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双天の悪魔   作者: Rukuran
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冒険者編 <タランタ> Ⅱ

いくつかのやらねばならないことを終えた俺達はイリヌイの家に向かう事にした。



ダンジョン内であれ程の悲劇にあった後その遺族に話をして随分落ち込んでいるだろう。



人から何か言われて解決するものでも無いとは思うが少し関わった手前気になってしまう。



落ち込み過ぎて無ければいいのだが…

コンコン



「はーい。」


木の扉の向こうから女性の声がする。



ガチャ



「どちら様でしょうか?」


猫人種の女性でイリヌイによく似ている。髪は青色だが見ただけで母親だと分かる。


「イリヌイさんのお母様でいらっしゃいますか?」


「えぇ。イリヌイは私の娘ですけど…」


「タランタの東門まで一緒に旅をしてきた者ですが。」


「あら!あなた達が!どぉぞ上がってください!」


「失礼しますね。」


「失礼だなんて。私達の娘を救って下さって本当に感謝しております。」


「そ、そんな大した事はしていないので頭を上げてください!」


「ただ偶然見つけて乗せてきただけですから。」


「まだお若いのに…きっと育てられた方が素晴らしい方達なのね。」


「いえ…」


「イリヌイさんは…大丈夫ですか?」


「まだ少し落ち込んでいるみたいだけど…」


「やはり酷いことを?」


「そぉね…」


「仕方の無い事とはいえお母様としてはお辛いですよね…」


「あの子が責められていると…でも。それもあの子が選んだ道ですから。自分で解決しなければならない問題だと思いますし。」


「お優しいですね。」


「何も出来ない不甲斐ない母親…ですよ。

呼んできますね。」


奥の部屋へと向かった母親は少しだけ躊躇ってからドアをノックする。



中から返事は無いようだ。



「……イリヌイ。お客様よ。あなたを助けてくれた人達が来てくれてるわ。」


ガタッ…ゴトッ…



ガチャ…



「イリヌイ。」


「皆さん……」


イリヌイは目元を腫らして髪もボサボサ。



「また時を改めようか?」


「いえ!そんな!直ぐに用意しますので!」


扉を閉める。



「良かったわ…少しだけ…元気が出たようね…」


「そぉなんですか?」


「えぇ。帰ってきた時は死んでしまうんじゃないかと心配してましたので…」


「そぉ…ですか。」


ガチャ



着替えて髪を整えたイリヌイが出てくる。



「お恥ずかしい所を見せて申し訳ありませんでした…」


「気にしないで。」


「はい…」


「酷く…言われたの?」


「はい……」


「そぉか。あまり思い詰めるなよ?」


「ありがとうございます。」


「シルビンが会いたがってたぞ。」


「……私は…」


「……」


「仲間の亡骸さえ持って帰ってくる事が出来ませんでした…」


「そぉだな。」


「助ける…ことが…出来ませんでした!」


「あぁ。」


「目の前で!目の前で殺されるのを怖くて見ている事しか出来ませんでした!」


「あぁ。」


「悔しいです…悲しいです…苦しいです…」


ポロポロと下を向いて涙を流すイリヌイを母親が横に座り背中を撫でている。



きっと母親も何も出来ない、してやれない自分を強く責めているだろう。



「イリヌイ。」


「……はぃ……」


「俺達冒険者ってのはいつ死ぬか分からない仕事だ。」


「……」


「今だってどこかで誰かが死んでるかもしれない。」


「……」


「それを承知で皆冒険者を選んでるんだ。金のため、名声のため、仲間のため。理由は人それぞれかもしれないがな。

選んだ時点でそいつは自分の命を自分で賭けてるんだよ。そりゃぁ親からしたら誰にも当たれないからな。イリヌイに当たるさ。」


「でも!私は!」


「イリヌイ。お前は仲間を侮辱するのか?」


「え……?」


「俺がもし死んだ仲間なら侮辱されていると感じるぞ。

お前が助けてくれなかったから死んだ?笑わせるな。俺達全員で決めて全員でヘマしたんだ。勝手に責任を1人で背負い込むな。それは全員で背負うものだ。仲間だろ?ってな。」


「………」


「それにな。確かに1人で生き残ったイリヌイは辛い立場だろう。だが、他の死んだ仲間の事を覚えていてやれるのもまたお前だけなんだぞ?

楽しかった、悲しかった、苦しかった、嬉しかった。そんな思い出は全部今はお前の中にしかない。

自分を責めて、全て投げ出して、塞ぎ込んで忘れようなんて可哀想じゃないか。」


「……」


「俺なら覚えていて欲しい。俺達の代わりに、俺たちの分まで楽しく生きて欲しいって思うな。」


「僕達も、パーティを組んでるから分かるよ。多分皆そぉ思ってるからね。」


「……うっ……」


「別に今すぐ元気に走り回れって言ってるんじゃない。せめて両親を心配させないくらいには前を向いてやれよ。」


「……はぃ……」


「その為にもシルビンに会ったりして少しずつ頑張ってみろよ。先の事は元気になってからでいいからな。」


「はい!」


「それに、少し時間を置いてからまた仲間の両親や仲間に顔を見せにいってみろ。少しは軽くなると思うぞ。」


「どぉ言うことですか?」


「自分の母親に聞いてみろ。」


「そぉね…もしイリヌイが死んでしまったのなら、私も報告に来たその子を責めてしまうかもしれないわ。

でも多分…正気になった時に後悔するわ。

自分の子供が大切にしていた仲間になんて酷いことを言ってしまったのだろうって。その子のせいじゃないのは誰が聞いても分かるのにってね。」


「……」


「あなたの心の整理がついた頃また顔ヲ出してみると良いわ。怖かったら一緒に行ってあげるから。」


「……うん。」


「こんな年下に言われて気持ちの良いもんじゃなかったかもしれんが、少しは力になれたかな。」


「年下なんて関係無いです!本当にありがとうございます!」


「そっか。良かった。」


「私からもお礼を言わせて下さい!」


「私達は何もしてませんから気にしないで下さい。」


「いえ!その様なわけには!」


「ただいまー…ん?」


「あなた!おかえりなさい!」


「お邪魔しています。」


中に入ってきたのはイリヌイの父親だろう。



猫人種で真っ白な髪を短く切りどことなくイリヌイに似ている。



イリヌイは母親似の様だ。


「どちら様で?」


「イリヌイを助けて下さった方々よ!」


「なんと!これは!この度はどぉもありがとうございました!」


「頭を上げてください!私達は何もしていないので!」


「いや!そんな事はありません!」


「今もイリヌイを心配して声をかけてくださったのよ。おかげでイリヌイも…」


「なんとお礼を言えば…ありがとうございます!ありがとうございます!」


「や、やめてください!本当にもぉ充分ですから!」


「そんなわけにはいきません!お昼ご飯でも食べていってください!おい!」


「もちろんよ!直ぐに用意するわね!」


「何も無いですが妻の料理くらい食べていってください!」


また断りにくい言い方をする。



こぉいうところはやはり大人だな。



断わり続けるのも悪いし食べていくとしよう。



「そこまで仰るのであれば…ありがとうございます。」


「いやいや!おい!お前!あれがあっただろ!」


「あー!あったわね!すぐ出すわ!」


「あー!あと!あとはー!」


「お父さん、お母さん!落ち着いて!恥ずかしいわ!」


「ん?す、すまん。そぉだな。」


「まったく…ふふ…」


「イリヌイ……今日は祝いだ!」


「お父さん家の事なんてした事ないんだから座ってて。私が手伝うわ。」


「そ、そぉか?すまんな。」


「良いのよ。」


「くぅー!」


「良かったですね?お父様。」


「ありがとうございます!本当に!」


「いえいえ。」


「そぉだ!キースさんが…日記について聞きたいって言ってわ!お父さん見てわかる?」


「日記?」


「あ、これてすね。」


「少しよろしいですかね?」


「はい。」


「………サシビル?!」


「ご存知なんですか?」


「えぇ!私の曾祖父です!この日記をどこで?!」


「トラタニスの地下墓所です。」


「そんな所に…

実は戦争に行ったきり帰ってこなくて、亡骸も見つからず…」


「そぉだったのですか…」


「その…亡骸は…?」


「言い難いのですが…スケルトンになっておりました。」


「モンスターに…誰も傷つけてはいないですか?」


「はい。私達が早々に対処させて頂きました。」


「なんと……曾祖父もお世話になっていたなんて…」


「偶然ですよ。」


「だとしてもやはり感謝致します。曾祖父に代わり誰かを傷つける前に対処して頂きありがとうございました。」


「いえ。お気になさらずに。」


「そぉでしたか……」


「そちらの日記はお返しします。」


「よろしいのですか?」


「もちろんですよ。私が持っているよりずっと良い事でしょう。」


「ありがとうございます。」


「ですが…宜しければその中にある魔女についてお聞きしたいのですが。」


瞬間部屋の空気が変わった。



母親も魔女の言葉で体の動きを止める。



「……それを知ってどぉするのですか?」


「興味…というのもありますが、実は魔女の魔素溜りの発生を抑える魔道具を作りたいと思っておりまして。」


「魔素溜り…ですか?」


「あまり詳しくは話せませんが、悪い事に利用するつもりはありませんよ?単純に話がしたいと言うだけですから。」


「……そぉですか…」


「お父さん、お母さん。何か知ってるの?」


「……」


「娘を助けて下さった恩人よ。あなた。」


「そぉ…だな。イリヌイもいい歳だから話しておこう。」


「なんの話?」


「実は…私の曾祖父から代々受け継がれてきた話があります。」


「それは?」


「魔女…についての話です。」


「……」


「私の曾祖父、サシビルは、戦争に向かう少し前に酷く弱った女性を匿ったそうです。」


「それが魔女…ですか?」


「はい。容姿について等魔女本人に関する事は一切知りませんが、曾祖父はその女性を助けようと考え匿ったそうです。」


「……」


「しかしその女性は国から追われている身であり、見つかるのも時間の問題だったそうです。

そして曾祖父はその女性を助ける為にある場所にその女性を隠しました。」


「隠した…ですか?」


「はい。」


「そしてそれ以降国はその女性を探し続けていると伝えられてきました。」


「曾祖父の時代となると100年以上前ですよね?まだ探し続けているんですか?」


「はい。」


「生きているのですか?」


「分かりません。曾祖父以外にその女性を見た者はおりませんので。」


「………その場所とは?」


「西の大森林。ブルリオ大森林です。」


「………」


「詳しい場所は分かっていません。」


「なるほど…分かりました。」


「曾祖父がこれを代々受け継ぐ際に、その女性を救えるかもしれない者に出会ったのならこのことを伝えるようにと言われてきました。」


「救える?」


「はい。詳しい事は分かりません。ただその様に伝えられてきました。」


「……そぉですか。分かりました。この事は誰にも話さないとここで誓います。」


「ありがとうございます。」


「私も自分の子供が出来たら伝えろってこと?」


「まだ分からない。

私はこの方々こそ救って下さる人達では無いのかと思っているからな。」


「あまり期待されてしまうと…」


「私のただの勘ですよ。」


「何から救うのか…国からだとさすがに俺たちの手に負えない可能性もありますからね。」


「白主様なら出来ますよ。確実に。」


「白主様…?」


「あ、そぉでしたね。私達はここにおられる白主様と黒主様に忠誠を誓った者です。」


「従者ですか?」


「その様な者と考えて下さい。」


「そぉでしたか。」


「それで?俺が確実に出来るってなんでだ?」


「私達を国から、王族から救って下さったので。」


「王族…?………あー!」


「ど、どぉしたの?イリヌイ?」


「と、トラタニス王国の……王女様!!」


「元…ですよ。」


「お、王女?!」


「あれ?教えていませんでしたか?」


「教えて貰ってないですよ!?」


「まぁそれはそれ程問題ではありませんし気にしなくて大丈夫ですよ?」


「い、いやいや!気にしますよ!」


「私達2人は助けられて以降、ただの従者です。」


「お、王女様を…従者…?!」


「お、おい…」


「えぇ…私達とんでも無い方を昼食に誘っていた様ね…」


「元です!そんなに気にしないで下さい!今はただの冒険者ですから!」


「………」


「固まらないで下さい!」


結局腰が引けた3人を元に戻す頃には昼食が終わっていた。



「ありがとうございました。美味しかったです!」


「いえ、またいらしてください!」


「はい。必ず!」


手を振るイリヌイと別れギルドに向かう。



ゴブリンキングの情報を細かく聞いておきたい。



「白主様…」


「あぁ。大森林か…」


「現在ゴブリンキングの集合場所として考えられている場所です。どぉされますか?」


「……今はまだ動けないな。ギギレルに話を聞いてみよう。もしその魔女が隠された場所があるなら何かしらの目印があるはずだ。」


「目印ですか?」


「サシビルの話を聞いた限り、サシビル自身にはその女性を救う手立てが無かった。

誰かに託す、つまりその手立てを持っている可能性があって尚且つ国と関係の無い者。そんな奴簡単には見つからないだろ。」


「そぉですね…」


「となるとサシビルも分かってたはずだ。何十年、何百年はその魔女を救う事が出来ないかもしれないってな。それが分かっていて目印の無い場所に隠したら誰も発見できないだろ?」


