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トラブル発生……!?そこにステージがあるから……

「それじゃ、行ってきます!!」


「小春、気をつけて行くのよ」


「分かってるって。あ、ママも今日は来てくれるの?」


「ええ、もちろんよ。優君大絶賛の小春のメイド服姿を見に行かないとでしょ?」


「も、もうっ……余計な事は言わなくていいからママこそ気をつけて来てね」


玄関先で繰り広げられる母と娘の微笑ましいやり取りを聞きながら、テーブルの上に置かれたコーヒーに手を伸ばす。


毎年文化祭の日は、生徒達の通学時間がいつもより早い。

小春ちゃんもその例に漏れる事なく、出かけて行った。


「優君の今日のご予定は?」


「僕達先生は今日はほとんど校内の見回りだね。そこまで多い訳じゃないけど、毎年トラブルはあってるから」


「言われてみれば、私達が学生の頃も先生ってそんな感じだったかも……。今日は自由時間とかはないのかな?」


「ちょっとした休憩時間はあるけど、自由時間と呼べるものはないかな。僕を含め先生方は昨日のうちに楽しませてもらったからね。その分、今日は真面目に仕事するよ」


「そうだよね……。優君、お仕事頑張ってね」


そう言って肩を落とす雪さん。

仮に時間が空いてたとしても、流石に一緒に校内を見て回るとかは出来ない。

常識的に考えて、先生と生徒の親が校内を見て回るというのは無理だ。

でも僕と一緒に文化祭を見て回りたいと思ってくれた事は嬉しかった。


「さて、先生達は特にやる事はないけどもうそろそろ行かないとかな。雪さん、今日は何時頃から来る予定?」


「あんまり遅くなると、晩ご飯の支度に影響が出ちゃうから午前中から行くわ。小春の所が軽食もあるって言ってたから、そこでお昼食べたら帰る予定よ」


「小春ちゃんのクラスは多分行列出来ると思うから、なるべく早く行った方がいいかもしれない。さて、今度こそ行ってくるね」


そう言って空になったマグカップを片手に席を立つ。

カップをキッチンに置き、そのまま玄関に向かうと既に雪さんがカバンを持って待ってくれていた。

靴を履き、鞄を受け取る。


「優君も気をつけて行ってきてね」


「雪さんも気をつけて。では行ってきます」


すっかり恒例となった朝のやり取りを済ませ、踵を返した所で雪さんが『あっ……』と声を漏らした。


「ん?どうかしたかな?」


そう言って振り返ると、雪さんが僕の首に手を回したと同時に、頬に柔らかな感触。


「忘れ物です……。今日も一日頑張って」


そう言って照れ臭そうにする雪さんがそっと離れた事を名残惜しく思いながら、僕は外へ出て行った。



学校に着くと、多くの生徒達が既に登校していた。普段の朝とは違い生徒は皆活気に溢れている。


「瓜生先生、おはようございます」 


廊下を歩いていると一人の生徒から声をかけられた。昨日小春ちゃんのクラスで騒いでいた男子生徒だった。


「竹田君、おはよう。今日は昨日みたいにあんまりハメを外し過ぎないように気をつけながら楽しんでくださいね」


「げっ……先生見てたんですか!?でも、昨日のアレは仕方ないっすよ。えっと、何だっけ……。思い出した!偉人の言葉で……そこにメイドがいるから……って先生も聞いた事あるでしょ?そういう事です」


「そういう事ってどういう事ですか。あと、勝手に言葉を作らない様に。誰もそんな事は言ってないですよ……それはメイドじゃなくて山ですよ」


苦笑いしながら、僕はツッコミは入れた。


「先生分かってますって。ノリが悪いんだから」


僕の受け答えはお気に召してもらえなかったらしい。


「まぁ、せっかくのお祭りですからね。いっぱい楽しんで下さい」


最後にそう伝えて、彼と別れ職員室に向かった。



職員室に入ると何やら騒がしかった。何かトラブルでもあったのだろうか?

