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第8話 二つの道が重なるとき、全ての辻褄が合う。

視点変更多めです。ご了承くださいませ。

「戻った」

「うわびっくりした。窓から来ないでよ」

「張られているであろう公爵令嬢んちに、玄関から入るか?」


 エーデウス公爵令嬢の家に窓から戻ると、客間にティリスがいた。寝起きのようで、髪はくしゃくしゃ、服もひどい有り様だ。しかし特に気にした様子はない。

 社会不適応じゃない。単にズボラなんだなこりゃ。


「もう大丈夫なのか?」

「いやすごいよ公爵令嬢んちのベッド。ふっかふかなの! ふっかふかでふっわふわ! 温かいとかそういうのじゃない。こう、包み込むような、優しさ? 優しさを感じるの……ベッドからよ? 魔道具かもしれん……」

「寝具はいいの使ったほうがいいぞティリス。パフォーマンスに影響するから」

「で?」

「簡潔に言うと、犯人は元伯爵令嬢のストーカーが中心の、過激なファンクラブ。で、国外の犯罪組織が裏にいるわ。現地組織と提携して、ここに進出しようと密約を結んでたみたいだな。こっちじゃなにも動いてなかったせいで、見逃しちまった」

「向こうの担当幹部が獲らぬタヌキの皮算用してて、にっちもさっちも行かなくなって、強行手段にでた。ってとこ?」

「派閥争いの最中だったみたいだなぁ。タヌキが取れなかったら……」

「代わりに自分の皮を剥がれるってわけね。ところでタヌキって?」

「東の方にいる、希少種らしいぞ。で、まー来てみたらつながりあった現地の貴族も組織も軒並み消えちまってるー!?ってことで。致し方なく、公爵令嬢に恨みを持つファンクラブに目をつけた」