「あ!では100年経っても残るような目印が大森林のどこかに?!」


「恐らくな。

100年となると石造りの何か…って所か。」


「そんなものが大森林の中に…」


「憶測だ。

だからとりあえずギギレルに話を聞こうと思ってな。」


「分かりました!」


ギルドに到着するとマーギーさんが凄い勢いで出迎えてくれた。



マーギーさん的にはあれだけの物資を金も払っていないのに渡してくてしかもギルドマスターを軽くあしらった色んな意味でヤバい人の登場だからな。



「マーギーさん。目立つって。」


「あ!私とした事が…申し訳ございません…」


「いや、良いよ。次から気をつけてね?」


「はい…」


垂れた耳が更に元気なさそうに垂れ下がる。



なでなで…



「あ、え……」


「はっ!しまった!つい!」


「そそそその!あ、ありがとうございます!」


「白主様?!」


「い、いや。すまん。これは俺が悪いな…」


しょぼんとしてる女の人がいるとやってしまう癖だが、これは良くないな。うん。



耳と尻尾があるとどうしても撫でやすいらしい。



「あはははは!マーギーの赤面する所なんてレアなもの見たな!」


「ギルドマスター?!」


「やはり面白い奴らだ!」


「どぉも。ギギレルさん。」


「ギギレルで良いよ。」


「ギルドマスター…それはさすがに…」


「なんだ?示しがつかんと?」


「えぇ…」


「ん、では公私は分けるとしようか。それで?」


「今日は少し聞きたいことがあってな。」


「奥で話そう。」


結局連日でギルドマスターの部屋に入る事になった。



「話とは?」


「2つある。1つ目は、ゴブリンキングの情報はどぉだ?」


「うむ。はっきり言って芳しくない。」


「と言うと?」


「ただでさえ大きな森、そこに大量のゴブリン達が常にうようよいるとなるとなかなか深部の情報を集めるのに苦労する。」


「隠密系の奴は居ないのか?」


「いるさ。だがさすがに見つからないようにとなるとな。」


「………そぉか。

もう1つ。あの大森林の中に石造りの建設物かオブジェとか何か目印になりそうな物ってあるか?」


「石造りの目印……あの森は大きいからな。探せば他にもあるかもしれんが私の知る限り森の深部に大きな岩が1つあるらしい。」


「岩?らしい?」


「誰も発見出来ていないんだよ。噂ってやつだな。

なんでも奇妙な形をした岩が一つだけあるらしいぞ。」


「そぉか…」


「それがどぉかしたのか?」


「いや、少し気になった事があってな。ゴブリンキングの情報も含めて情報収集が必要か。

カヤリス。」


「は。」


「見つからないようにゴブリンキングの軍勢の情報と岩の情報を集めてきてくれ。出来るか?」


「仰せのままに。」


カヤリスは影に潜り偵察に出る。



「1人でか?!」


「大丈夫ですよ。カヤリスなら。」


「そぉか…そぉ言うのなら大丈夫なのか…?」


「それよりゴブリンキングとの戦闘に参加する人達ってどれくらいいるのかしら?」


「現状では100人程度だな。」


「100人か…少ないな。」


「あぁ。もう1人のSランク冒険者であるジニーは現在外に出ていてな。それだけでも戦力が落ちているのに集まりが悪い。」


「何故だ?」


「1つは報酬だな。ゴブリンキングとはいえ軍勢の殆どはゴブリン。はっきり言って労働と対価が見合わないんだよ。」


「物資集めで浮いた費用を回してもか?」


「あぁ。それでもだな。」


「そぉか…他の国の冒険者に頼むとかは出来ないのか?」


「出来なくは無いがゴブリンキングの軍勢と戦うためにわざわざ遠路はるばるここまで来る連中は少ない。

それに恐らく来る前に襲撃が始まるはずだ。」


「軍勢を一気に減らす魔法でもぶち込めば良いが…」


「可能なのか?」


「可能だが…一撃で自分の軍隊がごっそり減ったとなればゴブリンキングは退却するんじゃないか?」


「……そぉだな。退却するだろうな。」


「大森林に逃げ込まれたら捜索は難しいし次は更に多くの軍勢で押し寄せてくるぞ?」


「だろうな…それは困る。」


「となるとある程度は地道に減らして相手に勝てると思わせた方がいいんじゃないか?」


「……となるとやはり人手が必要か…」


「あては無いのか?」


「そぉだな…引退した冒険者や軍人に手伝ってもらうか、国に交渉するか、くらいだな。」


「国の軍隊を使うってことか?」


「モンスター討伐は冒険者の管轄だがある程度の助力は期待できるな。」


「では何故交渉してないんだ?」


「タランタは基本的に階級差別が無いのは知っているか?」


「あぁ。そんな話は聞いたな。」


「だがある1部の貴族と王族はそれに当てはまらないんだよ。」


「それが何か関係してるのか?」


「残念な事にその一部がこの国を動かす重要な役職ばかりでな。そいつらは自分達の我儘を意地でも押し通すんだ。」


「つまり借りを作るとギルドもそいつらの物になりかねないって事か?」


「頻繁に顔を出しては自分達のいい様に扱おうとしてきてな。今まで借りを作らずに何とか凌いできてたんだよ。」


「そこに来て借りを作ると…」


「そんな事を言っている場合じゃないのは分かっているんだがな…最終手段として考えたいんだ…」


「どこの国の連中も大差ないな。」


「それじゃあ引退した人達に手を借りるのは?」


「それは恐らく可能だと思う。

だが、引退した連中は家族がいたり、店をやっていたりする連中だ。」


「頼みにくいな。」


「あぁ。それに頼んでも自分達の生活を犠牲にして、死ぬかもしれない戦いに参加してくれる連中は少ないはずだ。

中には快く引き受けてくれる奴らもいるとは思うが…やはりブランクがな。」


「んー…」


「つまりなかなか人が集まらない状況なんだよ。」


「いっそギギレルが脱いだらどぉだ。」


「…………ん?」


「渾身のギャグが不発に終わった…」


「今のは白主様の自爆です。」


「く…俺としたことが…」


「何を言い出すかと思えば…私が脱いで人が集まるものか。目を汚すだけだよ。」


「綺麗だし意外と集まると思うんだがなー。」


「き?!」


「白主様。いきなり口説き始めないで下さいよ。」


「いや、客観的事実を口にしただけだ。」


「たしかにお綺麗な方ですけどそれは良くないです。」


「き?!」


「んー。何か良い手はないもんか……ん?ギギレルどぉした?顔真っ赤だぞ?」


「う、うう、うるさい!」


「何故怒ってるんだ?」


「白主様は本当に…」


「何故呆れてるんだ?」


「兄さん…とりあえず何か考えないとね。」


「報酬を釣り上げる事が1番手っ取り早いよな。」


「金策が無いとそれは難しいね。」


「簡単に稼げるなら困ってないか。」


「金品以外で冒険者がやる気を出す何か……酒。」


「ギルドが取り仕切って大宴会とかは出来ないんですか?」


「それは出来ますよ。浮いた費用で。ですが賞金上乗せよりそっちの方が冒険者の取り分を考えると安くなりますよ?」


「金額で考えればな。だが冒険者1人で考えるといつもと同じように報酬を貰えて夜は食い放題飲み放題だったらそれ以上の価値に感じるんじゃないか?」


「なるほど…」


「それならギルドとしても楽だし打ち出してみる価値はあるんじゃないか?」


「ふむ…やってみるか…」


「大森林の状況含めて明日また来るよ。」


「承知した。」


ギギレルは早速動いてくれるみたいだ。



コンコン


「マーギーです。」


「入ってくれ。」


「お話中申し訳ございません。

少し気になる情報が入りまして…」


「俺達はもぉ帰るから。」


「あ、皆さんにもお聞きして頂きたくて参りました。」


「??」


「先程冒険の方から聞いた話なのですが、大森林に入っていく国の兵士の姿を見たと。」


「ん??何故このタイミングで?」


「詳細は分かりませんが…」


「ゴブリンキングの事で何か動いているのか?」


「それがゴブリンの偵察に来ている様子では無かったそうで、何かを探している様子だったと。」


「……」


「ゴブリンキングとの戦闘を前にしておかしな動きをしているのでお耳に入れておきたいと思いまして。」


「なるほど…少し探ってみるよ。ありがとう。」


「いえ。失礼致します。」


「……何か気になるな。」


「今は大森林は危ない状況だからな。」


「冒険者も殆ど足を踏み入れていないのに…」


「……」


「考えても分からんな。何かあるかもしれんから気をつけてくれ。」


「あぁ。分かった。」


何か引っかかるものを感じる。



ギギレルが調べるとは言っていたが…



もしかすると……



いや、とりあえず今はカヤリスの報告を待とう。



ギルドを出てニーナ達を迎えに行き宿屋に戻る。



「あ!ニーナさん!今日はありがとうございました!」


「いえいえ。こちらこそありがとね。シルビンちゃん。」


「友達すっごい気に入ってましたよ!」


「良かったわ。」


昼間シルビンが友達を連れてニーナの所に行ったようだ。



何か買ってくれたみたいだな。



そのまま話し込んでいるようだったので俺は1人で2階に上がる。



ベッドに座り何か魔法具でも作ろうかと考えているとカヤリスの気配が近づいてくる。



「どぉだった?」


「ゴブリンキングの軍勢は既に殆どの準備を終えているようでした。2日後…早ければ明日の夜には来るかもしれません。」


「……そぉか。間に合うか微妙だな。

数は?」


「大森林に散らばっているため全体の数は分かりませんでしたがシャーマンの数は約3000かと。」


「その他の上位種は?」


「ジャイアントゴブリン、スニークゴブリン等多数確認しました。」


ジャイアントゴブリンは名前の通りでかいゴブリン。



力が強いが鈍重で頭も悪い。



スニークゴブリンは簡単に言えばカヤリスと同位置の役目を持っているゴブリン。



頭が良く素早いが攻撃力は低い。



「そぉか。ギルドへは明日行こうかと思っていたが遅いかもしれないな。」


「今から報告しに行って参ります。」


「頼む。

石のオブジェの方はどぉだった?」


「目視は出来ませんでしたが、視覚阻害、感覚阻害の魔法が掛けられている場所を発見しました。」


「近づけなかったのか?」


「申し訳ございません。私では結界を解くことが出来ませんでした。」


「それ程の結界が?」


「恐らく魔法具かと思われます。」


「……分かった。」


「その時に兵士らしき者達が近くまで来ているのを見かけましたが…どぉやら魔女を探している様でした。」


「魔女を?」


「はい。盗み聞きした限りでは上からの命令で調べに来たとの事でした。」


「やはり魔女が目当てだったか。」


「??」


「さっきギルドで大森林に向かう兵士の話が出てな。もしかしてと思っていたんだ。」


「魔女を探してどぉするのでしょうか?」


「さぁな。使い道なんざ腐るほどあるだろ。」


「そぉですね…」


「簡単には見つかりはしないだろうが気にしておいた方が良いかもしれん…か。

とりあえずギギレルの所に報告に行ってくれ。」


「は。

その後は大森林のオブジェを見張りますか?」


「いや、まだ大丈夫だ。

恐らく気をつけなければならないのはゴブリンキングとの戦闘が始まった時だな。」


「戦闘に乗じて魔女を探して連れ出そうとしている…と言うことですか?」


「恐らくな。さすがにゴブリンがうようよ居る中下手な事はしないだろう。

再度動く時はまた言うよ。」


「分かりました。」


「じゃあ報告よろしくな。」


「は。」


再度影に潜り報告に行く。



カヤリスが消えてすぐライル達が部屋に入ってくる。



「あれ?今カヤリスさんいなかった?」


「ギルドに報告に行かせた。」


「そっか。どぉだったって?」


「早ければ明日の夜には襲撃が来るとさ。」


「早いですね。」


「あぁ。とりあえず方針だけ決めとくぞ。」


「は。」


「最初に俺とライルでゴブリンシャーマンを片付ける。約3000らしい。」


「1500ずつかな?」


「大体な。ライルはシャーマンを撃破した後1度下がり、全員で正面からやり合う形になると思う。」


「僕はその後どぉする?」


「戦場を見ながら手を貸したりしてくれ。」


「分かった。」


「他の6人はひたすらゴブリン、その上位種を殺しまくれ。経験値としてはそれ程美味しくないが数レベルくらいなら上がるだろう。」


「は。」


「俺は全体を見ながら援護する。確実に乱戦になるから基本的に他の冒険者の邪魔にならないようにする事。

あと戦闘開始後少ししたらカヤリスが離脱すると思うからそこは気にしててくれ。」


「何かあるのですか?」


「魔女関係の事だ。恐らくゴブリンキングとの戦闘が始まればモンスターも冒険者もいなくなった大森林内で魔女を探しに来ている国の兵士が動き出すと思う。

カヤリスが監視してくれる手筈になっている。」


「カヤリスさんだけで大丈夫でしょうか?」


「ダメそぉなら俺が行く。」


「分かりました。」


「そぉなったらライルの負担が増えるが…まぁ大丈夫だろ。」


「それくらい任せてよ。」


「まぁこんな所だ。」


「分かりました。」


「さて、カヤリスが戻ってきたら飯でも食って寝ますかね!」


「はーい!」


カヤリスは直ぐに帰ってきた。



予想以上に早いゴブリンキングの行進、ゴブリンマーチの襲来にギギレルは忙しそうにしていたらしい。



宴会の報酬が出た時点で既に50人は集まったそうだ。



明日の夜には200人程度になっている予定らしい。



200人いれば多少楽になるだろう。



明日は昼過ぎにはギルドに来て欲しいと言われたそうだ。



最初からそのつもりだったから問題は無い。



今日はしっかり寝て明日に備えるとしよう。







「……けて……助けて!……誰か助けて!」


「?!」


辺りを見渡すが暗闇に眠り続ける皆がいるだけだ。



「兄さん?どぉしたの?」


「いや……なんだったんだ?」


「夢?」


「あぁ…すまん。起こしたな。」


「うん。おやすみ。」


「あぁ。」


ただの夢…?



これで2度目。



普通の夢とは違う気がする。



聞き覚えの無い声。



しばらく考えているうちに俺は再度眠りに落ちていた。






「昨日はありがとうございます!」


「いえ。私は白主様の指示に従っただけですので。」


昼過ぎにギルドに入ると開口一番にマーギーさんからカヤリスへのお礼が入る。



「助かりました!まさかこんなに早いだなんて…」


「私からも礼を言うよ。」


「ギギレル……さん。」


「良いよ。キースさんはギギレルと呼んでくれ。」


「す、すまないな。」


「気にするな。それより何とか200人は集まったよ。助かった。ありがとう。」


「礼は良いよ。それより物資は大丈夫か?」


「あぁ。お蔭様でな。一応昨日のうちに突貫で陣を張っておいた。森から出てずっと続く平原が戦場になるだろう。」


「分かった。」


「最初は任せて大丈夫なんだな?」


「あぁ。シャーマンは任せてくれ。俺とライルで片付ける。

その後はそれぞれの邪魔にならないように各自で撃破していけば何とかなると思うぞ。」


「分かった。その旨後で全員に伝えておこう。」


「ギギレル!元気だったか?!」


「ゴービン?!シルヨフ?!何故ここに?!」


「何故ってそりゃ戦闘に参加する為だろ!」


「何を言ってる?!店やシルビンちゃんはどぉする気だ?!」


「なんだ?人手が足りねぇんだろ?」


「いや、そぉだが…」


「なーに、俺達もまだまだいけるぞ?な?」


「えぇ。元Aランク冒険者の力を見せつけて上げるわよ!」


「だが…」


「危なくなったら勝手に逃げるから大丈夫だって!」


「まったく…すまんな。」


「水臭いわね!友達でしょ?!」


「あぁ。ありがとう。

だが、死んでもらっては私がシルビンちゃんから嫌われてしまうからな。この人たちの近くにいてくれ。」


「あら?」


「なんだ?お前ら知り合いだったのか?!」


「そぉか…ゴービン達の所で泊まっているんだったな。」


「それよりこいつらの近くにいてくれとは?」


「この人たちは双天の誓いと言うパーティでな。全員Sランクの冒険者パーティだ。」


「全員?!」


「まぁ…」


「そ、そいつは驚きだな!」


「驚く気持は分かるぞ。

ここだけの話私はそこの2人に手も足も出ずにボコボコにのされた。」


「え?!ギギレルが?!」


「おいおい…すげぇ奴がお客様だったのかよ…」


「世の中広いな!あはははは!」


「がはははは!」


この2人気が合いそうだな。



「それなら遠慮なく近くで戦わせて貰おうかしら。」


「はい!よろしくお願いしますね!」


「こちらこそ!」


「さて。そろそろ移動しようか。」


俺達は西門を出て突貫で作られたと言う陣に向かった。



防壁が作られているが突貫と言うだけあって頼りになるとは世辞にも言えない。



「皆!聞いてくれ!」


ギギレルが今日の事を全員に話している。



俺達が先陣を切ることに不満そうな顔をする連中も見えたが全員Sランクと言う言葉でピタリと不満が止まった。



「…といった段取りだ。

乱戦になるからこの通りにはいかんだろうがとりあえず互いの邪魔にならないようにだけ気をつけてくれれば良い!ゴブリンキングの撃破後はここにいる全員で宴会だ!もちろんモンスターの撃破に対する報酬もしっかり払う!

各々好きなように暴れろ!」


「うぉーーーー!」


「やるぞーー!」


なかなか気合いが入っている様で良かった。



「あなた達が先陣を切るの?」


「あぁ。俺とライルでな。面倒なシャーマンを先に叩く。」


「叩くって…簡単そうに言うけど数は相当な物でしょ?」


「約3000ってことだな。」


「可能なの?シャーマンは陣形の奥にいると聞いたけど。

私も魔道士だけどそんな魔法知らないわよ?」


「まぁ見てからのお楽しみってやつで。」


「……分かったわ。」


「がはははは!Sランク様が言ってんだ!大丈夫だろ!」



そんな話をしていると大森林がモゾモゾと動き出す。



太陽が森の奥に沈み始めた頃、ついにゴブリンマーチが始まった。



逆光を利用して責めてくるつもりらしい。



なかなか頭の回る事だ。



ゾロゾロと登場するゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。



俺達から100メートル程離れて止まったゴブリン軍団。



ゾロゾロと現れた最後にゴブリンキングが出てくる。



何かの骨で作られた御輿の様な物に乗っている。



その前にジャイアントゴブリンやシャーマン等の上位種がずらりと並びその前に数多のゴブリン。



最大でレベル320。



数にして約二万。



こんな数よくもまぁ集めたもんだ。



大森林でも収まりきらないんじゃないかと言う数だ。



「二人共!頼んだぞ!」


「あいよー。」


結界は既に2つ解いてある。



「ライル。右側頼んだぞ。」


「分かった。」


俺が杖を振ると同時にライルの姿が消える。



「よっと。」


杖が振り下ろされると左半分のゴブリンシャーマンがいる地面がより暗い色に変わる。



「ギギャッ?!」


第九位 闇魔法 闇沼。



地面に闇の底なし沼を作り出す魔法だ。



闇の沼に囚われたものはもがいても出ることは出来ず、瞬く間に沈みその命を終える。



「な、なんだあの魔法…」


「見た事ないぞ…」


「嘘だろ…」


周囲がざわついている間にシャーマンの半分が地上から姿を消す。



魔法を解くとドロップアイテムのみ地面に残りゴブリンの姿は無い。



ざわついている冒険者やゴブリン勢をよそに右側半分のゴブリンシャーマン達に異変が起きる。



ライルの剣術の1つ、彼岸花。



これはこっちの世界で考え出した技で、身体強化により超高速で移動しながら周囲の敵を全て切り裂く技だ。



あまりの速さに一瞬で切り殺され、ライルの通った後、シャーマン達の首が全て飛び血が高々と吹きあがる。



その光景が前世の彼岸花の様に見えることから名付けた技だ。



瞬時に3000ものシャーマンを失って逃げるかと思ったがそんなことは無いらしい。



なんか怒ってる様だ。



「おかえり。」


「ただいま。シャーマンは全部切ったと思うけど。」


「まぁまだ残ってても数匹だしなんとかなるだろ。」


「あ、あいつら化け物かよ……」


「一瞬で3000……」


「やっぱSランクの冒険者ってのは格が違いすぎるな…」


「私もSランクだがあんなバカみたいな事は出来んぞ…」


ギギレル。ぼそっと言ったが聞こえてるぞ。バカって言ったな。後でお仕置きだ。



「な、なんなのあの魔法…」


「闇沼って魔法だよ。俺のオリジナル。」


「なんか…訳分からないわね。」


「がはははは!黒い方の剣なんか一回も見えんかったわ!」


「ギギレルが言ってた意味が分かったわ…」


「ぼさっとするな!2人がシャーマンを撃破したぞ!突っ込めー!」


「うぉーーーー!」


「私達も行きましょう!」


「えぇ!」


「がはははは!久しぶりに血が滾る!」


ゴブリン達と冒険者が激突する。



ゴブリンキングに率いられているとレベルも上がるのか普通よりゴブリンのレベルも少し高めだ。



といっても元が50そこそこ。今は70そこそこだからうちの子達から見たらあまり変わらんだろうが。



普通のゴブリンに混じって防具を身に付けて武器もそれなりのものを持っているゴブリンがいる。



ゴブリンソルジャー。



レベルは150前後。



ランクの低い冒険者は通常のゴブリンを相手にしてソルジャーは中層の冒険者が相手をしている。



ジャイアントゴブリン、スニークゴブリン、そして最も良い防具と武器を持ち力も素早さもあるゴブリンジェネラル。



この3種の上位種はそれぞれレベル280、300、320。



Aランクとギギレルがこれを相手にしている。



つまりうちのパーティは主にこいつらを相手にしているわけだ。



単純計算で1人100体のゴブリンを倒せば全滅するはず。



先に3000程度片付けたからそれ以下。



大変だが不可能では無いはず。



囲まれないように上手く立ち回りながら敵を次々と倒しているパーティもあれば通常のゴブリンに苦戦しているパーティもある。



ライルがそぉいったパーティを見つけては手助けしている。



俺も離れた位置から全体を見ては強化魔法を掛けてやったり危ない奴を攻撃したりしている。



「はぁーー!」


「ギギレルさん!」


「さすがに多いな!」


「でも行けます!行かないと後で私達がお二人に殺されます!」


「あはは!私も負けてられんな!行くぞ!」


ギギレルとうちのパーティは安定しているようだ。



「がはははは!おらおらぁ!」


「あなた!出過ぎよ!ストーンバレット!」


「なんのこれしき!まだまだ若いもんに負けてられるかー!」


「ゴービンさん!娘さんのこと考えて!」


「む。そぉだな。無茶はいかんな。」


「あぶねーぞー。」


俺が魔法で援護する。



「おっと!がはははは!助かったわ!」


「あなた!帰ったらお仕置きよ?」


「そ、それは困る!」



そろそろ魔女の方に動き出そうかと思っていた時の事だった。



パキィーン


まるで大きなガラスが割れたような甲高い音が大森林の方角から聞こえてくる。



ギギレル達に目をやるが気付いていない様だ。



俺にだけ聞こえた…?



