19話
おかしい…さっさと帰らせるつもりだったのにミアが全然帰ってくれない…なんで…
(魔力低下…強化もそろそろ打ち止め…髪の伸縮にも不全が出始めている…)
外側が苦戦する一方、内側の方のアーゼムもまた危機に陥っている。
髪を集中させ、なんとか砕いて再生を止めた2,3人の兵士の代わりに参戦したミアと6号、そして隙を見せればすぐさま肉薄し攻撃を叩き込んでくる1号、これらの対応をしている間に既に魔力が底をつきかけていたのだ。
それというのも内側はそもそもの用途が囮人形、影武者として扱えるようにという意図もあって頭脳こそ搭載されているが魔道兵の魔力の根源である遺物が搭載されていない。
代わりの大容量の魔力貯蔵機こそあるのだが、人間に近い体温を維持し続ける等、特に戦闘に関する直接的な利益の無い部分に大量の魔力を持っていかれる仕様になっている為、長時間の戦闘には耐えられず、先に魔力が尽きてしまう。
言ってみれば護衛に特化した機体故の弊害であった。
「もう一発! 」
「むぅ…! 」
現状把握をした直後、1号が壁や天井を跳ね回るような奇天烈な起動を描いてアーゼムへと飛びかかる。
しかし相手は兵器である魔道兵、一見複雑程度の軌道はすぐに読まれ、目の前に作られた髪の壁へと衝突した。
次の瞬間、アーゼムをちょうど挟み込むような形で光線が乱れ飛ぶ。
普段なら髪を焼くことすらままならない光線が、壁を貫通してアーゼムへと一直線に向かっていく。
体の断片すら通さない、というつもりで髪の壁を組んで居た事が他の場所の装甲の薄さとして現れ、それが災いしたのだ。
風を切る音が鳴り、光が宙を裂く。
「使い、ましたねぇ…? 」
弾き返された光線に風穴を開けられながらミアが笑う。
その目線の先で、アーゼムは両の腕に弱々しく灯った光を消した…いや、現状を鑑みれば消えた、と言った方が正しいだろう。
強化を行えるだけの魔力はたった今尽きた。
髪の強度もそれに伴って少し落ち、兵士達がこれ幸いと引きちぎって強引に間合いへと飛び込んでくる。
刃が、光線が、あわやアーゼムの所に届かんとした所で、金色の奔流が破裂したかのように一気に広がり、そのすべてを押し流した。
残存魔力の大半を一気に使用する事で髪を大量に増やして相手を押し流す技と呼ぶには少々荒すぎる行動だったが、差し迫った危機を乗り切るには充分だ。
巻き込まれ、脱出し損ねた数人が絡みつかれて行動不能に陥るが、最早これだけ大量の髪で包んでも押し潰す程の力は出せない。
「ちょっと柔らかく作り過ぎたんじゃない? 」
そう言って腕をブレードに変えた6号が切り込んだのを皮切りに、兵士達が次々と髪の波を処理しにかかる。
強度すら捨てて量を増やした髪は堅牢に敵を阻んでいた先程とは違い、ブレードを振るうごとに泥のようにちぎれ飛んで最早ほぼ足止めの役割すら果たしてはいない。
ではこの行動は本当に苦し紛れだったのか。
否、そんな無駄を許す程、彼に組み込まれた本能は粗悪では無い。
彼が護衛用である以上、同じ足掻いて負けるのでも魔力を節約し続けて削り負ける方が余程らしい、と言えるだろう。
では何故急にこのような自殺行為とすら言える暴挙に出たのか。
「6号、そっちじゃありません! 外側の方へと伸ばした髪を! 」
その答えはすぐにわかった。
焦るミアの声も空しく、1、2本の髪が今なお12号と激しく戦うアーゼムに弱々しく絡みついた途端、にわかに他の髪の硬度や力強さが戻ってきたからだ。
