プロローグ1
程々の長さで作る予定
「そうだ!私、ゲーム作ったんだ。やってみない?」
久しぶりにあった女友達からゲームのサイトを開設したから良かったらやってみないかと誘われた。それが始まりだった。
端的に言うと探偵となって事件を解くゲームだ。
インストール後、データファイルのダウンロードが終わり、デカデカと「ようこそ」という文字が出現した。名前はユメオとした。本名そのままでは何となく嫌なので、少し変えた。
設定し終わるとゴシック調の服を着たドールのようにかわいい双子の少女が出て来た。
『サポートは私、リナと』
『妹のリアが行います!』
『私たちは隅にいます。クリックすると、調べられます』
『試してみてください』
2人とも画面の右下に並んだ。
2人一緒ならわざわざ2人出す意味は…?後で役割分担するのかもしれない。とにかくクリックしてみた。
『何について調べますか?』
「ええと…」
『お悩みでしたら、こちらから選べます』
選択肢が出て来た。
実用的な選択肢に混じって敬語オフなんてものがあったため、押してみた。
『リナとリアが敬語を辞めます。よろしいですか?』
「はい」
どっちでもいい。嫌なら戻せばいいし。
『これで変わったわ。個性が分かりやすくなるの』
『こっちの方が気楽だね』
その後、チュートリアルを選び、指示に従って進めていった。
『ここではこのゲームで採用されているリナリアシステムを説明するわ』
『ルールは後述ね。探偵モードと出題モードがあるよ』
『探偵モードでは、証拠や証言から事件を再現した物語が進んでいく。あなたは、その場にいるのではなく、再現された物語を読み解き、事件の謎を明らかにする。惨劇であろうと途中で止めることはできないわ』
『途中で出て来た写真や道具のデータはノートに記載されて、いつでも確認できるよ。全て読み終えると、ロックが外れて回答可能になるよ。解けるかな?』
『出題モードでは、物語を作って投稿できるわ。けれど、世にでるのは運営の審査を通ってから。解けない物語や破綻した物語を出すわけにはいかないからよ』
『ルールは基本ルールと任意に追加できる追加ルールがあるよ。そして、基本ルールは次の7つ』
基本ルール 七原則
・推理に必要な情報は描写される
・超能力、超常現象、未知の薬や兵器は登場しない
・嘘をつくためには理由が存在する
・犯人は作中に登場している
・証言による描写が全て正しい必要はない
・登場人物が普通と著しく異なる価値観を持つ場合はその断片が描写される
・探偵役を出す場合、それは犯人ではなく、嘘をつかない
『ここをクリックするといつでも確認できるよ』
『それを忘れても私たちに聞けば確認できるわ。詳細を聞きたい時もどうぞ』
曖昧な部分は運営の判断に委ねられそうだ。尤も、あまりにも厳密にしたら投稿する側も大変か。
その後、操作を色々と学び、とりあえず操作できるようになった。
『もう一度確かめたいことはある?』
「ない」
『まあ、説明するより見た方が早いだろうね』
『それじゃ、例題をやってみましょうか。準備はいい?』
「はい」
始めると黒地に白い文字で画面中央に文章が現れた。
これは証拠、証言に基づいて再現された物語です。
ここは中程度の町。10階以上のマンションがポツポツとあるものの、大抵は2階建ての一軒家で、2階~4階建てのビルがいくつかある。その中の3階建てのビルとその敷地内がこの話の舞台となる。
甲、乙、丙の3人は8:30頃、ビル内にある事務所に出社し、それぞれ仕事にとりかかった。3人は所属部署が異なり、甲は3階、乙は2階、丙は1階に自席があった。ビルから出入りする際には表の出入口も裏口も社員証をカードリーダーに触れてロックを解除しなければならない。表には警備員が常に1人はおり、監視カメラも回っている。カードリーダーには社員番号とその時間が記録されており、甲が8:27, 乙が8:32, 丙が8:25分であった。甲は駐輪場から近い裏口から、乙と丙はバス停から近い表から入った。