その時直接頭の中に響く声が聞こえてくる。



「いや!誰か!誰か助けて!」


寝ている時に聞こえた声だ。



「カヤリス!」


「は!」


「案内しろ!一気に行くぞ!」


俺は目の前に現れたカヤリスを抱きかかえると足に力を込める。



「ふぇ?!」


いきなりの事に変な声を出しているが、構っていられない。



夢で聞いた声よりもずっと切羽詰まった声。



まるで結界が破られたような甲高い音。



カヤリスを抱えたまま地面を蹴るとゴブリンの大軍の真上を一気に超えて大森林の真上まで飛ぶ。



「ーーー!!」


カヤリスの言葉にならない叫びと俺にしがみつく手。



「カヤリス!どの辺だ?!」


「え?!えっと……あそこです!中央辺りの木が無いところです!」


「すまんがもう一度一気に行くから掴まっててくれ!」


「はい!」


俺は風魔法で自分達の体を一気に押し出す。



もちろん行先はカヤリスの案内してくれた場所だ。



大砲の様に押し出された俺とカヤリスは直線的に目的地に落下する。



ドゴォン



地面が割れて土煙があがる。



「な、なんだ?!」


兵士の声が聞こえる。土煙の向こうに兵士が5人、そして黒い女性が立っていた。



「え?」


カヤリスの声が聞こえる。



驚きを隠せなかった様だ。



「カヤリス。兵士を止めろ。」


「……は、はい。シャドウバインド!」


「うわっ?!な、なんなんだ?!」


土煙が消える。



「貴様ら何者だ?!」


「そこの()()()の女の人を助けに来た者だ。」


そこに居たのは緩いウェーブがかかった長い黒髪。



カヤリスと同じ耳と尻尾。



青い目、薄い唇。



ボロボロの布でできた服に手枷足枷、そして首輪。



手の甲には赤い奴隷紋。



100を超えた人には見えない。



まるで20歳前後の綺麗なお姉さんだ。











もぉどれくらい経っただろうか…



何年……何十年……



私は1人でずっとここにいる。



この大きな森の中の大きな岩の下に。



不自由無く育てられ、魔法の才能があった。



冒険者になり沢山のモンスターを倒しレベルも上がった。



Sランクにまで上り詰めた時、上位精霊に出会い魔女にもなった。



その時から私は歳を取らなくなった。



周りからは気味悪がられパーティからも追い出された。



誰かを守れる力だと思っていた。



誰もいなくなって無茶なモンスター退治に向かい、何年、いや何十年も1人で戦い続け、遂に倒れて気を失った私は奴隷になっていた。



絶望した。



誰かを救い守りたかっただけなのに。



私を買った奴は皆殺した。



何人かなんて覚えていない。



何人でも良かった。



沢山殺したら主人が遂にいなくなった。



私は満身創痍で走って逃げて街の外れにある家の横にある物置小屋に忍び込んだ。



一晩雨を凌げれば良かった。



「誰だ?!」


「?!」


「待て!!」


「やめて!放して!」


「待て待て!落ち着け!」


「……」


「物音がすると思ってきてみたら…なんでこんな所に奴隷が?」


「奴隷じゃない………奴隷じゃない!!」


「………今噂の黒い豹人か。」


「?!」


「待て、逃げようとするな。」


「放して!!」


「待てって。別にどこかに引渡したりしない。だから1度落ち着け。」


「……」


「ここじゃ寒いだろ。中に入れ。」


猫人種の男に連れられて入った家には猫人種の女性が赤ん坊を抱えて立っていた。



「あなた……」


「大丈夫。危険はないよ。出来れば温かいものを食べさせてやりたいんだが…」


「……分かったわ。少し待っていてね。」


奴隷と知っていて優しくされたのはこの時が初めてだった。



温かい食事に涙が止まらなかった。



夢中で食べた。



「名前は?」


「……エリーナ……」


「そぉか。エリーナ。何があったか聞かせてくれないか?」


私は全て話した。この人達が悪い人だったら……



そう思った。でももしこの人達に騙されたのならもう諦めよう。



疲れてしまった。逃げる事にも生きる事にも。



「そぉか。エリーナは魔女だったのか。」


「魔法で隠れられないの?」


「主人がいなくなったから勝手に使うと…」


「そぉか……

今エリーナはこの国の指名手配犯になっている。」


「知ってる…」


「だから遠からずここにも兵士が来ると思う。」


「……」


「そこでエリーナを隠そうと思う。」


「え?」


「俺の母さんは子供の頃魔女に助けられたらしいんだ。

それは美しい黒豹人の女の人だったそうだ。

モンスターに襲われて死ぬ寸前に目の前に現れたその人はあっという間にモンスターを倒して泣いている母さんを優しく抱きしめて大丈夫だって何度も背中を撫でてくれたそうだ。」


覚えてる。



魔女になってパーティから追い出されてすぐの頃。



1人の女の子を助けた。



ゴブリン数匹に襲われていたのを偶然見つけて助けた。



「母さんが毎日俺に言い聞かせたんだ。

もし誰かが困っていたら助けるのよ。それがもし魔女さんで、あんなに優しい魔女さんを誰かが虐めていたらそれが例え国でも神でも助けてあげて。

死ぬまで言っていた言葉だ。俺は母さんを助けたエリーナを助ける。」


「……」


泣き声も上げられなかった。



ただ目からもう枯れたと思っていた涙が溢れた。



「だけど…すまない。俺にはこの奴隷紋をどぉにか出来る手立てがないんだ…

だからエリーナを大森林に隠す。

そしていつか、必ず君を助けられる人物を見つける。約束しよう。だから、待っていてくれないか?」


「……分かった。待ってる。」


私はその男の言葉を信じた。



いや、今でも信じている。



岩の下に連れていかれて魔法具で結界を張ってくれた。



誰も近づけず誰にも見えない。



でも私は信じて待ち続けた。



1度も疑った事は無い。



それでも、国は私を許さなかった。



最近になって頻繁に近くまで国の兵士が来るようになった。



多分見つかるのも時間の問題…



あの男の人が約束を破ったわけではない。



ただそんな人が現れなかっただけ。



でも…あの人が私を助けてくれたのなら最後まで…死ぬまで足掻いてみせる。



毎日誰にも届かない程、奴隷紋に引っかからない程の魔力で助けを求めた。



「助けて!誰か!」


声が枯れたら休んでもう一度。



「お願い!誰かー!」


それでも届かない。



最近は森が騒がしくなってきている。



それもあって聞こえないだけかも…



「誰かー!お願い…助けて…」


でもそんな声は誰にも届かなかった。



遂にその時が来てしまった。



兵士が5人。



私の方に歩いてきた。



手には何かの魔法具。



それをこちらに向ける。



パキィーン


あの人が作ってくれた結界が破られてしまった。



「やっと見つけたぞ。魔女。」


「いや……」


「大人しく着いてこい。」


「いや!やめて!」


「うるさい奴だな!来るんだ!」


「いや!誰か!誰か助けて!」


「この…いい加減に!」


男が剣を振り上げたその時。



ドゴォン


真横で凄い音と土煙が上がる。



「な、なんだ?!」


「カヤリス。兵士を止めろ。」


「……は、はい。シャドウバインド!」


「うわっ?!な、なんなんだ?!」


土煙が消えてそこにいた人が見える。



なんて美しい人。



まるで白い天使。



「貴様ら何者だ?!」


「そこの黒豹人の女の人を助けに来た者だ。」


自分の事を言われていると一瞬分からなかった。



何故なら白いその人の横には私と同じ黒豹人種の綺麗な女の人が変わった黒と白の服を着て立っていたからだ。



「貴様…俺達が誰だか分かっているのか?!国家反逆罪だぞ?!」


「ここでもそぉなるのか。」


「白主様。ここは全滅させて知らぬ存ぜぬがよろしいかと。」


「なっ?!貴様ら!!」


白い人がそっと手を前に出すとその指先辺りに小さな白い光が5つ生まれる。



まるで下位の精霊の様だ。



それがすっと指先から離れていくと5人の口の中に入っていく。



「な、なんだこれは?!一体何をした?!」


「今入れたのは空気を圧縮したものだ。わかりやすい様に光らせただけだ。」


「なんだと?!そんなもの入れてどぉする気だ?!」


「簡単だよ。今からいくつか質問する。それに答えて欲しい。

もし拒否したり嘘を吐けば空気が膨張して内側から体が弾けるわけだ。」


「貴様ーー!!」


「おっと。良いのか?死ぬぞ?」


「く…」


「さて。まずは最初の質問だ。

この人を捕まえて何をしようとしている?」


「………」


ボンッ


「え…?」


1番後ろに居た男が一気に膨れ上がり、その人を構成していた色々なものが飛び散る。



残った4人はその色々なもので真っ赤になっている。



「ひぃ!!」


「俺は気が短いんだ。それに今は忙しくてな。」


「わ、分かった!話す!

そこの女は殺人犯だ!捕まえて処け…い゛…」


ボンッ



私はこの時目が離せなかった。



なんて美しい魔法なのか。



いつ魔法陣が描かれた?



見た事も聞いた事も無い魔法。



確かに残虐な行為なのかもしれない。



それでもそんな事を考える余地など無い程に美しい魔法だった。



単純に見とれていた。



あぁ…この人はきっと…



「さて。残り3人だ。」


「何故だ?!喋ったじゃないか?!」


「嘘を吐くな。そぉ言ったろ?」


「……そいつは魔女だ。

魔女を連れ去って戦争の道具にするつもりなんだ。」


「貴様!何を口走っているのか分かっているのか?!」


「黙れ!こんな所で死ねるかよ!俺はお前に無理矢理連れてこられただけだ!」


「どんな道具として使うつもりだったんだ?」


「こいつの主人になって強制的に魔法を使わせるんだよ。奴隷なんだから簡単な事だ。」


「なるほどな。それで、そんな事を考えているのは誰なんだ?」


「そ、それは言えない!言ったら俺が殺される!」


ボンッ



「ひぃ!もぉやめてくれ!」


「なるほど。二人ともここで死にたかったのか。それならそぉと言ってくれよ。」


「分かった!話す!」


「貴様黙らんか!」


「宰相だ!この国のな!」


「貴様正気か!?」


「うるさいなぁ。」


ボンッ



「ひぃー!お、俺は喋っただろ?!見逃してくれ!」


「何故だ?」


「は?いや、全部喋ったろ?!」


「お前はこの魔女がやめてくれと叫んだ時やめたのか?

やめてないだろ?なら俺もやめない。」


ボンッ


白い人がこっちに向かって歩いてくる。



目の前まで来ると座り込んだ私の前に片膝をついて手を差し出してくれた。



怖くなんか無い。



ただただ美しい。



まるでかの有名な白いドラゴンを見ているかの様な。



「立てるか?」


「……は、はい!」


「とりあえず綺麗にしておくよ。」


「あ、ありがとうございます!」


「名前は?」


「エリーナと申します。」


「エリーナか。俺はキース。こっちはカヤリスだ。」


「キース様にカヤリス様。」


「エリーナを助けた人の子孫から聞いて助けに来たんだ。」


「あの人の?!」


「あぁ。」


「やっぱり……やっぱり私は…」


信じて良かった。



信じ続けて、待ち続けて良かった。



「白主様。もしかして主人になってませんか?」


「え?」


「この様子ですと…恐らく白主様を信用していますので…」


「エリーナ…ステータスを見て主人が誰か見てもらえるか?」


「え?はい。……キース様…になっていますね…」


「やはり、無意識的に主人として認めた事になったんだと思います。」


「あー…まぁ助けた責任だな。とりあえずエリーナ。」


「はい?」


「今仲間がゴブリンキングと戦っててな。あまり離れていると良くないんだ。着いてきて貰えるか?

エリーナの身は俺が守るから。」


「はい!」


私は2人に連れられて本当に久しぶりに森を出る事になった。






「あ、戻ってきた。」


「すまん。ライル。」


「良いよ。その人が?」


「あぁ。エリーナって名前らしい。詳しい話は後にしよう。」


「分かった。」


「戦況は?」


「残りは5000って所かな。」


「かなり削れたな。」


「うん。今のところこっちに被害は出てないよ。」


「それは凄いな。俺が援護するからライルはゴブリンキングを見ててくれるか?逃げ出すなら殺して構わんから。」


「了解。」


「白主様。私も皆さんに合流致します。」


「あぁ。頼んだ。」


あれだけ居たゴブリン達が今はほとんどいなくなっている。



「キースさん。戻ってきたのだな。」


「ギギレル。休憩か?」


「さすがにぶっ通しでは…」


「まぁそぉだわな。逃げ出すとしたらそろそろだと思うからゴブリンキングの討伐は任せるぞ。

一応ライルが見てるから心配するな。」


「分かった。では行ってこよう!」


ギギレルは大きな斧を構えるとゴブリン達のど真ん中に走っていく。



「はぁーー!」


「あの斧の前ではゴブリンなんて紙みたいなもんだな。」


向かってくるゴブリンを綺麗に真っ二つにしながら前進していく。



周りの冒険者も負けるかと攻撃をより苛烈にしていく。



「ゴブリンキング!お前の首貰い受ける!」


大きく飛び上がるギギレル。



待ってましたと言わんばかりにスニークゴブリンが数体飛びかかる。



バチンッ


俺が持つ杖の先から走った閃光がそのスニークゴブリン達を襲う。



瞬時に絶命したスニークゴブリンはギギレルに刃を届かせること無くゴブリンキングの目の前に着地する。



「グギャギャーー!」


狂ったように叫ぶゴブリンキング。



周りに控えていたジャイアントゴブリン、ゴブリンジェネラルが数体飛びかかる。



「舐めるな!エアランブル!」


ギギレルのスキルだろう。



斧に纏っていた風が膨張したと思いきやそれが複数の風の刃となって周囲に飛翔する。



受けきる事が出来なかったモンスター達はズタズタに引き裂かれて絶命する。



そのままゴブリンキングに向かって走っていくギギレル。



ゴブリンキングは魔法武器の槍を隠し持っていたらしく御輿の上から槍を突き出した。



ギギレルは俺とライルに負けてはいるがSランクの冒険者。



何かの武器を隠し持っている事くらい予想の範囲内。



斧の柄で槍の起動をずらすと体を一回転させる。



御輿を担いでいたゴブリン4匹のうち前方の二匹の高さが半分になる。



御輿は当然前に傾きゴブリンキングは前方に投げ出される。



「ギャッ?!」


さらに回転したギギレルの斧が斜め上から振り下ろされる。



ゴブリンキングも負けじと槍で受け止めようとする。



だが遠心力もプラスされた大斧の威力を殺しきれるはずもなく、槍ごと押し込まれ体を斜めに両断される。



耳障りな断末魔。



自分達の指導者が死んだと分かるや上位種を含めてゴブリン達が一斉に森へ逃げ出す。



「逃がすわけないだろ。」


俺が杖を降るとゴブリン共と森の間に炎の壁が出来上がる。



スピードを殺せず突撃したゴブリンは燃え尽きて死ぬ。



残るは2000程度。



暗闇の中狂ったように燃え上がり辺りを照らす炎の壁。



冒険者達が追い打ちを掛ける。



「やれぇーー!」


「うぉぉおお!」


リーダーを失い統率が無くなったゴブリン達など驚異ではない。



1時間もしないうちに全てのゴブリンが討伐された。



「我々の勝利だー!」


ギギレルの勝鬨を最後に俺達のゴブリンキング討伐戦が終了した。



「お疲れ様。皆ドロドロだな。」


「さすがにあれ程の数を切ると血だらけですね…」


「ほれ。」


「ありがとうございます!サッパリしました!」


「あの…その方が?」


「ん?あぁ。エリーナって言うらしい。」


「よろしくお願いします。」


「はーい!」


「おーい!俺達も綺麗にしてくれー!」


「お疲れ様です!ゴービンさんもシルヨフさんも大活躍でしたね!」


「いやー!久しぶりに暴れたー!」


「私もまだまだいけるわね!」


「宴会には参加するのか?」


「シルビンがいるから帰るわ。」


「なんだ?シルビンも連れてこれば良いだろ?」


「そんな事して良いのか?」


「大丈夫だろ。カヤリス。」


「は。」


「ひとっ走りして呼んできてくれないか?」


「仰せのままに。」


「良いのか?!」


「気にするな。」


「おーい!」


「今日の主役が登場だな。」


「ギギレルさんお疲れ様です!」


「あぁ!お疲れ様!

色々助かったよ。ありがとう!」


「何を言ってんだ。皆で勝ち取った勝利だろ?」


「あはは!そぉだな!皆お疲れ様!」


「おぉ!宴会はどぉすんだ?!」


「早く飯と酒ー!」


「あはは!今料理と酒を持ってこさせている!

ギルドの奢りだ!好きなだけ食って飲め!」


「うぉぉおお!」


「食うぞー!」


「飲むぞー!」


200人以上の人間が集まって飲み食いするなどなかなかあるものでは無い。



物凄い量の料理と酒が運ばれてくる。



今の今まで生死を共にして戦った仲間達だ。



皆で酒を酌み交わしどんちゃん騒ぎが始まる。



「おい!白い兄ちゃん!飲んでるか?!」


「飲んでる飲んでる。」


「足りねぇだろ!もっと飲めー!」


「黒い兄ちゃんもだ!ほらほら!」


「おーし!やったろうじゃねぇか!おい!酒樽で持ってこい!」


「おー!良いぞーやれやれー!」


「俺に飲み比べを挑む奴はテーブルに着きやがれ!」


最早無法地帯。



ケンカが無いだけまだマシか。



「エリーナ。どぉした?」


「え?」


「お前も食え。」


「え?!私は何もしてませんよ?!

