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第14話 舞台が整う。役者が揃う。あとは幕があがるだけ?

大変おまたせして申し訳有りませんでした!

 街中を、クレア・エーデウス公爵令嬢と並んで歩いている。はたから見ればデートと言ったところ。事実もそう大差ない。それがオレを平静ではいられなくしている。


「命を狙われているのですし、囮になるのが最も早い解決法ではありませんか」


 などとクレア・エーデウスは言うが、そんな危険なことはさせられないとも思う。しかし、


「敵方のトップは、今、盗賊様なのですよ? 彼が、そのような事をするとお思いなのです?」


 と言われてしまえば、全くその通り。しかし命は狙わずとも、狙いは公爵令嬢自身のはずなのだ。

 何かしらを仕掛けてくるはずだが……。

 気を張っていると、スッ、とクレア・エーデウスがオレの視界に入り込んでくる。


「それで、盗賊様とは?」

「とは?」


 クレア・エーデウスは好奇心旺盛な、猫のような目でオレを覗き込んで、更に追求を続ける。


「なにもないのですか?」

「あー……」

「わたくしに気を使ってくださるのは嬉しいですね!」

「しかし相手は男だし……」

「わたくしには魂が見えるのですよ」

「いや、普通に考えてだなぁ」

「もちろんわたくしには、獣のように襲いかかっていただいても構いませんけれど」

「待て待て魂見えるとそこまで分かるのか!?」

「いえ、分かりません」


 にっこり笑うクレア・エーデウス。

 やられた。


「言い訳させてくれないか?」

「わたくし相手に? 難しいのでは?」

「ぐっ」

「まあラリー様も男性ですからね。理解は示すことはできますね。理解は」

「生暖かい目はやめてくれ、情けない気持ちになるから……」

「ふふ、お許しくださいまし。弱みを見てしまうと、どうしてもからかいたくなってしまいますね!」


 少々申し訳無さそうな顔をしつつも、クレア・エーデウスは笑みを抑えきれてない。幻滅されてないのは、良かったのか悪かったのか。いや、だが、普通に考えて、元男の、元仲間にっていうのは、相当頭おかしくないか?

 いや、めちゃくちゃ頭がおかしい。恋愛は狂気の沙汰とか言うが、そういう問題じゃない気がする。


 悩んでいるオレを、クレア・エーデウス公爵令嬢は真摯な表情で見つめている。


「ラリー様は、ご自身に向き合う時間が必要ですね」

「うん?」

「わたくしは自分の魂も見えますから、そういう悩みを抱えたことはありませんし」

「どういうことだ?」

「わたくしがどうと言うこともできないことなのです」

「なるほど?」

「まあ、今日はわたくしにお付き合いください。大丈夫です。わたくしは待てますよ。ずっとずっと。待てます。待つことの強さを知っておりますからね」


 クレア・エーデウス公爵令嬢の笑顔は透き通って見える。理由は分からないが、問題はオレのほうにあるらしい。そういう意味でも、少し立ち止まる時間が要る、ということなのだろう。だからこそ、彼女はオレを連れて、こうやって街を歩いてくれているわけだ。

 納得できる。オレもそう思う。一時的狂気かもしれんとちょっと思う。しかし、それに関しては十二分に思考してきたとも思う。いや、思考しすぎたからこその状態なのか? これ。