事務所の横には倉庫があり、その間は3m程ある。倉庫には2つの扉とシャッターがある。扉の1つは事務所のある北西側、もう1つは南東側にあり、シャッターは南側にある。西側の扉は主に事務所の裏口から出入りするためのもので、東側は直接倉庫に入る場合に西側の扉から入るよりも近いために使われる。シャッターは内側から開き、その前に停車した車に荷物を積んだり、洗濯物を外に干す場合に開閉される。
倉庫の北東部には壁で仕切られていない小さな作業場があり、そこには約2m×1mの机が2つと3つの椅子がある。周囲には物が積まれており、作業場の様子は近づかなければ分からない。
倉庫の東西には2階部分があり、中心が帯状に吹き抜けとなっている。吹き抜けの前には1.2m程度の柵のような手すりがある。手すりは所々で青く分厚い塗料のが剥がれ、錆びて茶色になっている。足元には砂埃と零れた錆があり、荷物を持ち上げるために膝をつけば、膝の部分が茶色に染まるほどだ。
社員は予定表ソフトに作業予定を書く。また、会議室の予約もこのソフトを用いて行う。予定表は社員なら誰でも確認でき、多くの人は自部署と主要会議室の予定表をすぐに開けるようにしている。
9時26分、甲に電話がかかってきた。
丙「おつかれさん、出張清算書について確認したいことがある。先月の工事、ROV使ったやつについてだが…」
甲「ああ、水中ドローンの。どうかしましたか?」
丙「スキャンされたホテルの領収書が読めない。もう一度取ってくれ」
甲「あっ、すみません。もう一度アップします」
丙「次はファイルを開いて確認してから頼むよ」
甲「すみませんでした。そうします」
丙「そんじゃよろしく。急ぎじゃないから時間が出来た時でいい。旅費と日当が支払われるのが早くなるか遅くなるかの違いだけだ」
甲「忘れないうちにします」
丙「それじゃ失礼」
甲「失礼いたします」
甲は電話を切り、引き出しから複数ポケットのクリアファイルを出して領収書を探した。
甲「(まだ捨ててなかったか、良かった)」
甲はファイルから領収書を取り出した。ファイルのページには7月、つまり来月の月が書かれていた。甲は念のため、翌々月まで領収書を保存し、それを過ぎたら捨てている。
甲「(確認しなくて悪かったのは俺だけど、最初からスキャン画像が表示されて確認できればいいのに…)」
9時30分頃、乙が2階の無人のコンピュータ室に入り、明かりをつけた。パソコンは各自の席にあるが、それとは別にこの部屋には高スペックのパソコンが4台ある。左右の壁に向かって机があり、机の上に2台ずつのパソコンがある。部屋は清潔に保たれ、静電気対策のシートが設けられ、結露および熱暴走対策の空調設備が常に稼働している。この部屋に明かりがついているかは、扉の小窓から外部に分かる。この部屋に入るには一旦部屋から出て廊下を通る必要がある。
乙は2台のパソコンを使い、片方でプログラムを走らせ、その間にもう片方で既に済んでいる分のデータ処理結果の可視化作業をしていた。
10時頃、新システムの部内説明会のため、丙以外の5人の社員が会議室へ入った。丙は連絡があったときのために1人残り、仕事を続けた。
丙は羽音に気付き、周囲を見渡すと蜂がどこからか入ってきてブラインドの側の壁に止まった。丙は窓に近づき、ブラインドを押しのけて窓を開け、社内報の冊子で蜂を追いやり、外に追い出し、窓を閉めた。
10時13分、甲は丙に電話を掛けた。しかし、電話に出ない。この会社では社用携帯が基本ではあるが、各階に置かれている電話にかけて、その階の人に今どこにいるか尋ねることもできる。また、この携帯電話には直近の位置情報記録が残される。時間までは記録されず、ビル内の移動程度では変動しないが、ビルから倉庫までの距離なら変動が記録できる。
甲「(まあ、後でいいし、わざわざ1階にかけるほどでもないか)」
甲は電話をやめ、3階の資料室に入り、過去の工事ファイルを探した。資料室は廊下を出た先にあり、移動式の本棚にファイルが収められている。目当ての本棚と本棚の間に入るには、本棚にあるハンドルを手動で回して横に動かす必要がある。
この日の配置は最初、BC間が開いていたが、CD間を開くために、甲がC列の本棚を左へと移動した。