それに私は飲み食いしなくても生きられる体なので大丈夫です!」


「飲み食いするとどぉなるんだ?」


「え?いえ、何も起こりませんよ?」


「んじゃ食え!飲め!」


「え?!え?!」


「なんかカヤリスの最初の頃を思い出すね。」


「エリーナさん。白主様は言い出したら聞かないので諦めた方が早いですよ?」


「あ、えーっと…では…」


「白主様。お連れしました。」


「お父さん!お母さん!」


「おー!シルビン!」


「おー!じゃないわよ!どれだけ心配したと思ってるのよ?!」


「すまんすまん。」


「いきなりゴブリン退治に行くとか言い出して飛び出しておきながら心配して来てみれば!」


「お、おい!痛い痛い!」


「シールービーン!」


「きゃっ?!ギギレルさん?!」


「んー!可愛いなぁー!」


「や、やめてー!」


「あ!ギギレルさんずるい!」


「ギギレルさんもシリアさんもやめ下さいー!」


「やめてやれって。ほら、シルビン。とりあえず食って飲め!」


「え?」


「宴会だからね!ほらほら!」


「あー!助けてー!」


そんな感じで始まった宴会は夜が明けるまで続いた。






「うぅー…気持ち悪い…」


「姉さん飲みすぎよ。ほら水。」


「ありがとサーシャ…」


宿に帰って起きたら昼を過ぎていた。



酒に慣れていないアデルカは二日酔いの様だ。



「さて。エリーナ。話を聞かせてくれないか?」


「はい。」


エリーナはこれまでの事を細かく教えてくれた。



奴隷になった経緯やその後の事も。



「カヤリスに聞いた限り、今までに生まれてきた黒豹人はカヤリスしかいないらしいが?」


「私は既に老いない体となり、200年近くの時を生きております。恐らくカヤリスさんの知る範囲外の存在なのでしょう。」


「もう1人知っているのは忌み子として恐れられた黒豹人。」


「それは私のことです。カヤリスさんには大変なご迷惑をお掛けしました…」


「エリーナさんのせいじゃありませんよ。恨んでなどいません。」


「ありがとうございます…」


「俺にだけ聞こえてきた声は一体なんだったんだ?」


「私は奴隷になった後主人となった者達を殺しました。最終的に主人がいなくなった事で奴隷紋の効力だけが残り魔法を使う事が出来ませんでした。

そこで奴隷紋に反応しない程微弱な魔法で助けを呼んでおりました。それに気付ける方となると…」


「白主様のお力が無ければ知り得なかった…という事ですか。」


「はい。」


「なるほど…エリーナはこれからどぉするつもりなんだ?」


「そぉ…ですね。高位の奴隷紋を施された時点で私の人生は奴隷として終わる事が確定しております。

もしご迷惑でなければ…私を傍に置いては頂けませんか?」


「……いや、それは出来んな。」


「そぉ…ですか…」


「俺達はこれからもダンジョンや他の魔女を探す旅に出る。魔女の近くに寄ればエリーナの魔素と反応して魔素溜りが出来てしまうからな。」


「……はい。」


「白主様。意地悪ですよ。」


「ん。すまん。

それは連れて行けない理由だが、エリーナにはまだ別の道を用意出来る。」


「別の道…ですか?」


「カヤリスはエリーナと同じ様に高位の奴隷紋を施されていた。」


「え?!」


「今は奴隷では無くなった。俺が奴隷紋を解除したんだ。」


「そんなことが?!」


「あぁ。出来る。ただ少し時間が掛かる。コツを掴んだから大体1ヶ月未満で出来るはずだ。」


「そんなに早く?!」


「だからエリーナを奴隷紋から解放することは出来る。だが、その後はどぉするつもりなんだ?」


「解除出来る……そぉ…ですね…考えていませんでした。」


「……国に追われているとなるとこれからも大変だろ?」


「はい…」


「これから1ヶ月の間は俺達が行動を共にするから大抵の事は大丈夫だとは思う。だが、解除した後、俺達がこの国を出たらまた同じ様に危ない生活になるぞ?」


「……」


「まだ答えを出す必要は無いが1ヶ月の間に方針だけでも固めないとな。」


「はい…」


「まぁ僕達と一緒にしばらく考えようよ。」


「はい。」


「奴隷紋の解除についてはまた話すよ。カヤリスと同じなら俺から離れない様にだけ気をつけてくれ。」


「分かりました。」


まさか2人目の奴隷紋を解除することになるとは…



まぁこれも助けた責任だ。



「今日はどぉされますか?」


「Sランクの依頼を受けたいところだが…」


「ギギレルさん昨日信じられないくらい酔ってましたからね…」


「多分アデルカと同じかそれ以上の状態になってるわな。」


「1度イリヌイさんの所にお邪魔する必要がありますよね?」


「だな。だが今行くと迷惑を掛ける可能性が高いからな。」


「エリーナさんを連れて行けば良くない事があの一家に訪れてしまいますね。」


「……カヤリス。あの一家にエリーナの事を掻い摘んで説明してきてくれ。」


「は。」


「エリーナの外見はミラージュを使って変えているから街中を歩いても簡単には魔女という事はバレないが…一家への接触はやめておこう。危険だからな。」


「はい。」


「一応魔法の使用は許可するが出来る限り使用は控えてくれよ。」


「分かりました。」


「マーズ。シリア。ダジの3人で街中に行ってそれとなく宰相の噂やなんかを集めてくれないか?」


「「「は。」」」


「ついでにニーナにも事の次第と宰相について探るように言っておいてくれ。」


「分かりました。」


「アデルカは…寝てろ。」


「も、申し訳ございません…」


「気にするな。それも冒険者の醍醐味だ。嫌な方のな。」


「うっ…」


「サーシャはアデルカを見ててやってくれ。」


「はい。」


「ライル。少し一緒に出よう。」


「分かった。」


俺はライルと共に宿を出て東門に向かう。



「これは……トラタニスから来たのかな?」


「あぁ。」


「誰かいらしたんですか?」


「ん?恐らく俺を殺しに来た奴だな。」


「殺しに?!」


「街中で暴れられても困るからな。」


「街の外にいるのに気付いたんですか?!」


「まぁ索敵魔法でな。それなりの殺気を出してるから多分俺の考えてる奴だと思う。」


「ど、どなたですか?」


「騎士団長だったか?」


「うん。4騎士倒したら出てきた親分ってところだね。」


「騎士団長?!」


「知ってるのか?」


「い、いえ。現在の騎士団長の事は知りませんが…トラタニスの騎士団長と言うとトラタニス最強の騎士として任命される事で知られておりますので…」


「そぉだったかな?」


「そんな様な事言ってた気もするね。」


「なんでそんなに反応が淡白なんですか?!騎士団長ですよね?!」


「え?なんか緊張とかした方が良いのか?」


目を丸くして驚くエリーナを横目に門を出る。



少しトラタニス方面に歩いていくと前から3台の豪華な馬車が走ってくる。



「あれだな。」


「だね。」


「そこのお前達!止まれ!」


「はいはい。」


「…貴様がキースか?!」


「うん。」


「騎士団長!」


「ほぉ。こんな所で出会すとはな。」


中央の馬車から降りてきた男が騎士団長だろう。



白髪混じりの紫色の髪をオールバックにして口周りの髭も白髪混じり。



鋭い目付きのおじさんだ。



異様なのは全身を覆う鎧が全て金ピカ。



眩しいです。



腰に携えた直剣まで金ピカだ。



「凄い金ピカなおじさんだね。」


「あれが正装なのか?」


「うわぁ…僕絶対嫌だな。」


「何を喋っている!騎士団長の御前であるぞ!」


「ん?喋ったらいかんもんなんか?」


「いやー、あれ見てノーコメントとか無理だと思うよ。」


「ツッコミどころしかないしな。」


「貴様ら!」

「待て。」


「は。」


「白いのがキースとやらか。」


「そぉだけど。」


「お前が弟子達をやったのか?」


「突っかかってきたのはあいつらだぞ?」


「ふむ。間違いなさそうだな。」


「聞いてないな。このおじさん。」


「それで、出頭する気は無いのか?」


「出頭?何故?」


「お前が4人に傷を負わせたのだろう。出頭して罪を償うべきだろう。」


「いや、だから突っかかってきたのはあいつらだって。」


「あいつらは国からの名でお前の元に来たのだ。つまりお前のした事は国家反逆罪だ。」


「なんかあっちでもこっちでも国家反逆罪になってるな。」


「兄さん人気者だね。」


「こんな人気いらねーー!!」


「ふむ。出頭する気は無さそうだな。」


「うん。」


「ではここで罪を償ってもらうとしよう。その命をもってな。」


「キース様!」


「ん?」


エリーナの呼びかけに後ろを見る。



「危ない!」


剣を抜いて切りかかってきた騎士団長。



「え?」


「ぐぬっ?!」


俺は片手で剣を止める。



「こ、こやつ…」


「エリーナなんか用だったの?」


「え?い、いえ、その…危ないなぁ…と。」


「あ、そぉ言うことか。」


「離せ!」


「はい。」


力一杯剣を抜き取ろうとしていた為勢い余って後ろに数歩よろめく金ピカおじさん。



「おじさん名前は?」


「犯罪者に名乗る名など無いわ!」


今度は剣に炎を纏わせて再度切りかかってくる。



それをヒラヒラ避けながらおじさんに聞く。



「なぁ金ピカおじさんさ。

俺は別にお前達に何もされなければ静かに去るつもりだったんだぞ?

それを毎日来ては死ねだの殺すだの。

俺だって怒るっての。」


「くそぉ!はぁ!」


「でも別にこれからは止めてくれるならもぉ俺達から何かする事は無いし帰ってくれないかな?」


「うぉぉおお!」


「いや、ちょっと聞いてってば。」


バキンッ



おじさんの顔以外を氷漬けにする。



「ぐおぉぉ!」


「騎士団長!」


「おい。動くなよ。兄さんに一歩でも近づけば殺す。」


「ひぃ…」


「な?帰ってくれないか?」


「貴様ぁ!」


バキィーン


力任せに氷を割る。



「うわぁ。面倒臭いやつだー。」


バキンッ



「ぐおぉぉ!」


「こ、これは…クリスタル?!なんて綺麗な魔法?!」


第六位魔法 クリスタルウォール。



土魔法の派生魔法。



土や石と違い石英の成分のみで形成される魔法。



非常に強固で同位の土魔法と比べて圧倒的に壊しにくく強力な魔法になる。



後ろで1名目を輝かせてるがとりあえず今は話をしよう。



「よしよし。これでやっと話が出来るな。」


「離せ!この罪人が!」


「いや、だから。」


「ぐおぉぉ!」


「うわー。もぉ殺していいかな。」


「騎士団長!」


「話聞かないんだもん。騎士団長が死ぬと戦争になるからせっかく話し合いで終わらせようとしてるのに。」


「やめてくれ!」


「やめろ!罪人に懇願するなどあってはならん!」


「んー。こっちは関わならいで欲しいだけなんだがな…

よし。こぉしよう!今からトラタニスに行って王族諸共王城を消し飛ばすよ!」


「なぁ?!」


「そぉすれば命令する奴もいなくなるし。」


「貴様ぁぁああ!」


「なんだよ。」


「そんな事が許されるとでも思っているのか!」


「知らないって。あんたが素直に帰って関わらないって約束してくれたらそれで良いのに話を聞かないからだろ?」


「ぐっ………」


「まぁあんたの命は部下のお願いに免じて助けてやるよ。じゃあ行ってくるか。」


「ま、待て!」


「何?」


「……分かった。約束しよう。」


「話はついたな。」


バキィーン



「ぬん!」


メキッ



振り下ろされた剣が俺に届くよりずっと早く俺の拳が騎士団長の胸を叩き鎧ごと胸骨を陥没させる。



騎士団長は200メートル程地面を転がって止まる。



ピクリともしないが生きてはいるだろう。



全治どれぐらいかは分からんが。



「あの金ピカおじさんの名前は?」


「……ドルネ-エモート様だ…」


「じゃあそのドルネを早く連れ帰ってやれ。」


部下が馬車を反転させてドルネを乗せ帰っていく。



「凄い人だったねー。」


「約束しといて斬りかかってくるとは騎士団長の名が泣くな。」


「まぁあの王族だしね。」


「ひ、人ってあんなに飛ぶんですね…」


「ライルがやると倍は飛ぶぞ?」


「競ってないから。」


「ま、帰るか。」


「それより先程の魔法はオリジナルですか?!」


「ん?あぁ。」


「凄く素敵な魔法でした!」


「ありがと。魔女は確か全属性使えるんだったか?」


「はい!得意なのは闇魔法ですが。」


「今は赤髪の人種に見えてるから使う時は火魔法を使うようにしてくれな。」


「分かりました!」


「これでトラタニスとの因縁も終わりになると良いんだが…」


一抹の不安を感じながら東門を潜る。



「そぉ言えばウォータークッションの話はどぉなったの?」


「あれはニーナに使ってもらってるよ。店番の時に使ってもらって耐久性とか色々みててな。そろそろ売り込みに行っても良いかもしれんな。」


「二ルマさんの所に行く?」


「いや、ニーナに渡した連絡する為の魔法具渡してあるからそれで連絡するよ。」


「二ルマさんの事だから飛んできそうだね。」


「だろうな。」


「今日は他に予定は無いよね?」


「あぁ。俺はこれから魔法具の研究するけどライルはどぉする?」


「僕はちょっと食材見に行こうかな。」


「食材?」


「兄さん海鮮好きでしょ?買い込んでおこうかと思ってね。」


「兄感涙!」


「分かった分かった。

それに色々今までに無かった調味料とかもありそうだし。」


「これで更に美味いもんが食えるのか…」


「じゃあ行ってくるよ。」


「よろしくー!」


ライルを見送って宿の自室に戻る。



「はい!二ルマです!」


「お。繋がった。キースだけど。」


「これはこれは!お久しぶりです!」


「久しぶり。実はちょっと面白そうな物作ってさ。」


「食べ物ですか?」


「いや、クッション。」


「クッションですか?」


「水入のクッションなんだけど…見た方が早いかも。」


「面白そうなお話ですね!」


「今タランタの宿に泊まってるんだけど。」


「直ぐに向かいます!」


切れた。



あの人の最速で来る気だなー。



「まぁこっちはこれでよしとして…魔法具の作製に取り掛かりますか。」


「魔法具ってそんなに簡単に出来るものなんですか?」


「簡単では無いぞ。何度か試して微調整しなきゃならないしな。」


「魔法陣はどぉするんですか?」


「んー。なんて言えば良いのか分からんが…魔法陣は理解してるからそんなに問題じゃない。」


「魔法陣を読み解けるのですか?!」


「そんな所かな。」


「す、凄いですね。」


「そぉでもないと思ってるんだがなー。

せっかくだしアデルカ、調子悪いところすまんがクナイ貸してくれ。」


「分かりました。」


「何を作るんですか?」


「ん?あぁ。

今回はちょっと武器の強化に使えそうな物を作ろうかと思ってな。」


「武器の強化ですか?」


「強化…と言うと少し違うが、武器に細工しようと思ってな。」


「どのような物なのですか?」


「カヤリスとアデルカはクナイ…投げナイフの様な物を使うんだが、1度投げてしまうと回収するまで使えないだろ?」


「それが投擲武器という物では無いのですか?」


「もちろんそぉだが1度投げた武器が戻ってきたら何度も使えるだろ?」


「つまり戻って来る様な魔法具って事ですか?」


「あぁ。」


「私としては嬉しいですね。」


「んー…可能なんですか?」


「それを今から試すんだ。

まずはクナイの持ち手部分に溝を掘る。そこに魔道液を流し込んで、この無色の魔石をはめ込む。」


「無色の魔石ですか?それは…使えない魔石と言われていますが…」


「この魔石は属性が無いからな。」


「はい。なので魔石に魔力を流しても何も起きませんよね。」


「その通りだ。こいつは基本魔法…と俺が勝手に読んでいるだけだが、それに対して作用する魔石なんだよ。」


「基本魔法ですか?」


「そぉだな…エリーナ。魔法で物を動かしたりする時って何属性の魔法を使ってる?」


「え?……えーっと…」


「属性無し。が答えだ。

属性ではなく単純に動かすというだけの魔法だよ。」


「それが基本魔法ですか?」


「いや、基本魔法とはこの場合無属性の魔法の事だな。だから基本魔法のひ1つとしてその動かすという魔法があると考えてるわけだ。」


「…そぉですね。納得です。」


「私にもなんとなく分かります。」


「まぁ魔女にもなれば魔法については普通より深く知っているしなんとなく経験から分かるんだろうな。つまりサーシャもその領域に入りつつあるのかもな。」


「はい!」


「それでこの無色の魔石を埋め込んでそこに魔法陣を描く。」


「動かす魔法という事ですか?ですが…それではどこに向かって動くかわからないですよ?」


「あぁ。だからここで描く魔法陣は動く事に加えて親となる魔石に向かって動くという指示を加えるんだ。」


「あ!つまりその親となる魔石を持っていれば戻って来るんですね?!」


「そ。それを腕輪でもクナイの収納する皮に縫い付けるでもしておけばそこに向かって戻って来るわけだ。」


「となると…魔石は魔力を常に発散しているので、クナイ側はそのままで…親の魔石には魔力を流すと子となる魔石に認識させられるようにする魔法陣を与えてやる…これで任意で戻ってくる…と言った感じでしょうか?」


「良いね。その通り。よし。早速試してみるか。」


「はい!ってもぉ出来たんですか?!」


「これくらいならすぐ出来るさ。」


俺はクナイを隣のベッドに放り投げる。



「よし。」


魔力を流すと物凄い勢いで戻って来る。



「おっと。少しスピードが速すぎるな。少し絞るか。」


と言った感じで微調整し、10分程度で完成する。



「こんなもんだな。アデルカ。試してみるか?」


「はい!……凄いです!」


「キース様は本当になんでも出来ちゃいますね?」


「これくらいならエリーナにも作れるだろ。」


「作るのは出来ますけど…その発想が凄いんですよ!」


「そんなもんかね。」


「ただいま戻りました。」


「お、カヤリス。おかえり。どぉだった?」


「はい。喜んでおられました。」


「そぉか。それなら良かった。

そぉだ。せっかく完成したしカヤリスにも試してもらうとするか。」


「??」


「ちょっとこの腕輪着けてくれ。」


「あ、はい。

無色の魔石ですか?」


「あぁ。使えそうなら腕輪に細工してそれなりに見える様にするがとりあえず試験的にな。」


「これは?」


「クナイや手裏剣を手元に戻す魔法具だ。」


「手元に戻すですか?」


「実際やった方が早いだろ。細工の終わったクナイがこれになるんだがこいつを適当に離れたところに置いて…腕輪に軽く魔力流してみろ。」


「はい。わわっ?!」


「どぉだ?」


「す、凄いです!」


「これでいちいち拾わなくても良いし使い方によっては攻撃の幅も広がるだろ?」


「はい!」


「戻って来る速さはどぉだ?」


「丁度よさそうです!」


「よしよし。じゃあ他のクナイと手裏剣にも同じ様に細工するから出してくれ。」


「はい!」


「こらこら。俺がいるのにスカートを捲し上げるな。」


「え?あ、すいません。お目汚しですね…」


「いや、俺的には非常に眼福だがカヤリスも女だろ。」


「??

私としては白主様であればいくら見られても嬉しい意外の感情はありませんが?」


「ほ、本当にキース様は皆さんに慕われているのですね…」


「いや、それとこれとは…まぁいい。ちょっと待っててくれ。」


俺は他の武器にも細工を施す。



動作確認をしたが問題ない様だ。



「ただいまー。」


「お?」


「外で3人に会ったからニーナさんとブーム君も連れて一緒に帰ってきた。」


「そぉか。それで?」


「は。宰相の噂は結構色々な所にありました。」


「良い噂か?」


「………」


「悪い方か。どんなに話だ?」


「簡単に言ってしまうと好戦的な人の様です。それと支配欲が強い様ですね。」


「好戦的で支配欲が強い…ね。」


「ギギレルさんの話であったギルドに圧力を掛けているのも宰相ですし、何かにつけて他国に戦争を仕掛けようとするみたいですね。」


「そんな事が街中で分かったのか?」


「色々な所でその様な事を喚いている姿を見ている人が居たようですね。」


「それは…少し頭の痛い話だね。」


「そぉですね…」


「ニーナ。」


「は。」


「エリーナを連れている以上ぶつかる可能性があるから詳しく探ってくれないか?」


「分かりました。」


「あと…エリーナに何か服を作ってやってくれないか?このままじゃさすがに…」


「既に作ってありますよ。」


ニーナさんパネェっす。



落ち着いた感じのワンピース。



凄く良いよ!凄くね!



