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自分ラジオ

作者: ぶんた

ラジオ(ラヂオ)【radio】 〇〇辞典より

①放送局から音声を電波で送りだし、聴取者が機械を用いて受信する無線通信方式、又はその音声/用例「ラジオ番組・ラジオ体操」

②①の音声を聞くための機械、受信機/用例「ラジオが壊れた」



最近、ウェアラブルイヤホンが流行っている。

自分も使ってみた。作業しながら、音楽聞いたり、動画の音声だけ聞いたり、はかどるわー。

もう手放せない。


職場のイッコ上の赤西先輩が、究極のウェアラブルイヤホンの情報を教えてくれた。

開発段階であるため、商品名はまだついていないが、愛称は自分ラジオ、ちょうど今絶賛モニター募集中!

応募して使って感想をSNSに書き込むとちょっとした謝礼も貰えるらしい。


赤西先輩と一緒にモニター希望者向け説明会に行く。


薄暗い会場で椅子に座って待っていると前の縁台が明るく照らされ、すごい笑顔なおじさんが説明を始めた。


「皆さん、こんにちは!

究極のウェアラブルイヤホン、自分ラジオモニター希望者向け説明会にようこそ!

今日のプレゼンテーター佐倉です!

さて、さっそく、究極のイヤホンの説明に入りましょう!

何が究極かって?


実は私、もう、自分ラジオを着用しているんです!


え、耳に何もついていないじゃないかって?

では、この、微小カメラでよーーーく見てみましょう!」


おじさんの後ろにあるモニターがパッとつき、カメラ画像が映し出された。

カメラはおじさんの顔を拡大し、何もついていないおじさんの耳を拡大し、さらに耳の穴を拡大して、穴の中に入っていった。


「えー、今映っているのは私の耳の穴です。ちょっと汚くて申し訳ない。さっき、ちゃんと耳掃除はしましたけれどね。

で、奥に見えるのが鼓膜ですが、その上に小さい白いプラスティックみたいなのがくっついているの見えますか?

これ、ウェラブルイヤホンなんです!びっくりでしょう!小さいでしょう!」


その後、モニター画面には、ハリウッドの俳優や国際的人気音楽グループのメンバーが登場し、もう使っていて感激しているとか、最高!としゃべる映像が吹き替えの音声付きで流れ、また耳の拡大図と一緒に、自分ラジオは骨伝導の仕組みだから音を聞きやすいとか、耳掃除もできるし、耳鼻科に行けばいつでも取り外せるとか医者がしゃべり、開発会社の社長が無料で自分ラジオを装着できること、SNSに使った感想を投稿してくれれば3万円を謝礼で払うと言うのも映し出された。


赤西先輩と俺は速攻で申し込み、その日のうちに自分ラジオを装着してもらった。

装着は、あっけないほど簡単だった。




これは便利、というのが、最初の感想だった。

スマホに入れた自分ラジオのアプリを使えば、一般のラジオの番組や視聴者の配信を聞くことができる。


運転中、完全に手ぶらでラジオ番組を聞けるし、仕事中もこっそり音楽を聴きながら集中できる。料理中や風呂の中でも配信を楽しめる。


俺と赤西先輩は、昼休み、会社の屋上で一緒にラジオ体操をやった。

音楽がない(周りには聞こえない)のに、俺たち二人が一糸乱れずに体操をする姿は、ほかの人たちに結構受けた。


俺は、SNSに「自分ラジオサイコー、マジハマってます」と投稿し、3万円をゲットした。




赤西先輩が会社を辞めたのは、一緒に説明会に行ってから半年後だ。

連絡もなくいきなりだったから、結構びっくりした。


共通の知り合いに事情を聞くと、「神の声が聞こえる」とか言い出して、なんか変な感じになって辞めたらしい。


思い出して赤西先輩のSNSをのぞくと、明らかにやばい主張をしている団体の生配信を聞きまくっていたことが分かった。

この生配信って、仕事の時間に聞いたという投稿があることからすれば、自分ラジオの番組だよね?

