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第4話 準備運動。あるいは情けや容赦が人のためでないことについて。

 アタシは美少女が山賊をちぎっては投げするのを、道端に座って眺めている。立っているのは15人ぐらいで、既に5人が地面に倒れ伏し、意識を手放してたり、唸ってたりする。

 戦闘はちょっとした均衡状態になっていた。倒れ伏した5人を見て、山賊は侮りを捨てた。距離を取りつつ、弓を取り出す。間合いは十二分に離れてる。いい選択だと思う。

 相手が普通なら。


 その矢をつがえる時間で、5人が倒れ伏した。あご、みぞおち、首。最後の2人は同時に地面に叩きつけられた。


 もしもがあるなら、あるいはいつものことなら、山賊たちは、まず矢を射かけて、それから襲い掛かっただろう。しかしまあ、絶世の美少女と、それなりにかわいい女子のアタシの2人しかいないのを見て、傷をつけたらもったいないと思ったんだろう。侮ったんだろう。数も多かったし。

 まーもう半分切ったけど。


 それでもなお仕留めきれなかった山賊たちの何人かが、矢を放つ。味方が倒れて、誤射の危険もない。


 だが少女は、跳んできた数本の矢をそのままつかみ取り、射手に投げ返した。嘘だろ。


 矢が、射手の利き手に次々と突き刺さる。信じられないものを見る目。アタシも同じ目をしてるんだろな。驚愕の表情は、すぐさま消え去る。美少女の顔面飛び蹴り。歯が飛び散って、すごく痛そう。


 もうその時点で、山賊たちは弓を捨て、斧や、剣を抜き始めた。今まで素手で捕獲しようなんて思ってたのが、まあそもそもの間違いだろう。お得意の近接集団戦法。数で圧倒していて、戦術のない戦闘では、まあまあ脅威。

 その剣戟の嵐を、ゆらゆら避ける。達人の回避を踊りに例える物語はよくあるけれど、実際には、揺らめく木の葉に似ている。もっと達人になったら、空気みたいに見えるって言ってたな。見えねえじゃんそれ。

 木の葉が揺らめくたびに、一人、また一人と倒れていく。剣も斧も、同時に、そして逃げ場をなくすように振るわれているように見えるのに、彼女にはかすりもしない。葉が揺れるたび、拳が振るわれて、腕がひしゃげたり、膝が逆向きになったりする。重たい。葉っぱの重さではない。あと容赦もない。


 いつの間にやら残りは3人となり、ほとんどが地面でうごめくなんかになっていた。斧を持ったボス猿……じゃなかった。山賊の首領っぽいのは、唸っていた。攻めあぐんでいる。考えなしなら、地面の奴らと末路は同じだ。


「そのツラで怯えるんじゃァないよ、大将。似合わねえ。こっちはちっちゃな女の子だぜ? この商売向いてねえんじゃねえかな」

「クソがっ!」


 長い髪をなびかせて、しかしその顔に似合わぬ口調で少女が挑発する。これでボス猿は覚悟を決めたらしい。剣の子分2人とともに、挟み込むように彼女に迫る。ボス猿が真っ直ぐ、子分2人は右から、左から。十字に切るのかな。見え見えすぎない?

 少女は待ち構えている。特に構えもしない。

 間合い半歩前まで近づいたとき、ボス猿が左手を振るう。キラキラ光るなにかがたくさん。それが少女の顔に当たると、細かく肌を切り裂いていく。

 ガラス片だ。

 同時に剣が2本、彼女に迫る。顔にガラス片を投げつけられたら、目を開いてはいられない。たとえ剣を避けても正面の斧には対処できない。少女は動かなかった。


 剣が空中でいきなり弾かれた。彼女が剣の腹を叩いたのだ。子分の驚愕の表情。目も見えないのに!?


 彼女は目を閉じていなかった。ガラス片がいくつか刺さっていて、すげえ痛そう。そのまま右の子分の懐に飛び込み、手刀をみぞおちに叩き込む。くの字に曲がって、また一人、地面に倒れ伏す。もうひとりの子分は動けないままだ。


 ボス猿は形勢不利と見て、一旦距離を取ろうとする。その前に彼女が懐に飛び込む。斧をふるおうとしてももう遅い。彼女のつま先が、ボス猿の股にめり込む。


 ボス猿の叫声は、子分の戦意を打ち砕くのに、十二分なぐらいデカかった。


 ボス猿を倒し終わった彼女は、私の方を振り返る。黒く長い髪は、よく晴れた日に照らされて、キラキラと輝く。笑みを浮かべて、こちらに親指を立てる。

 いいね。絵になるよ。

 中身が男だって知らなきゃな。


 アタシの名前はティリス。しがない魔術師で呪術師。そしてあっちのが……中身が男の、絶世の美少女。もう本名で呼ぶわけには行かないな。なんて呼ぶか、後で聞くか。


 * * *


「ぐわー。いてえー。ガラス片って、お前。信じらんねえ! 砂でいいだろ砂で……」

「砂じゃ駄目だったんでしょ、アンタみたいに目をつむらない狂人がいたんじゃない?」


 涙目の彼女の目から、破片を取り除いて、治癒をかけていく。よくまぁこんなん食らって動けたもんだ。鍛錬の賜物って言ってたけど、どんな修羅場くぐってきたんだこいつ。

 しかし泣いてる美少女が上目遣いって、結構母性に来るな。この呪い、思った以上に実害あるのかも。


「おい、顔怖いぞ。なんかやったか俺?」

「調子は?」

「あ、あー。身体強化は通りが良すぎるかも。やりすぎないようにするのが大変だった」

「あれで?」

「死んでねえだろ? 逆に、なんか飛ばしたりはやっぱ無理だわ。火弾使おうとしたんだけど、外から見てどうだった?」

「いや素振りにすら気づかなかった。いつ使おうとしたの?」

「詠唱省略だと変化すら起きてねえってことか。んじゃやっぱダメだな。飛礫術、復習しなきゃなぁ」


 と言いつつ、倒れた山賊たちの体を手慣れた手付きで探っていく。意識を失っているのも、そうでないのも縛り上げつつ、懐から何やら取り出すと、中身を開けて、納得顔。


「ほら見ろティリス。山賊の小遣いにしちゃぁ、ちょっと多くないか?」


 手に乗っかった金貨の量は、確かに山賊のは分不相応。大抵の賊は、全財産を持ち歩いている。本拠に置いとく勇気がないからだ。とはいえ、この金貨量だと、自分が賊に襲われてしまいそうだが。


「依頼?」

「ああ。誰かを襲おうってんで、ここで張ってたんだ」

「数も多い。大物狙い?」

「ってことで、しばらく待ってようぜ。で、謝礼いただこう」

「だから生かしといたの?」

「証人がいねえとな。言いがかりになったら困るし」


 ニヒヒ、と笑うと、年相応ないたずらっ子って感じだ。何やっても様になるから、美少女って得だな。くそ。ちょっと羨ましいじゃないか。

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