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1-2話

 9時半頃、タロウが目を覚ました。

タロウ「(結局昨夜は風呂入ってない。シャワーを浴びよう。順番は…早いもん勝ちでいいや)」

 シャワーを浴びたタロウが戻ってくると、カエデが目を覚ましていた。

カエデ「お、シャワー使えるのか?」

タロウ「早いもん勝ちな」

カエデ「それじゃ、皆目が覚める前に行ってくるか」

 カエデは袋を持ってシャワーを浴びに行った。


 11時頃、リビングに人が集まってきた。

セイジ「朝飯…というか昼飯にしようぜ」

カエデ「パンとコーヒーか紅茶、好きなジャムを選べ」

セイジ「元々はどういう予定だっけ?」

タロウ「近くの観光地で昼食をとって、夜も店で。そしてもう一泊して明日の朝に帰ると」

アヤミ「出かけるのは昼過ぎでもいいよ」

 サクラを除く6人はそこでパンを食べ、コーヒーや紅茶を飲んでゆっくりと過ごした。皿と書かれたポリ袋から紙皿が全て出されて、空になった袋は畳まれて机の隅に置かれていた。

カエデ「サクラはまだ起きないのか?」

レイカ「それが…」

アヤミ「うん。みんなで起こしに行こうか」

タロウ「(いいのか?化粧前だろうし、部屋の中は見られるし)」

ジロー「いいのかよ、部屋ん中見て」

アヤミ「そうだね。じゃあ部屋の前で声かけて」

ジロー「言わなきゃよかった…」

アヤミ「オイ」

 6人は皿やカップを片付けた。女性陣の部屋の前に向かった。

 レイカが廊下の途中で止まった。

タロウ「ん?どうした?大丈夫か?」

レイカ「ああ、ごめんなさい。飲みすぎたかな…」

 レイカは頭を抱えて壁にもたれかかった。アヤミはレイカを追い越し、襖に手をかけた。

アヤミ「サクラ、起きてー。もうすぐ正午過ぎる…よ…?」

 アヤミが声をかけながら襖を引き、表情が凍り付いて立ち尽くした。

タロウ「今度はどうした?」

アヤミ「あ、ああ…」

 アヤミが部屋の中を指さし、タロウとジローが部屋の中を見た。

ジロー「うっ…」

タロウ「え…?」

 そこには部屋の角で柱に首を吊ったサクラがいた。タンスの一番下の取っ手が曲がり、埃の積もった柱には2本のロープ跡があった。ロープは荷下ろし用のフックがついたもので、橋の上からバケツに水を汲もうと持ってきたもので、女性陣の車の中に積んだものだ。