「まさかこの髪…供給管の役割も果たせるのか! 」
驚愕の声を上げつつも最初に動いたのは1号、そしてミア。
今現在、外側と内側を繋いでいるのは極小量の髪、こんな物ではとてもでは無いが大量の魔力は流せない。
故にこそ未だ内側の弱体化は程度は軽くなれども継続中であり、その間に繋がりを叩き切れば内側は再び簡単に抑え込めるようになる、と考えたのだ。
その考えは実際間違っていない、現在のアーゼムの魔力は補給も加えてなお戦闘開始時の5%にも満たない程にしか無く、その証拠に先程捕らえられた兵士は未だ握り潰されないまま脱出を試み続けている。
しかし、戦闘開始時とは状況が違う。
「ぐっ! 」
「むぅ…迂闊でしたかぁ…」
床に垂れ下がっていた髪が飛び、冷静さを欠いたミア達を捕らえる。
今のアーゼムは髪を魔力の限界まで伸ばした状態、それに先程受け取った魔力を通せば髪を作る所から作らねばならなかった戦闘開始時より余程迅速に、魔力消費も少なく戦える。
先程の行動でアーゼムは格闘戦の能力を除けば戦闘開始時と同等程度まで戦闘能力を回復させたのだ。
「チッ…こっちから動かなきゃどうもマズいか…! 」
足止めに徹していた12号もまた事態を把握するや否や状況を戻す為に思考を一瞬巡らせ、方針を固めた。
床を蹴る音が響く。
「なっ…! 無謀だぞ! 」
1号が声を上げたのも当然、彼が取った行動は剣を大上段に構えての跳躍。
その姿はどう見ても無防備で技術を駆使してようやっと互角になれるような相手にする行動では無かった。
一閃。
無防備な胴を陣の損傷など露ほどにも感じさせないアーゼムの回し蹴りが捉え、真っ二つに断ち割る。
下半身が吹っ飛んで床に転がり、剣を持った上半身は反対に上へと飛んでいく。
宙を舞う12号の口角が、つり上がった。
「ありがとよ、これでよぉく見える…! 」
蹴りを受けて割れた体の断面から破片がバラバラと落ち、そこから加速器が姿を現す。
既にアーゼムの攻撃の癖を見抜いていた12号は、攻撃の来る場所を予想し、そこより上に残り少ない細胞魔道具の大半を使って加速器を予め生成していたのだ。
空気が震える。
爆発的な加速と共に自らの体も散らしながら12号が宙を駆ける。
最早人の姿を捨てながら勝利を拾いに行ったその剣先は、しかしそこには届かない。
それもその筈、”万物裁断”が防ぎ得ぬ攻撃になるのはあくまで斬撃を放った時、もし放ったのが刺突であるならば、剣の形をとっているが故に攻撃はどう足掻いても柄まで刺さった段階で止まってしまう。
アーゼムの手のひらを深々と刺し貫いた剣は今、しっかりと鍔を握られ、ピクリとも動けない程完全に捕らえられた。
だが、結論から言えばこれは失策だった。
12号が今切ろうとしているのはあくまでアーゼムの髪、それもたったの数本。
その程度ならば”万物裁断”でなくとも簡単に断ち切れる事が可能なのだ。
当のアーゼムは戦闘経験の薄さ故にその事には気づかず、捕まえた敵を確実に倒す為に悠長にも核を見定めている。
本人の気づかぬ所でこの戦闘の大切な局面が過ぎ去ろうとしていた。
「その勘の悪さ、所詮作り物だなぁ! 」
嘲りと共に12号の口から金属片が撃ち出され、回転しながらアーゼムの生命線へと襲いかかっていく。
今更気づいたアーゼムが妨害に入るが最早手遅れ、髪を自ら切ってしまうような速度を出さねば金属片を止める事はかなわない。
金属片がいよいよ髪へと近づき…破砕音が、鳴り響いた。




