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前夜祭のお誘い

今日は各クラスの文化祭の催しを決まった事もあり、廊下ですれ違う生徒達の話題は殆どが文化祭に関する事だった。


僕には文化祭を楽しんだ記憶がない。その事に後悔はないが、こうして楽しみにしている生徒を見ると微笑ましい気持ちになる。


「瓜生先生!!」


後ろから突然声をかけられたが、振り返るまでもなく誰が呼んだか分かった。


「どうしましたか、名取さん?」


振り向いた先には小春ちゃんと彼女の友人達が立っていた。


「瓜生先生、振り返る前に小春ちゃんだとよく分りましたね?」


そんな風に痛いところをついてきたのは、中山さんだった。何が面白いのかニヤニヤしている。

これは失敗したな……小春ちゃんを横目で見れば、気まずそうな表情かおをしながら、我関せずを決め込んでしまっている。


「別に驚く事じゃないと思うけど。今の呼びかけが、仮に名取さんではなく中山さんだったとしても僕は気づくと思うけどね」


実際はおそらく分からないだろう。だけど、僕は失敗を取り戻すべく、そんな風に押し切ろうとしたのだが、その時また後ろから声がかけられた。


「廊下の真ん中で話していると、他の方の迷惑になりますよ?」


これはまた都合の良いタイミングでよく知っている人物が話しかけてくれた。最近はあまり聞かなくなった声に、同じ様に振り返る事なく応じる。


「鷹野か?すまない、確かにお前の言う通りだな」


そう言って俺は後ろを振り返ると、鷹野は僕を見つめていた。そして、窓際の方に少しだけ避ける。


「鷹野、志望校が決まったと聞いたぞ。最後の追い込みは順調か?」


「はい、合格できるかは分かりませんが、自分なりに努力しているつもりです」


「益田先生からも、お前が頑張っている話は聞いてる。持てる力を出し切る為にも根を詰め過ぎず体調管理だけはしっかりな」


「分かってます。優先生は相変わらずそればっかりですね」


「ねぇ、聞いた!?あの先輩、瓜生先生の事を優先生って呼んだよ!?これってもしかして……」


「こらこら。何か勘ぐっている様ですが、そういうのじゃありませんよ。中山さん、あんまりおいたが過ぎるともしかしたら……成績に響くかもしれませんよ?」


そう言って、ニヤリと笑いかける。


「う、瓜生先生が横暴過ぎる……」


「冗談ですよ。それで名取さん?何か僕に話したい事があったんですよね?」


「もういいです……」


不機嫌さを隠す事なく、声のトーンも下がっている。


「小春ちゃん、い、行こっか……それじゃ瓜生先生またね」


彼女達は鷹野をチラッと横目で見ながら去って行った。


「私お邪魔でしたか?」


「いや、用件を言わず去って行ったんだから大した用事ではなかったんじゃないか?まぁ、気にしなくていいと思うぞ」


「優先生がそう言うなら気にしないでおきます」


「それで鷹野も挨拶だけか?用があったわけじゃないんだよな?」


「用事があるので声をかけました。先生達も前夜祭なら自由時間って少しぐらいはあるのですよね?」


「まぁ…少しだけはあるな」


「私のクラスは今年喫茶店をやる事になりました。前夜祭、良かったら来てください」


この学園は今でも前夜祭と後夜祭があり、その2つは校内だけでの開放となる為、教師も見回りの練習が主ではあるが少しばかりの自由時間が与えられる。


「分かった、鷹野の最後の文化祭だもんな。都合がついたら顔を出すよ」


「ありがとうございます、それでは失礼します」


相変わらず表情かおはほとんど変わらないのだが、その足取りは軽く去って行った。


この軽はずみの約束が、とんでもない事を引き起こすとは、この時は夢にも思わなかった……。



〜〜〜〜〜〜〜


「ただいま」


「優君お帰りなさい!!ご飯にしますか?お風呂にしますか?そ、それとも……わ、私!?」


まさかこれをやられる日が来るとは思わなかった。雪さんは顔を真っ赤にして、エプロンの裾を両手でギュッと握りしめている。


そんなに恥ずかしいなら無理して言わなければいいのに。僕はつい吹き出してしまった。


馬鹿にされたと思ったのか、雪さんが頬を膨らませている。

この人のこういう仕草を見ると、自分より年上とは思えない。


「恥ずかしいなら無理に言わなくてもいいのに……。雪さんという選択肢はとても魅力的だけど、普通にお風呂にするよ」


僕の答えがお気に召したのか、雪さんの頬はすぐさま萎んでしまった。


「うん!!それじゃ、その間にご飯の支度しておくから」


