第2話 人生最大のピンチ
センシティブな内容が含まれます。ご了承のほど、よろしくお願いします。
別れて早々大ピンチだった。このレベルのピンチは、洞窟奥でドラゴンに見つかったとき以来だ。
いや、もしかしたらそれ以上かも。
俺には全然対処法が思いつかないし、原因もわからないからだ。もしかしたら、呪いのせいかも? 美少女になる呪いってだけだと思いこんでいたが、実はそうじゃなかったとか?
ないとは言えない。ラリーたちと別れてから1週間ぐらいか? 呪われてから3週間……この長い潜伏期間を考慮にいれると、感染型? 遺跡から戻り、都市部に来てから発動。
ありえる。
そう考えると、手段を選んではいられない。倦怠感はあるものの、幸いにして魔術は使える。
身体強化を使い、なりふり構わず森の中をすっ飛ばす。万一を考慮すると、街道は使えない。
しかしクソ長い髪の美少女が、森を馬より速く跳んでたとか、しばらく噂になるな……。
今回の条件は3つ。
1つ。都市部から離れた場所にいる。
2つ。魔術、医術、呪術に対する俺より広範な知識。
3つ。女性。
特に最後の条件が凄まじく難しかったが、人生最大の幸運を俺は手にしている。いるのだ。知り合いに。少々遠いのが難点だが。
* * *
「あのね。分かるよ。焦ってたのはね」
「はい……」
俺は正座させられて、女から説教食らっていた。
「扉ぶち破ったのは許す。ノックもせずに女性の家に入ったのも、ギリ許す」
「はい……」
女の名をば、ティリスという。魔術師で、薬師で、呪術師という、まー引きこもり三拍子揃ってるような構成だが、実際には明朗快活活動的。茶色の髪を短くまとめて、いつでも森に行けるような服装に装備。背は今の俺よりも高いが、多分女性の平均的よりちょっと上ってとこ。大きめの、くりっとした目が愛らしい。街にいればモテるんじゃないか。
「だけどね……」
「はい……」
しかしそんな彼女は今、ブチギレている。なんでかといえば……。
「開口一番『ち○ち○から血が止まらねえ!』はありえない!」
「他になんて言うんだよ!」
いや、今朝なんか体調悪いなと思ってたら、いつの間にか下半身が血でべっしょり濡れてんだから驚いた。すわ呪いか、魔術攻撃か!と焦って飛ばしてきたわけだが……。
「そもそもち○ち○ついてないでしょあんた今さぁ!」
「小便の穴っつったらち○こだろ他になんていうんだよ!」
「なに言わせようとしてんのよサイテー!」
「ち○ち○連呼してる時点でもう手遅れだわ!」
「あんたが連呼しながら入ってきたせいでしょが!」
「……………ホントだ。俺が悪いわ」
「分かってくれて嬉しいわ……」
がっくりと肩を落として、疲れ切った表情のティリス。いや、ほんと悪かった。でも血がドバドバ出てたら、誰でもビビるだろ。
「で、なんで、えーと、なんて言えばいい?」
「股から血が出てるかって話でしょ。まあ女性なら全然あることなんだけど……」
「俺男だよ。呪いで美少女になってるけど」
「つまり、そういうのも再現してるわけだ。え、キモい」
「今キモいっつった? 俺、被害者だよ? 労ってくんねえ?」
「扉蹴破られて卑猥語連発されたアタシも被害者です」
「すみませんでした」
「で?」
「女になって3週間。不便なところはあるが、身体的に異常はなかったと思う。で、今朝起きたらベッドが血まみれで、それでも血が止まらねえの。心当たりは呪いしかなかったし、呪術に心得のあって、女性で、しかも住居が人里から離れてるティリスを頼って走ってきた」
「アタシじゃなかったら気でも狂ったのかと思うぞ」
「俺も気が狂いそうだよ」
「3週間か……体見せて」
致し方ないので、言われたとおりにする。服を脱がされ、いろいろ見たり触ったりされる。身体は女性とは言え、心は今でも男のまんま。こうジロジロ見られると、少し恥ずかしい。いや、これ男女関係ねえな?
「うーん、その顔で恥じらわれると、ヤバいわね」
「キモい?」
「惚れそう」
「は?」
「汚物見る目すんなや。そんな趣味ないわ」
「お前の頭にゲロ吐くとこだったわ」
「ラリーたち、よく我慢してるわ」
「いや、もう外れた」
「あー」
「やっぱそうなのか? そんなやばいのか?」
「あんた自覚ないけど、いいやつなんだよね……」
「男なんだけど」
「美少女じゃん?」
「クソッ、お前もそう言うのかよ!」
「で、結論なんだけど。あ、服着ていいよ」
言われた通りにする。血でべたついて気持ち悪い。いや、血の割りには、べたついてない気もする。どちらにしても、替えの服借りなきゃ。気が重い。
「で、どうなんだ? 呪いか? それとも、なんか病気か?」
「いや、健康だし、呪いも多分、関係ない。魔力も、まー、安定してる方だと思う」
「じゃあ何?」
「女性だと月イチで来るやつなんだけど、若い子だと、量が多かったり、不定期だったりするのよね。たぶんそれ」
「え、女の人って、毎月、股から血が出るの? こんなに?」
「あんたほどは出ないけど」
「初めて知った……たまに女性冒険者が遺跡入らなくなるの、それだったのか」
「まー勝手に出てきちゃうからね。個人差はあれど、血の匂いは隠しづらいし。お貴族様だったら、香水とかつけてりゃいいのかもだけど」
「苦労してたんだなぁ……」
「他にも腹痛、腰痛、頭痛、めまい、吐き気、むくみ、貧血、下痢、あとは精神が不安定になるとか」
「期間は?」
「数日。長くても一週間」
「その間ずっと?」
「軽重あるから一概には。でも、あんた呪いで女性にいきなりなったわけでしょ。その変化に、体がついていけてない、のかなぁ」
「はっきりしねえのな」
「時間くれればいいけど、病気でも呪いでもないし。そこまでやる?」
「これどうやって対処するの? 出しっぱなしにはできねえし」
「ナプキン貸すよ。浄化系は使える?」
「初級は一通り。あれ便利だよな」
「じゃあ大丈夫ね。何枚か貸すけど、自分で買うか作ったほうがいいよ。アタシは作ってる。あとは、お酒と、冷たいものは控えるように」
「待って。待って」
「なに?」
「あのな。すごく、すごく言いづらいんだが……」
「卑猥語一通り叫んでんだから、今更でしょ」
「だからこそというか……」
「だからなに?」
「ナプキンの付け方、教えてくれ……」
ティリスの笑い声は、今年聞いた中じゃ一番でかかった。
ブックマークとか評価とかが入ると作者の攻撃力がグーンと上がります。
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