 うんうん悩みながら歩いていると、視界に見知った顔が映った。

 喫茶店に二人。探していたうちの一人と、うちの仲間の一人。

 ティリスとスミロだ。

 クレア・エーデウスは露骨に顔をしかめている。

 すまんとしか言いようがない。オレのせいではないんだが……。

 ティリスが申し訳なさそうな顔をして、クレア・エーデウス公爵令嬢に声をかける。


「あはは、公爵令嬢様、ご機嫌麗しゅう? き、奇遇ですね?」

「そうですわね」

「デートです?」

「そうですわね」

「お、お邪魔しました?」

「そうですわね」

「ごめんってー!」


 必死なティリスと、無の表情のクレア・エーデウスはやり取りを続けているが、まあこのままでいいだろう。

 しかしオレとクレア・エーデウス公爵令嬢は、親と子、というほどでもないが、そう思うぐらいには年の差がある。あんまり似合いとは言えんと思うのだが……。

 スミロの方を見ると、真剣な顔つきだ。


「スミロ、何かあったのか?」

「ティリスさんが今、ここにいる理由を考えていました」

「わざとあいつが野放しにしていると?」

「可能性はあります」

「しかし目的が見えないわけだ」

「はい」


 スミロがそう答えた時、視界の隅で、光が見えた。色とりどりのカラフルな光。祭りでよく使われる、祭事用幻術の色。

 スミロも、言い争い(といってもティリスが一方的に言い訳していただけだが)をしていた二人も気づき、そちらの方を見る。

 中央広場の方。人だかりが見える。危急の雰囲気はない。出し物か何かが行われているのだろう。


 と、いつもなら思う。


 クレア・エーデウス令嬢の方を見ると、彼女はオレに向かって頷いて、中央広場に向かい始める。オレはそれを先導するように動く。ティリスは慌ててオレたちを追いかけてくる。

 スミロがオレの隣を歩く。


「スミロ。あいつはもう動き始めている」

「そのようです。後手に回っていると思いますか?」

「これはメッセージだ。たぶんな」

「メッセージ?」

「受け取り方を間違えたら、致命的になるかもしれん」

「そういう状況にあるんですか? 今回って……」

「あいつが本気なら」


 中央広場に近づけば、出し物に沸く人々の声が聞こえる。


 * * *


 中央広場で、劇が行われていた。

 片方は姫とその護衛の騎士たち。もう片方は"魔王"とその配下に扮していた。

 姫役は、綺麗な、しかし舞台衣装らしい派手さのドレスに、青い花のアクセサリーがついている。

 魔王役は、黒い仮面と黒いマントですっぽりと体を覆っており、マントを止めている赤い華の留め具がアクセントとなって、ひときわ目立つ。

 騎士たちは青い光の刀身、魔王たちは赤い光の刀身の剣を持ち、それぞれが剣劇を繰り広げている。

 見栄え重視ながらもなかなか堂に入った剣捌きに加え、刀身が重なり合うたびに、色とりどりの派手な光が飛び散り、それが観客たちを沸かせている。

 また騎士や魔王配下の胸には、それぞれ青のエンブレムと赤のエンブレムがつけられていた。エンブレムが切られると、派手な光と共に彼らは倒れ、また観客が沸いた。


 騎士たちも、魔王の配下たちも、一人、また一人と倒れていき、最後に残ったのは姫と騎士1人。そして魔王。


 一騎打ち。双方の口上が語られる。


 子どものころよく聞いた、勇者と魔王の物語のクライマックス。誰でも知っていて、しかし飽きられることのない、定番の昔話。


 鮮やかな赤と青の刀身が振るわれ、一合ごとに、彩色豊かな光が飛び散る。観客の興奮が最高潮に達した時、青色の光が、魔王の赤い華を貫いた。


 赤い華が散った。今までで一番綺麗な光が広場を埋め、魔王役は倒れた。


 観客の歓声が市中を大きく揺るがした。それに応えるように、役者たちは並び立って、優雅にお辞儀をする。舞台は大成功。おひねりも結構な勢いで集まっているようだ。


 一人の男が前に出る。行商人風で、後ろには何かが入った箱が2つあった。大仰な振る舞いで一礼すると、話し始める。


「皆々様、我らの劇をご鑑賞いただき誠にありがとうございます! しかし我らの劇は未だ終わりませぬ! いえ、むしろ皆々様が参加してくださることで、ようやく始まると言っても過言ではございません!」


 観客たちの間にざわざわとしたささやき合いが広がる。終わりの口上としては聞いたことのない文言だ。劇に、観客が参加する?

 行商人風の男は続ける。


「こちらにご用意いたしましたのは、先ほどの劇でも使われた青い剣と赤い剣。そしてエンブレムです。こちらを今! ここにいる皆様にだけお渡ししたく思います。使い方はいたって単純。握ってひねるだけ!」


