痛み
白米に塩おかけて食べた。珍しがる人もいるが、塩むすびがあるのだ。変ではないはずだ。
今日も億劫な1日が始まった。
暑すぎず寒すぎずの中、見慣れた通学路を歩いて行く。毎日すれ違うウォーキング中のおばさんにすれ違い信号を待って渡る。木の棒を振り回しながら走って行く小学生にイラつきを覚えながら高校にたどり着く。永遠に着かずに何処かで彷徨い、歩き続けていたいとすら思った。教室に着くと昨日見たドラマの話で盛り上がっているカースト1.5軍くらいの女子集団の横を通り席についた。斜め前で答えを隣に今日提出の課題を進めている野球部がいる。
「おはよっ」
同じクラスの鈴木、下の名前は知らない。クラスでどこのグループにも属せなかったようで、いつも1人の俺のところへ来る。話し相手がいるのは悪い気にはならないが、気が合う訳でも無ければ共通の趣味がある訳でも無い。
それに___
まぁ、これは別にいい。
「あぁ、おはよう」
そこから、中身の無い会話をして1限が始まった。
昼休みになって鈴木と弁当を食べていた。
「空ぁ〜くぅ〜ん」
奴等はいつも通りやって来た。2組の彼らに呼び出され、教室が騒つく。クラスでクスクスと笑っている生徒もいれば、可哀想と小馬鹿にして話している生徒もいる。
鈴木を横目で見ると、歯を食いしばって、箸を強く、強く握りしめていた。
まぁ、期待はしていない。
2人組の男子生徒について行くと、人影の無いところで少し小太りな男が切り出す。
「昨日さあ、ゲーセン行って金無いんだよねー。頭の良い空くんならわかるよねぇ?」
ニヤリとしながら男が覗き上げてくる。
「先週貸したやつも返ってきて無いんだけど___」
「あ?」
男の目付きが変わり、心臓がビクンと跳ねるのを感じながらも恐る恐る続ける。
「それに、ホントにもうお金がなくて___小銭もまともに無いから___」
いつもなら素直に渡してやり過ごしているが、今回ばかりは用意出来なかった。文字通りの一文無し。もちろん使ったなどではなく、彼らに持っていかれたからだ。
すると、後ろでずっと黙っていた、もう1人の生徒が前に出てくる。何かスポーツをやっているようで肩幅も大きくガタイも良い。当然のように俺が見上げる形になる。制服の上からでも分かる筋肉の膨らみに圧迫感を覚える。
その時だった。ヘソより少し上に重い衝撃が走り軽々と後ろへ吹っ飛ぶ。
「うううううう___ッ!」
殴られた事を理解しジワジワ痛みが襲って来る。そこからは覚えていないが、ひたすら腹、顔を殴られ続けられる中、急所を防ぐことを無意識にやっていたのだろう。
「ウッ__。」
気がつくとアザだらけの体と血塗れの服で、地面に這いつくばっていた。口の中が切れ、血の味と混じって口の中の不快感はこの上なかった。肋骨にヒビが入っているのか下手に息を吸ううと胸に激痛が走り、その度にうずくまった。
しばらく、うずくまっていたが視線を感じ辺りを見ると、物影越しに鈴木がこちらを見ているのに気がついた。寄ってくる事も声をかけてくることも無かったが、悔しさと自分への皮肉に満ちた顔でそこに立っていた。
期待はしていないつもりなのに、その表情と態度にイラつきを覚える。後悔するくらいなら行動して欲しかった。自分に罪悪感を感じるなら、一度でも声をかけてほしかった。彼と時間を共にして、彼の人間性の良さを知ってしまえばしまう程、彼に期待しその度に絶望した。
そして、何より彼に助けを求めてまう自分に嫌気がさした。彼の人間性を理解し、彼を認めているくせに友達とすら思っていない自分は、人に何かを期待して良いほど偉い人間では無い。彼に心を開いていないのに助けを求めるのが間違っているのだ。彼に助けてもらう道理が無いのは当然だった。
俺はビビりだ。この仕打ちを見れば奴等を2、3発殴り返しても誰も文句は言わないのだろう。しかし、俺は人を殴る勇気なんて無かった。それは優しさでは無い。ビビりなだけだ。それにやり返したら更に奴等に殴られるのだろう。親や教師に言おうものなら殺されるのではないか。そう考えるだけで何か行動を起こすことなど出来るはずもない。拒絶すべきこの環境から抜け出す事にビビり、逃げるべき事から逃げているのだ。