その頃、丙は携帯を置いてトイレに行っており、電話に出られなかった。
10時16分から18分にかけて、乙はコンピュータ室で、プログラム処理が終了し、複数の結果ファイルが作成された。乙は結果ファイルを見てその意味を考えていた。
乙「(何でこんな結果に…?後で試験機を見て確認しよう。何か干渉したかもしれない)」
丙「(いかん、30分くらい前に着信あったのに今気づいた)」
10時45分、丙は自席で甲に電話をした。
丙「総務の丙だ。おつかれさま」
甲「おつかれさまです」
丙「今いいか?さっき電話があったようだけど」
甲「あ、はい。スキャン取り直して再アップロードしましたのでよろしくお願いします」
丙「承知した。確認して処理しておく」
甲「それではお願いします」
電話が切れ、パソコンで旅費処理の仕事に取り掛かった。ほどなくして説明会が終わり、同僚たちが戻ってきた。
部長「ご苦労さん、何かあったか?」
丙「特にありません。旅費処理の再提出があったくらいです」
部長「そうか。ならいい」
部長は席に戻っていった。
同僚「おい丙、背中汚れてるけど、どしたん?」
丙「本当に?」
丙は上着を脱いで裏を見た。黒い埃のようなものが背中の部分についていた。
丙「(この線状の…もしかして…)蜂を出すために窓を開けたから、その時についたかな」
同僚「ああ、ブラインドか。汚いねんな」
丙「コロコロで取ってこよ」
同僚「それで取れるか?」
丙「いくらかマシだろう。帰ったら洗う」
丙は更衣室に行き、自分のロッカーからコロコロを取り出して、服の汚れを取った。背中側からは黒い埃のような汚れが取れ、多少マシになった。ついでに前の方を取ると、青い粉末状のものが取れた。
完全には取れなかったが、ある程度取れたため、丙は更衣室を出て自席へと戻り、仕事に戻った。
同時刻、甲はファイルを資料室の机に広げて記録を確認していた。ここにないデータについては、どのデータが社用サーバーのどこにあるか記載を読んでメモを取っていた。
11時頃、乙はパソコンの画面を消して、机上に操作禁止と連絡先を伝える紙を置き、立ち上がった。
乙「(安全靴は…、…運ぶ訳じゃないから履かなくていいか。鉄板が鬱陶しいんだよな、それに守られているとはいえ)」
乙はそのまま下に降りて、倉庫の試験機を見に行くことにした。
11時頃、甲は作業着のジャケットを上に着て、事務所の裏口から出て倉庫の西側の扉から倉庫へ入った。裏口を通った時刻は10時57分。翌週の出張に出かける道具を集めていると、ライフジャケットが置き場に残っていないことに気づき、持ち出し表を確認しようと作業場に足を運んだ。
すると機械に潰され、首や背が折れて血を流して倒れている被害者を見つけた。ふらつき、近くの壁にもたれて座り込んでいると、試験機を取りに来た乙が近くを通りかかり、甲を起こし、通報して事件が判明した。乙が裏口を通った時刻は11時5分。
その後、警察の捜査が入り、10時頃に死亡していたことが確認された。死因は頭の上から落ちた重量物に押され、首の骨が折れたため。重量物は、ある試験機で約20kgの四角い箱の形をしている。試験機の底には2階の手摺と同じ塗料が付着していた。
10時頃に1人でいたため、アリバイの無い甲、乙、丙の3人が最終的に容疑者として残った。
3人とも倉庫に入ることは頻繁にあり、靴の裏には錆がついていた。特に、乙と丙は本人の説明によると、つい最近新調した靴であるようだ。それを裏付けるように、2人の靴裏の溝の最深部には他の職員の靴と比べ、錆があまりついていなかった。代わりに、ゴム部分に横に境界線が引かれたかのように、錆が付着して色が変わっており、その境界線は丙の方が乙よりも明確に深くにあった。
被害者はこの会社の社員で、予定表には今日明日と作業場で機械への結線作業であった。
緞帳が降り、双子が両側から出てきた。
「ん?」
『物語はここまで』
『この先はないわ』
『それでは問題。犯人は誰でしょう?殺害方法は?』
『これは例題だから動機は問わないよ』
答え合わせは次の回