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14話

「や、やった! 通った! 」


「本当に通じたのか…! 勝機が見えたぞ! 」


 無敵の怪物にも思えていた敵が初めて負った傷、それもかすり傷などではなくしっかりとした深手であり、その上やった事はと言えばミアを囮に天井に張り付いていた兵士が落下の勢いと共に”万物裁断”を振り下ろしただけである。

 魔力を使い果たすでもなく、仲間を犠牲にする訳でもない、つまりは幾らでも放てる攻撃で与えた深手。

 それは今まで一言も話さなかった兵士達の口を開かせる程の物だった。

 それ故か、それとも単に知識不足か、彼らは1つの致命的な違和感を見過ごしていた。


「12号、今すぐ退避を! 難しければ遺物を遠くに投げるだけでもいいっ! 」


「え? 」


 当惑しながらもその場から飛び退こうとした12号は、しかしすぐにその言葉の意味を理解した。

 ”万物裁断”の柄に、またそれを保持していた彼の腕に、細い金の糸が幾本も巻きついていたのだ。

 そう、”万物裁断”は何でも切れる剣、それが切れない物は上位互換か”何をしても壊れない”という属性を持った遺物のみ。

 その上もし切った対象がそれらならば”万物裁断”は対象に傷すら付けられずに弾き返される、”半ばまで切れる”などということは有り得ない…アーゼムが実行した方法を除いては、だが。

 状況を理解した12号は糸に巻きつかれた腕をすぐさま筒状に変え、”物を打ち出す”陣で剣だけでも退避させようと試みるが一手遅い。

 陣を起動させる直前に巻きついていた糸が絞られる。

 筒と化した腕が綺麗な断面を晒してバラバラに解体され、取り落とした剣は速度すら緩めずに柄の部分のみを地上に残して床に深々と突き刺さった。

 続けて糸は12号本体にも絡みつき、腕にしたのと同じように切断する。

 たちまち猟奇殺人犯に襲われた死体のような様相になった12号が床にばら撒かれた。

 ミアも黙って見ては居らず、切り落とされた12号の腕部分を操って剣だけでも回収しようと試みるが編むことによって即席の壁となった糸に阻まれ、ついでのように凌がれる。


「これは…8号の戦闘データにあった初撃の…各自対処を! ぐっ…! 」


 12号への対処を終え、今度は自分の方へと飛来した糸を球状に張った結界で防ぎながらミアが唸る。

 その間にも結界の表面に張り付いている糸はどんどん増え、遂に卵を握りつぶすように結界を破壊してミアに肉薄した。

 しかしミアもその程度は想定内、脚部を加速器に、掲げた腕部を刃に変え、糸の壁を破って空中へと躍り出る。

 隊員達もまた自分に襲いかかる糸の群れをそれぞれの方法で切り抜けようと試み、半分程度が成功したようだ。

 ミアは空中からその様子を一瞬眺めて把握、倒れた隊員達の再生は別の隊員に任せ、自らは糸の出処である先程アーゼムにつけた傷に向けて弾丸を放った。

 弾丸は傷に到達する前に糸に払い除けられて床に着弾し、即座に動き出して剣に飛びかかったものの、それも空中に居るうちにアーゼム本体の蹴りを受け、吹き飛んでいく。


「俺の存在を忘れるなっ! 」


 だがその蹴りの隙が足下に転がっていた12号の行動を許す。

 半ば液体のように地を這いずり、なりふり構わず剣へと手を伸ばす姿はお世辞にもいい格好では無かったが、それでも効果的な一手である事には変わりない。

 一瞬遅れて襲いかかってきたかかと落としを甘んじて受け、攻撃を繰り出した足に纏わりついて動きを鈍らせてから引き抜いた剣を一閃、あわよくば足を切り取ろうと試みた。

 完全な切断こそ免れたが、ちょうど人で言うふくらはぎの部分に深い傷が刻まれる。

 再びの痛手にも動じないアーゼムが標的の正確な位置を把握した瞬間、その傷から金色の糸が大量に溢れ出し、無数の槍の形を為して12号に襲いかかる。


「生憎点の攻撃には強くてなぁ! 」


 自在に体の形を変えられる彼にとって穿たれた穴を塞ぐだけで対処可能な刺突は脅威になりにくい。

 それは例え槍の数が膨大であってもそれは変わらない。

 単なる隊員では不可能であろう速度で槍の間の安全地帯を見極め、核のみをそこに移動させて庇う。

 そのまま更なる追撃が来るより前に腕を回して剣で糸を切り払いつつ、滑るように移動。

 アーゼムの懐に入り込んで跳躍し、一撃入れつつ再び人の姿へと戻る。

 その間、アーゼムもまた糸や拳による追撃を行おうと試みていたものの、糸での攻撃への対処に慣れてきたミアと兵士達に傷ついた部位への攻撃を仕掛けられて防御に回らされ、行動を封じられていた。

 飛ばした端末も今自分の支援の為に戻せば守っている人質の3人が少々愉快でない事態になりかねない。


「なるほど、これは手が足りん」


 かなりの危機と言っていい事態だが、アーゼムが呟いたのはその一言のみだった。

…しかしそれは彼が事態を軽く見ている証拠にはなり得ない。

 彼の体は既にこの状況への的確な対処法を見出し、実行に移していたからだ。

 今、彼の背中からは開戦時には無かった3対の棒のような物が突き出ていた。

 いずれの棒にも陣が刻まれており、見る者が見ればそれが強力な守りの陣の一部である事がわかっただろう。


「防御…? こちらに”万物破断”があるのを知っている上で? 」


 そう、当然それはミアにも理解できた。

 そして理解できたが故に一瞬の困惑へと繋がったのだ。

 戦場にて一瞬でも動きを止める事は命取り、その意味では彼女は致命的なミスをしたと言えるだろう。

…もっとも今回に関しては少しばかり早く動いたとて、致命的なミスを犯していた彼らには何の意味も無かったのだが。

 そう、注意すべきは棒では無い、アレは単なるカンヌキのような物なのだ。

 真に注目すべきは…。


「背が…開いた…! ? 」


 その中から現れるものだったのだ。

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