Blank State
ニューギニアの奥地にセックスの概念が存在しない部族がいる! ある文化人類学者の発表は衝撃をもって迎えられた。
彼女の研究によれば、その部族の名はオンケイセ族といい、セックスを全くしないばかりか、性的な事柄についてほのめかすことすら、ひどく嫌悪されるのだという。男女とも慎み深い服装で、性器はもちろん、乳房も露出することは重大なタブーとされ、ほとんど素肌を人目に晒すことはない。
当然、部族の中で子供は生まれないが、彼らは主に貝殻から作られた装飾品で周辺の部族から子供を「購入」するのだという。この支払いには鉄器や鉛筆(筆記用ではなく、装飾品として使用される)等も使用される。これらもやはり他の部族との交易で手に入れたものである。しかし西洋文明の影響は、オンケイセ族にはまだ間接的限定的なものでしかない。
古老の話では、彼らははるか太古からこの独特な家族制度を続けているのだという。
しかしフィールドワークは途中で打ち切りを余儀なくされた。彼女があまり性的なことについてしつこく質問したため、追放されたのである。以上が発表された論文の概要である。
本当にそのような部族が存在するのだろうか? もし存在するとすれば、我々もその部族に学ぶところが少なくないのではないか? 関心を持った多くの文化人類学者がニューギニアに飛んだ。
多大な努力の結果、わかったことは、そのような部族は存在しないということだった。若き文化人類学者は、地元民の冗談を真に受けてしまったのである。「そのような部族が存在していてほしい」という願望が、彼女に夢を見せたのだ。
文化人類学者たちは落胆した。だが、そのうちの誰かが提案した。
「オンケイセ族が存在しないなら、我々が作ればいいのだ」
この発案には多くの賛同者が現れ、やがて彼らはアメリカの片田舎にコミュニティーを作り、生活を始めた。もちろん、その中ではセックスの概念は存在しない。
コミュニティーが性的スキャンダルをきっかけに崩壊するのには、時間はかからなかった。