「ど、どぉですか?」


「ニーナ。」


「は。」


「よくやった。」


「ありがとうございます。」


「白主様。明日は依頼を受けに行きますか?」


「そぉだな。依頼があるかどぉかは分からんがとりあえず行ってみよう。」


「分かりました。」


「アデルカは大分体調良くなったな。」


「申し訳ございませんでした…」


「泥酔する感覚も二日酔いも冒険者にならなきゃ分からない感覚だったかもね?」


「二日酔いはもぉ懲り懲りです…」


そぉ言って二日酔いになるのが人間である。



晩御飯は全員でゴービンにお世話になった。



どことなくゴービンもシルヨフも砕けた感じになったのは気の所為では無いだろう。



次の日、ギルドに行ったが結果的に依頼は無かった。



Sランクの依頼となると額もそれなりになってくるためなかなか依頼自体が無いらしい。



そこで1つAランクの依頼を受ける事にした。



内容としては大森林のさらに西にある古城に住み着いたモンスターの討伐だ。



モンスターはグリビル。



熊型モンスターで討伐はした事があるが今回はグリビルの亜種。



ブラックグリビルと呼ばれていてレベルは平均260。



黒い毛並みが特徴で闇魔法を使ってくる。



本来このブラックグリビルの討伐はBランクの依頼に分類されるが今回の個体は一回り大きくレベルも通常より高い可能性があるとの事でAランク指定になったらしい。



「よーし。準備は良いなー?」


「久しぶりに馬車に乗る気がしますね。」


「こ、これなんですか?!」


「白いのが考案のクッションよ!素晴らしいから使ってみて!」


「行くぞー。」


ブルリオ大森林は全貌を確認出来ていないほどの広大な森だが、突っ切る必用は無く迂回する道がしっかりある。



しかし迂回するため道程は長いため今回は馬車で行くことにした。



森の際を通る道なのでたまに森の中からモンスターが出てくるらしいがゴブリンキング討伐によってゴブリンの数が激減しているためいつもより安全との事だ。



「あ、さっき肉串買ったんだけど食べる?」


「食う!」


「本当にアイテムボックスって良いですね。買った時の熱々をいつでも食べられるなんて…」


「うまー。」


「あ、そぉだ。兄さんこれかけて食べてみて。」


「ん?……うまーー!」


「キレルの実を粉末にしたものらしくてちょっと掛けているの食べるとピリ辛で美味しいでしょ?」


「あぁ。これは良いな。」


「ハーブみたいな香りでピリ辛だから塩と少し混ぜてあるんだ。」


「最高だぜ。」


「黒主様ー!」


「分かってるよ。皆の分もちゃんとあるから。」


「やったー!」


「あ、ほんとだ!美味しい!」


「私達獣人種にとっては馴染みのある味ですね。」


「トラタニスには無かったよな?」


「そぉですね。見た事無いですね。」


「キレルの実は腐りやすいんですよ。他の国に持っていく間にダメになっちゃう事が多いんです。」


「となると使う時以外はアイテムボックス内に保管しておくべきかな?」


「はい。その方が良いかと思います。」


「獣人の人達はどぉしてるの?」


「基本的に使う時に使う量だけ買いますね。」


「売るのは困らないの?」


「畑から買ってもらう分だけ採ってくるんですよ。」


「それで買う時少し待たされたんだね。」


「魔法具で真空パック的な物作れたら保存出来るのか?」


「しん…?」


「保存用の入れ物みたいな物だよ。」


「どぉですかね…キレルの実は収穫した瞬間から空気中の水分を吸い込んで腐ると言われていますが…」


「木箱とかなら長持ちするのか?」


「そぉですね。木箱の精度にもよりますが大体そのまま置いておくより2、3日は長持ちしますね。」


「へぇ…水分を吸い込めないような作りにしたら良さそうか。」


「出来そう?」


「ポーションの瓶に着けてる魔法陣で事足りるだろ。」


「魔素を遮断する魔法陣でしたよね?」


「あぁ。魔素を遮断する、じゃなくて水分を遮断する魔法陣に組み替えるだけだ。簡単に出来ると思うぞ。」


「そんな魔法陣聞いた事ないですよ…」


「あのー…」


「ん?どぉしたダジ。」


「私はあまり魔法に詳しくないのですが、お二人が目指しておられる魔女様から出てくる魔素を無力化する魔法陣には使えないんですか?」


「あぁ。この遮断するって魔法陣は物質に対して作用する魔法陣でな。魔女の魔素も遮断出来るかもしれんが…」


「常に何かに囲まれた状況でないといけなくなるわけですか?」


「その通りだ。」


「瓶には魔石は使われていないですけど魔力はどこから補給されているんですか?」


「この魔法陣は物質そのものを魔素遮断する物質に変換する魔法陣なんだ。」


「つまり魔法陣に魔力を1度でも流せばそのあとは魔力は必要無いと言うことですか?」


「あぁ。ダジの盾や皆の防具にも似た魔法陣が使われてるぞ。」


「あ!それで魔法が効きにくいんですね?!」


「あぁ。そっちは魔素じゃなくて魔法を遮断する物だから多少違うが原理は一緒だな。」


「なるほど…」


「それでも魔法による物理的な攻撃迄は遮断できないから過信は禁物だよ?」


「はい!」


「話は戻りますけど…水分を遮断って出来るんですか?」


「色々試されて来ていますが水分のみを遮断する魔法陣はありませんが…」


「そぉだな…少し難しい話になるが、魔素を遮断する魔法陣ってどんな原理になっていると思う?」


「えーっと…魔素を跳ね返す…とかですか?」


「そもそもどぉやって魔素とそれ以外を分別していると思う?」


「魔法陣に魔素を感知する仕組みが組み込まれている。とかですか?」


「どぉやって感知してると思う?」


「え?!えー……」


「そこだよ。皆それがいまいち分かっていないんだ。

単純に魔素を感知して遮断する魔法陣だと思ってる。」


「そぉですね…そこまで考えた事がありませんでした。」


「この魔法陣が凄いのはそこにあるんだがな。」


「白主様の顔が……悔しいです!」


「はっはっは!