「これさー、そんながんばらなくてもよくない?」

「裏のを掃除して、幹部捕まえて、あとは公爵令嬢様にお任せだなー」

「ファンクラブの人らは利用されただけだしねー」

「隣国との交渉も必要だし、真っ当なレベルまでだわ」

「雇われてた山賊の拠点も衛兵に通報済み。アタシ、もう一眠りしようかな」


 そんな弛緩した空気の中、クレア・エーデウス公爵令嬢様が血相変えて飛び込んできた。


「ああ、まだお見えでしたわね! 良かった」

「なんかあった? 公爵令嬢様」

「実は、ラリー様に緊急扱いで書簡を飛ばしたのですが、不在通知が戻ってきまして」

「え、なんで?」

「ざっと情報を集めてみましたところ、行方不明のようなのです」

「はあ!?」

「しかも自主的なもののようでして……」


 話を聞くと、どうやらラリーたちは俺が抜けたあと、すごい勢いで仕事をこなし、さらにミノタウロスの大襲撃をたった3人で撃退したらしい。

 その栄誉を讃えようってことで勲章授与式が開催される予定だったのだが、その主役のラリーたちが、いきなり蒸発してしまったようなのだ。


「えええええ、ラリーたちすごいじゃん!」

「やっぱなー。アイツラならこんぐらいできると思ってたんだよ俺は」

「感慨にふけらないでくださいます? 由々しき事態なので」

「ごめんごめん。でもアタシじゃ心当たりはないなー。ケーティちゃんならわかる?」

「ちゃんをつけるな」

「ううん、自主的なものでしたら、なにかトラブルでしょうか……」

「……あ」


 * * *


 ワシが宿につくと、スミロとラリーは既に調査を終えておった。

 確かに宿のベッドは血まみれじゃし、焦る気持ちも分からんではないが……。


「なあ、ワシ思うんじゃが……」

「ああ、分かっている」

「ほんとかのぅ」

「想定外の事態が起こったようですね」

「なんも分かっとらん」

「出血量が多い」

「いや重い子もおるじゃろ」

「血痕から見て、処置も満足にできていないことが伺えます」

「知らんかっただけじゃないかのぅ」

「落ち着け、ドボルク」

「ワシ多分落ち着いとるほうじゃと思うこの中じゃと」

「根拠はあるんです。緊急と判断するに足る根拠は」


 ラリーとスミロは、深刻な表情でそう告げる。もしかしたら、と思わずにはいられない、そんな雰囲気が漂う。

 不味い、ワシ、流されつつあるぞ。じゃが、本当に危険なら……。


 * * *


「ああ、なるほど、血まみれのベッドをそのままに」


 呆れた顔で、エーデウス公爵令嬢様が俺を見る。


「だってさぁー女の子がそんな苦労抱えてるとか、俺じゃわっかんなかったんだもん!」

「可愛く言っても地獄の発生は止められないけど」

「かわいく言ってねえ!」

「宿では前の冒険者証をご使用なさったのですね……」

「まあしばらく活動してたからね。ご近所では有名だよ俺の美少女化」

「嫌な有名さだ」

「俺もそう思う」

「とは言え、チェックアウトはしたのでしょう?」

「あー……」


 * * *


「どうやら敵は扉から侵入してきたようですね」

「町への被害を考え、一旦窓から飛び出した、というところか」


 窓は、内側から破られておった。これがラリーたちが緊急だと判断した理由らしい。


「ドボルク。オレたちもお前の懸念は分かる」

「ほんとかのぅ」

「いわゆる女の子の日でしょう? 彼女が美少女になってから、僕もちょっと調べました」

「普通のこと言っとるだけなのになんか不穏なんじゃよなお主」

「逆に言うとだな。オレやスミロが知ってることを、あいつが知らんわけがないってことだよ」

「まあ……そうかもしれぬ」

「例え知らなかったとしても、窓を破って逃げる理由が分かりません」

「誰か、あるいは何かから逃げた、と考えるのが自然だろう?」

「う、うむ……」


 だ、駄目じゃ、否定できん。

 むしろワシの推測こそ、なんの根拠もない憶測に過ぎなくなっとる。


「よし、方角は絞れました。追えます」


 どうやらワシが来るまで待っていたわけではなく、スミロの探知魔術の結果待ちだったらしい。

 どちらにせよ追うのはありじゃし、行くしかないんかのぅ……。


 * * *


「窓ぶち破って出たわ」

「お前……」


 ティリスが、もう完全に呆れ顔で俺を見る。エーデウス公爵令嬢に至っては、可哀想なものを見る目だ。


「しゃーねえだろ!? あのときは感染型呪詛を疑ってたんだ! 誰にも接触できねえって思っちゃったんだよ!」

「扉から入って、抵抗されたので、強引に窓から連れ去った、と見えなくもない状況ですわ……」

「でもそれなら、その宿に向けて手紙送ればいいんじゃないの?」

「駄目だ。スミロがいる」

「ああ、じゃあアタシんちに送れば?」

「ティリス。自分の家の状況を思い出せ」

「あ」


 * * *


「何かありましたね」

「何かあったな」


 ティリスの家は、扉がぶち破られ、床には血痕があった。

 金目のものはほとんど持ち去られており、争った形跡すらある。


「ティリスの探知結界を抜けている。凄まじい手腕だぞ」

「異能力持ちかもしれませんね……」

「い、いや、あやつは探知結界の例外登録されとるし、1人で来たんじゃないかのぉ……」

「ドボルク。お前が納得できない気持ちも分かる」

「結界を抜けるのは、並大抵の技量ではありません。僕でも、たぶん彼女でも無理でしょう」

「そんな相手が居るとは想像できんのじゃが」

「しかしだ。ならばなぜあいつは、森を抜けてきているんだ?」

「探知呪文で詳細に足跡を追ってきましたが、常に街道から離れた、森の中を移動してきています」

「人目を避けるだけならここまではしない。被害を他人に広げないようにしているフシがある」

「僕らでなくティリスを頼ったのも、同じ理由でしょう」

「しかし魔術でよくそこまで分かったのぉ」

「最近かじった呪術も組み合わせてみました。彼女の毛髪を、数束確保済みでしたので」

「備えあれば憂いなし、だな。後で何本かくれ」

「嫌です」

「正気に戻ってくれお主ら」

「ギルドでも、森を高速移動する『なにか』の調査依頼があった」

「依頼情報の『黒く長いなにか』も、彼女の髪の毛の長さと合致します」


 こ、こやつらの説、一切否定できん。ワシは無力じゃ……。


「一刻も早く向かわねばならん。ドボルクの言う通り、想像もできない相手が、あいつを追ってるんだ」


 * * *


「やっばー。扉ぶち壊れたままで、血も片付けてないわ」

「しかも金目のもの、洗いざらい持ち去ってる」

「出しっぱなしにはできないし。アタシのこと知ってる人は察してくれるだろうし。どうせ戻ったときには建て替えるし。いっかーって思ってたけど……」

「しかもだな。俺はお前に脱がされるとき、数分ほど抵抗している」

「ばっちり争ったあとまであるー!?」


 エーデウス公爵令嬢の表情が『無』になりつつある。怖い。いや仕方ないだろこんなん予測できねえよ!


「では、ラリー様たちは、真っ直ぐにこちらへ?」

「そーなる」

「好都合ですわね」

「一概にそうとも言えない」

「なぜ? ちょうど人さらいをしそうな組織がございますわ」

「……うわ、濡れ衣?」


 ティリスの返答に、エーデウス公爵令嬢が笑顔で答える。

 なるほど、今、起きているであろう勘違いを実際に事件としてしまい、それの犯人に仕立て上げるわけだ。


「英雄がいるのですよ、英雄が! ラリー様がそれだけ焦っていらっしゃるならば、それはもう盛大に暴れてくださいますわ!」

「起きてもいない事件なのに……」

「哀れになるな、その組織が」

「哀れになるのはあなた方もですわよ」

「え?」

「なんで?」

「お膳立てはあなた方がするのですよ」

「え?」

「なんで?」

「今の状況を作り出したのが、ご自分たちのズボラさということを、ご理解していらっしゃらない?」


 無言で顔を合わせる俺とティリス。

 公爵令嬢は、笑顔でこちらを見ている。いや睨んでる。

 待て待て。事実としては俺たちのせいだが、不可抗力じゃないか? 予測不可能なことだろ?


「怒り心頭のラリー様の前に突き出すことも、出来ますが」

「分かりました」

「やらせていただきます」


 公爵令嬢の凄まじい笑顔の前に、二人揃って平身低頭即答した。

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