だから、俺はまた逃げるのだった。
この環境、世界から逃げるのだった。
不良少年らにボコられ鈴木からも逃げるようにそのまま学校を抜け出し、駅前まで来ていた。そろそろ昼休みが終わる頃だろう。痛みに涙ぐみ、鼻水を垂らしながら、途方に暮れ歩いていた。犬の散歩をする女性に心配した顔で声をかけられたが、無視して歩き続けた。自分の情け無さと客観視するまでもなくダサい自分に憤り覚え、
「死にたい。」
そうつぶやいた。嘘偽りなく本気で。
本心でつぶやいたが、ビビりな俺に自殺する勇気があるわけもない。むしろ都合が良かったのだ、
視界が。世界が歪んだと気がした。
それと同時に周りが暗くなり上をみあげると、工事中のビルから鉄骨が降ってきて俺は簡単に潰されるのだった。
そう、俺、古市空はあっけなく死んだのだった。
気付いたらそこは森の中だった。
「は?」
ジメジメして見るからに食べては行けなそうなキノコがいくつも生えていた。至る所からガサガサと音がなりたくさんの木の根が絡まり合って、まるで大きな生き物の体の中にいるようだった。
体に違和感があった。
「傷が、無い___?!」
不良少年に殴られた傷、ヒビすら入っているだろうと思っていた肋骨まで痛みが無かった。
「俺、何してたんだっけ?」
奴等にボコられた後の記憶がボンヤリしていた。建設中のビルから鉄骨が降ってきてヤバいとかんし、そこからの記憶が無い。どうやって俺、ここまで来たんだっけ?いくら考えても思い出せなかった。
ここに居ても仕方ないと、少し怯えながらも森の中を進んでいくと奇妙なことに気付く。
「なんだ__この動物___」
そこには、テレビや図鑑でも見たことがない生き物がうじゃうじゃと居た。
翼の生えたカエル、ツノのあるウサギ___。
それは漫画や架空の物語に出てくるような動物ばかり。
その中には当然人間を襲うようなものもいるのが当然だろう。
「ウォォォォォォォォォン」
雄叫び、殺意の混じった発狂のようなものにすら感じる。
狼のような鳴き声が鼓膜に鳴り響いてきた。
恐怖を感じ、その場から走り出そうとしたその時だった。
「◎$♪×△¥●&?#$」
何と言っているか分からなかったが、声質的に女性の声だったのは間違いない。さっきの鳴き声の動物に襲われているのだろうか。
「ヤバいんじゃね?」
そう思った瞬間だった。後ろに殺気を感じたのは。恐る恐る振り向く。そこには3匹の犬か居た。いや、訂正しよう、それはれっきとした獣。魔物だった。
自分が知り得る限りではドーベルマンが1番近いだろう。しかし自分の記憶にあるそれとは程遠かった。比べるまでもなく自分の腿より太い4本の脚。自分の掌程のある牙に肉を引き裂くために成長した爪。一瞬で死の淵が迫って来るのをかんじたが、その頃には3匹の犬がうねうねと蛇行しながら走ってきた。どうやら知能も狩りをするために育っているようで自分が返り討ちに遭わないように獲物を襲う術を心得ていた。
一瞬の出来事に走り出すことすら出来ない俺は、1匹に足を噛まれ倒れ込み、1匹にみぞおち、1匹には頭を覆い守っている腕にかじりついてきた。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーーっ!」
痛い。その痛みは不良どもに殴られたのとは訳が違う。奴等が脅しだとするならコイツらは食事。命と命のやりとり。遠慮されることなどなく、飢えた獣たちは、俺の肉を引きちぎろうとしていた。
そして、想像を絶する痛みに発狂している俺に飛んできたのは華麗な一閃だった。
3匹相手に1振り。
その細い腕から飛び出たとは信じられない程綺麗な一撃だった。
その一撃に3匹の魔物の首が吹き飛び、いとも簡単に絶命した。
そしてフワリと柔らかくその場に着地したのだった。
長髪で月のように静かで可憐な少女がそこに居た。
はじめまして。
アニメ好きの人間がちょっと自分の小説書いてみたくなったっていう結果の作品ですが、精一杯頑張りますので、この先も読んで頂ければ幸いです。
物語は序章の序章ですが、月に1、2本くらい出せればと思います!