒だな。
今度から新機能が解放されたら誰も居ないとこで1発撃ってからやってくれ」
「予想自体はついてましたけど、そこは私も同意です。
仮に今のが想定と違った挙動を見せていれば私たちは死んでいましたし、ね? 」
「了解した、次からはそうしよう」
「お、おう…まぁわかればいいんだ」
少々怯みながらロイが頷く。
普段街の荒くれ達…つまり自分の非を認めるなど有り得ないような人間ばかりを相手しているロイにはアーゼムの反応は予想外だったのだ。
「いや、そもそもアレだな、助けられた上に傷まで治して貰っといてこんな態度取る俺の方が良くなかったかも知れねぇや。
その…悪かったな、アンタ」
「いや、良い体験だった、むしろ礼を言いたい」
「え? そ、そうか…アンタ変わってんな…」
2人の話が一段落ついたと見て、今度はレベッカが声を発した。
「ええと、アーゼムさん、でしたよね。
まず私からも助けて頂いた事へのお礼を」
1度頭を下げてから更に続ける。
「それから、まだ対価も渡していないのに厚かましいとは思うのですけど…あそこに倒れている父も治しては頂けませんか? 」
「…了解した」
「もちろん…あ、あれ? 即決? こっちとしてはもう少し交渉するつもりがあったのだけれど…」
レベッカが戸惑う間に、レベッカの側に居た方のアーゼムがつかつかと気を失った店主に近づき、手をかざす。
しかし…
「お? こりゃどうしたんだ、故障か?」
今度は先程とは違って光が溢れてくる事は無かった。
「…出ん」
「出ない、とは? 」
「言葉通りだ、何故か使えん、理由はわからん」
「いやいや、さっきまで使えたモンが使えないってこたァ無いだろ。
そこの…なんつーか、俺の方に居るやつも合わせてもうちょいやってみたらどうだ? 」
「ふむ…試すか」
そう言うとアーゼムは背中を再び開いて中身を格納し、再度店主に向かって手をかざす。
「うーむ…どうもダメっぽいなこりゃ。
一応聞くが真面目にやってっか? 」
…が、結局陣は起動せず、店主も倒れたまま動かない。
「無論」
「だろうなぁ…」
「無理を言ってしまってすみません、できないならこちらで治療を行うだけですから気にしないで下さいね」
そう言ってレベッカが道具を取りに店の奥へと歩き出すと、慌ててロイが立ち上がり、追従する。
「おっと、俺も手伝うぜ」
「ああ、ありがとうございます。
でしたら………」
幸いと言うべきか、荒事の多い場所で育った2人は両方ともこういった処置には慣れきっていた為、意識を失って床に倒れ伏していた店主は10分もしないうちに適切な処置を受けて無事だったクッションの上に寝かされる事となった。
しかし、それが引き金となったのか、先程まで気にも止めていなかった部屋の荒れ具合が急に気になりだし、どちらからともなく口を開く。
「なんてぇか…ちょっと話すって雰囲気じゃねぇなぁ」
「ええ、少し場を整える方に尽力した方が良さそうですね」
「ならば私も手伝おう」
そういう訳で3人は話の再開を一旦諦め、家具から何から破壊され尽くした部屋の状態を改善する作業へと取り掛かるのだった。