 行商人風の男が柄しかない剣を箱から取り出し、説明したとおりにひねると、先ほどの青い光の刀身が出る。観客たちの感心の声。


「こちらと、このエンブレムで、先ほどの劇のような剣劇を、皆々様にもご体験いただけるというわけです」


 エンブレムも取り出される。先ほどの劇で使われたものと同じデザインだが、今はどれも白色だ。


「こちらは今はまだ、どちらでもない無色のエンブレムです。しかし、開始の時間となれば、自動的に色が浮き出ます。またふさわしい方ならば、花も咲くことでしょう……」


 なかなか凝った仕組みに、観客たちのささやきが高まる。また、仕掛けに気づいた人々は、感心の声を既に上げつつあった。

 気づきつつある人々をみて、行商人風の男はにやりと笑みを浮かべ、両手を大きく広げ、声高に謳い上げる。


「そうです……あなた方が騎士となり魔王の配下となり、この街を、物語の舞台にしてしまおうというわけです!」


 タネが明けて、観客たちの間に広がるざわめきが大きくなる。好意的であったり懐疑的であったり。しかし誰もが期待の目を向けている。


「お代はいただきません。この劇に参加していただくことがお代です。順番にお渡しいたしますので、お受け取りください。危険はございません。これは見てのとおりですね」


 役者たちが体を広げ、そして一礼をする。観客たちの疑念が薄まり、逆に好奇の目に、熱が帯びる。


「さあ、劇をはじめましょう。世界で初めての劇を! あなた方ひとりひとりが、その舞台に立てるのです!」


 * * *


「ここに"逆転趣味者"がいました」


 クレア・エーデウス公爵令嬢は言った。過去形だ。もう今はいないらしい。


 オレたちが辿り着くころには演劇は終わり、柄やエンブレムを配る劇団員がいるだけになっていた。人々はそれらを受け取り、劇の開始を今か今かと待ちわびながら、自分たちの居場所へと戻っていく。


 確かにこれだけの人間を熱狂させられるのは、"逆転趣味者"ぐらいかもしれん。


「もういません。残り香だけがあります」

「つまり……あいつの仕込みというわけだ」

「そうなります。お受け取りしますか?」

「もう受け取ってきちゃった」


 ティリスがばつの悪そうな顔で、笑っている。手には人数分の剣の柄と、エンブレム。

 スミロがため息をついた。


「ティリスさん、それ、内通者だって言ってるようなものですよ」

「分かる?って言いたいんだけどいや違うんだよ、ホント! 普通に好奇心なんだよ!」

「エーデウス公爵令嬢?」

「嘘はついておりません。嘘は。本当のことを言っているとも限りませんけれど」

「あ、さっきのこと根に持ってるでしょ!? ホントなんも聞いてないんだってアタシ! 嘘じゃない! ホントのこと!」


 ティリスが言い訳している。まあ多分そうなんだろう。そこを疑う気はない。

 しかしまあ、そのために、あいつがティリスを野放しにしたとも思えるが。


 スミロがそれらを受け取り、ティリスと一緒に魔術で調査をしている。仕掛けの確認だろう。


「魔術の通りが若干悪いですが……仕掛けは劇で見たとおりですね。まだ色も刀身も出せませんが、これは時間経過で発動可能になる術式だと思います。それほど凝ったものじゃないです」

「"逆転趣味者"が作ったのかな? いや、この感じ、ケーティちゃんか。どうやって魔術を込めてるんだろう」

「おそらく、髪の毛ですね」

「ああ、魔術を込めてから抜いて、組み込む。え、羨ましい。大量生産できるじゃんそれ」

「彼女は体外の魔術を分解してしまうらしいですし、その効果が、髪の毛にも残留してるんでしょうね」

「自分の体質を利用してるわけだ。体内への魔力の通りがいいって言ってたけど、もしかしたら、体外に魔術が漏れ出るのも防いでる?」

「この小道具自体に、害ある魔術は見受けられません」

「致死性の高い魔術は目立つのよねー。悪意がにじみ出るっていうか」

「となると……」


 スミロは、柄とエンブレムをオレに渡す。判断はオレがしていいらしい。

 オレは、自分の胸にエンブレムを付け、柄を腰に下げる。


「乗るしかない。拒絶は簡単だが……」

「予測ができなくなりますわね」


 クレア・エーデウスも、エンブレムを取り、胸につけた。

 相手の動きが知りたいなら、乗ってやることだ。ダンスと同じ。合わせれば、自然と読める。


 スミロやティリスも同じようにつける。

 演者は揃い、衣装も配られ、あとは幕があがるだけ。



次もゆるゆる更新いたします。

ブックマーク、評価、とてもありがたく頂いております。

感想も返信できておりませんが、何度も読み返してモチベ維持させていただいております。ありがとうございます!

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