 セイジとカエデはタロウたちの様子を見て、部屋に近づいて中を見た。

セイジ「まさか…」

カエデ「待て、まだ間に合うかも…」

 カエデが部屋に入り、サクラのすぐ下に来た。

カエデ「ここから降ろす。誰か手伝ってくれ」

 呼ばれて我に返ったセイジが近づき、サクラを抱え上げ、その間にカエデが紐を緩め、2人で下に降ろした。

セイジ「駄目だ…。脈が無い」

カエデ「すっかり冷え切っている…。こんな…馬鹿な…」

レイカ「サクラ…」

 レイカが遅れて部屋に入ってくると、サクラを見るとふらついて壁にもたれて座りこみ、呆然と虚空を眺めた。カエデとセイジも呆然と座っていた。

アヤミ「あ…、えっと、どうしたら…。とりあえず、町に降りて…」

タロウ「そ、そうだな。早くここから離れて…」

ジロー「まさか、そんな…」

 この時、あまりの衝撃に正しい思考が判断できず、通報する選択肢が浮かばず、この場から離れたい気持ちでいっぱいになっていた。

タロウ「車で出る準備をする。落ち着いたら出発だ」

 タロウはボイラーの電源を落としに行った。


 約20分後、玄関の前に集合した。

タロウ「準備はいいか?ここを出るぞ」

セイジ「ジロー遅いな。何やってるんだ?」

 セイジはジローに電話をかけた。着信音が男性陣の部屋からしたため、見に行くと、鞄の上に置かれた携帯が鳴っているだけだった。

セイジ「いない。どこ行った?」

アヤミ「手分けして探そう」

レイカ「そうしよ。車で待ってたらどれだけかかるか分からない」

 5人は手分けして建物内を探し回ったが、なかなか見つからなかった。

タロウ「そっちはどうだ?」

 タロウが建物の外に出て出た形跡がないか探しているとセイジと会った。

セイジ「いや、いない…。もしかして…」

タロウ「何か心当たりが?」

セイジ「関係あるか分からないが…」

 セイジは言い淀むも、タロウが沈黙したままじっと見続けたため、ついに口を開いた。

セイジ「あの時はどうかしていたんだ。サクラが自殺したのは俺とジローのせいだ」

タロウ「何があったんだ?」

 セイジはタロウに説明した。部屋に帰って寝る前に、警戒心が薄くなっていたサクラをボイラー室の奥に連れ込み、ジローと二人で彼女に乱暴をしたことを。

タロウ「…なぜ、その部屋に?」

 タロウの声からは友人に向ける優しさが無くなり、愛想の尽きたような淡々とした声で尋ねた。

セイジ「ボイラーの音で声がかき消されるからだとジローが言って…」

タロウ「ハァ…。それで、その後は?」

セイジ「喋ったら皆の仲良しな関係が壊れちまうぞと脅しをかけ、浴室へ行って体を洗って部屋に戻って寝た。ジローは俺よりも先に出て、サクラはその部屋に残したから分からない」

 タロウは眉を顰め、息をゆっくり吐き、勢いよく吸った直後、セイジを殴りつけた。

タロウ「この外道が!」

セイジ「ぐっ…」

 セイジは頬を殴られ、口の中を切り、血が歯にかかっているのが見えた。

 タロウがもう一度殴りかかると、セイジは拳を受け、腕を捻ろうとした。タロウはそれを察知し、逆回転しつつ腕を引き込んだ。

セイジ「そう何度も殴ることはないだろ!それより先にすべきことがある。ジローを見つけることだ。もしあいつが今みたいに殴られたら返り討ちにしてしまうかもしれない。あいつは俺たちの中で最も背が高く、筋力もあるからな」

タロウ「屁理屈をぐちぐちと…」

 冷静なセイジの言葉はタロウにとっては、殴られたくない屁理屈に聞こえ、一層と苛立たせた。

 タロウが殴りかかると、セイジは跳躍し、上空へと浮かび上がった。タロウは掌の上で作り上げたエネルギー弾を上空のセイジに向けて飛ばした。

 セイジは手でエネルギー弾を掴み、腕を振った遠心力で斜め下に飛ばした。エネルギー弾は車の側に着弾し、その衝撃で停まっていた車のボンネットが熱せられた。

 タロウも跳躍し、セイジにフェイントをしかけつつ近づき、空中で殴り合いを繰り広げた。互いにエネルギー弾を飛ばそうとするも、その都度攻撃を当てて、方向や威力を狂わされ、有効打とならなかった。

 戦いは五分。エネルギー弾を構えたタロウの手首にセイジが殴り降ろそうとした瞬間、タロウは半回転しつつ距離を詰め、セイジの振り下ろす腕を脇腹と自らの腕で挟んで捻りつつ固定し、回転に乗せて地面へと投げ落とした。

