表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双天の悪魔   作者: Rukuran
3/12

学園編 Ⅱ

半ば反強制的にピアスを渡して信頼出来る人を増やしたキースとライル。



王族であるアデルカとサーシャを含めた高等部1年生を教える教師として授業をする。



そんな日々の中でキースとライルは色々な人に出会い色々な事件に出会う事になる。

「ふぁーーー…おはよぉー。」


「あ、キース様。おはようございます。」


「ん。シリアおはよ。ライルは?」


「剣を振っておられますよ。」


「あぁ。刀な。」


「カタナ…ですか?」


「あぁ。」


「あまり詳しい訳では無いですけどあの様な形の剣は見た事が無いので珍しく思っていました。

カタナ…と言うのですね。」


頭のメモ帳にカキカキしてるな。



「危ないからあいつが練習してる時は絶対部屋に入るなよ。」


「ライル様からもきつく言われました。

少し見たかったのですがライル様があそこまできつく言われるのであれば余程危ないのですね。」


「あぁ。かなり危ない。」


「ならば仕方ありませんね。自重致します。」


「そぉしてくれ。」


「今日は授業の日ですけど朝食は如何致しますか?」


「ん。欲しい。おねがいしましゅ。」


「ぐはっ!か、可愛い…ふ、不意打ちとは…」


噛んだだけなんだが。



「それでは御用意しておきます。」


「ありがとー。」


ホントに家来みたいになってきたなー。大丈夫なんだろうか。学校とかプライドとか。



ライルも食卓に着くと3人で朝食を食べる。



「今日で4回目。募集期間の最後ですがもぉほとんど全員参加していますし募集の意味がないですね。」


「まさかここまでになるとは思ってなかったなー。」


「私は最初の授業を聞いた時に確信しておりましたが。」


「そぉなん?」


「はい。革新的ではありましたが生徒達があんなにも楽しそうに授業を受ける姿は見た事が無かったので。」


「そぉなんだ。他の先生の授業ってどんななの?色々聞くけど実際に見た事は無くてさ。」


「そぉですね…私もあまり詳しくは分からないのですが…」


「キースせんせー!ライルせんせー!」


「お?アデルカとサーシャか。」


「他の先生の授業の事なら2人に聞いてみてはどぉですか?」


「あぁ。確かに。授業後に聞いてみるか。」


「だね。待ってるし行こうか。」


「ほーい。」


3人で家を出るとアデルカとサーシャが待っていた。



「おはよぉさん。」


「おはようございます!」

「おはようございます!」


「待ちに待った授業の日がやっと来ました!」


「そ、そんなに言われると少し緊張するよ。」


「そぉか?」


「やっぱり兄さんの方が楽天的だって。」


「心外だな。」


「そぉ言えば先生達って兄弟喧嘩ってするんですか?」


「……いや、しないな。昔はしてたけど….」


「昔って言う程歳食ってないですよね?」


「言葉の綾だよ。」


「そぉなんですか。私達もあんまり喧嘩しないからなんとなく分かりますけど。」


「まぁたまには喧嘩もしないといかんかもしれんけどな。」


「わざとするものでも無いですよね?」


「まぁな。今日もって言うかこれからは主にこの室外闘技場が授業場所になりそぉだな。」


「授業中に魔法使うなんて先生達の授業くらいですからね。」


「あ、そぉだ。2人に授業後他の先生の授業がどんなか聞いてみたいんだけど。良いかな?」


「もちろん!じゃあ授業後一緒に昼食でも食べながら。」


「ありがと。」


ボーン…ボーン


「よーし。始めるぞー。」


「はーい!」


「さて、人数は変わってないな。

そんなら早速前回の続きから行くぞー。

全員流水で自分を覆ってみろー。」


「はーい!」


前回できていた生徒達は当然だが出来ていなかった生徒の半数以上が出来るようになっていた。



「おー。よく出来てるなー。よーし。出来る人は出来ない人に教えてやれー。」


最初からいる9人は俺が言うより早く出来ない人の所へと行きコツなんかを教えていた。



しかし、暫くすると大きな怒声が聞こえてくる。



「この平民風情が!」


「も、申し訳ございません!」


「ん?なんだ?」


俺は怒声の現況の元へと向かう。



「おいおい。どぉした。」


「この平民が私の服に水を掛けたんです。

ろくに生活魔法も使えぬなら魔法学校など来るな!」


貴族らしい男子生徒の怒声に肩を強ばらせる女子生徒。



「はーい。ストップ。

それ以上言うことは俺が許さん。」


「ですがこの平民が…」


「黙れと言ったんだ。聞こえんのならそんな耳切り取るぞ。」


今まで穏やかに話していた俺が突然静かな重いものへと変わる。



「…」


「よし。お前ら。全員よく聞け。」


「…」


全員が手を止めてこちらを見ていた。



「この学校には王族、貴族、平民が入り交じっている。

お前達が自分を王族や貴族としてプライドを持ちどこで威張っていようが別に良い。

だが俺とライルの授業中にそれを理由に人を蔑んだり貶めたりする奴は絶対に許さん。

それが例え王族でもこの授業には二度と参加させん。例え王が物申してきてもそれは曲げん。

良いか。確かにお前らの中には王族や貴族がいる。お前らの父や母は確かに国を守り、人民を守った経歴とプライドを持った人が多いだろう。だが尊敬や感謝と言うのは押し付けるものでなく自然に集まるものだ。

