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11話

(さぁて、大見得切ったが敵は多いぞ…。

 ヤツの言葉が真実と仮定しても俺が潰したのは敵勢力のうち2人ぽっち、しかもうち1人は相変わらず電流を浴び続けてやがる。

 刺した敵の魔力を吸い上げて電流を流してる以上、敵が死にゃあ電流も止まる、まあつまり奴は魔力を吸われて動けんだけで電流自体はさっぱり効いてねぇって訳だ…いや、或いはそれも見せかけか…? )


(ふぅむ、引退して武装も返還した、と聞いてたんで少々甘く見てましたねぇ…想定よりも数段強い。

 なにより私への攻撃は通らなかったのに防御体制の3号君には攻撃が通ったのが不可解…確かに私の体の細胞魔道具は特別製、強度も他より高くはありますがぁ、防御態勢を取った隊員には当然劣るぅ。

 ナイフ自体に何かあるかぁ…それとも何か別の魔道具を隠しているかぁ…ともかくもうちょい本腰入れないとマズイですねぇ)


 互いに考えを巡らせつつ、己の考える時間を稼ぐ為に、相手の考える時間を削ぐ為に2人は行動を開始した。


『全体、目を増やして不意打ちへの対応を、それから1号班の3名は牽制用に目標への射撃を継続、他の隊員諸君は遮蔽物になりうる物体の破壊を行って下さぁい』


『了解』


 声を出さない通信による指示と応答、それと同時に1号が動き、光弾をばら撒く。

 店主は再度テーブルの下へと潜り込もうとするが、先端を斧型の魔道具へと変えた隊員達の腕が伸びてきて周囲のテーブルを叩き割ってしまい、退路を絶たれる。

 早速訪れた危機に歯噛みしつつ、逃げ場を無くす為に周囲を取り巻いていた腕を逆に利用して光弾を防ぎ、それでもすり抜けてきた物を躱しつつ元々テーブルや椅子だった木片を幾つか拾い集め、投げる。

 飛んできた木片を1号以外の2人は反射的に撃ち落とし、結果として一瞬だが店主から注意を逸らしてしまった。

 注意の逸れた隙、それは即ち射撃の雨が止む時である。

 店主は疾風の如く最も手近な敵に近づき、ナイフを振り上げた。

 その軌道上にあるのは首。

 先に隊員を1人倒した手を使う気だ、狙われた隊員はそう判断して砲台を体内に密かに生成する。

 反応が遅れた為、首を切られる前に倒すのは不可能だがナイフを振り切ったあとの体の位置はよくわかる、しっかり用意すれば首を切られる程度は何でもない、カウンターで1発叩き込んで行動不能に追い込んでやる。

 このような事を考えていた隊員を遂に凶刃が襲った。

 首に刃が食い込み、閃光が迸る。


「バカが」


 隊員の思惑通りのタイミングで発射された光線は、しかし隊員の思惑通りの空間へは命中しなかった。

 蹴飛ばされていたのだ、首を撥ねるのと同時に。

 光線は虚しく天井を焼き貫き、体は蹴倒された勢いのままに床へと倒れる。


「2度同じ手を使うんだ、敵の対策くらい想定すんだろ」


 店主の吐き捨てるような言葉を聞きながら隊員は魔道具を生成して上半身の防備を固め………。


「…さっきからわざとらしいってんだよ」


 ナイフで腰の一部を刺されてその体をボロボロと崩れさせた。

 一瞬遅れて再開した光線の雨が店主へ向かって降り注ぐ。

 一先ず先程殺した敵の残骸を蹴り上げて光線の一部を散らして被弾を抑え、その隙に辺りを素早く見回すが、今度こそ隠れる場所が微塵も無い。

 先程利用した触腕も今度は手近な場所ではなく少し離れた場所で与えられた役目をこなし続けている。

 そう、仲間が倒されたにも関わらず、敵を仕留めようという動きを彼らは全くしていなかったのだ。


(これは…なるほど、恐らく命令された事以上も以下もしねぇって奴だな。

 一人一人が考えねぇ分熟練の兵士の連携よか少々非効率にはなるが、凡人がバラバラ動くよりかは幾分マシって訳だ…もっともどうやら今回は指揮官の方が場馴れしてねぇよう…っ! ? )