 セイジは上空から投げ飛ばされ、谷の向こうに落ちて見えなくなった。

 タロウは地上に降りた後、建物の中に戻り、ジローの捜索を続けた。


 カエデがリビングに入るとキッチンを探していたレイカが顔を上げ、近づいてきた。

レイカ「いた?」

カエデ「いや、見つからない。どこに行ったんだ?不吉…な…」

 レイカはカエデの胸の中に飛び込み、体を震わせた。カエデは手を広げるも迷って、宙に留めた。

レイカ「怖い…、一体どうしちゃったの?こんなことって…」

 カエデはレイカの背中と頭に手を置き、首を下に向けた。

カエデ「大丈夫だ。一緒に帰ろう」

レイカ「……」

 しばらくそのまま過ごし、レイカが動き出すとカエデは手を緩めた。

 レイカは一歩下がってカエデと目を合わせた後、下に逸らした。

レイカ「ご、ごめん…」

カエデ「謝ることないよ。落ち着けた?」

レイカ「うん…。……。…えっと、私、あっち見てくるね」

 レイカは扉を開けた。

レイカ「無事に帰ったら…いや、なんでもない」

 レイカは扉を勢いよく閉めて部屋から出ていった。


タロウ「(同じ場所に戻っているとしたら…)ひっ…」

 タロウはついにジローを見つけた。

 ボイラー室の奥の部屋で、ジローは血まみれで倒れていた。頭が陥没して変形し、ピクリとも動かなかった。もう助からないのは明白だった。

 近くには鉄パイプが転がっており、扉の外の蔦は絡まっていたままだった。

タロウ「(皆に伝えなくては…)」

 タロウはふらついて廊下に出た後、呼吸を整え、電話で全員に伝えて回った。その際に、ショッキングだから見ない方がいいと伝え、玄関に集まるように言った。


 廊下に出たカエデは、玄関の方でゆったりとした服を羽織り、フードと布で顔を隠した人を見た。

カエデ「誰だお前は?」

???「私は虐殺の魔女」

カエデ「おい、ふざけていると…っつ!」

 カエデは何かを踏み、下を見た。廊下にクリップが撒かれていた。再び顔を上げると魔女の姿は無くなっていた。

 クリップを廊下の脇に蹴りながら進み、角を見るも誰もいない。玄関を開けて外を見たが、誰も見つからなかった。仕方なく、建物の中に戻った。


アヤミ「レイカ!」

 アヤミがリビングに入ると、血の海の中にレイカが倒れていた。

 アヤミは血で汚れるのも厭わず、血の海にしゃがみ込み、レイカの頭と肩を抱え上げた。レイカの首の左側の裂傷から血がにじみ出し、アヤミの服が血まみれになった。そして、間もなく、脈がないことが分かった。

アヤミ「そんな…」

 アヤミは絶句し、呆然と目の前の死体を見た。周囲には切り口と一致した血濡れの包丁が落ちており、周囲の壁と天井、そして床には血飛沫がかかっていた。ただし、右側の壁と床には血飛沫がほとんどなかった。

 アヤミはレイカを離して立ち上がり、フラフラと廊下に出て、玄関に向かった。

カエデ「なっ…、それは…」

タロウ「うっ…」

 玄関にカエデとタロウがおり、カエデがアヤミに気づいて声を出すと、タロウがその方向を向き、絶句した。

 アヤミは頭の天辺からつま先までべったりと血が付いていた。特に左肩付近が血まみれになっていた。

カエデ「何があった?」

アヤミ「レイカが…レイカが…」

 タロウとカエデはアヤミが指さした先に行き、リビングで血の海を見た。カエデはそこで倒れているレイカを抱えあげたが既に脈がない。体温は下がってはいるが、冷え切ってもいなかった。

タロウ「…今すぐ町に降りよう。もうここから離れよう。荷物も最低限で」

カエデ「セイジは?」

タロウ「あんな奴置いてけ。すぐに車の準備を…」

 カエデはレイカを地面に置き、目を閉じて祈りを捧げてタロウについて廊下に出た。

カエデ「アヤミ、君が見つけたときにレイカは既に?」

アヤミ「うん…。血の海を見つけてそれで…」

タロウ「話は後だ。そのまま町に出たら大変だ。一度体を洗って着替えてくるんだ。またボイラー入れなきゃな…」

 アヤミは全身血まみれで、カエデは頬と顎、手に血が付き、服も血まみれだ。

カエデ「…そうだな。俺は洗うのは洗面台で十分だから、先にいいか?」

アヤミ「いいよ。だけど、お願いがある」

カエデ「お願い?」

アヤミ「私がシャワーを浴びている間に脱衣所にいて」

カエデ「え?」

アヤミ「もし殺人犯がどこかにいるなら、無防備でいるときが怖いから」

カエデ「でも…。いや、引き受けよう」

アヤミ「ありがとう。着替え取ってくるね」

 アヤミは部屋に服を取りに行った。

タロウ「ボイラーのスイッチ入れてくる」

カエデ「ああ、頼む。ついていこうか?」

タロウ「いや、ここでアヤミを待っていてやれ」

カエデ「そうか。それじゃ…」

 タロウはボイラー室に行き、再びボイラーのスイッチを入れ、玄関に戻ってきた。廊下にはカエデとアヤミが待っていた。

タロウ「これでお湯が使えるぞ」

 カエデは脱衣所にある洗面台の前に行き、手と顔を洗って部屋を出た。男性陣の部屋に入って素早く着替え、廊下に戻ってきた。

アヤミ「じゃあ…よろしく」

カエデ「ああ…」

タロウ「俺は外で見張っていよう」

 2人は脱衣所に入り、カエデは廊下側を向いて立ち、アヤミは服を脱いでいった。カエデは服の擦れる音や、フックの外れる音が聞こえ、間もなくシャワーを浴びる音が聞こえるようになった。

