6 カイル
あれ
俺は、どうなった…
生きてる?
「……気づいた?頑丈な体ね」
首も体も動かなかった。
視線だけ動かす。
声の主が馬車で一緒だったエリーだとわかった。
「おま、え」
「手持ちのポーションはもうない。全部使ってしまった」
「なんで」
「このままだとあなたは助からない」
俺は行けと言った。
助からないのは自分が一番よくわかってた。
俺はありがとうと言った。
「エリー…もういいありがとうな」
エリーはバッグから腕輪をふたつ取り出した。
それを自分の両手首につけた。
それは力の腕輪だった。
「これは力の腕輪。わたしがあなたをここから街に運ぶ」
な、なんだって?
もううまく喋れなかった。
「黙ってなさい」
小さな少女の体が男の俺の体をおぶった。
腕力を高めたエリーはくっと呻いた。
元々が非力なんだ、無茶だ。
だが、足を引きずりながら歩き始めた。
俺は半分意識を失いかけながらずっと見ていた。
エリーは引きずって歩いた。
歩いたんだ。
無理だ。
俺の心の声だ。
そこまでする理由がないだろ。
俺は金持ちじゃねえんだぞ。
なんでだ。
なんでだ。
小さな肩と背中に背負われ、彼女の体温を感じる。
細い足のどこにそんな力があるんだ。
夢でも見ているのか、俺は助かるのか?
ほんとうに俺をおぶって街に向かっている。
日が暮れつつある街の城壁。
そこに向かって一歩一歩エリーは歩いていった。
そうしてやっと近づいたとき、兵士に気づいてもらった。
エリーはそこで始めて力尽きた。
俺は兵士に救助され、エリーも救助された。
九死に一生を得た。
終わっていた命を救われた。
この少女に。
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