こいつは魔素を含んだ空気を一度取り込むんだ。

この変質した物質は取り込んだ空気中の魔素を使って自身の変質を維持しているんだよ。」


「魔素が無い場所に言ってしまうと元に戻るんですか?」


「まぁそぉだな。同じ魔法陣を描いた大小の瓶を用意して大きい瓶の中に小さい瓶を入れると中の小さい瓶の変質は解除される。実際に実験したから間違いないぞ。」


「そぉなんですか?!」


「あぁ。」


「し、知らなかった…」


「話を戻すが、これに水分を遮断するという操作に変えるんだよ。」


「魔素を吸収してその魔素を使って魔素ではなく水分を遮断するという事ですか?」


「あぁ。魔力を流して物質を変化して魔素を吸収して水分を遮断。と言った流れだな。」


「凄い…凄いです!」


「そぉだな…サーシャ。やってみるか?」


「え?!私ですか?!」


「そろそろ魔法陣についても少しずつ勉強していくべきかと思ってな。」


「やります…やってみたいです!」


「よし。シリアも一緒にやるぞ?」


「はい!」


「まずはポーションの瓶に描く魔法陣を紙に描いてやる。」


「これが?」


「他でこの魔法陣を見せるなよ。教会に追われるのは勘弁して欲しいからな。」


「はい!」


「この魔法陣を見てどれがどの操作を表してるか分かるか?」


「そぉですね…」


紙に書かれた円形の魔法陣をシリアとサーシャは穴が開くほど見ている。



「んー…1番内側の円はどんな魔法陣でも必ずあります。つまり必ず必要ならもの…ですかね。」


「そぉね。となるとこれは魔素を魔法に変換するものかしら?」


「そぉなるとここで完結してしまいませんか?」


「そぉね…魔法が出来上がるのはあくまでも全ての工程を終えてから…となると魔力を魔法陣に取り込むという事かしら?」


「そっか…魔法陣には必ず魔力が必要ですもんね。」


「となると次は…」


「魔力を使って物質の変換ですかね?」


「物質の変換と言っても細かい情報が必要になるわよね。つまりこの文字だか記号だかの羅列が何をどぉするかの指示を示しているのかしら。」


「魔素を取り込む、その魔素を使って物質に魔素遮断の維持を指示。両方ですかね?」


「どぉかしら…魔力を取り込む図形とは異なるのかしら?」


「ここからよく分かりませんね。」


「なかなか悪くないぞ。ここが魔素を取り込む記号の羅列。こっちが物質に作用する羅列だ。」


「何故分かるのですか?」


「そぉ書いてあるからな。」


「読めるのですか?!」


「大体分かるぞ。」


「魔道士の永遠の課題と言われていた魔法陣をこぉもあっさり分かると言い放てる白主様は流石ですね。」


「そぉか?あまり自分では凄いと思って無いけどな。実際パーム姉さんも理解してるし。」


「初歩の初歩と仰ってましたが?」


「初歩が分かれば後は簡単だろ?」


「………」


「まぁいい。最後にこの図形がここまでの工程を完結させ魔法として出力する図形になってる訳だ。」


「つまりこの文字の羅列を変えれば良いんですか?」


「あぁ。正確には魔素を水分に書き換えれば良いだけだからこの2つの文字を…これで出来るはずだ。」


「あっさりですね…」


「魔力を流して紙に水を掛けてみたら上手くいっているか分かるぞ?」


「やってみます!」


サーシャが魔力を流して水を掛けてみる。



紙は水分を弾いて一切吸収しない。



「凄い!」


「私も見たいですー!」


「姉さんは前見て!」


「うー…」


「上手く行きました!」


「じゃあこいつを木箱か何かに描いて見ろ。」


「僕が木箱持ってるからあげるよ。」


「ありがとうございます。

えーっと…」


サーシャは間違えないように木箱に魔法陣を炭を使って書き込む。



「これで大丈夫ですか?」


「あぁ。本来は炭なんかだと消えたりするから焼印を入れてその上から木を貼り付けるんだが…今回は実験だしその上から木の板でも貼り付けておくか。」


「はい!」


「出来たら中にキレルの粉末を入れて数日放置だな。」


「楽しみです!」


「これって売り出すには少し厳しいよね?」


「だな。」


「何故ですか?!」


「この魔法陣はポーションの瓶とほぼ同じだからな。」


「あ…」


「教会に売り込んでも良いが目をつけられるのは嫌だからな。」


「ですね…残念です…」


「まぁ魔法陣の事を勉強出来ただけでよしとしようよ。」


「はい…」


「それに何かに使える時が来るかもしれないからな。」


「そぉ…ですよね!分かりました!」


「よし!出来た!」


「お、ライルの方も終わったな。」


「何を作っていたんですか?」


「昨日兄さんが作った魔法具の装飾だよ。カヤリスさんとアデルカさんの腕輪。魔法具って分かりにくい様に普通の腕輪の様にしてくれって言われてたんだ。」


「わぁ!綺麗です!」


「邪魔にならないように細身にして長さも調節出来るようにしておいたよ。」


「ありがとうございます!」


「うぇーん!私見えないよー!」


「姉さんは後でね?」


「うぇーん!」


「カヤリスは腕輪…大丈夫か?」


「はい!手枷とは全く違いますから!嬉しいです!」


「そぉか。それなら良いんだ。」


「あ!森が終わりますよ!」


アデルカの声に前方を見ると森が終わり、遠くにその先に小高い丘が見える。



その上には半壊した古城が見える。



「あれですかね?」


「だろうな。」


「思っていたより小さな城ですね?」


「なんでも昔貴族が住んでたらしいが場所が場所だけに大きくしても意味が無いからと別荘程度の感覚で建てた物らしいぞ。」


「そんな感覚で城を建てるって…本当に考え方がまるで違いますね…」


「何言ってんだ。今じゃこのパーテイもそこそこの資産持ってるぞ?」


多くの依頼を消費、ダンジョンの攻略、ライルの甘味の売上等々、結構な額になっていた。



「なんか信じられないです…」


「まぁいきなり金持ちになったと言われてもなかなかな。」


「それより古城が近づいてきたよ。」


「この辺に停めて様子を見に行くか。」


「そぉだね。」


俺達は一度馬車を降りて歩いて古城に近づく。



遠目にみても分かったが城の上半分は倒壊してしまっている。



石造りの壁が所々崩れ中が見えている。



昼間で明るいと言うのに城の周囲は何か不気味な感じがする。



グリビルがいるという話が出回る前はゴブリンが根城にしていたと聞いている。



この街道を通る商人の馬車やなんかを襲っていたらしい。



「城の中央の階段がある広間で寝てました。」


「ではいつも通り私から入ります。」


カヤリスが索敵してダジが先陣を切り壊れた壁から中に入る。



中は荒れ放題で昔の面影は既に無かった。



「………」


「どぉした?エリーナ。」


「え?いえ!なんでもありません。」


「……??」


「気づかれました!」


「前に出る!」


ダジが一気に詰め寄ってグリビルの目の前まで駆ける。



レベルは320。平均が260と考えるとかなり高レベルの個体だ。



「ガァァァ!」


ガンッ



振り下ろされた爪がダジの盾に当たる。



自身の力がダジよりも下だと認識したのか、即座に魔法を使う。



「気を付けてください!シャドウアバターです!」


第七位 闇魔法 シャドウアバター。



自身の分身を作り出す魔法だ。



影の分身体は自身より1段階劣るものの近接戦闘においてかなり強力な魔法だ。



「シリア!アデルカ!カヤリスで影を相手して!」


「はい!」


「ダジ!本体を倒せば影も消えるわ!一気に行くわよ!」


「おう!!」


「援護します!」


「うぉおおお!」


「あんたの相手はこっちよ!」


「あ、あのー…キース様?」


「なんだ?」


「お二人は戦わないのですか?」


「あいつらのレベルアップってのもあるが…多分下手に手を出すと怒り出すと思うぞ。」


「私達が守るんです!って言いそうだね。」


「まぁ危なければ手を出すが…ほらな?」


グリビルの本体も影も同時に倒れる。



「み、皆さんお強いですね…」


「そんな事無いわよ?」


「こんな事ではお二人を守るなどまだまだ…」


「黒主様?」


「ん?あぁ。ちょっと気になってね。」


「この絵ですか?」


壁に掛けられた大きな絵の前にライルは立っていた。



「どこかおかしな所でも?」


「いや、この絵だけじゃないんだけど…物があり過ぎる気がしてさ。」


「言われてみますと…瓦礫の下にも日用品なんかが結構落ちてますね。」


「ここに住んでた貴族って…」


「何かに襲われて死んだ…という事ですかね?」


「そぉだね…日用品の中には高価そうな物も結構あるし物取りでは無さそうかな。」


「モンスターでしょうか?」


「分からないね。少し調べてみてもいいかな?」


「もちろんです。皆で調べてみましょう!」


ライルの直感はかなり鋭い。



2人で森を抜けた時もかなり多くの場面でライルの直感には助けられた。



本人は危ない気がする、こっちよりこっちの方が良い気がする。程度の事だと言っていたが外れたことは無い。



それは前世からの事でまるで未来視しているかの如き的中率。



こぉいう時のライルの直感には必ず従うようにしている。



「これは…」


「なんですかそれ?」


「多分何かを繋いでおく鎖…かな?」


「なんでこんな所にそんなものが…?」


「おーい。ライル。こっち来てみろ。」


「地下室?」


「あぁ。戸が壊れて落ちたらしい。」


「下に降りてみようか。」


「暗いな。」


「ライト!」


「ありがとう。カヤリス。」


地下室に続く階段は石造りだが風化して角が丸くなっている。



階段を含め壁も風化して触るとポロポロと崩れる。



安全とは言えない。



階段を下ると地下室の全貌が明らかになる。



「これは…」


「檻…ですか?」


「しかもかなり大きいね。」


「扉が開いてますが…」


「……多分グリビルが入っていたのかな。」


「ここにですか?」


「檻の中にある爪痕がさっきのグリビルの物とよく似ている。鍵は…壊されているね。乱暴な開け方だ。」


「……どぉいうことでしょうか?」


「こぉいうのは兄さんの領分だね。」


「……推測だぞ?」


「外れたこと無いでしょ?」


「多分だが個々に住んでいた貴族が飼っていた…と言うより実験していたんだと思う。」


「実験ですか?」


「モンスターを意のままに操れるがどぉかって所か。」


「モンスターをですか?」


「恐らくな。加えてレベルアップさせることは出来るのか…」


「さっきのグリビルのレベルは320。通常よりかなり高かったよね。つまりあのグリビルが実験体だった?」


「あぁ。だが何かに襲われて貴族が死んだ。

しかしこの地下室の存在は気付かず城を破壊したんだろう。

その後ゴブリンが住み着き、何かの拍子に地下室への戸が壊れてしまった。」


「ゴブリンがグリビルを外に?」


「開け方的にその可能性が高いかな。石か何かで叩き切った感じだね。」


「何故その様な事を?」


「そぉだな…ゴブリンの思考までは分からんが…かなり弱ってたんじゃないか?」


「弱ってた?」


「壁なんかの風化の具合からしてかなり長い時間この地下室は開けられていなかったはずだ。食料も無くてそんな長い時間生きていられないだろ。」


「逆に何故生きていたのか不思議だけど。」


「恐らく冬眠の様な状態だったんじゃないか?」


「冬眠…」


「その状態を維持する事が出来たならかなり長い時間は生きていられたはずだ。

普通の動物と違ってモンスターは生命力が異常に高いからな。」


「つまり冬眠していたけど長い時間過ぎてさすがに弱っていた…という事ですか?」


「あぁ。だがゴブリンに殺られる程弱くはないからな。ゴブリンを殲滅して自由の身と言うわけだ。」


「……話は分かりますが…そもそも何故その様な実験を?」


「戦争か、金持ちの遊びか分からんがろくな事じゃ無いだろうな。」


「ここはどぉしますか?」


「このままにしておくとまた何かが住み着くかもしれんからな…」


「あの!」


「どぉした?」


「奴隷の分際でこんな事…言える立場に無いのは承知の上ですが…」


「なんだ?」


「ここを…このままにしておいては頂けませんか?」


「……何故だ?」


「その…この古城…何か不思議な力を感じるんです。」


「不思議な力?」


「うまく説明出来ませんが…何かを感じるんです。」


「……んー…何か感じますか?」


「僕は何も…兄さんは?」


「……何となく感じるな。」


「どんなものですか?」


「こっち…いや、こっちか?」


何かを感じる方向へ歩く。



地下室の壁に手を当ててみる。



「この奥だな。」


「何かあるんですか?」


「何か…と言うより……

穴を空ければ分かると思うから空けてみるか。」


俺は土魔法を使って壁ごと手前に土を掻き出す。



数メートル先まで穴を空けると奥から淡い光が漏れ出してくる。



「光が……」


人が通れる程の大きさになった所で俺を先頭に中に全員入る。



「うわぁ……」


「なんですかこれ?!凄く綺麗です!」


穴の先には直径5メートル程の泉があった。



その泉は淡く青色に発光しておりたまに青色のひかりの玉がふわふわと泉から湧き上がってきている。



泉の上には濃い青色だが透明な水晶の様な結晶がびっしりと生えていた。



泉に手を触れると、わっと青色の光の粒が波紋に合わせて湧き上がる。



地上から23メートル程度の場所にこれ程幻想的な世界があるなど思ってもいなかった。



「この泉は…」


「珍しいな。あの森にもあったな。」


「パーム姉さんが精霊に会った湖の事?」


「あぁ。あれの小さいやつだな。

この泉は小さな傷程度なら癒す力がある。それに加えてこの水を飲むと魔力が回復するんだ。」


「確か…天然に出来た魔石だったよね?」


「あぁ。モンスターにならなかった魔石だな。一般的には精霊石(せいれいせき)と呼ばれているな。」


「精霊石ですか?!物凄く高い物ですよ?!」


「白金貨が動く代物だったか?」


「はい!これが…」


「精霊石は空気中の魔素と水分を取り込んで魔素の濃い水を生み出すんだ。これが精霊水(せいれいすい)だな。」


「つまりこの下の泉は全て…」


「精霊水だろうな。」


「ゴクッ……精霊水だけで金貨数枚の価値があるんですよ?!それが…こんなに…」


「魔力回復のアイテムってのは基本的に無いからな。精霊水位のもんだろ。」


「魔素が濃くて綺麗な水になるから精霊が好む場所に良く存在するから精霊石とか精霊水って呼ぶんだっけ?」


「はい。」


「あ、あのー…さっきお話にでた湖ってこれをもっと大きくしたものなんですよね?」


「だな。あの場所だけで億万長者間違いなしだな。

母さん達がよく水浴びに行く程気に入ってるから母さん達が怖くなければ…だが。」


「自殺行為も良いところですね。」


「1回死ぬくらいじゃ許して貰えないと思うぞ。」


「だと思いました…」


「それよりこいつをどぉするかだな。

壊すなんて勿体ない事したくないが…誰かに見つかれば間違いなく悪用されるからな。」


「悪人じゃなくてもこれを見たら悪い事の一つや二つ思い浮かぶだろうね。」


「やっぱり壊すしか無いか…」


「待って下さい!」


「エリーナ?」


「その…私が管理します!」


「管理?」


「はい!悪いには決して使いませんし、誰かに渡したりもしません!」


「……」


「精霊石も精霊水もとても珍しい物です…出来ればこのままにしておきたいです…」


「エリーナがそぉ言うなら別にいいんじゃないか?」


「え?!良いんですか?!」


「え?なんでエリーナがビックリするの?」


「これ一つで総統な物ですよ?!そんなあっさりてばなすなんて…」


「エリーナが管理するなら手放すとは違うだろ?」


「それは…そぉですが…」


「管理するのは構わないが下手な所に売り出したりするなよ?」


「はい。」


「売る時は…ニーナ辺りにルートを聞けば良いとこ探してくれると思うからそこだけにしとけ。」


「はい!」


「それと…管理するなら色々やっておかなきゃならん事が増えるな。」


「やらなきゃならない事ですか?」


「まずはこの場所に入れる人をエリーナだけにする。そんで認識型の扉を付けて…城も建て直した方が良いな。」


「建て直すんですか?!」


「監理するならここに住む方がいいだろ?」


「そぉですけど…」


「今みたいなデカい建物である必要は無いからな。簡単な物だったら魔法ですぐ出来るぞ?」


「出来るんですね…」


「出来る。が、とりあえずは今のままだな。」


「何故ですか?」


「エリーナは俺から離れられないからな。」


「あ、そぉでした…」


「今はとりあえず泉の周囲の土を石かなんかに変質させて壁を作って…認識型の扉を作っておくだけにしておこう。」


「その話なんですが…キース様とライル様、そしてその眷属の皆様ならば開けられる様に出来ませんか?」


「可能だが…良いのか?」


「見つけたのは私ではありませんし…皆様なら心肺はいらないですからね。

変な所に流れていかないように管理するするだけなので。」


「…分かった。じゃあちゃちゃっとやっちゃうから少し離れてくれ。」


「はい!」


「エリーナさんの今後のやる事…決まりましたね!」


「はい。何から何まで助けて頂いた形になってしまいましたが…」


「そぉですか?この場所だってエリーナさんが気付かなければ見つからなかったですよ。それに…入った時から気にしていましたよね?」


「そぉですが…結局場所を発見したのはキース様ですし…」


「私ももっと自信をもって良いかと思いますよ。私は魔法があまり得意ではないので素直に凄いと思えますよ。」


「ダジさん…皆様ありがとうございます!」


「よし。出来たぞ。ライル。俺とお前、そんでエリーナの魔力を登録するから一度魔力を流してくれ。」


「はーい。」


「分かりました。」


作成した扉に刻まれた魔法陣が魔力を取り込むと少し光ってまたただの石へと戻る。



「これで終わりだ。」


「兄さん。登録は僕達だけで良いの?」


「あぁ。大丈夫だ。

皆につけてもらったピアスは体内の魔力と絡み合ってるからな。製作者である俺とライルの魔力が少しずつ混ざってるんだ。」


「それを感知して開くってこと?」


「あぁ。」


「ちょっとやってみても良いですか?」


「もちろん。」


「えぃ!」


ゴゴゴゴゴゴ



石の壁が奥に開いていく。



「一応壁と同化するように素材を同じにしてあるから余程バレないと思うが…」


「閉じている時は壁ですし全く分かりませんね。」


「あの、精霊石は水分と魔素を吸収しないと働かないんですよね?」


「あぁ。」


「周りを石か何かで囲ってしまったら水分は入ってこれませんよね?」


「それは大丈夫だ。穴開けといたから。」


「そっか。水分だけ通ればいいんですもんね。」


「これでここは大丈夫だろう。エリーナの奴隷紋が解けたらここを頼むとしよう。

その前にまだやる事があるな。」


「この土地の所有権ですか?」


「あぁ。どぉなっているのか調べてみなきゃな。」


「ではそこは私達が確認してみます。」


「アデルカとサーシャが?」


「はい。土地の管理となれば色々とありますからね…」


「その点2人ならよく知っているわけか。」


「はい。」


「分かった。少し調べてみてくれ。」


「「は。」」


「よし。帰るか。」


「はい!」


俺達は地下から出ると地下室へ続く扉を作り替えてはめ込んでおく。



また誰かに入られると厄介だからな。



無事に依頼も達成出来たということで馬車を使ってタランタまで帰る。



ギルドで以来達成の報告をした後、ニーナ達を連れて宿に向かう。



時間もそこそこ深くなっていたのでそのまま夕食を済ませるとニーナが話があると言う。



「宰相の話か?」


「はい。ダジさん達が持ってきた情報とさほど変わらないのですが…一つ気になる情報がありまして。」


「気になる情報?」


「はい。宰相は非常に狡賢い男の様でして、王が戦争を避けようとしているのを手伝いながら、裏では戦争に備えて色々な物を準備しているそうです。」


「色々なもの?」


「武器、防具に始まり奴隷、魔女に関わる情報等ですね。

それらの情報の中にモンスターに関わるものも含まれているそうです。」


「モンスター?」


「詳しくは分かりません。」


「……何か嫌な予感がするな。」


「僕も同じ事考えてたよ。」


「ニーナ。今日俺達は大森林より更に西にあゆ古城に向かったんだ。そこでモンスターを実験台にして何かをしていた様なんだが、城の主人は何かに殺された可能性がある。」


「……」


「まだ決めつけるのは早いが少しあの古城についても調べてみてくれないか?」


「分かりました。」


「別に俺達が何かするわけじゃないから下手に目立たないように頼むぞ。」


「は。」


「それともぉ1つ。精霊水をどこかに売りたい時に安全なルートをこの国の中で探して欲しいんだが。」


「精霊水ですか?……となると少し時間が掛かるかと思います。」


「出来ないとは言わないのか?」


「今日来たお客様の中に少し良さそうなルートをお持ちの方がいらしたので。」


「ほぉ。」


「まだまだ仲良くなったとは言えないので時間が掛かります。」


「分かった。よろしく頼む。」


「は。」


「皆も引き続き宰相についてそれとなく聞いてみてくれ。俺達に火の粉が飛びそうならばなんとかするしか無いが…」


「エリーナさんの事を考えると魔女についてだけでも諦めて欲しいね。」


「エリーナを探しに行った兵士達が帰ってきていないんだし気付いていないってことは無いだろうが…」


「魔女という事は信用出来そうな人にしか知らせてないし漏れる事は無いと思うけどね。」


「まぁバレた時はバレた時だな。」


「明日からはどぉされますか?」


「Sランクの依頼が入れば俺達に連絡をくれる事になったし自由行動かな。」


「別の依頼を受ける時は必ず全員で受けろよ。」


「はい!」


コンコン。



「はい?」


「どうも。」


「二ルマさん?!」


「遅れてしまって申し訳ございません。」


「いや、早すぎ。」


「御迷惑でしたか?」


「いや、そんなことは無い。入ってくれ。」


「ありがとうございます。

あら。坊やはおネムですか?」


「はい。既に寝ておりますよ。」


「では静かにお話しましょうか。」


「早速だが物を見てくれ。」


「それが?」


「あぁ。座る時、寝る時なんかに下に敷く物だ。」


「試してみても?」


「もちろん。」


「……おぉ?!こ、これは…」


「癖がありますけど馬車に乗る時や座り仕事の人には非常に嬉しい物ですよ。」


「確かに…私もデスクワークが多いのでこれは…単純に欲しいですね。」


「作り方は簡単だ。ただ鞣した皮を使うから物凄く安く…とはいかないな。」


「…売るとしたらどれ程がご希望ですか?」


「材料費等を考えると……最低でもこれくらいかな。」


「……安すぎますね。」


「そぉなのか?」


「非常に素晴らしいアイデアだと思います。そして恐らく売れます。なので…これくらいでどぉでしょうか。」


「俺は構わないが…まぁその辺は二ルマに任せる。」


「ありがとうございます。」


「取り分はいつもと同じで。」


「分かりました。

製品はタランタを中心に売りたいと考えております。」


「我儘を聞いてくれるわけだな。ありがとう。」


「いえ。これくらい全然大丈夫です。」


「じゃあ製法教えるから後は任せるな。」


「はい!ありがとうございます!」


二ルマさんに製法を教えるとすぐさまタランタの商業ギルドに向かった。



暫くはタランタの商業ギルドにいるから何かあれば来てくれとの事だ。



相変わらず仕事が早い。



副ギルドマスターも大変そぉだ。



結局青峰は簡単なので売り出すまでそれ程掛からず一週間後には商業ギルドの物売り場に並ぶらしい。



ニーナの情報収集も新しい街に来て日が浅い為思うように進まず、半月後に古城の情報が入った。



「殺された?」


「はい。一部では有名な話らしいです。」


「誰に殺されたかは分からないのか?」


「何分昔の話なので確かとは言えませんが、その日に門から出ていく1団を見た人がいまして、その人の話では黒いマントの隙間から高価そうな剣の鞘が見えたそうです。」


「つまり金持ちか?」


「その人の曰く、宰相が好んで着けている剣の鞘に見えたそうです。」


「……確かでは無いが…だな。」


「はい。」


「仮に宰相だったとして、なんの為にあの城の人を殺したの?」


「そこまでは分かりませんでした…」


「何かトラブルがあったのかな?」


「トラブル…ねぇ。」


「どちらにしても首を突っ込むと大変な事になりそうですね。」


「うん。」


「ニーナ。これ以上は宰相に目をつけられるから情報の収集は終わりにしよう。

その代わり精霊水のルート確保の方に力を入れてくれ。」


「分かりました。」


「俺達はこれからギギレルとSランクの依頼をこなしてくる。もしかすると2、3日帰ってこられないかもしれないからそのつもりでいてくれ。」


「分かりました。」


「師匠!頑張ってね!」


「ブーム君も頑張って練習しておくようにね?」


「はい!」


「よし。行くか。」


昨晩Sランクの依頼が入ったと連絡が入った。



内容的にはモンスターの討伐だ。



詳しい話はギルドに着いてからする。



古城の土地の所有権についてはアデルカとサーシャが動いてくれている。



エリーナの奴隷紋が解除されるまでにはなんとかなるだろうとの事だ。



難しい事は分からんがあっちこっちと手を回している様だ。



「今回はモンスターの討伐が依頼です。場所はタランタの北に広がる海辺の村に現れたゼフィランというモンスターです。」


「ゼフィランと言うとデカい亀だったな。」


「非常に獰猛で水魔法を使うモンスターとして知られており海辺のモンスターの中では強敵と言われるモンスターですね。」


「防御力が非常に高くて、甲羅は魔法を軽減する効果を持っています。

ですが…ゼフィランというとせいぜいレベル290程度だったと思いますが?」


「今回のゼフィランは亜種です。物理、魔法防御力共に比較にならないほど強いそうです。」


「なるほど。私も海辺に住んでいて亜種には出会った事が無いな。」


「ギギレルでもか?」


「あぁ。通常のゼフィランならばさほど苦労せずに倒せるが…亜種となると簡単にはいかないかもしれないな。」


「となると何か策が必要ですかね?」


「そぉだな…まずは村の状況を確認したい所だな。

街から離れてしまうから物資は手に入らないと思ってくれ。

足りなくならないように準備をしてくれ。」


「分かりました。」


「回復薬と魔法防御系の装備か魔法具は必ず持っていく様にな。」


「ギギレルは討伐任務でも1人で行くのか?」


「余程の事が無い限りは1人で行くことが多いな。

パーティを組まない訳では無いがあまり好きでは無いな。」


「それは…酷なお願いをしたかな?」


「いや、不思議と君達は嫌な気分にならない。だから気にしないでくれ。」


「助かるよ。」


「準備が整ったら私が用意した馬車でまずは村に向かうとしよう。」


ギギレルの指示で全員が動き出した。



アイテムはいつも必ず切らさないようにと言ってあるため必要数は持っているが、相手の特徴なんかを考えてしっかりと備えておく必要がある。



特にSランクのモンスターとなるとそれだけでかなりの危険度。



気は抜けない。



30分程度で全員が支度を整え終わりギギレルの元に集合した。



「よし。行くとしようか。」


「はい!」


ギギレルを含めたパーティは馬車に乗り込み北へと向かう。



「さて。着く前に確認しておきたい事がいくつかある。まずはパーティとしてどぉいった役割で戦闘するかを知っておきたい。加えてどんな魔法や技が得意なのか、それはどんな状況で使うのかを知っておきたい。」


「円滑な戦闘が出来るようにってことですよね?」


「その通りだ。

ゴブリンキングと戦った時のことは覚えているがあの時とは違い強いモンスターが1匹だからな。戦い方も変わってくるだろ?

合わせられずチャンスを逃したなんて事になったら目も当てられないからな。」


「分かりました。では私から…」


それぞれの能力、得意な状況、装備等あらゆる事を聞いていく。



他にパーティを組んだことが無い俺達にとっては馴染みのない光景だ。



必要な事だとは分かっていたがSランクともなるとかなり細かい部分まで聞いて擦り合わせなければならない。



ギギレルも質問を織り交ぜて細かく情報を整理していた。



「これでお互いによく理解出来たわね。」


「あぁ。もぉすぐ村に到着する。話は私がするから皆は聞いていてくれ。」


「分かりました。」


ギギレルは村に到着すると直ぐに村長の場所を聞いてまず村長の家に向かった。



こぉいった小さな村ではまずは村長に挨拶をして詳細なり被害なりを聞くそうだ。



今回の依頼はこの村長からの依頼という事だった。



「タランタの冒険者ギルドから依頼を受けて参りました。ギギレルと申します。」


「これはこれは!よくぞいらして下さいました!

