第12話 男子三日会わざればというけれども。
「ふぅ……」
スミロは一息ついた。スミロは魔術師である。呪術は専門ではない。ゆえに、簡単な探知呪術と言えど、時間がかかる。また装備も足りていない。結果が出ないのは致し方のないことだ。
しかし、それにしても手応えがない。
探知結界……それもティリスさんのような、熟達の呪術師が作ったもの……。
妨害がなされているのは確実だろう。これ以上は難しいとスミロは判断し、中断することにした。
まだラリーが出ていってからそれほど時間も経っていない。
もう少し時間もあることだし、ちょっと外に出よう……。
ギルドの個室を出て、街へ出る。
1ヶ月前に比べて活気が増していると思うのは、やはり自分がそれに関わったからだろうか?
それほどに、あの事件はこの街の至るところに根を張っていた。今回ラリーが呼び出されたのも、それに関することだろうか……。
しかし、せっかくクレア・エーデウス公爵令嬢と二人きりにしたのだから、少しは発展してもらわないと困る。
彼女がラリーに好意を抱いているのは間違いない。
そして公爵令嬢なら、あらゆる手段を持ってそれを手に入れようとしてくれるはずだ。
ライバルは少ないほうがいいのだ。
スミロが彼女の美しい黒髪に思いを馳せていると、驚くような、しかし見知った顔が見えた。
「ティリスさん?」
「げっ、スミロ!?」
活動的な服装。自分より少し高い背丈。まとめた茶色の髪。そしてくりっとした大きな瞳。
外見に似合わず、魔術、呪術、薬学に通ずるスペシャリスト。
そして探していた女性の一人。ティリスがいた。
「無事だったんですか?」
「あ、あー、まーねー」
彼女の声には焦りや不安が見て取れた。ここにいるのは不自然だし、当然といえば当然。
だがそれだけではない。何かを隠している。それほど重大ではないけれど、僕には知られたくないこと。
なるほど?
「少し話しませんか? おごりますよ」
「え、いいの? いやー嬉しいなー」
ティリスさんなら、こういうときでもうなずいてくれるだろう……スミロはそう確信していた。
* * *
いやースミロくんに会うとは思わなかったし、スミロくんから食事のお誘いをいただけるとは更に思ってなかった!
お店のチョイスもいい感じ! なかなかおしゃれな喫茶店で、アタシたちがついた席からは、外の中央広場が一望できる。味もまあまあ。
しかし、久々に会ったけれども、やはりスミロくんはかわいい。
黒髪黒眼で背は低め。顔は年齢よりずっと若く、というより幼く見えて、実に愛らしい。くりっとした髪も似合ってる。
華奢な体躯も合わさって、中性的な印象。
でも魔術の腕はアタシ以上。呪術もかじってるとか。ほっといたらすーぐ追いつかれるなこれ。やだなー才能ってさー。
しかしスミロくん、こんな積極的に女の子誘える子だったっけ?
アタシの記憶では、もっとオドオドしてて、人見知り感強い感じだったような?
スミロくんは対面の席から、アタシを真っ直ぐ見てる。やっぱりお見通しなのかな?
「単刀直入にいきますね」
「う、うん」
「彼女はどこです?」
「とぼけても無駄?」
「無駄です」
まー、この状況下で食事に誘うって時点で、なんとなく察してはいましたー。
ちょっとぐらい夢を見せてくれたっていいじゃない……。
「ケーティちゃんのことだよね。ああ、ケーティってのは、彼のことね」
「彼女のことです」
「いやー、みんなケーティちゃんに夢中だねー。まーアタシもそこは否定できないね。可愛さがすごい。ギャップ萌え? ギャップ萌えにやられるのかな?」
「ティリスさんも可愛いですよ」
「あ、取って付けたようなお世辞! 良くないよそれー。も、は余計」
「お世辞じゃないですから。事実を言ったまでです」
「素晴らしい。今のはいいぞ。それが女の子を落とす言葉遣いだ。アタシが教えることはもうない……」
目頭抑えて、感動したふりをするアタシ。にやけた顔を隠すためだ。流石にこれを当人に見られて平気なほど、図太くない。
いや、しかし、すごく良かった……。録音魔術を起動しておきたかった……。いや映像もほしい……。
「本題、入っても?」
「あ、あー、聞かないでくれるってのは?」
「なしです」
「優しくないね……」
「余裕もないのです」
真剣な表情のスミロくん。悪くないぞ。男の子って感じだ。
しかしこうなってくると、アタシじゃ隠し通せない気がする。ラリーいわく、熟練冒険者は勘で7割、情報の真偽を見破るらしい。それにアタシも、交渉事は得意じゃない。
……まぁーアタシが敵側についても大丈夫でしょ。ケーティちゃんならなんとかする!
「じゃあさ、手伝ってくんない?」
「対価は」
「余裕」
「なるほど?」
にっこりと笑うスミロくん。なかなかいい笑顔。もう子どもじゃないってことかな。あーあ、どんどん追い越されてっちゃうよ。
続きは21時半頃に投稿される予定。




