第5話 再会。あるいは魂と初恋の色について。
「まあ! あの時の盗賊様ではありませんか!」
「げぇ!? エーデウス公爵令嬢様!?」
「え、なんでなんで。どうして気づいたの?」
山賊ボコして、こいつらが狙ってたであろう大物を待ってたら、やってきたのは知り合いだった。ティリスは公爵令嬢ってとこより、彼女が俺が俺であることに気づいたのに驚いている。
初見の人間がいるのに気づいて、エーデウス公爵令嬢は、優雅にお辞儀をする。
以前会った時より洗練されてる。
貴族特有の、黄金と呼ぶにふさわしい金髪に、真っ白な肌。背は、今の俺より低いか? ごてごてと飾り立てたものでなく、上品ながらも簡素なドレスを着ている。
大きな青い瞳には、ちらりといたずらっぽい光が宿る。これが彼女のチャームポイントで、とても危険なとこ。
「お初にお目にかかります。グロー・フォル・エーデウス公爵が娘、クレア・エーデウスですわ。愛らしい魔術師様」
「あ、ど、どうも。ティリスです、公爵令嬢様」
「どもってんぞお前」
「うるせえー!? 公爵令嬢とか初めて会ったの! どもるわ焦るわ混乱するわ! 貴族で一番上だぞお前!」
「うふふ、肩の力を抜いてくださいませ、ティリス様。なんたって、あの盗賊様のご友人でしょう? 仲良くいたしましょう」
「あ、はい……」
うわ、ティリスがちっちゃくなってる。おもしれー。
「ところで盗賊様も、随分と、愛らしくなりましたね!」
「うわこっちきちゃったよ」
まあそりゃそうだ。今の俺は黒髪長髪の、15歳ぐらいの美少女。返り血と目つき以外に悪いとこねえって寸法だ。泣けてくるぜ。
「もしやこちらが真の……」
「違う。絶対に違う」
「あのねー。呪いで美少女になっちゃったんですよお嬢様」
「言わんでもいいんだよティリスお前はよぉー!」
「あらあらまあまあ! ところでラリー様は?」
「あ、そこ飛ばしちゃうんだ。え、でも、ラリー? なんでですか?」
「あー、そのへん含めて、座って話さねえ? おっさんどもに聞かせたくねえし」
「あら、そういえばそうでしたわね。この状況についても、お聞きしなくては」
そういうと、公爵令嬢様は、剛健な馬車の中に案内してくれた。山賊たちは、護衛が見張っていてくれるらしい。助かるね。
しかし、このお嬢様、前よりも肝が据わってねえか? 腕がひしゃげたりして唸ってる山賊たちを前にして、こうも世間話できるとはなぁ。まあお貴族様なんてのは、それぐらいが丁度いいのかもしれん。
* * *
「そうでしたか。ラリー様はお見えにならないのですね……」
「全部聞いての感想がそれ? このお嬢様、相当トんでるわね……」
「この世で一番お慕い申しているのです、ラリー様を!」
「やめたほうがいいんじゃないかなぁ。いや、ラリーはいい人だよ? でも冒険者だし、地に足つけないし、命救われたってだけで……」
「いや、ティリス、一概にそうとも言い切れねえんだよこの話だとさぁ」
「そうなのです! お聞きくださいますか、そう、あれは今からちょうど1ヶ月ほど前のこと……」
「ごめん公爵令嬢様。お話長くなりそうなので要点だけ」
「世が世なら不敬罪でぶった切られてるぞお前」
ティリス、距離の詰め方下手くそかよ。まあこのご令嬢だからこそか。
「ラリー様はですね。わたくしに言ったのですよ。『人は中身だ』と」
「どゆこと?」
「あー、あのな。エーデウス公爵令嬢は、魂が見えるんだ」
「まじで? え、すごい。だからアンタを一発で見抜いたのね」
「わたくしにとっては、人の中身などいくらでも見えているわけです。魂には人の本質が映ります。それなのに『人は外見じゃない、中身なんだ』とは! もうおかしくておかしくて……」
「ラリーはデリカシーねえんだよな」
「アンタほどじゃない」
「でも、それは正しかったのです。わたくしは、この能力にあぐらをかいておりました。魂もまた外見に過ぎず、本質とは程遠い。ラリー様はそれを見抜き、そして教えて下さいました。だから、今日、わたくしはまた、盗賊様にお会いできているのです」
エーデウス公爵令嬢は、お嬢様らしく、にっこりと笑う。事件については知っているが、ラリーが何をしてたかはよく知らない。ただ、帰る時、めちゃめちゃに令嬢になつかれてた。玉の輿に乗れば?といったら、年の差考えろと怒鳴られたっけ。令嬢は、不満そうな顔してたな。
「でも公爵令嬢様なら、狙われる心当たりはごまんとありそうね」
「わたくしが? 狙われる、ですか?」
「さっき見ただろ? 倒れ伏してるやつら。この道を張ってたんだ」
「そうすると、以前の残党でございましょうか」
「アンタ、根切りにしなかったの? 珍しい」
「した。一人も生かして帰さなかった。だがウジはどこからでも湧く」
「どこかに腐りものが残っておりましたのね。わたくしどもの不始末でしょう。お手を煩わせてしまいますわね」
「俺、今、冒険者じゃねえんだよ。だって、誰も俺だって分かんねえんだもん。本名名乗るわけにも行かねえし」
「あら、わたくしがいるじゃありませんか」
「マジで? 出してくれる?」
「それが報酬でよろしいかしら?」
「名前つけてくれよな。俺、女の子の名前なんて思いつかねえんだよ」
「あらあら、盗賊様の名付け親になれるだなんて!」
「待って待って。アタシ話についてけてない。状況を簡潔に説明して」
公爵令嬢はティリスを見て、にっこり笑って、こう言った。
「わたくしの敵を、塵一つ残さず、根切りにしてくださいまし」
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