小さな村ですし、先のモンスターのことでろくなおもてなしもできず申し訳ございません。」


「お気になさらないでください。

村の方々は大丈夫でしたか?」


「数人…」


「そぉでしたか…

詳しい話をお聞かせ願えますか?」


「もちろんです。

あれは数日前の昼下がりの事でした。

私を含めた村の人間はいつもの様に畑仕事をしておりました。そこへ突然あの大きなモンスターが現れたのです…最初は何が起きているのか理解できませんでした。

目の前を村の人が逃げ惑いそのうちの数人が…」


「……そぉでしたか…

そのモンスターの大きさはどれ程でしたか?魔法を使ったりしていましたか?」


「大きさは村の家を軽く潰せてしまうほど大きかったです。魔法は…分かりません…

突然現れてそしてまた少ししたら去っていったので…」


「なぜ去っていったのか、心当たりはありますか?」


「いえ…」


「そぉですか。分かりました。ありがとうございます。

その…亡くなった方の遺族の方を教えて頂けますか?」


「はい。」


ギギレルは必要な情報を聞いて身内が亡くなった方の家を聞いた。



村長に再度お礼を言って外に出る。



「遺族の方にお話を聞きに行くんですか?」


「いや、逆だよ。話をしたら辛いだろうから避けるために聞いたんだ。

これだけ小さな村なら遺族以外の人に聞いても同じ情報は得られるだろうからね。」


「なるほど…」


「今知りたいのは魔法が使えるのか、使えるなら何属性の魔法が使えるのか。

そして帰った理由だね。」


「帰った理由は必要な情報ですか?」


「私の経験上村や街を襲ったモンスターが少しだけ荒らして帰る。なんてことは今まで1度も無かった。となると何かゼフィランに起きた、ゼフィランの嫌う物か出来事があったのかもしれない。

推測に過ぎないけど調べてみる価値はあると思うよ。」


「なるほどー。そぉいうのは私達には思い浮かばない観点ですね…」


「色々聞いて回ろうか。」


「はい!」


ギギレルの性格上行くぞー!となるかと思っていたがそこはさすがSランクの冒険者。



情報集めがどれだけ大切であるかを知っている様だ。



「魔法を使ったところは見ましたか?」


「あれが魔法だったのか分からないが…

ゼフィランに触れた者はその場で意識を失ってたな。」


「意識を?」


「全部を見ていたわけじゃないが、意識を失って倒れた奴を襲った様に見えたよ。」


「……ありがとうございます。他に何か気になる事とか無かったですか?」


「気になる事?」


「なんでも良いんですが…ゼフィランがなぜ帰ったのか気になってしまって。」


「何故帰ったか…そぉ言えば隣のゼオが急に帰った時のことで何か言っていた気がするな。」


「本当ですか?ありがとうございます!」


「いや、俺達がお礼を言いたいところだよ。来てくれて本当にありがとう。」


「いえ。」


数人の村人に聞いてやっと情報らしい情報が手に入った。



もう1人聞きに行く必要がありそうだ。



「あなたがゼオさんですか?」


「ん?あぁ。俺がゼオだが。何か用だったか?」


「先程あなたがモンスターについて何か言っていたと聞きまして。」


「あぁ…急に帰って行ったあのモンスターか。」


「はい。その急に帰った理由が分からず聞いて回っていたところでして。」


「そぉか…これがほんとうに役に立つ情報なのかは分からないが…あの時あのモンスターは俺達の逃げた先に来なかった。その場所は畑だ。」


「畑…ですか?」


「とにかく必死で逃げた先がこの村にある大きな畑でな。その中には入ってこようとしなかったんだ。」


「それで助かったのですか?」


「あぁ。難しい事は分からねぇが…多分畑が助けてくれたんじゃないかと思っててな。その話をしてたんだ。」


「ありがとうございます。」


「気にしないでくれ。」


「ゼフィランが畑を嫌がる…なんて話は聞いたことが無いですね。」


「見たところ普通の畑ですし…」


「育てているものも特別な物も無さそうですけど…」


「ギギレルさんは分かりましたか?」


「そぉだな。多分ゼフィランは雷の魔法を使っていると思う。触れると相手を気絶させることが出来るとなると闇魔法か雷魔法くらいしか無いはずだ。」


「闇魔法でない理由はなんですか?」


「闇魔法で相手を気絶させることが出来るのであれば離れた位置から使っているはず。雷の魔法でも同じだが恐らく触れたものに対して働く魔法を纏っているのではと思うんだ。」


「感電して気絶したと言うことですか?」


「それが一番しっくりくる。」


「そぉね…私もそれに賛成かな。」


「次に畑を嫌った理由なんだが…足場が悪いことを嫌ったんじゃないかと思う。」


「足場?」


「ゼフィランの弱点は腹の部分。つまり甲羅の裏の部分だ。これが亜種でも変わらないとすれば足場の悪い畑に入り柔らかい土に足を取られて転がらないにしても弱点が出てしまう可能性を避けたんじゃないかと思う。」


「家程の大きさなら関係ないのではないですか?」


「普通ならね。ここらの土は海が近いだけあって水分をよく含んでいる。つまり泥濘んでいるだ。」


「滑りやすい…という事ですか?」


「必要ならば入って来るだろうが既に何人か犠牲になっていたわけだし多少の危険を避けたんじゃないかと思うんだ。」


「……賢いですね。」


「Sランクのモンスターともなるとそんな奴らばかりだよ。中には人語を使いこなすモンスターもいるしな。」


「喋るモンスターですか?!」


「あぁ。ヴァンパイアやドラゴンなんかはその最たる所だな。」


この世界にはヴァンパイアもいるらしい。



会ったことないからちょっと会ってみたいな。



噛まれるのは嫌だけど。



「そんな事より今はゼフィランの討伐に集中しよう。」


「そぉね。ゼフィランの甲羅は攻撃を通さないと考えて良いのかしら?」


「あの2人なら関係ないかもしれないが私達に貫通は無理だな。素直に弱点を狙おう。」


「アイスピラーなんかでひっくり返すのはどぉかしら?」


「ゼフィランは見た目よりずっと重たい。加えて動きも機敏だ。あの図体からは想像出来ないくらいに早い。通常のゼフィランしか見た事が無いが亜種も同等の速さを持っていると考えると…持ち上げたりは難しいだろうな。」


「何も考えずに近接攻撃を放てば雷の魔法による反撃が来るわよね…」


「纏っているとしたらゼフィランの意識とは無関係に反撃が可能だしね。」


「んー…思ったよりずっと厄介な相手のようね。」


「それがSランクたる所以だろうね。」


「あの…私に少し考えがあるんですが…良いですか?」


「サーシャ…言ってみて?」


「足元の土に水を含ませて簡単な沼の様な物を作るって言うのはどぉでしょうか?」


「相手が速い事を考えるとそんなに簡単にはいかない気がするけど?」


「最初から地面の少し奥に水分を含ませておくんです。そこに誘い込んで表面の硬い土にタイミング良く水を含ませてしまえば一気に深い沼が作れませんかね?」


「……いいかも知れないな。」


「私も悪くないと思うわ。」


「それでいってみましょうか。」


「となると…戦闘開始後2人で沼を作ってもらって、私達がゼフィランの相手をする。

2人の合図でその位置までおびき寄せて沼に落とす。

弱点が出たら全員で畳み掛ける。といった感じかしら?」


「それが一番望ましい形。だね。そんなに上手くはいかないだろうけど方向性さえ決まれば皆の動きも自ずと決まってくる。それこそが大事なんだ。」


「目標みたいなものですかね?」


「そんな所だね。」


ギギレルの言ったように目標が決まっていればそれに向かって動く事ができる。



パーティでの戦いにおいてこれは非常に大切な事らしい。



俺とライルは何となくで分かりあっている所があったからそんなことを喋る必要が無かったが…やはりギギレルと依頼をこなすという選択は間違いでは無かったらしい。



これだけでなく色々な場面でSランクの冒険者としての振る舞いや考え方など多くのことを教えてくれている。



俺達からしてみれば金貨なんかよりもよっぽど価値のあるものだ。



「それで、肝心のゼフィランはどこに?」


「西に向かったと聞いていますけど…」


「西と言われても広いからねぇ…」


「とりあえずは西に向かってみましょうか。」


情報を元に西に向かう事になった。



少し北に向かえば直ぐに浜辺と海。



この辺は木々がいくらか生えていて背の低い草が生えている地帯。



木は密集しておらず飛び飛びで生えている。



「この辺りは気持ちがいいですね。」


「海風が来ますからね。少し磯臭いのでそれさえ気にしなければ過ごしやすい場所ですよ。」


「この辺りは漁業はしてないのか?」


「この辺りの海は潮の流れが早くて船を出す事が難しいんですよ。ここからしばらく東に向かって行くと街があってそこが主な漁業の場ですね。」


「一言に漁業と言っても難しいものなんだな。」


「そぉですね。

でも、タランタでは木が豊富にあるので船を作れますが、他の国ではそれも難しいので特産品になっていますしタランタと漁業は切っても切れない縁にありますので漁業の人気はなかなかのものですよ。」


「へぇ。」


「海の上での作業なので相性がありますけど…漁業をしていればまず食べるものには困りませんよ。」


「需要が高いんだな。」


「ですね。どこに出しても魚介類は直ぐに売れてしまいますから。」


「だが水棲のモンスターも居るんだろ?」


「もちろんいますよ。それで毎年何人かは命を落としてしまいますから…」


「それでも人気があるわけか。」


「それだけ魅力的なものなんですね。」


「魅力的ねぇ…」


「兄さん。これ。」


「これは…何かが這った跡か?」


「恐らくゼフィランの這った跡ですね。

大きさもかなりの物ですし目的のゼフィランですかね。」


「このままずっと海に向かってますね。」


「海の中に入られるとなかなか手が出せないですね。」


「ゼフィランは海の中に入る事も多いけど基本的には海辺にいるモンスターで陸上で生活しているモンスターよ。」


「つまり海の中でなくてこの辺りにいるってことですか?」


「えぇ。もし海の中に入られていたとしても直ぐに出てくるはずよ。」


「そんなに大きなゼフィランが出入りしていたら目立ちますし直ぐに見つかりますよね?

今まで見つかっていなかったのはなんでですか?」


「それは多分あそこが原因だろうね。」


ライルが指さした先には海に削られて断崖絶壁と言われる様な崖があった。



「あの崖ですか?」


「まぁ行ってみようよ。」


崖の近くまで寄ってみるが特に変わった様子は見られない。



ただの崖だ。



「特別変わった様子は見られないですが…」


「いや、よく聞いて。」


「聞く…ですか?」


耳を澄ますと波の音、波が崖に辺り飛び散る音が聞こえてくる。



遠くでは鳥の鳴き声も聞こえている。



「何も聞こえませんよ?」


「よーく聞いてみて。」


「………」


「………なにか…なにか聞こえます。」


「えぇ。なんだろ…くぐもった音ね…」


「……崖の中から聞こえます!」


「あぁ。これはこの崖の中に空洞があるから聞こえてくる風の音だよ。」


「空洞ですか?」


「どこかに小さな出入口があるとは思うけど…それより大きな出入口がこのすぐ近くにあるはずだよ。」


「ゼフィランが出入りした場所ですか?」


「だね。出入りしても見つかりにくい場所だ。

つまり、水の中。」


「水中に出入口が?!」


「恐らくね。兄さんならわかるでしょ?」


「あぁ。確かにあるぞ。」


「そこから出入りしてたわけですね!