お前達が王族貴族としていられるのはそんな尊敬や感謝を自然に集めたお前らの両親や先祖のお陰だ。決してお前らの勝ち取ったものでは無い。

お前らは平民と蔑んでいる人間からの税金で飯を食い糞をしている。つまりなんの返還もしていないお前らはその辺の犬畜生よりも劣る存在だ。

それに比べて平民は毎日親の手伝いに加えて他の家の人の手伝い。そして自分の事もやらねばならん。

お前らが暇を持て余してる時も必死で働いているんだ。そんな人が自分の魔法を練習する時間が無いとも言わずに必死で着いてこようとしてる。

そんな人に対してなぜそんな口がきける。本来なら崇めたてまつるのは貴族や王族の子の方のはずだ。

毎日生きていられるのはあなた方が税金を収めてくださっているからです。ありがとうございますってな。

そこまでしろとは言わないが敬意は払え。

他人を敬わぬ者は他人から敬われることも無いと知れ。

今回は俺達の考えを伝えて無かったから大目に見るが次はない。

パーム校長の下にいながらその態度…恥を知れ!」


「……」


「僕も同意見だね。

正直今の光景は胸くそ悪い。

付け加えて言えば魔法科と剣術科としての蔑みも僕達は許さないよ。

僕達はそれが例え奴隷だとしても生徒であれば全力で教える。

でも人を蔑む様な人に何かを教える気は無い。

それが無理ならすぐにでも出て行ってもらって構わないよ。例え1人になっても僕達は変わらず全力で教えるから。」


「……すみませんでした。」


「謝るのは俺にじゃないだろ。」


「すまぬ。私が間違っていた。」


「い、いえ。大丈夫です。」


「よし。解決したな。」


「反省して二度としないのならそれで良いよ。

僕達はこの300人全ての人達を平等に見てるから。

それだけは覚えておいて。」


「はい!」


「よーし。続きやるぞー。

水掛けられた位で怒るなよー。」


「…」


「今のは笑うところだぞー。」


「……あはははは!」


所々で笑いが起きて空気が和む。



これで全ての垣根が無くなったとは思わない。



でも少しは緩和されたと信じたい。



事実謝った貴族の男子生徒は平民と蔑んだ女子生徒に懇切丁寧に教えている。



反省し学べるのであればそれは成長だ。



喜ばしい光景だね!



「おー。出来たな!」


「出来ましたー!やったー!

皆さんありがとうございます!」


最後の1人が出来るようになった。



1人を全員で教えて、その1人は申し訳なさそうにしていたが出来た時は全員で喜んでいた。



涙出そう。



「よーし。これで全員クリアだ。

次は流水使って何やってみたい?」


「はいはーい!」


「はーい。そこの元気な女の子。」


「はい!えっと、流水で作った水に灯火を使ってみたいです!」


「おー。よく考えついたな。」


「はい!気になって眠れませんでした!」


「そんなにか?!

よーし。やってみろと言いたいところだが、こいつはちょっと危ないな。」


「そ、そぉなんですか?」


「よし。実践してみるから少し下がって皆見とけー。」


「はーい!」


「こいつは既存の魔法と魔法を組み合わせるやり方だ。

派生魔法の1つに分類されるな。

まずこいつをやるにあたって3つの方法がある事は分かるか?」


「えっと、同時に2つを組合せた魔法にするか、一つ一つを作って合わせるか…後1つを作ってそこにもう1つを付け足す…ですか?」


「お、良いね。正解。さすがサーシャ。

じゃあ1つずつ行くぞ。

まず2つ同時にいく。」


魔法を発現させると魔法陣が二重になる。小さい輪っかと大きい輪っかが重なった様な魔法陣が指先に出現する。



「2つ同時だとこぉやって魔法陣が二重になる。これは技術的にもイメージ的にもかなり難しい。

派生魔法を使える人間が少ない理由の一つだな。」


「せ、先生。」


「ん?」


「その状態で魔法を発動させずに維持するってどぉやるんですか?」


「え?あー。そっか。これ難しいわな。

やろうとするなよー。これは難しすぎる。」


「は、はい…」


「よし。発動させるぞー。」


ボン!


