12話
店主の体をまるで巨大な何かに殴られたかのような衝撃が襲う。
巨大なのは何も範囲だけでは無い、その衝撃は咄嗟に服の裏地に縫い付けた陣を作動させた上で防御姿勢を取ってなお腕と足がひしゃげる程に強力だった。
店主の体が簡単に吹っ飛び、店の壁に叩きつけられる。
壁に大きなヒビを作りながらなんとか停止した店主の体を、今度は遅れて飛来した家具の残骸や隊員達の残骸が貫き、ズタズタにしていく。
「風…かっ…! 」
「おやぁ、生きてましたか、これは僥倖。
そしてご名答です、流石に見抜くのが早い」
壁に縫い付けられながらも未だ眼光を失わない店主の問いに、ミアもまた落ち着いて答えた。
その右腕は大砲のような筒状の魔道具に変形し、肩は吸気口のような魔道具へと変わっている。
砲身の先はミアを守るように立っていた1号の背にあてがわれており、彼が目隠しとなってこの大仰な魔道具を覆い隠していたことが伺えた。
そんな1号の腹には先程の砲撃に伴って巨大な穴が開いていたが、彼の体は魔道具、当然ながらすぐに塞がり元通りに修復される。
「ま、シンプルな仕掛けですよ、圧縮した空気を打ち出すだけですからねぇ…しかし人1人殺すだけならこれで充分とも言えまぁす」
「馬鹿言え…俺は…死んじゃいねぇぞ…! 」
「ええ、そうですねぇ…私としても想定外でぇす。
範囲を広げることに注力したとは言え、吸い込んだ空気の量は上限スレスレ…それでこの威力というのは少々物足りません、改善の余地アリアリですねぇ。
ま、今回は良い方に働いたんで良しとしますけど」
そう言いながらミアが指を鳴らすと、散らばっていた残骸が1つに纏まり、店主の首から下を完全に覆い隠すような形で拘束した。
「気色悪ぃ…こんなモンが通用しねぇ奴らは…この世にゃごまんと居るぞ」
「ええまあ、そういうのは私の目指す場所じゃないんでぇ。
…とは言っても引退した狩人に手加減込みとは言えここまでやられるっていうのは中々スペック不足を感じますねぇ。
しかしこれ以上コストをかけるのは量産って面でアレですしぃ…うぅむ、難しい問題なんですよねぇ…。
ま、改善案が見えた、というのは有意義なデータが取れた証、仕事の副産物としては上々という事でひとつ納得しておきましょうかぁ」
ブツブツと呟きながらミアは残骸を操作して店主を手元に手繰り寄せ、改めて生成した拘束具と簡易的な残骸での拘束を入れ替えていく。
「これでよし、と。
ところでさっきの戦闘、貴方は明らかにこっちに核がある事を知っているような動きをしていましたよね?
何故我々しか知り得ない情報をご存知だったんですぅ? 」
「教えると思ってんなら…バカだぜお前」
「や、ぜんぜぇん。
別に態々教えて頂かなくとも情報の出処の大方の見当はついてますしぃ、そもそも誰かが交戦する所を間近で見てたならそりゃあ気づきますもんねぇ。
つまりこの会話はタダの暇つぶしって訳です…っとそうだそうだ、大事な事を忘れてましたぁ」
そう言ってミアは無造作に自分の体に手を突っ込むと、中から球体を取り出し、放り投げた。
球体は地面に落ちると周囲の細胞魔道具を取り込んでみるみる膨張していき、ある一定の大きさまで達した途端即座に膨張を停止して人型へと変わった。
「なっ…! 」
店主が驚愕の声を上げたがそれも無理は無い。
その人型の姿は店主がこの戦いで核を割り、間違いなく仕留めたと言える者のうちの1人に瓜二つだったのだ。
「驚いて頂けたようで大変喜ばしいですねぇ。
ああ、別に同じ個体を量産できてるって訳じゃあ無いんですよぉ、単に核をこっちで作って保管してたってだけでぇす。
ご存知の通り幾らでも体のパーツを組み替えて復活できる我々も、組み替える為の司令を出す部位を確保しておかなくてはタダの金属塊。
それに我々の場合、核は動力源である魔力を生み出してくれる魂、或いは精神を宿しておく為の大事な器でもありまぁす。
ですがぁ…」
ミアは続けざまに球体を2つ取り出し、同じように投げた。
その2つの球体もまた人型になって直立不動の姿勢をとる。
「このように、核を破壊されても魂が無に帰るまでに別の仲間がその器になる核を自分の体内で作ってやれば幾らでも復活できるんですねぇ。
という訳で我々を殺すには一気に全員殺さないといけないんです。
ま、そんな事はそう簡単にはできませんがぁ」
そう言ってミアは上機嫌そうに笑って居たが、急に表情が引き締まり、入口の方へと目を向けた。
「おっと…無駄話はここまでですねぇ、どうやら本命がお越しのようです」
言い終わるか言い終わらないかのうちに凄まじい突風が大量の砂と共に吹き込み、唯一釣られて入口の方を見ていたロイを激しく咳き込ませる。
「手遅れか」
重々しい声、そして足音。
砂の中からズタズタに破けた服や外皮とは対照的に傷一つ無い鈍色の体が現れる。
「おっと、そこで止まって頂きますよぉ?
さもなくばこのまま、人質を殺しまぁす」
ピタリと足が止まった。
「ふむ、脅しか…」
思案するような声。
「然らば言ってみろ、お前の要求を」
響く声が砂埃を吹き飛ばし、視界が再び開ける。
そこには、運命亡くし…アーゼムが立っていた。