アヤミ「きゃっ」

 アヤミは鏡の中にサクラとレイカの幽霊を見た。後ろを向くと幽霊はいない。鏡を見るとより近づいている。アヤミは鏡から遠ざかる際にこけ、地面に尻餅をついた。そしてシャワーが頭からかかり、目を閉じた。止めるためには目を開け、立ち上がらなければならない。しかし、それができない。

カエデ「どうした!?」

 アヤミの悲鳴を聞いたカエデは浴室の外から声をかけた。アヤミはその声に勇気づけられ、目元の湯を取り、目を開けた。鏡の中にも身の回りにも何もいない。

カエデ「大丈夫か?」

 カエデはなお浴室の外から声をかける。

アヤミ「……。…大丈夫。気が弱って幻覚が見えただけ…」

カエデ「そ、そうか。気を確かにな。俺はすぐそばにいるから」

アヤミ「…そうね」

 アヤミは両手で髪を額から後ろに押して湯を切った。

アヤミ「もう出るよ」

カエデ「ああ、外向いとく」

 アヤミは外に出てタオルを頭に被せ、もう一つのタオルで体を拭き、服を着た。

アヤミ「ありがとう。もう少しお願い。部屋で髪を乾かして化粧してくる。外で待ってて」

カエデ「ああ、なるべく早く頼む。ここを早く出たい」

 アヤミはタオルを被り、血濡れの服の入った袋を持って廊下に出て、タロウにももう少し待つことを頼み、女性陣の部屋に入って髪を乾かし、化粧をした。ドライヤーの音は廊下にいるタロウとカエデにも聞こえた。

 タロウはその間にもう一度ボイラーを切りに行き、無事に切って戻ってきた。


 約15分後、アヤミはバッグを持って部屋を出た。

タロウ「よし、行くぞ。鍵は持ったな?」

 アヤミはバッグを開けて鍵を見せた。バッグに皿と書かれたポリ袋が見えた。

カエデ「よし。こっちは俺が運転する。タロウは施錠を」

タロウ「分かった」

 カエデとアヤミはそれぞれ車に乗り、出る準備を始めた。タロウが玄関を閉めると、助手席に乗り込み、カエデは車を出した。アヤミはその後ろについていき、道路を通って町まで降りた。

 そして町の交番に行き、事情を説明した後、3人はそこで待ち、捜査が開始された。

捜査官「気が動転していて電話が通じるのに通報しなかったと。…無理もない」

捜査官「脱出のみで頭がいっぱいなトンネルビジョンに陥っていたのかもしれない」


 車を調べるとアヤミの車に積まれた電線がよじれ、黒い汚れがついてた。

アヤミ「の、呪いだ…。幽霊たちが…」

捜査官「落ち着け、これは排ガスや砂埃だ。車の外についているのと同じ」

アヤミ「ああ、それなら何かの拍子にありうるかも…」


 タロウたちが過ごした建物から車で約3分の崖の下、岩肌の上からセイジの死体が見つかった。地面に打ち付けられた傷があるのみだった。首や足の一部が千切れていたが、散乱範囲は狭く、地面に衝突した衝撃で千切れたと考えられる。高所からの落下による墜落死だ。


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『話はここまで。さあ、解いてみて』

『犯人、犯行方法、犯行動機の説明よ。念のために言うけど、捜査官は犯人ではないわ。名前すら出てないもの』

「超常現象とかあったような…」

『それじゃ基本ルール違反じゃない』

『証言による描写が正しいとは限らないよ。嘘や勘違いがあるのだから』

「ああ、そういうこと…」

 犯人は残った3人の中にいるのか?いや、最後に死んだ人が犯人ということもある。誰が最後に死んだか分からない。方法と動機も。解くべきことは多そうだ。

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