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前夜祭②


鷹野のクラスの模擬店を後にした僕はその足で小春ちゃんのクラスに向かった。

だが、そこで予想していなかった事態……廊下に出来た行列を目の当たりにする事となる。


廊下から中を覗けば、執事とメイトが忙しなく給仕をしている。

学生とバカにする事は出来ないぐらい、生徒達の動きは堂に入っていた。

鷹野のクラスは、主に男子生徒から人気だった様だが、こちらは男女どちらからも人気の様だ。


「お帰りなさいませ……ご主人様!!」


「お待たせ致しました、お嬢様。ご所望の紅茶とケーキをお持ち致しました」


非日常を味わえるのが、ウケているのだろう。学校がよく許可を出したものだと思いもしたが、きっと生徒に押し切られたのだろう。

ウチの先生達は、何だかんだで生徒達に甘いから……当日トラブルが起きない様に、このクラスは注意が必要だとこの後の会議で報告しよう。


しかし、困った事になった。残り時間もあまりない、これだけの行列に今更並んだ所で中に入る前に休憩時間が終わってしまう。そんな事を考えていると一際大きな声が聞こえてきた。


「うぉ〜、ここは天国か〜」


「竹田、うるさい。いきなり大声出すと周りの人に迷惑でしょうが」


「だってメイドさんがいっぱい居るんだ。この光景を見て叫ばずしていつ叫ぶと言うのだ!!中山、お前もスッゲェ似合ってるぞ、写真撮っていいか?」


「なっ……ば、バカじゃないアンタ。あと言っておくけど、ここはお触り撮影禁止です」


「そ、そんな〜」


一部漫才を繰り広げている所もあるが、それも含めて接客する側もされる側も楽しそうで、自然と笑みが溢れてしまう。

そんな中、バックヤードから出てきた小春ちゃんの姿が飛び込んできた。

こうして改めて見ると、やはりとても似合っている。


彼女の姿に雪さんを重ねる。

雪さんも、学生時代はあんな風に皆と文化祭を楽しんでいたのだろうか……。

僕はその光景を知らない事が少しだけ寂しくなった。


感慨に耽っていたが、そろそろ職員室に戻らないといけない。

小春ちゃんと中山さんに来た事を伝えたいと思うが、忙しそうに動き回る二人の姿を見て、僕はそっとその場を離れた。

その後、職員室で明日の注意事項や打ち合わせをして僕は帰路についたのだった。



「ただいま」


パタパタパタ……


「優君、おかえりなさ〜い」


「雪さん、ただいま」


雪さんは声こそ明るいものの、その表情かおは僅かに曇っていた。


「どうしたの?何かあったかい?」


「うん。ちょっとね……。疲れてるだろうから、リビングで話しましょうか。先に手を洗ってきて」


僕はその言葉に頷くと、急いで手を洗いリビングに向かった。


「優君、疲れてるのにごめんなさい。実は、小春の事なんだけど……」


「小春ちゃんがどうかしたのかい?」


「帰ってきてからずっと部屋に篭ってて。出迎えに行ったから顔を合わせたんだけど、すごく落ち込んでるみたいだったの。今日は前夜祭だからって朝はあんなに楽しそうに学校に行ったのに……。何かあったのかしら?優君何か知らない?」


自惚れかもしれないが、もしかしたら僕が模擬店に顔を出さなかったせいではないだろうか?

正確には行ったけど入れなかったのだけど。それを彼女が知る由もないし、あの場では声をかけなかった僕にも非がある。

楽しみにしてくれていたのだと……そんな小春ちゃんの気持ちを考えると胸が痛んだ。


「雪さん、実はね……」


僕は学校での出来事を彼女に説明した。一通り僕の話を聞いた彼女は『小春も悪気はないので許して欲しい』と言って苦笑していた。


「雪さん、ちょっと小春ちゃんの部屋に行ってくるね」


「優君、ご飯の用意もうすぐだから小春も連れてきてね」


「善処するよ……」


そう言って僕は椅子から腰を上げた。



コンコン……彼女の部屋の扉をノックする。


「小春ちゃん、少しいいかな?」


「…………」


さて…どうしたものかな……。流石に許可なく部屋に入るわけにも行かない。

仕方ない、ここで話をするか。雪さんには事情も話したから、聞かれて疾しい事もない。


「小春ちゃん、今日はその……すまなかった。言い訳に聞こえるかもしれないけど、休憩時間に君のクラスには行ったんだ。すごい行列だったね……びっくりしたよ」


「…………」


「凄いね、男子も女子も凄い堂に入っていた。一部騒がしい人も中には居たけど、それ以外は凄く雰囲気も良かったと思う」


「…………」


「あー、あと何だ。学校では人の目もあるからちゃんと言えなかったけど……メイド服姿、凄く似合っていたよ。中には入れなかったのは残念だったけど、廊下から小春ちゃんが楽しそうにしている姿が見れて嬉しかった。明日の本番もしっかり楽しんでね」


「優先生……私のメイド服姿本当に似合ってましたか?」


返事は来ないだろうと思っていたが、自信なさげに尋ねてくる声がドアの向こうから聞こえてきた。

なので、僕はつい力説してしまう。


「うん、とてもよく似合っていたよ。最初に見た時は思わず見惚れてしまって、口籠ったのを気づかなかったかい?」


「へぇ〜、見惚れてたんですね……」


今度はどこか嬉しそうに聞こえる。僕の言葉で一喜一憂する小春ちゃんに、何だか恥ずかしくなり僕は話を逸らした。


「雪さんからの伝言で、ご飯がもうすぐ出来るからリビングに来てくれと言ってたよ。小春ちゃん、一緒にリビングに行こうか」


僕の呼びかけに応えて、部屋から出てきた小春ちゃんの表情かおはどこか清々しく見えた。


リビングに戻った僕に、親指を立ててニッコリと僕に微笑む雪さんを見て何故だか気恥ずかしくなった。

そんな僕の気持ちを悟られたくなくて、今日の晩ご飯は何だろう……と頭の中を無理矢理切り替えるのだった。

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