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プロローグ2

「これを見る限り誰もやっていないじゃあないか」

『これは証言と証拠によって再現された物語。証言に嘘があり、直接の証拠が見つかってなければ、こう描写される』

『普通は私がやりましたなんて言わないからね、普通は』

「つまり、誰かが嘘をついているということか…」

『1人かもしれないし、2人かもしれない。もしかしたら3人かも』

『嘘かもしれないし、勘違いかもしれない』

『そうそう、気を付けなければいけないのは、例えば証拠品としてペンがあったとしましょう。証言次第で文字を書くのに使われた描写になるかもしれないし、ペン先でスマホのシムを抜くのに使われた描写になるかもしれない。使い方は1つではないもの』

『その辺も考慮してね』

 ユメオはメモに書き出して整理し、書ききる前に途中で止まった。

「念のため確認したい。犯人はいるんだな」

『基本ルールの1つ、【犯人は作中に登場している】。これは解いてもらうための問。解きようの無いものは差し戻される』

『物語終了時に犯人が生きているか死んでいるかは不明…。ネズミが映ってたらネズミなんてのもあり得るけどね、ネズミなんて出てきてないよ』

『言い過ぎよリア、必要以上に狭めるとお客様が退屈してしまうわ』

『ごめんなさい、今のは聞かなかったことにして』

「あ、ああ…」

『そして、【証言による描写が全て正しい必要はない】。つまり、嘘の証言から再現された描写ゆえ、犯行時の描写がされていないわ』

「なるほど。考え方が分かってきた」

 再びメモを書き、ノートを開いて証拠品の説明を見て確認した。

「分かったぞ。犯人は丙だ」

『その理由は?』

「甲と乙の証言に嘘は無い。各々の証言と社用携帯の位置情報の記録という証拠があるから、この描写ができている」

『描写というなら、同様に丙の社用携帯にあった位置情報が事務所から動いていなかったからだけど?』

「置いたままにしたんだろう」

『その証拠は?』

「10時13分に甲が電話をしているが出ていない。社用携帯を置いたまま外に出たからだ」

『可能性はあったとしても、証拠としては弱いね。丙本人が言ったように、偶々トイレに行っていて出られず、気づくのが遅かったのかもしれない』

『もっと直接的な証拠はない?』

「えっ…これじゃ不足か」

『まあまあ、1つじゃ不足でもいくつか足せば十分ということもあるから』

『別方面から切り込んでもいいわ』

 となると、外に出た時に持ってなかったことで起きたことか、あるいは丙が電話に出ず、気づいたのも遅かったことを嘘だと言える証拠を探すか。

「外から入るには、警備員のいる正面玄関から入るか、社員証を使って裏口から入るか、そして窓から出入りするしかない」

『そうだね。ついでに言うと、隠し通路は存在しないよ』

『念のために言っておくと、この物語の描写が出来ているのは、正面玄関の監視カメラには映らず、警備員も見ていないから。そして、裏口から甲と丙が11時頃に出た記録があるからよ』

「ではこういうことだ。窓から外に出て、倉庫で殺害し、窓から戻ってきた」

『窓を開けて、そこから出た証拠は?』

「ブラインドの汚れが服についている。窓を通った証拠だ」

『なるほどね。では蜂は嘘と?』

「そうなるな」

『ふふ、出入りはできたと証明した。では方法は?』

「描写にあった捜査の通り、重量のある機械を上から落として殺した」

『下敷きになっていた描写はあった。けど誰がしたかは不明だよ』

『丙を犯人とするなら、丙がしたという証拠がいるわ』

「被害者は机に向かって作業をしていた。その日に事務所か作業場か、どちらで作業をするか、何の仕事をするかは予定表に書いてあり、社員なら誰でも確認できる。そういう意味では社員であれば誰でも可能だ。しかし、丙が持ち上げ、落とした証拠がある」

『それは?』

「手すりの塗料だ。手すりに引きずった際に機械の裏についたのと同時に、その削れた塗料が服に付着した。また、重量物を持ち上げたため、靴のゴムは凹み、溝の奥の方まで作業場の床にあった錆が付着した」