じゃあ風の入り込むもう1つの出入口を探して中に入りましょう!」


「いや、多分もう1つの出入口は人が通れる程の大きさは無いと思うよ。

この風の音からするとね。」


「風の音で分かるんですか?!」


「大体ね。」


「そぉなると…どぉしましょうか…出てくるのを待つ?」


「いや、ゼフィランは元々食事をほとんど摂らなくても大丈夫なモンスター。1度食事をしているから当分は出てこないと思うよ。」


「ではどぉしましょうか…」


「水中から入るしか無いだろうね。」


「潜るんですか?」


「崖の際で潜ったりしたら危険だ。」


「入り方は色々あるけど…」


「今回は簡単に行こうかね。」


「え?!水が?!」


「水を操って入口までの水を押し退けただけだ。そんなに驚く事でも無い気がするが?」


「驚いているのは操っている量ですよ。どれだけの水を操っていると思ってるんですか…」


「コツだよコツ。それより中に入るぞ。」


「な、なんか不思議な感じですね…」


海水が崖から離れた位置できっちりと止まっている光景は実に不思議な感じだった。



まるで前世で水族館の様に海を横から眺めているような光景。



反対側には崖に空いた大きな穴。



ゼフィラン亜種が通れる程の大きさを有する穴だ。



足を掛けるが藻が生えているのかヌルヌルしていて足元が安定しない。



崖の隙間から射し込む一筋の光が洞窟の中に伸びていた。



中はかなり広い空洞になっている。



内側はゴツゴツとしていて海水の匂いが充満している。



いくつかの岩が下から上から突き出すように伸びている。



その中の1つの一際大きな岩がもそりと動く。



「ゼフィランよ!」


「デカいわ!」


家程の大きさと言うのも控えめに言ったのだろうか、見上げるような大きさのゼフィランが岩と見紛う甲羅からぬっと顔と足を出す。



亀と言うにはあまりに凶暴な出で立ちだ。



足も頭もは鋭い刃の様な形状の鱗に覆われていて触れれば腕の1、2本は持っていかられる。



頭を持ち上げて微かに開いた口からは猛獣を思わせる様な鋭く大きな歯がビッシリと並んでいる。



ゼフィランの全体は暗闇の中でうっすらと光っていてそれがゆらゆらと揺らめいている様に見える。



「読み通り体に雷の魔法を纏っているわね。」


「これじゃ私の盾も無意味ですね。」


「触れてしまえば痺れて動けないわね。」


「サーシャとシリアは外に出て準備を!」


「私達だけで外に引っ張り出せますかね?」


「やるしかないでしょ。直接防御と直接攻撃は厳禁!とにかく外に連れ出すわよ!」


サーシャとシリアは外に向かって走り出す。



マーズ、アデルカは魔法剣を使って作り出した石礫と炎を飛ばしてゼフィランと交戦。



ダジは盾に魔力を流し感電しない様に気をつけて防御に徹している。



カヤリスは魔法で相手の注意を逸らす程度の攻撃。



ギギレルは風を大斧に纏わせて先頭で攻撃を仕掛けている。



ギギレルは初めてとは思えない程の連携を見せて立ち回る。



それでも甲羅、鱗は硬く傷さえ付けることが出来ない。



連携攻撃に対処する様な動きを見せていたゼフィランは次第に対処的行動から攻撃へと動きを変えていく。



「そろそろ行くわよ!」


マーズの言葉で全員が少しずつ外に向かって下がり始める。



ゼフィランもそれに従うように少しずつ出口に向かって動き出す。



気を抜けば痺れて動けなくなる状況でなんとか渡り合っている。



「きゃっ?!」


外に出る1歩手前で足を滑らせたアデルカが尻餅をつく。



行きで滑りやすかった岩に足を取られたらしい。



ゼフィランは目敏く体勢を立て直せないアデルカに向かって頭を伸ばして鋭く尖った歯を見せて噛み付く。



「アデルカ!!」


「ゴースト!」


闇魔法で作り出された影がアデルカの目の前に現れるとゼフィランの歯に噛み砕かれる。



「エリーナさん!?」


「早く逃げて!」


「はい!」


咄嗟にゴーストを身代わりに作り出したエリーナの助けでなんとか体勢を立て直したアデルカが外に出る。



カヤリスも咄嗟に援護する様に動いていたが流石は魔女。年の功。



エリーナの方が早かった。



「一気に行くわよ!」


マーズ達も外に出てゼフィランもそれに着いてくる。



外で見ると一層大きく見える。



「皆さん!こっちです!」


サーシャとシリアが岸辺で声を張り上げる。



ゼフィランを牽制しながら徐々にシリアとサーシャの待つ場所まで下がっていく。



サーシャとシリアももちろん魔法で援護するが元々水棲のモンスターに対して水属性の魔法はそれほどダメージを与えられない。



ゼフィランも水魔法を使って反撃してくる始末。



魔力はそれほど強くないのかあまり高位の魔法は使ってこないが魔法を使えるか否かで戦況は大きく変わってくる。



実際かなり苦戦を強いられている。



「そこです!」


サーシャが魔法を使って地面を泥に変えるとゼフィランの巨体がぐらりと揺らぐ。



左側の足場が深い沼地に変化した事で支えが無くなり大きく横に傾く。



しかしなんとか体勢を立て直そうともがいている。




「うぉおおお!」


ダジが盾を構えて浮き上がった足の下に向かって突進する。



金属と金属がぶつかった様なやけに高い音が辺りに響くとゼフィランの巨体が完全に裏返る。



周りに泥が飛び散りゼフィランの腹が現れる。



「はぁぁぁああああ!」


ギギレルの大跳躍。



振り被られた大斧に纏う風が更に勢いを増す。



懇親の一撃をゼフィランの腹目掛けて振り下ろされる。



バキッ


硬い何かが割れるような音が響きゼフィランの腹が完全に裂ける。



致命傷だ。



エグい事に突き刺さった大斧からゼフィランの体内に風の刃が入り込み内蔵をズタズタに引き裂く。



地面が揺れる程のゼフィランの断末魔が辺りに響き渡る。



手足の先から魔素へと変換されて霧散していくゼフィラン。



「エリーナさん。先程はありがとうございました。」


「え?」


「助けて頂いて。」


「あ、はい。気にしないで下さい。」


「私もまだまだですね…」


「ギギレル。これでこの依頼は終了か?」


「あぁ。ドロップアイテムはゼフィランの鱗だな。普通のゼフィランには無いものだからかなりのレア物だと思う。」


ギギレルが拾った鱗を俺に手渡す。



両手で持てる程度の大きさでうっすらと発光している。



非常に薄くガラスの様に見えるが強度はかなりのものだろう。戦闘したマーズ達にはよく分かっているはずだ。



鋭い刃の様な形状でこの強度の鱗となると色々と使えそうだ。



どんなものかは後で確認するとして鱗をアイテムボックスに入れておく。



「……」


「白主様。どぉかなされましたか?」


「ん?」


「いえ…何か考えているようでしたので。」


「あぁ…ギギレル。このゼフィラン亜種はなんであんな場所にいたんだ?」


「あんな場所…と言うとあの洞窟の事かな?」


「あぁ。見た感じ人工的なイメージがあった。」


「洞窟自体が人の手によって作られたものだって言うのか?」


「あぁ。恐らくな。」


「……理由は分からないが…何か良くない事が起きているかもしれないな。」


「ゼフィラン亜種…高レベルのモンスター…宰相の関与がある可能性があるかもしれないな。」


「……決めつけは良くないが…私の方でも少し調べてみるとするよ。」


「あぁ。」


一抹の不安を残して今回の依頼は終了した。



俺達の知らない所で何か良くない事が起きている様な気がする。



それからしばらくの間はSランクの依頼は発注されずギギレルと依頼をこなす事は無かった。



ギギレルの情報網でも宰相に関する詳しい話は得られず2週間が過ぎた。



アデルカとサーシャの働きによってエリーナが管理しようとしている古城の精霊石付近の土地は俺とライルの物になった。



街から離れていて周りには何も無いためそれ程お金は掛からなかったらしいが方々に手を回し人種と思われている俺達の土地にするのに手間取ったらしい。



そぉいった作業はやはり俺やライルには少し難しい。



アデルカとサーシャにはまた何かお礼をしないとな。



そして今日、遂にエリーナの奴隷紋が解除される事となった。



「エリーナ。」


「はい?」


「これで終わりだ。」


「……」


エリーナが手を見るとスっと消えていく赤い奴隷紋。



「………」


「これでエリーナも奴隷から解放されたな。」


「はい……はい……」


「泣くなよ。」


「ありがとう…ございます…」


「気にするな。」


「エリーナさん!遂に解けたんですか?!おめでとうございます!」


「やったわね!」


「皆さん…ありがとうございます!」


「さてと。古城付近の土地の所有権は俺とライルになってるからな。奴隷から解放されたわけだしエリーナの所有権に移しに行くとするか。」


「あ!いえ!それには及びません!」


「ん?」


「所有権はお二人のままにしておいてください!」


「何故だ?」


「私は管理者であるだけで充分ですので。」


「管理者となるなら所有権を持っていた方が楽だろ?」


「いえ。私のこの身が解放されたのは全て皆様のお陰です。これ以上何かを貰うなんて私には出来ません。」


「そんなこと気にしなくて良いのに。」


「ここは譲りません。

私はあの精霊石の守人として生きていきますが、あくまでもお二人のものです。私はこの身全てを掛けてお二人のものをこれから守っていきます。」


「な、なんか重たいよ?」


「それ程に私の受けた恩は大きいのです。」


「エリーナがそぉしたいならそれで良いけど…」


「まぁ俺も構わないが…あのままじゃどぉにもならんからちゃちゃっと作り替えて住みやすくするか。」


「とりあえず移動だね。」


「だな。」


フージカを使って古城前に移動する。



相変わらずボロボロの城がそこにある。



何かモンスターが住み着いたりしてはいない様だがこのままでは時間の問題だろう。



「魔法で作り替えるんですか?」


「あぁ。素材は周りに沢山あるからな。」


俺は杖を振る。



古城に使われていた素材がバラバラに解け形を変えていく。



岩、木、土が周りから更に集まり一回り小さいがしっかりした城が建つ。



時間でいえば五分も掛かっていないだろう。



「こ、こんな簡単に…」


「見た目はまぁ適当に変えてくれていいから。

それより中に入って。」


「はい!」


木の扉を開くと中は大広間。



2階に続く階段が目の前に広がり左右に扉。



「部屋はいくつか作っておいた。装飾は大雑把に作ったから必要なら変えてくれ。

地下に向かう扉は隠し扉にしておいた。ここだ。」


「何も無い壁ですね?」


「この石を押すと…」


「おー!これは凄いです!!」


「回転扉になっててな。この階段を降りれば…精霊石の間に繋がっているわけだ。ここも綺麗にしておいたから見栄えは良いだろ。」


「ありがとうございます!」


「それでこの周辺にいるモンスターや盗賊なんかに対する防衛システムを作ろうと思うんだが良いか?」


「防衛システムですか?」


「あぁ。常時発動させておくタイプの防衛システムで簡単に言えば近づく者に対して電撃が走るもんだな。

こいつにも魔力を登録してやって俺達やエリーナ以外に対して攻撃する様にするんだ。」


「つまり誰が近寄ってきたら迎撃するって事ですか?」


「あぁ。」


「無害な人に対しても攻撃してしまうと困りませんか?」


「無理に侵入しようと扉や壁を壊そうとした者に対して発動する様に工夫しておくんだ。一定以上の攻撃、圧力に反応して迎撃する。」


「それなら安心ですね。」


「エリーナが許可した者の入城は可能になるから許可を与える場合は注意を払ってくれよ。」


「承知致しました。」


「このシステムに使う魔石は…こいつが丁度いいな。」


「こ、これは?!こんな大きな魔石初めて見ましたが?!」


「ブルーダンジョンの最深部にいたキマイラの魔石だ。」


「人の頭くらいありますよ…」


「これ一つでも結構なもんだから精霊石の横に設置しておくぞ。埋めちゃうから簡単にはバレないとは思うが。」


「は、はい…」


「よし。これでいいな。」


「なにからなにまでありがとうございます…」


「他に必要そうなものはなにかあるか?」


「いえ!ここまでして頂けただけで充分です!」


「精霊水は貴重だしたまに貰いに来るよ。」


「お二人のものですのでいつでも大丈夫ですよ。」


「ニーナが用意してくれた精霊水を卸すルートは把握してるか?」


「しっかりと。」


「よし。じゃあ今日からここの事は頼むな。」


「お任せ下さい!」


張り切って胸を叩くエリーナ。



魔女の1人が見張っていてくれると言うのであればまず間違いは無いだろう。



宿屋に戻るとすぐに二ルマが訪ねてきた。



「今日は何か約束してたか?」


「いえいえ!キース様に売っていただいたウォータークッションが非常に売れ行きが良くお礼の挨拶ですよ。」


「それ程か?」


「はい!今や看板商品と言っても良いほどの売れ行きですよ!」


「需要がそんなに多いとは思わなかったな。」


「主に女性が買っていかれますが男性でも座る事の多い職業の方はいくつか買っていかれます。」


「あまり期待していなかったんだが良かったな。」


「この先色々な国から需要が増えると思いますのでここを拠点に売っていく形になりますね。」


「大規模な話になってきたな。」


「何より安い事が良かったみたいですね。」


「デザインも揃えたのか?」


「はい!色や模様など色々と揃えましたよ!」


「流石は二ルマだな。」


「ありがとうございます!」


「そぉだ!二ルマさんはこの国の宰相について何か知っている事ってありますか?」


「宰相様ですか?そぉですね…元軍人で非常に好戦的な方だと聞いていますね。噂ではヴィントローゼの一員だとか。」


「ヴィントローゼですか?!」


「なんだ?そのヴィンなんとかってのは?」


「ヴィントローゼと言うのは簡単に言ってしまえば世界を破滅に導こうとする集団です。」


「物騒だな。」


「現在の世界が穢れていてそれを浄化する為には、世界を戦火の元混沌へと陥れリセットさせる必要があると考えている者達の集まりですね。」


「ヴィントローゼは自分達を天使の使者と考えていて非常に危険な奴らです。衛兵時代にも何度か相対する事がありましたがどれも1度見たら忘れる事の出来ない現場でした。」


「その集団をさっさと潰したらいいんじゃないの?」


「巧みに潜み尻尾を出さず、有権者の中にも多々いると噂されていて根絶は難しいと言われています。」


「なかなか厄介な相手だな。」


「ヴィントローゼの話は分かったけど宰相がその一員かどうかは分からないの?」


「あくまでも噂ですが…ヴィントローゼの一員が必ず入れると言われているタトゥーをしていたとか。」


「どんなタトゥーなんだ?」


「こんな形のタトゥーです。」


Vを上下左右に4つ重ねた様な形だ。



「見たことないな。」


「これが宰相に入っていたって話ですか?」


「あくまでも噂ですよ。」


「……下手に刺激してそのヴィントローゼとやらと事を構えるとなると面倒くさいな。」


「なるべく関わりたくないね。」


「向こうから何かしてこない限りは大丈夫だと思うが…

二ルマ。ありがとな。」


「いえ!お役に立てたなら光栄です!」


二ルマは笑顔で手を振って帰って行った。



また1つ考えなければならない案件が増えた様だ…



早速次の日ギギレルの元に向かう。



「ヴィントローゼ…か。」


「心当たりでもあるのか?」


「いや、明確なものは無いが…少し詳しく調べたところモンスターの研究をしている可能性があると聞いてな。」


「モンスターの研究?」


「詳しくは分からんが何やらモンスターを戦争に使えないかと試行錯誤しているらしい。」


「……」


「そぉ聞いてしまうとヴィントローゼとの関与を疑いたくもなるだろ?」


「ギギレルの言わんとしていることはよく分かる。とにかく近づかない方が良さそうな話という事は分かったよ。」


「もしキースが言っていたようにあのゼフィランがその研究によるものであれば目を付けられてしまったかもしれんな。」


「そぉじゃない事を祈るばかりだが…」


「もし何か分かったら連絡するよ。」


「それはありがたい。頼むよ。」


「話は変わるがまたSランクの依頼が入ったんだがどぉする?」


「内容は?」


「今回は調査だな。」


「調査?」


「あぁ。我々Sランクの冒険者は未開の地やダンジョン等の調査をたまに任される事があるんだ。今回は漁に出ていた人が偶然に見つけた水中遺跡の調査だ。」


「水中遺跡?」


「前に言っていた漁港の街から海に出てしばらく行った先の水中に遺跡が発見されたんだ。その中の調査だな。」


「面白そうだな。」


「では受諾で良いか?」


「あぁ。行こう。」


「では数日後に北の漁港の街ゼリマニサに向けて出発する。

せっかくだからゼリマニサに向かう商人の護衛依頼なんかがあれば受けておくと良いぞ。」


ギギレルの言う様に商人の護衛依頼があったため1つ受けておくことにした。



依頼としてはランク外の依頼だったが。



ランク外の依頼と言うのは雇う冒険者のランクに関わらず一律で報酬を払うというものだ。



割と安全な道程の護衛任務等によく見られる依頼だ。



タランタからゼリマニサへの道程は非常に人の行き来が多いため危険はほとんどない。



護衛を付けることも少ないが途中どこかに寄りたかったりする商人なんかはランク外で護衛を付けることがある。



今回はその護衛が必要な商人からの依頼だ。



日時は三日後の昼に出発。



顔合わせもその時だ。



「調査ってのはなんか必要なもんがあるのか?」


「そぉですね…危険度や中の状況を知る事が優先事項ですのでこれと言って特別何か必要なものは特にありませんね。

しかし未開の地ですので何がいるか分からないので準備は怠らないようにしてください。」


「マーギーさんのおすすめ準備品とかありますか?」


「そぉですね。今回は水中という事なのでそれに適した装備はもちろんですが、水棲のモンスターは強烈な毒を持っている事が多いため解毒薬は必需品になるかと。」


「水中での呼吸って皆さんどぉしてるんですか?」


「噛むと空気を放出する海藻、空緑藻を使います。」


「それは面白そうなアイテムだな。」


「1本で大体30分位ですかね。」


「となると結構必要だな。」


「珍しいものでは無いので安いですよ。ゼリマニサで売ってます。」


「ありがとうございます!」


「後は水中での動きをスムーズにしてくれる類の装備ですね。魔法具がありますのでそれもゼリマニサで用意しておいた方がよろしいかと。」


「助かりました!」


「いえ。お気をつけて。」


水中での戦闘は俺もライルも初めてだ。



少しワクワクしながら準備を進める。



マーギーの話ではこぉいった遺跡なんかはたまに見つかるらしい。



その多くは財宝や珍しい装備や魔法具が隠されていたりするらしい。



そしてかなり危険な仕掛け、モンスターがいる事が多いとの事だ。



どれも気になる要素の1つだがスカ、つまり何も無い場合もある為期待は最小限にしておこう。



3日の間に準備は万全に整った。



水中での行動を補助する装備やアイテムはここでは必要ないため売買自体が無い。



乗り合いでも良いと書いてあったが人数が人数なので馬車で北門に向かう。



「お、来たな。」


「遅れたか?」


「いや、私が少し早く来たんだ。」


「そちらが?」


「あぁ。この一団が双天の誓いのメンバーだ。」


ギギレルの後ろで立っていた若い夫婦。



二人とも犬人種で茶色い髪。



とても優しそうであり気の弱そうな夫婦だ。



「初めまして。今日は護衛で宜しかったですか?」


「はい!ありがとうございます!

ゼリマニサに向かう途中で少し村に寄りたいのですがよろしいですか?」


「もちろん。私達は馬車で随伴します。」


「分かりました。あの…失礼ですがランクはどれ程でしょうか?

行きがけに通る道に盗賊がよく出没すると聞いておりまして…」


「慣れてないと盗賊相手は難しいってことですね?

私達も、そこにいるギギレルもSランクです。」


「あぁ!Sランクなら問題…………Sランク?!」


「はい。」


「えぇ?!いやいや!その様な方々に護衛して頂くような者では無いですよ?!」


「ゼリマニサに用事があってな。これも何かの縁だよ。」


「そ、それなら…よろしくお願いします。」


「はい!」


超絶恐縮している夫婦を横目に馬車を走らせる。



往来の多い道程ということもあって道幅は広く横並びになっても道の半分も埋まらない。



「あ、そのクッション!」


「これですか?実は商業ギルドで見つけましてね。素晴らしかったのでゼリマニサへ売りに行こうと考えているのですよ。途中寄る村にも卸そうかと思っております。」


「既に広まりつつあるんですね。」


「あなた方も持っていらっしゃる様ですが…販売品には無いデザインですね?」


「これは特注品というか…」


「これは白主様が作ったものですよ。」


「この白い人だ。私も聞いた時は驚いた。」


「えぇ?!発案者ですか?!」


「まぁ。」


「まさかそんな方だったとは…」


「そんな大層なもんじゃないって。」


「いえいえ!謙遜しないでください!あの二ルマさんと直接契約を結んでいる方ですよね?!それだけでも凄いことですよ?!」


「二ルマがどぉしたって?」


「二ルマさんといえば商業の神に愛された方とまで言われる人です。本拠地はトラタニスと言われていますが世界中で活躍している凄い人なんですよ!」


「そぉだったのか?やる人だとは思っていたが…」


「いやー!今日は素晴らしい日になりました!」


何故かご満悦の夫婦。



その後も世間話を適度にしながら馬車を進める。



商人って言うのは話好きの人が多い。常に喋って話題を切らさない。



お陰で旅は楽しく進められているわけだが。



「あ、この先を左に曲がります。道幅が狭くなりますよ。」


「私達が前に出ますね。」


先に左に曲がり後ろから夫婦が着いてくる形になる。



こちらの道は大通りと違って木々が多く視界が悪い。



木々の影になっているため薄暗く湿気を帯びた風が頬に当たる。



10分程進んだところで不穏な空気が辺りを包む。



「来たか。」


「はーい。止まってー。」


目の前にいかにもな奴らが5人程出てきて道を塞ぐ。



馬車を取り囲むように更に10人程が隠れている様だ。



「2人は馬車から出ないで下さいね。」


「分かりました!」


夫婦は馬車の荷台に移動すると身を潜める。



すぐに防御魔法を掛けて2人の馬車を守る。



「荷物全部置いていってな。そしたら命までは取らないから。」


「お断りさせていただきます。」


「あ?」


「あなた方には水の1滴すら渡すつもりはありません。」


「なんだこのアマ。」


「レベルは200前後だな。先頭の奴が300。」


「周りの奴らは飛び道具ですかね。」


「弓だろうな。それ程警戒する様な武器じゃなさそうだ。」


「私達だけでなんとか致しますので少しだけお待ち下さい。」


「分かった。」


レベル400越えのうちの子達が相手となるとむしろ盗賊が可哀想な気もするが…まぁ自業自得という事で。



ギギレルと俺とライルが馬車に残り他の6人が外に出る。



「さて。御二方をお待たせするわけにいきませんのでさっさと終わらせます。」


「あ?こいつら頭おかしいのか?」


「この方達には礼儀もいりませんね。行きます!」



ダジが近接武器を持った5人を牽制しその間に飛び道具を持った10人を他のそれぞれが2人ずつ確実に仕留める。



マーズとアデルカの速さには弓も当たらない。と言うよりは狙うことすら出来ず首を飛ばされる。



シリアとサーシャは魔法で相手が攻撃を仕掛ける前に終わらせている。



カヤリスはシャドウバインドで動きを止めてから確実に息の根を止める。



「な、なんだこいつら?!」


「冒険者よ。Sランクだけど。」


「え、Sランク…」


「大人しく捕まればこれ以上殺さないわ。」


「……」


「私達は別に生死を気にしているわけじゃないことは分かるわよね?早く決めないと殺しちゃうわよ。」


「分かった!抵抗はしないから命だけは助けてくれ!」


「分かったわ。」


武器を捨てた男達に縄を掛ける。



夫婦は目を疑う様に見開いていたがSランクと聞いていたためどこかで納得したらしい。



「す、凄いですね…」


「あれくらいの相手なら彼女達には造作もない事ですよ。」


「1番被害を被っていたのはこの先の村ですので喜んで頂けると思います!」


「それは良かったです。行きましょうか。」


縄で繋いだ男達を引き連れて少し進むとすぐに村に辿り着く。



すぐに村長らしきおじいさんが出てきて夫婦と会話をした後こちらに向かってくる。



「あなた方が盗賊を捕まえて下さったのですか?」


「えぇ。後ろに繋いでありますよ。」


「なんとお礼を言ったら良いのか…」


「護衛の依頼をこなしただけですのでお気になさらず。」


「いえいえ!そんなわけには参りません!あの盗賊共にどれだけ煮え湯を飲まされたことか…せめて何かお礼の品だけでも受け取っては頂けませんでしょうか!」


「本当にお気になさらず…」


「こちらはどぉでしょうか!」


「お話を…」


こちらの言い分を無視して勝手に話を進める村長。



村人が持ってきた品を見せられる。



村で作られた人形や飾りなどがあったがどれも木製で非常に凝った作りになっていて見ているだけでも面白い程の出来だった。



そのうちいくつか選んで頂いた後は夫婦が商品を展開して売買が始まった。



この村の装飾品は他でもかなり質が良くて人気らしく物々交換で商いをしている。



夫婦はここの専属商人として定期的にここに寄るようにしているらしい。



専属商人とはその村と契約し他の商人との売買を禁止する代わりに商人側は村の欲する商品をできる限り入手する事が求められる。



不可能なものでなければ揃えなくてはならないため結構厳しい条件。



依頼でない限りは売値も割引価格になる。



商人にとって必ず買ってくれる客が村単位でいるというのは素晴らしいと感じるかもしれないが専属商人になると他で商いはほとんど出来ないため安定した収入を求める人にしか人気がなく、更には信頼関係の構築が何より重要になるためあまり多くない。



この夫婦はこの村の出身で大きな取引と言うよりは村のためにやっているだけだからと専属商人を選んだらしい。



専属商人には今回の様に村の出身だったり知り合いだったりする商人が多い。



物々交換自体はそれ程珍しいものでは無く、小さな村ではよくある光景らしい。



商売が終わる頃には日が傾きつつあった。



この村のからゼリマニサまでならば日が暮れる前に間に合うとの事なのですぐに出発するとこになった。



盗賊を連れたまま村に泊まる訳にもいかない。



村を後にして30分もするとゼリマニサに着いた。



「ありがとうございました!こちらが報酬になります!」


「どぉも。」


夫婦と別れて街に入る。



片田舎の漁港と言われるとしっくり来るような街並みだ。



海岸線沿いに市が並び大きな通りを挟んで飲み屋、飯屋、宿屋などが立ち並ぶ。



商業ギルドも冒険者ギルドもあり立派な街として機能している。



盗賊の引渡しは衛兵の詰所に寄って行った。



懸賞金が掛かっていた集団だったらしくいくらか貰って引き渡しを終えた。



「ここから更に北に向かった先にある海から船を出してくれる人が待っている予定だ。明日の朝早くに出発するからそれまでは自由にしててくれ。

私は冒険者ギルドに行って事の次第を話してくる。」


「分かりました。それではまた明日。」


ギギレルと別れて宿に泊まる。



明日の準備を今日中に整えたいと言ったらギギレルがこの時間でも開いている店をいくつか紹介してくれた。



空緑藻、水中でも動きを補助する魔法具を探しに行く。



空緑藻も魔法具もよく使われるものらしく初めに訪れた店で容易に揃えることが出来た。



魔法具は指輪型が一般的らしくそれを一人一つ購入した。



常時発動しているタイプのものらしく装着していれば問題無いそうだ。



これで明日の準備は整った。



頭を悩ませる事柄はいくつかあるがとりあえず明日の調査だ。



何が待っているのか、どんな光景を見られるのか。



想像を抱いて眠りについた。

冒険者編 Ⅴ いかがでしたでしょうか!?



いやー、獣人の街!



非常に興味深いですねー!



一度くらい行ってみたいですね!



ここからどぉなっていくのか気になる方は次の話も読んで下さいね!



それでは次話でまたお会いしましょう!

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