そう言ってリビングへ小走りで戻っていく。待たせて料理が冷めたらいけないと思い、僕も鞄を廊下に置き、素早くお風呂を済ませた。


リビングへ戻ると、まだ食事の支度が終わってなかったので雪さんを手伝う。

手伝うとは言っても綺麗に盛り付けされた皿をテーブルに運ぶだけの簡単な作業だけど。

そこで、この場に小春ちゃんが居ない事にふと気づいた。


「雪さん、小春ちゃんは部屋にいるの?」


「なんかよく分からないけど、学校から帰ってきたらすぐに部屋に篭ってしまったの。何かあったのかしら……」


何かあったかと聞かれれば、廊下での出来事を思い出されたが、小春ちゃんが何も言ってない様なので知らないふりをしておいた。


「優君申し訳ないんだけど、そろそろご飯の支度も終わるから小春呼んできてもらえるかな?」


小春ちゃんを呼びに部屋に向かい、ドアをノックする。

向こうから返事は返ってこない。


「小春ちゃん、ご飯の用意が出来たよ。キリが良くなったら来てね」


まだ機嫌が悪いのだろう。声だけかけて、リビングへ戻る事にした。

テレビを見ながら暫く待っていると、小春ちゃんも来たので、食事を始めたのだが気まずい雰囲気のままだった。


「そういえば優君?学園祭って保護者も行っていいのよね?」


「もちろん!!規模もそれなりだからきっと楽しいと思う。あ、前夜祭と後夜祭は流石に入れないけどね」


「へぇ、前夜祭と後夜祭まであるんだ。私が通っていた高校はなかったな。前夜祭と後夜祭って何やるの?」


「前夜祭は基本的に当日のシミュレーション的な感じかな。いきなり本番だと生徒も大変だろうから、練習の意味合いと後は先生も少し楽しみたいっていう側面もあるね」


「へぇ、先生も自由時間もらえるっていいね」


「まぁ……ね」


僕は歯切れ悪く答えた。後ろめたいわけではないが、鷹野との約束が思い出されたからだ。


「それで、優君はどこ回るの?小春のクラスを見に行くとか?」


まったく悪気はないのだろうが、触れられたくない事を的確についてくる雪さん。


「いや、それがさ。昔受け持った生徒からお誘いがあったんだ。最後の文化祭だから是非って言われてオッケーしたんだけど……」


目の前の2人が息を呑んだ音が聞こえた気がした。


「へぇ……それって廊下で会ったあの綺麗な先輩からですか?」


ここに来て初めて口を開いた小春ちゃんだったが、その声のトーンは低い。

雪さんも笑顔を浮かべているが、よく見ると表情かおが引き攣っているのが分かる。


「優君、早く答えて」


その後、警察もびっくりな尋問を受ける事になる。

疲れた僕はそのまま部屋へと戻って、早々と眠る事にするのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


優が去ったリビングでは親娘が真剣な顔をして向き合っていた。


「ねぇ、小春?その先輩ってそんなに綺麗だったの?」


「うん、同性の私でも見惚れる程度には……」


「そう……それでどんな感じだったの?」


「どうって何が?」


「その子が優君の事を好きそうとかそういうのよ」


どうやら雪は気が気ではないらしい。もっと自信を持って堂々としていればいいと思うが、男は若い子の方が好きだと思い込んでいる節が彼女にはある様に思える。


「そこまでは分からないけど、優先生って呼んでたわ。あと気になったのは……優先生って基本的に生徒を呼び捨てにしないのだけど、あの先輩の事は呼び捨てにしてた。それに…」


小春はそこで一度言葉を止める。


「それにどうしたのよ!?勿体ぶらないで早く教えてっ!!」


「振り返らずに誰が声をかけてきたかすぐに分かってし、優先生もその人にとても気安く話しかけていたわ」


「それは見過ごせはないわね。だいたい小春は何で優君を自分のクラスに誘わなかったのよ」


母が恨みがましい表情かおを小春に向ける。

雪は知らないが、小春だって本当は誘おうとしていたのだ。



しかしながら……


『振り向かずに声だけで自分だと認識してもらった事が特別でも何でもなくただの勘違いで、恥ずかしいのと怒りが込み上げてきたのでその場を後にした』


とは不機嫌そうな母を前にして正直に話す事は出来なかったようである。


そんな母の小言を受け、小春は口を尖らせてぷいっと顔を逸らしてしまうのだった。


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[気になる点] 今回の物語で、瓜生先生が同僚や校長先生に一目置かれている理由がわかるでしょうか?
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