 驚愕が店主の思考を中断させた。

 弾除けに使おうと蹴り上げた残骸が足に張り付き、枷になっていたのだ。

 すぐさまナイフを振るって枷を切り離そうと試みるが、当然ながら切った瞬間からその部分が治っていき、形が崩れる事が一切無い。

 逆にナイフを握っていた左腕に絡みつかれ、戦闘の継続すら難しい体勢へと追い込まれる。


「…仲間の死体まで使うってか! 」


「ええまぁ、体の構成に同じ魔道具を使っているのに互換性が無い、なんて勿体無いでしょう? 」


 笑うでも悲しむでもなくそれが当然のように淡々と話すミアの指はアンテナのように変化していた。

 これで先程店主が殺した隊員の残骸を操作し、拘束に利用したのだ。

 咄嗟に残る左足で残骸から飛び退いた店主を嘲笑うように残骸の本体とでも言うべき部分が蠢き、足を簡単に固める。


「チッ…まだ温存しときたかったんだが…」


 そう1人呟くと、店主は大きく息を吸い込み、叫んだ。


「レベッカァ! 来い! 」


 店主を捕らえて若干弛緩していた雰囲気が一瞬にして元の…否、元以上の緊張状態へと変わる。

 天井、壁、床、階段。

 あらゆる場所を一瞬で警戒しなくてはならない現状で、注視していても見極めるのが難しい動きを看破するのは不可能だった。

 鳴り響く銃声。

 アンテナがのような魔道具が折れ飛び宙を舞う。


「呼びかけは注意を逸らす為、そして魔弾…初撃は仕込みでしたか」


「ま、そういうこった…」


 体からバラバラと枷の残骸を落としながら立ち上がった店主の右手には銃が握られていた。

 ナイフで戦う事で近づかせない事に戦闘の焦点を置かせ、不意の銃撃で仕留める事を狙う作戦だったが、背に腹は変えられない。

 初撃の弾かれた銃撃も”銃は使えない”と錯覚させる為に態々装甲を通らない物を弾丸に使っただけであり、本来の威力は見ての通りである。

 かたや残骸の操作、かたや銃撃。

 両者共に隠していた札を切り、更なる戦闘の激化を予感して空気が張りつめる。

 瞬間、黒い影が天井から舞い降りて隊員を1人瞬く間に切り伏せた。


「それはそれとして来れないわけじゃないわよ? 」


 影の正体はレベッカ、天井にあった隠し扉から飛び出す機会を伺い続け、最も確実に戦力を削げる瞬間を今だと判断したのだ。

 手には一対の曲刀、表に見せている武装はそれだけだが、全体的に動きやすそうなスッキリとした印象の黒衣には似つかわしくないゆったりとした袖がついており、この中であれば幾らでも暗器を仕込む余地がある。

 曲刀に刻まれた陣の事もあり、見た目のリーチのみを頼りにすれば敗北は必至なのが見て取れた。

 第2の敵の出現、そしてついでに…


「ああクソ! 人の事随分長い間床にスっ転がしてくれたなこの野郎! 」


 先程切り伏せた兵士がロイの拘束を行っていたが故に発生したロイの戦線復帰。

 敵の頭数が増えた、というのはさほど問題では無いが、これで運命亡くしへの人質にする為に確保していた人員が存在しなくなる…つまり今までは最悪殺しても良かったのが今度は再度1人確保するまでは殺すことすらままならなくなった。

