1 エリー
わたくしはエリザベス・ディディアン。
親しい方からはエリーと呼ばれる。
ディディアン家の爵位は侯爵。
父ハロルドは王家に仕え、母ソフィアはメインズ伯爵のご令嬢。
領地を持ち、王都にも家を持つ。
わたくしは侯爵令嬢。
お父様お母様の最初の子供で、
容姿も端麗ですごく愛されて育った。
そう、そうよ。わたくしには輝かしい未来が待っていた。
躓くこともなく幸せになれる選ばれた子供だったのよ。
華々しい社交界デビューを果たし、たくさんの素敵な殿方から想いを寄せられ、
王子様と公爵ご令息様と騎士団長ご令息様に取り合いをされ、
大恋愛の末、一生忘れられない婚約をし、皆に祝福されて。
大好きな旦那様に尽くして、わたくしはずっと愛され続けるの。
けれどそんな未来はどこにもなかった。
お母様は嬉しそうに言った。
あなた、お姉ちゃんになるのよ。
わたくしに弟ができた。
嬉しくて暖かくて誇らしくて、でもそれは最初だけだった。
我が家に嫡男が生まれた。
それが崩壊の序曲のスタートだった。
お父様もお母様も親戚も王家もわたくしも喜んだ。
その喜びがどういう意味かも知らず、何も知らず、わたくしは喜んでしまった。
この先に待っている未来を知らないから喜べたのだ。
10歳になると、教会で神様からその者の才と適正をお告げいただく。
才とは、その者の特異な能力のことで、
適正とは、その者に対する魔法と精霊の向き不向きである。
そしてわかってしまったのだ。
わたくしエリーは、平民以下のなんにも秀でたところがない子供だということが。
神のお告げにより、神聖な査定の結果、最愛の両親の期待を裏切った。
その時の両親の顔は忘れられない。
見たことがない表情で失意の、悲痛な、驚愕した形相。
わたくしは振り返って両親を何度も見た。
公衆の面前で言い訳できないくらい自分の子供が恥を晒して笑い物になっている。
その日からわたくしの世界は変わっていった…………