雪の中にて君を待つ
それは、まだ暑い、夏の日の事でした
これは、まだ暑い夏の日の事。
山に囲まれた村がありました。
と言っても、あまり知られていない、山奥のひっそりとした村でした。
村には子供などおらず、活気の無い、暗い、よく分からない村なのでした。
その気味の悪さから、その村に近づく者など一人たりとも居ないのでした。
さて、その村の近くに、大きく聳え立つ一つ山がありました。
その山はたいそう不思議な山で、四季を問わず雪が降っているのです。
そんなに不思議な山なのですが、村人は不思議に思ってもいませんでした。
村人達は皆、「あの山には雪の神様が住んでおらっしゃるのだ、だからずっと、雪が降っているのだ。」
と、口を揃えて言うのです。
そんな事を村人達は口を揃えて言うものですから、他の者からしたらよりいっそう、気味悪く感じたことでしょう。
そんな不思議な山、名を「雪神山」と言いうのです。
そんな名前なのですから、「雪の神様がいる」と言う事は本当かもしれません。
さて、その「雪神山」、幾つかの噂があるのです。
「あそこの神様は人間をたいそう嫌ってらっしゃる」だとか
「その山の山頂に登れば、神様がお怒りになって、殺されちまう」だとか
その中でも、一番有名だったのは
「あの深く積もった雪の下には一面、死体が埋まっている」
という物でした。
ですが、雪神山に足を踏み入れる者など居ないので、噂は嘘か誠か分からないのでした。
そこで一人、ある男が言いました。
「俺があの山まで登って、その噂が誠か見てきてやる」
その男は、村の中で一番に若く、そして罰当たりな男でした。
神様や仏様など信じず、いつも悪行を働いていた、そんなに男でした。
ですから、その男が、「登ると殺されてしまう」と言われている山に登ると言っても、止める者など居ませんでした。
それ以前に、誰も登るという事を信じてさえいなかったのです。
勿論、男も登る気など最初からありませんでした。
ですが、村人達のその対応を見て、腹を立て、本当に登ってしまったのです。
それが、まだ暑い、夏の日の事でした。
大きなシャベルを担いで山頂まで登った男は、当たりをぐるっと見渡しました。
どこを見ても、一面白銀の世界。
唯一目立つものとすれば、帰る道標として、自分の足跡が続いていただけでした。
男は最初こそ殺されないか、と言う恐怖に怯えていましたが、時間が経つにつれ恐怖心も薄れ、最後には得意げに鼻を鳴らして、スコップを手に持ちました。
男は適当に目に付いた所にスコップを突き刺し、掘り始めました。
男が掘り進めていると、コツンとスコップが硬い何かに当たりました。
男は一度ブルっと身震いをして、少し怯えた表情でその周りを掘り始めました。
すると、その「何か」が姿を現しました。
それを見るやいないや男は「ひぃっ」と悲鳴をあげました。
そこには、人なのか、獣なのか、はたまた妖やその類なのか、分からないほどの物があったのです。
骨と皮だけになった、ミイラと言うのでしょうか。
その物の顔のようなところには、大きく開かれた口のような何か、異常に高く伸びた鼻のような何か、大きな黒い穴が二つ、ぽっかりと空いていたのです。
それを見た男はもう、正気を保ってはいられなかったのです。
男は突然、気が狂ったように当たりを掘り返し始めました。
自分が見たものが、夢であったと思いたかったのか、それとも他にも同じような物があるのでは無いかと言う好奇心なのか、何故かはわかりません。
辺りを一通り掘り返した後、男はその場に力無く座り込みました。
男の視界いっぱいに広がる地獄のような光景。
赤子の様な物から、大熊の様な大きな物、どう見ても人とは思えない様なおかしな形の物まで。
男は、ここでようやく、我に返ったのです。
男は立ち上がり帰る為、辺りを必死に見渡しました。
けれどもどうした事でしょうか。
目立つものはどこを見ても無く、それどころか唯一の道標としていた己の足跡さえも、無くなっていたのです。
男は絶望の叫び声を上げ、一直線に走り始めました。
走り続ければ、山から降りられると思ったのでしょうか。
なんと浅はかなことでしょうか。
男は走り続けました。
日が暮れても、足を止めることはありませんでした。
次第に雪も降ってきて、肌寒くもなって来ました。
男は凍えながらも、走り続けました。
ですが、幾ら走っても、終わりが見える事は無いのです。
男は最後、力無くその場に倒れ込みました。
倒れた男に、追い打ちをかけるように、雪が降っていました。
男はもう、立ち上がることは無く、男の上にただ、雪が積もっていくだけでした。
これが、まだ暑い、夏の日の事でした。
閲覧誠にありがとうございました。
人によっては、残酷な描写があったかもしれません。
すみません。