 一方店主達から見てもミア側の戦力の方が数が多い事実は変わらない、こちらとて迂闊には攻められないのだ。

 しかし膠着状態とは当然永遠ではない。


「伏せろっ! 」


 声が飛んだ。

 少し遅れたロイの後ろ髪が揺れ、外れた触腕が壁に穴を開ける。

 先程切り伏せた兵士が体を戻して攻撃を開始したのだ。


「うおっ! 」


「…まぁ一番与しやすい相手が簡単にわかるのは不幸中の幸いってやつですかねぇ」


 伸びた触腕が枝分かれして下に伸び、ロイへと迫る。

 何もできないロイに代わってレベッカがその尽くを切り飛ばして守る。


「今度は後ろだっ! 危ねぇぞ! 」


 声に従い後ろを振り向く2人。

 レベッカが振り向きざまに袖口から投げ放った針が…


「馬鹿野郎っ! それは俺じゃねぇ! 」


 空を切った。


「きゃあっ! 」


 瞬時に飛んだ声に2人が気づくより前に足下に散らばっていた触腕の破片が蠢き、2人の足へと絡みつく。


「クソ! 汚ぇぞ! ()()()なんかしやがって! 」


「失敬な、そんな芸と一緒にしないで下さいよぉ、こっちはちゃんと体の構造から変えてるんですからねぇ」


 再び床に転がされたロイの悪態もどこ吹く風、静かに笑いながらミアは次の司令を下した。


「1号以外のすべての隊員で彼にかかって下さぁい、事後処理が面倒にはなりますがぁ…もう余計な事されたくないんで毒と炎の使用以外のあらゆる手段の使用を許可しまぁす」


「了解」


「来るかっ…! 」


 それまで銃を両手に持って2人の援護と自衛を行っていた店主が再び左手にナイフを持ち、構える。

 それから数瞬も無く隊員達の攻撃が始まった。

 まず飛んだのは閃光。

 マトモに受ければ完全に視覚が潰れ、防ぐにしても数瞬視界を塞ぐ必要がある、初手にはもってこいの手だ。

 しかし相手が些か()()である事は店主も折り込み済み、顔を伏せて閃光を凌ぎつつ先程の一瞬で位置を把握した敵のうち、最も早く接近が可能な相手に銃弾を叩き込む。

 魔弾とは即ち魔道具、先程は単に貫通力を上げるものだったが、今度の物は言わば攻撃範囲の強化。

 撃たれた隊員の上半身がまるで巨大な鈍器で殴られたかのようにひしゃげてちぎれ飛ぶ。

 これによって隊員が店主の下へ辿り着く前にほんの僅かに隙が発生し、その隙に差し込む形で指輪の力を使って光を遮断する砂の壁を作った。

 直後、砂の壁を突き抜け隊員の触腕が飛び込んで来る。

 すかさずこれを刈り取り、触腕が開けた穴から差し込む光の明度で閃光の発生源を確認、銃に新たに魔弾を装填し、放つ。

 着弾した弾丸に刻まれていたのは陣の動作を妨害する陣、魔道具で構成された体にはまさしく天敵、それを体内に撃ち込まれてはひとたまりもない。

 体の形を保てずに金属の塊へと戻る。

 それを見て一息つく間も無く残る1人が砂の壁を完全に崩して飛びかかり、半身を網状に変えて店主を絡め取らんとした。

 しかし、その兵士の視界に風に流された砂埃が纏わりついて少しの間視界を塞ぐ。

 銃声。

 こんな絶好の隙を店主が見逃す訳もない。

 放たれたのは再び込められた2発目の範囲強化の魔弾。

 わざわざ面積を広げていた隊員には問題無く命中し、天井まで弾き飛ばす。

 それと同時に自らも跳躍し、床下から足を狙っていたミアの操る残骸の群れから逃れてナイフによる対処の準備を行う。

…と、その時急に横から杭のような物が数発飛来し、慌てて店主はナイフでこれを打ち落とした。

 発射したのは開幕でナイフを刺されてからずっと電撃をくらい続けていた隊員である。

 店主の読み通り動きを封じられた振りをしながら相手にとって致命的な介入のタイミングを伺っていたのだ。


「舐めんなっ…! 」


 しかし、伺い続けた瞬間はほんの少し致命打には遠かった。

 空中で大量の魔力を銃に込め、放つことで着地のタイミングを少しずらし、待ち構えていた残骸を出し抜く。

 そのままナイフを構え………。


「っ…! ? 」


 不意に何かが破裂するような音がした。

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