ちょうど益田先生と目が合ったので、話を聞くために近づいた。


「益田先生、どうしたんですか?この騒ぎは?」


「実は、ステージで演し物をする筈だった生徒が急に熱を出してしまい、先程欠席の連絡がありました。ステージの進行を今更変更するわけにもいかず、その時間を空けたままにするかどうかで先生方の意見を聞いてました」


「なるほど……進行をずらせないとなると、その時間だけステージを空けるというのが得策に思えます」


「ただ、そうなるとせっかく盛り上がっていた空気に水をさしてしまわないかという意見も上がっていて……」


「難しいですね、ちなみに空いてしまう時間はいつなのですか?」


「午前の部の2番目なんです」


午前の部は4組が予定されていた。確かに初めてすぐ次が空くとなると先生方が懸念する盛り下がるというのも納得出来た。

かと言って、今から代わりを見つけるというのも不可能だろう。

考え事に没頭しそうなところで、ふいに後ろから声をかけられた。


「どうやらお困りの様ですね、瓜生せんせっ」


その声と同時に勢いよく背中を叩かれる。


「中山さん……先生をそうやって叩いたらパワハラで訴えられますよ」


振り返ると中山さん……と小春ちゃんの姿もあった。


「益田先生、おはようございます!!話は聞かせていただきました。いや〜、困りましたね。2番目に穴が空くと確かに盛り下がる可能性は否定出来ません。これは由々しき事態ですね……我が親友こと小春ちゃんはどう思いますか?」


「え……!?」


突然話を振られた小春ちゃんは目を白黒させている。昨日のやり取りもそうだが、どうやら小春ちゃんは振り回される立場らしい。

小春ちゃんを手玉に取るとは、中山さんはなかなかのやり手かもしれないと考えが逸れてしまった。

仲の良い二人のやり取りについ笑みが溢れてしまった。




「小春ちゃん、しっかり聞いててよもう。まぁ、いいわ。それで先生方?私達の歩むこれからにおいて、文化祭の思い出は生涯忘れられないものになると思うんです。本日ステージに参加する生徒はもちろんですが、欠席した生徒が自分のせいでステージに水をさしたと自責の念にかられるかもしれません!!そんな事態を許していいのか!?絶対にダメです!!なぜなら、そこにステージがあるのだから……」


(それはステージじゃなくて山……)


ツッコミを入れたい気持ちを抑える。

力説しているから、邪魔するのは何となく憚られた。


「それでこの私めにとてもよい案があります。あ、その前に……小春ちゃんに質問。今日って雪さん来るの?」


「え?ママ……お、お母さんは来るって言ってたよ」


小春ちゃん……それは言い直せてない。その証拠に中山さんもニヤニヤしている。

友達の前でママって呼ぶのが恥ずかしいのだろう。小春ちゃんの顔は真っ赤だ。

中山さんの口から雪さんの名前が出たことに一瞬疑問に思ったものの、そう言えば夏休みに小春ちゃんが中山さんを家に呼ぶと言っていた事を思い出した。

なるほど、それで二人は面識があるのか。


「うんうん。そうすると、雪さんには事後報告でお願いでもいいかな。きっと、いいよって言ってくれそう。よし決まり!!益田先生、ちょっとお耳を拝借出来ますか?」


「なんでしょうか?」


益田先生が顔を寄せるので僕も同じ様に中山さんに顔を近づけようとして、


「あ、瓜生先生にはまだ内緒!!なので少し離れててください。小春ちゃん、先生の暇つぶしの相手でもしてあげてて」


このように拒否されてしまった。

少し気恥ずかしくなり、小春ちゃんに話しかける。


「名取さん、彼女はいつもこんな感じなのですか?」


僕の質問に、曖昧に笑うだけの小春ちゃん。

家では見れない小春ちゃんの一面を垣間見る事ができる貴重な機会だな……と感慨深く思いながら、中山さん達の話が終わるのを小春ちゃんと二人で待っていた。

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