指先から水蒸気と水滴が勢い良く飛び出す。



いわゆる水蒸気爆発だ。



「と、この様に爆発が起きる。

これは難しいし危険だから皆は絶対にやらないように。」


「はーい!」


「よろしい。じゃあ次は1つずつ作って組み合わせる方法な。」


俺は右手に流水、左手に灯火を発動させる。



「せ、先生。」


「なんだ?」


「その…左右の手で違う魔法って発動させる事…できるんですね…」


「あー。これはコツというか…練習だな。下手するとさっきみたいに二重の魔法陣になるからこれもやるなよー。」


「は、はい。」


まぁどちらもやろうとして簡単にできる類のものでは無いが。



「じゃあ合わせるぞー。」


ジューーーー



水と火が合わせれば当然蒸発が生じて霧が発生する。



「こんな風に水が蒸発して水蒸気ができる。

そんで一つ一つ組み合わせるやり方。

これは2通りあって火が先か水が先かだ。

さぁ、問題だ。どぉなる?」


「え?!えーっと…」


色々憶測が飛んでいるが明確にはイメージ出来ないようだ。



結果から言えばどちらも水蒸気が発生する。



火が先の場合火がついているところに少しずつ水が出現する事になるため爆発せずに水蒸気に、

逆の場合は水が少しずつ熱せられて水蒸気になる。



少しずつなのは魔素が流れる量がそのまま水や火になるからだ。



あくまでも生活魔法。



使う魔素が少ないのに加えて魔法陣も絞りが効いてしまう。



つまり蛇口の口が小さい。もしくは火元が小さいのだ。



「わかりません!」


「素直すぎるだろ。まぁやってみないと分からんか。

よーし。この方法なら危険は無いから全員自分で試してみろ!

言う程魔法の重ねは簡単じゃないからな。出来た人は出来ない人に教えてやれー。」


「はーい!」


派生魔法と違ってこの魔法は混合するだけだ。



派生魔法より難しさは数段階落ちる。



しかし魔法を発動させてそれを維持して更に次の魔法をイメージするとなるとやはり難しい。



上手くいかないと先に発動した魔法が解けて無くなるか後の魔法が発動しない。



今回は先の説教の件で時間も無く、誰一人クリア出来ずに終了する。



「はーい。そこまでー。」


「難しー!」


「この方法なら個人で練習しても危険は少ないから各自練習しても良いぞー。」


「はーい!」


「はい。じゃあ次は僕の番ですね。

皆さん先日渡した棒は持ってきましたか?」


「持ってきましたー!」


「それではまた復習も兼ねて崩しゲームから行きましょう!」


「はーい!」


新しい要素が増えて生徒達の間で流行り続けているらしく、何人かの生徒は相手を崩して喜んでいた。



「おーい。そこの人ー。ちゃんと倒れそうな相手にフォロー入れろよー。」


「あ!そぉだった!ごめんな。」


「良いって良いって。それよりもう一本!」


「よっしゃ!」


どぉやら元々友達同士でやるからひどいことにはならない様だ。



「はーい。そこまでー。

上手くいった人、いかなかった人それぞれだとは思いますが、是非続けて下さいね。」


「はーい!」


「そのうちトーナメント戦でもしてみますか?」


「面白そう!」


「俄然やる気出てきたー!」


「そぉですね…では次の授業を丸々トーナメント戦にして3位迄の人達には僕と兄さんから賞品を出しましょう!優勝者にはなかなかの物を渡しますよ?」


「やったー!」


「うおぉぉおぉ!」


大盛況だ。



「さて、今日はこれから護身術第2弾です。たまにこうして教えますが、これは僕か兄さんの前以外では本当に護身が必要な時以外は使わないように。

最悪相手に酷い傷を与えてしまいますので。」


「はーい!」


そこからライルの護身術第2弾が始まった。



「あの。キース様。」


「ん?シリア。どした?」


「さっきのトーナメント戦ですが、大丈夫ですか?」


「って言うと?」


「あまりこぉいったトーナメントなどは授業では行わないので…それ自体は目標にもなりますけど、賞品の準備とか大変では?」


「ん?俺達の心配をしてるってことか?」


「えぇ。トーナメント戦自体は体育祭等で行ってるのでそれ程生徒達にも違和感は無いかもしれませんが、賞品となると何を準備するか非常に難しい所かと…」


「あぁ。確かにな。

常識外れの物を出すといかんしな。

ライルには考えがあるみたいだが…あいつも常識外れだからな。シリア、悪いんだが今日うちに来れるか?」


「はい。日が沈む頃には伺えるかと。」


「すまんな。少し相談に乗ってくれ。」


「はい。お任せ下さい。」


パーム姉さんに頼もうか悩んでいたがあの人はあれでも校長。忙しい身だ。手間を掛けさせないならその方が良い。



頼めば満面の笑みで手伝ってくれるだろうが負担を掛けたくは無い。



皆をにこにこしながら見ているパーム姉さんを見てシリアに感謝する。



「…と、こぉなる訳です。

つまり、前回教えた外側に捻る。これを今回は掴まれるのでなく、相手の手を取って掴んで行うわけです。

前回の護身術でどれくらい捻ると痛いのかよく分かったと思いますのでくれぐれもやり過ぎないように注意してやってみてください。」


「はーい。」


「それでは始め!」


生徒達が一斉に動き出す。



暫く俺とライルの監督の元続いた後授業終了の合図が鳴る。



ボーン…ボーン


「はーい。そこまでー。

それではまた来週お会いしましょう。」


「ありがとうございましたー!」


シリアは軽く頭を下げた後パーム姉さんを連れて行った。



捕まえて連れていかないとはぁはