9 マリア
「なああんた」
「え、私ですか?」
次は迷宮に潜ると聞いて準備をしていた。
マリアはギルドで討伐モンスターの特徴を調べていた。
「俺はカイル。B級冒険者だ」
「同じB級の冒険者さんでしたか。はじめましてマリアベルです」
「ってもこないだB級にあがったばかりだけどな」
「そうなんですね。ふふ、おめでとうございます」
「……なあ俺と組まないか?」
「え?」
パーティーのお誘いとは思わなかった。
「ごめんなさい。私は勇者パーティーの属しているから…」
「まあ、だよな」
「知ってて誘ってくれたんですか?」
「そうなる。…パーティうまくいってないんじゃないか?」
「ふふ、そんなことないですよ」
「…だな、悪いな時間とらせて。俺は今、新人の連れと2人パーティなんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、エリーっていって少女だけど見所があるやつなんだ。マリアベルは魔法が得意だろう?俺は魔法はできないから少しでも教えてやれる人を探してたんだ。まあまた縁があったらよろしく頼む」
行ってしまった。
かなりできそうな人だ。
仲間のために仲間を探しているのかな。
…なんかいいな。
はっ。
待ち合わせに遅れてしまう!
急いで向かった。
☆★☆★☆★
勇者パーティーは迷宮の50階層に無事辿り着く。
ここにはボスがいる。
風属性、サファイアドラゴン。
ここまでは順調だったけど……
このドラゴンは強い。
ドラゴンの体躯に強力な風属性の魔法。
ただ装甲はドラゴンの中ではやや打たれ弱い部類になる。
「作戦はこうだ。一人が囮になって注意を引く。その間に残り4人は力を貯める。
全員一斉総攻撃で倒す。やつはそれほど装甲が高くないからうまくいくはずだ。
囮役は、マリア、君にやってもらう。囮役兼一斉攻撃のときのバフ。
これは君にしかできないんだ」
「うん。わかったよ。なんとか耐えてみせる」
「頼むわね」
「頼むぞ」
「頼みます」
「みんな、いくぞ!」
私は自分にバフをかけサファイアドラゴンの眼前に立った。
みんなは力を貯めている。
ユウトさんはオメガサンダースラッシュ。
トクナガさんは強靭無敵斬鉄断。
アリスさんはフレアストームテンペストバニッシュ。
ヴィアさんは光魔法、グランドディヴァインジャッジメント。
ぐ――!
強い。
本来1人で相対するモンスターじゃない。
爪や牙、尾の攻撃はすべて避ける。
僅かな隙を突いて少しずつ剣で傷を負わせた。
だが、私は押され始めた。
収束した雷撃ブレスを自分の雷魔法で相殺した。
消しきれなかった分は食らってしまった。
とうとう避けきれなかった尻尾が当たってしまった。
隕石に体当たりされたかのようだった。
雷の剣が無数に降り注いだ。
みっともなく転がって避ける。
いくつかが刺さった。
貫かれたところが傷ごと肢体を焼き感電した。
「まだですか…!?」
振り返る余裕はない。
自費で買ったポーションを何本も頭からかぶった。
魔力回復も飲んで尻尾攻撃を避けた。
早い動きで跳躍し、炎のまとわせた剣でドラゴンの目玉を突き刺した。
翻った空中で紫電の光閃を放った。
それは口の中に吸い込まれた。
サファイアドラゴンは怒って反撃してきた。
3連続ブレスを放った。
最後のブレスがどうしても相殺も回避もできず食らった。
焦げ付いた体で地面に転がった。
尻尾が叩きつけられ私を潰した。
剣も私の体も折れた。
それでもバフは最後の力でかけた。
「今だ、みんな!」
ユウトさんの号令で一斉攻撃された。
4人の最大攻撃が全部サファイアドラゴンに吸い込まれて、
光が収まったときサファイアドラゴンは力尽きて倒れていた。
や、やった…
倒したんだ。
「みんな、やったな!」
みんま大喜びして魔石と素材を回収している。
私は尻尾に麻痺があったのか痺れて動くこともできなかった。
勇者のユウトさんが近づいてくる。
「マリア、君のおかげだよ」
「よかったです…あの回復を…」
「ああ…マリア、みんなで話したんだ」
え?みんな帰る支度している。
「これから戦いはもっと激化する。命がけなんだ。
魔王が復活する兆しもある。激しい戦いについてこれない君に、
資金や素材をこれ以上君に回す余裕はないんだ。すまない、
君とはここでお別れだ。マリア今までありがとう。」
え?
呆然とした。
サファイアドラゴンを一人で相手して半分減らしたのに?
「ユウトさん…え?み、みんな…」
「君のことは語り継ぐよ」
ユウトさんは悪い顔をしていた。
凱旋さながらの勇者パーティーはほんとうに行ってしまった。
ほんとうのほんとうに。
回復もしてくれず、
酷使するだけして、
使い終わったら消耗品のように、
自分たちの都合で、
打ち捨てられた。
それが勇者の所業なの?
迷宮のサファイアドラゴンが時間と共に消失した。
自分も消えるのだろうかとぼんやり考える。
はは、は…
私は
私は死ぬんだ。
ってか死ねってこと?
はは、は…
私は
私は絶望して目を閉じた。