いくつかお気に入り登録をしておけば、自分の好みのタイプの番組しか表示されないから、俺はそんなやばい団体の配信があるなんて知らなかった。


あと、俺のお気に入りは、ちょっとエロい配信なんだけど、仕事中にそういう番組を聞いていたせいで、ついついその配信のノリで受け答えしたことがあり、俺、最近、会社の女の人から評判悪いような気がする。


しかも、最近、自分ラジオの調子が悪いらしく、自分が選んだ配信と違う番組が勝手に流れたり、アプリのスイッチを切っても配信が続いたりする。


なんか、やばいと思って近所の耳鼻科に行って自分ラジオを取り出してほしいとお願いした。

だが、医者は、そんなもん見当たらないよと馬鹿にしたような態度をとった。


気に入らねえ、と思った時、突然、切っていたはずの自分ラジオからザアザアと音が流れ始めた。


何かの配信の様だ。


「……、あなたが監視されているからです。全世界は、陰謀組織ナントカカントカの支配下にあります。その人は、ナントカカントカの手先です。その証拠に……」


音が悪くて、よく聞こえねえな。

俺は、無理やり自分ラジオの配信を聞かないようにして、家に帰った。



それからも勝手に配信されることが続いた。

俺はさすがに参って、何軒も耳鼻科医院を回ったが、まともに相手してくれる医者はおらず、ついに精神科を案内されるほどだった。


俺が精神的に参っているのは、自分ラジオが朝も夜も勝手になり始めたり止んだりして、訳が分からない電波な内容の配信をいきなり聞かされる毎日が続いているからだ。

俺の耳の中にある自分ラジオさえ取り出してくれれば、俺は正常だ。


精神科に行くと、メンタルで会社を3か月ほど休むことを提案された。

夜、ろくに眠れないことが続いて仕事になっていなかったから、そのとおりにした。


だが、耳鼻科の医者が自分ラジオを取り出してくれさえすれば、俺は、会社を休まなくてもよかったのだ。

俺は、今までかかった耳鼻科にクレームの電話を入れた。

そして、気が付いた。


電話をかけている時は、自分ラジオのスイッチが入らない!



それから俺は、毎日友達や実家に長電話をし、みんなが相手をしてくれなくなると耳鼻科にクレームを入れ、医者の対応が悪いと役所にクレームを入れ、ついでに俺の人権が侵害されたと警察や法務局に相談した。


最近、自分ラジオで配信されるのは、どこそこのだれが殺されたとか、どこかで戦争が始まったとか、恐ろしい内容ばかりだ。俺は、毎日毎日、いきなり始まりいきなり終わる配信で聞いた、本当か嘘かもわからないような話に怯えていた。

クレームの電話をかけて、自分の不幸や不安を訴えている時だけ、自分が正しく守られているような気持になれた。



だが、突然電話をかけることができなくなった。

逮捕されてしまったからだ。


その日は、どこかの役所に電話をかけ、職員に冷たい対応をされたため腹を立てて、包丁を持ってお前のところに乗り込んでやるとイキってしまった。


すると、通報されたようで、警察官が家に来た。

そして、そのまま、警察の留置所で夜を明かすことになった。



さっきから、配信が止まらない。


それも、いろいろな番組が、切れ切れに、意味なく聞こえている。


まるで、ラジオのチャンネルを合わせる時のように。


「…え、そうなの。そういうの初めて聞いた…それは、神の意志です。正しい道を…今日のミュージックはこちら…ねえ、知ってる?これ、めっちゃ効くよ!これを飲んだら体重がスルスル落ちて、もう…」



スマホを取り上げられたから、電話をかけることもできないし、自分ラジオのアプリを操作することもできない。


俺は、耳をふさいでも聞こえる自分ラジオの音に混乱し、意識を手放した。


耳をふさいでも聞こえるのって、怖くないですか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、これは自業自得だと思いながら読んでいたら、やっぱり自業自得で、期待通りの見事な風刺でした。じわじわと浸食して行く流れが見事です。 ウェアラブルの怖さもだし、スマホにイヤホンを繋げて…
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