『塗料はそうだね。しかし靴はどうかな?』

『今日付いたのではなく、前から付いていた可能性は?』

「その可能性は除外できる。新品だからだ」

『そうだね』

『現実なら、持ってくる前に付いた可能性を調べて断定するし、実験で確かめるけど、これはチュートリアルで、そこまでの情報は用意されていない。証拠として認めるわ。これは20kgの物を持ち上げてできた跡である』

『じゃあ、乙と丙の錆の境界線の深さが違う理由は?乙はその試験機を使うんだよね?』

「乙が試験機を持ち上げるような時は安全靴に履き替えるから、乙が現在履いている靴裏にそこまで深く錆はつかない」

『乙本人の証言で証拠がない。もし、それが嘘だとしたら?』

「嘘なら同じ深さになる。しかしなっていない」

『確かに。あれは20kgのものとリナが言っているしね』

『今回は特別よ。普通は物語中で実証するけど、それだけだと怪しくて他にも描写が必要でどんどん長くなるから』

「覚えておこう。さて、これで説明し終えたか?」

『そうだね。もう十分』

『じゃあ、答えを見せるとするわ』

 双子が画面から消え、幕が上がっていくと、黒字に白い文字が現れた。


 それでは事件に至った真相を時系列に沿って再現します。


 10時7分、総務部には丙一人を残し、他の5人は会議室で新システムの説明を聞いていた。丙は手袋をし、ブラインドを押しのけて窓から出て、窓を閉め、倉庫へと向かった。

 10時8分、倉庫に入った丙は階段を上り、試験機の前に来た。丙が上から見下ろすと、被害者は机に向かって座り、機械に配線をはんだ付けしていた。丙には気づいていない。丙は試験機を持って位置を調整し、手すりの上に持ち上げて一旦置き、深呼吸した後、試験機を持ち上げ、手を離した。

 10時13分、被害者の後頭部に重量物が激突、衝撃で頭蓋骨陥没と首の骨折。即死した。丙はその場を離れ、動悸がする中、階段を慎重に降り、倉庫を出た。

 10時15分、丙はビルに窓から入り、窓を閉めて手袋を外し、引き出しに入れてトイレに手を洗いに行き、戻ってきて椅子に座り、仕事に戻った。

 11時10分、甲が被害者を発見。呆然としていると、乙がやってきて甲を起こして現場から離して休ませた後、通報。警察がやってきて捜査が始まる。


 緞帳が再び降りて双子が出て来た。

『以上、正解でした。でもやっぱり動機が無いと物足りないね。淡々と再現されるだけだもん』

『それはこれから扱う事件で確かめてもらうわ』

「一休みした後で」

『待っているわ。謎が解いてもらうことを待っているもの』

『解いてもらうための問。でも簡単には解いてほしくない問』

『さあ出題者との知恵比べよ。どちらが上か、明らかにしましょう』

 一旦席を立って、飲み物を取りに行った。リナリアシステム、このルールの中でどんな謎が出題されるのだろうか。


 某マンションの一室、薄暗い部屋の中、パソコンの前で誰かがリナとリアを呼び出してチャットをしていた。

「面白い人はいた?」

『変な人はいたわ』

「今日?」

『いいえ、今日は来てないみたい』

「ふうん…、それでどんな人だった?」

『物語はここまでと言ったら、「嘘だ。まだ甲も乙も丙も生きている。勝手に終わらせるな」と言っていたわ』

『怒ってたね』

「へえ、変わった人ね」

『あなたが書いた物語はあそこで終わりなのだから、続きは無いのに』

「まあ、普通でもぶつ切りに感じるから、気になる人はそれ以上に感じるかもね」

『折角だし全滅する物語を書いてみたら?そうすれば確実に終わりよ』

『でもそれじゃ証言が一つも残らず、証拠しかない事件になるよ』

「それはそれでありかもね。でもきっとその人は捜査している人にまだ続きがあるのに終わるなと言うと思うよ。そういうのが気になってしまうんだろうね」

『大変そうね』

「まあ、リナリアシステムではぶつ切りになるのだから、このゲームをやるなら受け入れてもらわないとね。それじゃお休み」

『お休みなさい』

『おやすみー』

 パソコンを切り、ベッドに入って眠りについた。

これでプロローグは終了。次から本番。

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