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10話

「死ねやっ! 」


 最初に動いたのは以外にもロイである。

 物騒な掛け声と共に放たれた光線は瞬時に極小の盾と化したミアの指先に弾かれ、幾つもの細い光線に分かたれて見当違いの方向に突き刺さり、木片を散らす。


「粗悪品、ですねぇ」


 ミアは涼しい顔で言い放ち、意趣返しでもするかのように指先をロイの銃とは比べ物にならない程の小ささの銃へと変え、光線を放った。

 放たれた光線はロイの頬を掠って背後の壁へと命中し、綺麗な丸い穴を穿つ。


「クソッタレェ! 」


 目の当たりにしてしまった彼我の戦力差の事を頭から振り切るような大声と共に闇雲に何発も光線を放つが、その全てが簡単に払いのけられてただ悪戯に店の内装を傷つけていく。


「うちの店全部ぶっ壊す気かお前は! 」


「1発撃って効かねぇなら連発しかねぇだろ! 」


「その連発も効いて無いだろうが!

 おめぇよぉ、それはバカスカ撃つもんじゃねぇんだぞ!

 ハイになってて気づいてねぇだろうがお前相当バテてるぜ、一旦引いて…」


「っ…! 」


 魔力を随分と使ってしまっていた事に初めて気づいたロイは、店主の言葉の先を聞くより前にテーブルの陰に身を隠していつの間にか乱れていた息を整える。


「馬鹿っ! 短絡的な行動をとるな! 」


「何がっ…! ? 」


 応答する間もなくロイの腕に鈍色の物体が絡みついた。

 線は瞬く間に腕を封じ込めると、今度は顔へと取り付いて呼吸と会話を封じる。

 苦し紛れになんとか放とうとした魔物用の銃も手から弾き飛ばされ、硬質な音を立てて店の床に転がった。


「言ったじゃないですかぁ、外に7人居るって」


 嘲笑うような声に呼応するように、ロイが先程の射撃で開けた穴から水が流れるように鈍色の物体がスルスルと流れ込んで来て人の形を取る。

 その足先はロイを縛る枷とまるで溶けだしているかのように繋がっており、この拘束の下手人が彼である事を明白に示していた。

 それに続くように人知れず突入していた他の部下達もその姿を現していき、最終的にはミアを含めた7人が直列に並ぶ形となって店主へと一斉に銃口と化した指先を向ける。


「さぁて、ここまできたらもう抵抗なんて無意味だと思いますがねぇ…」


「ケッ、くだらねぇなぁ…」


 店主は目の前の絶対絶命とも言える光景を一切意に介さず、カウンターの中にしまってあった魔道具…ナイフを取り出して背後へと投げつけた。


「ぐっ…! ? 」


「おおっとぉ…! ? 」


 苦悶と驚愕の声。

 投げ放ったナイフが先程ミアが放った一撃により穿たれていた穴から店主の背を襲おうと伺っていた最後の部下を刺し貫き、刻まれた陣が示すように部下の体へ電流を流し込んだのだ。

 作戦が崩されたミアが思索を巡らすほんの一瞬のうちに店主はカウンターの上へと跳躍し、更にそこから敢えて床へと転がり落ちるように移動する事で命令を待たずに射撃を仕掛けた1号の射線から外れる。

 回避した勢いのまま体操選手のように両手で接地し、そこを起点として身体を丸め、衝撃を逃がしつつ再び足を大地へとつけてテーブルを目隠しにしながら疾走した。


「射撃をっ…! 」


 ミアが慌てて次の指示を出す頃には店主は既に2本目のナイフを左手に構えて肉薄し、今正に切り上げんとする所だった。

 だが、その指示も肝心の兵士達がカウンターの方を向いていては間に合うわけもない。

 方向転換を行う時間、それは一般人でも手に持ったナイフで切り上げるだけなら充分間に合う時間なのだ、ましてそれを行うのが店主ならばこの時間は長過ぎると言ってよかった。

 一閃。

 鋼色の軌跡がミアの身体をなぞる。


「通らねぇかっ…! 」


「ふぅーっ、マジで冷や汗かきましたよ私ぃ…」


 店主の一撃はあまりに頑丈過ぎたミアの体に一筋の傷をつけるに留まり、それすらも潮が引くようにすぐに治っていく。

 ミアが独りごちながら後方へ跳躍し、退避したのとほぼ同時に光線の雨が店主へ向かって降り注ぐ。

 瞬時に追跡を打ち切った店主は近場のテーブルの下へと入り込み、テーブルの裏に刻んであった耐久性強化の陣に魔力を流して急場を凌ぐ盾として使いつつ、下から持ち上げる形で射撃が来る方向へと倒し、目隠しとしても利用する。


「私を撃破できた訳では無い事、忘れて貰っては困りますねぇ」


 立てた机を挟んで2つに分けられた空間の中で、唯一店主の側にいたミアが体から数本触腕を作り出し、店主に向かって伸ばす。


「別に忘れちゃいねぇよっ! 」


 指輪が煌めき、作り出された砂の壁が二人の間に立ち塞がった。


「その程度で妨げられるようなやわな武装では無いのですよぉ」


 それなりにしっかりとしているとは言えただの砂の壁、鋼鉄すら通す一撃が相手では紙ほどにも役に立たない。

 迫る刃の速度すら緩められずに刺し貫かれ、奥のテーブルまで簡単に通してしまう。

 しかし、その刃は1本たりとも店主には命中して居らず、さりとてその貫通力故に砂壁も崩せず、結果的にミアの攻撃はその場に居る誰からも店主の姿が見えない状況を作り出すだけに終わった。


「…なるほど、そっちが本命ですか。

 やはり咄嗟の判断力では本職には敵いませんね」


 苦笑いを浮かべつつミアが触腕の上に目を生成して砂壁の内を伺うと、その場にはもう店主は居らず、視界にはただボロボロになったテーブルだけが映った。

 この一瞬で身を隠した身のこなしの速さに舌を巻きつつ、では何処に…と思考を巡らせた瞬間。

 トタタ…っと小さな足音が束の間の静寂を縫って店内に響いた。

 『あれ程動ける男が今の状況で音を立てるのはおかしい』『男が立てる足音にしてはあまりに軽すぎる』違和感は数あれど、神経を集中させていた兵士達は反射的に音のした方へと注意を向けた…否、向けてしまった。


「こういう古典的な手は、案外役立つんだぜ?

 特にこういう時にはなっ! 」


 立てたテーブルのすぐ隣…それも音のした方とは真反対のテーブルの下から店主がまるで生来から四足の獣だったかのように飛び出し、くわえたナイフで兵士の1人の首を飛ばす。


「…っ! ? 視界がっ! 」


 首を飛ばされ、慌てた兵士が身を守ろうとして胴体の細胞魔道具を操作して自らの核の周りに盾の魔道具を生成する。


「思った通りに動きやがる、弱ぇな」


 吐き捨てるような言葉と共に破砕音が響き、兵士だった物がバラバラと床に散らばった。

 不用意に守りを固め、身体の厚みが不自然に増してしまった為に核の位置を特定されてしまったのだ。

 狩人とは言えただの人間に負ける事は無いだろう、そうタカをくくっていた兵士達が一瞬動揺する。

 店主はそれを見て不敵に笑うと、改めてナイフを左手に構え直した。


「どんどん来い、雑兵共。

 纏めてクズ鉄にしてやらぁ」

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