第15話 作戦開始。あるいは作戦完了。
大変おまたせしましたぁ!
「首尾は?」
「大成功! 参加劇って考えたわねアナタ! あれなら扇動にかかる時間も少なく済むし、なにより自主的な動きってのが素晴らしいわ! 扇動の基本を抑えてるわね!」
「そりゃどうも」
路上劇の講演と営業から戻ってきた"逆転趣味者"コーネリアは、うきうきだ。配備は想像以上に上手くいってるみたいで、ほとんど小躍りしている。
劇形式はかなり上手く行くと、俺は踏んでいた。なにより、市民を巻き込みつつ、市民に被害が出ないのがいい。
また自分の意志による参加は、その行為の意味を自分の意志からのものに転嫁する。
つまり俺らの計画の意味に気づくことがなくなるってわけ。
「小道具もいいわね! 派手で、しかもばれにくい! 大量生産もできるなんて、アナタ、ワタシ並の伝説作れるわね!」
「やだよこの面で有名になるの……俺の実力じゃねえし……」
この作戦を可能にしたのは、俺自身の呪いの力によるものが大きい。身体外では呪文を分解する個の呪いだが、身体内ならばほとんど残留することが分かった。驚くことに、その効果は髪の毛一本一本にも及ぶ。
髪に魔術を込めると、抜いても維持できると気づいたときにはひっくり返るとこだった。期間限定のお手軽魔道具が、すごい勢いで量産できてしまう。
まあ金稼ぎには通用しないだろうが、それでも魔術の応用幅がブワッと広がる。呪いもたまにはいいことをする。
でもデメリットがでかすぎる。
「しかしよくこの短時間に、あの数の被扇動者を用意できたもんだ」
「アナタのおかげね!」
「俺?」
「分かってないようだけど、いわゆる傾国タイプなのよ? 外見」
「やめてくれねえかな……」
「ひざ裏まであるにもかかわらず、その美しさを損なわない、まっすぐな黒髪。陶磁器のように白いのに、子どものような陽気を内包する肌。美しく長いまつげに切れ長の眉。ただ一つ、憂いを帯びた瞳だけがその調和を乱しているけれども、それこそが人を引き付ける……!」
うっとりした目で、"逆転趣味者"が俺を見つめてくる。
やめろ。ほめるな。その目で見るな。俺が美少女になってるとか、信じたくねえんだよ……。
「崇拝者を被崇拝者の前に出すの、あんまりやらなかったのよ。ワタシ、裏方好きだから!」
「まあ直轄が必要だったしな、代わりに人数ちょっと減っちまったけど……」
3時間かかる扇動の時間を圧縮したからくりは、まあ簡単に言えば、女神さまを前面に押し出すことだった。
直轄団員の数をとにかくすぐさま増やさねばならず、また彼らの練度も高くなくてはならない。
そしてそんな練度の人員の扇動には、目の前に、それを上書きするほどの"何か"がなければならない。
それに適するのは?
俺の外見しかない。
ああ、そうだ。俺の美少女としての外見だ。なんでこうなったんだ? くそっ!
「で? アナタのお次の手はなぁに?」
「もうほとんど済んでるよ。まあ儀式的な意味での配置の微調整とかはあるけど、あとは野となれ山となれってとこ」
「直轄被扇動者は所定位置についてるわ! 時間が来たら、動き出すわよ」
最初の仕込みが終わればあとはできる限り自動的になるように、今回の作戦を立てた。ラリーたちの強さを鑑みれば当然の処置だ。誰かが欠けたら失敗するようでは、策謀とは言えない。
やつらの練度はあまりに高い。作戦の要を一瞬で見抜き、必ずそれを破砕する。それをさせないためには、そもそも発覚と同時にすべてが終わっているようなものが望ましい。
とはいえそんなんは無理なので、普通にバッファを多めに取るしかない。そのための被扇動者増やしであり、参加劇だったわけだ。
まーティリスがいりゃぁ、リアルタイムの調整もできたんだが……本職冒険者ってわけでもないし、しょうがないか。
「でも、いいの?」
「なにが?」
「この作戦で行って」
"逆転趣味者"が審判の日のように聞いてくる。まだ始まったばかりだってのに。
「ほかに方法がありゃなぁ、選ぶんだが。相手が相手な以上、こちらは全力を出さなきゃならねえ。あんたのほうがよく知ってんじゃねえのか? "逆転趣味者"様よぉ」
「まあね。そりゃ弱者が勝者に勝つのなら、どこにも手を抜けない。だから聞いてるわけだけども」
「だからこそ主軸の自動化だ。俺の意志に揺らぎがあっても、メインが止まることはないし、手加減することもねえ」
「でも、いいの?」
"逆転趣味者"が審判の日のように聞いてくる。まだ始まったばかりだってのに。
「うまくいったら、死んじゃうけど。クレア・エーデウス公爵令嬢」
次もゆるゆるになったら許してください……。
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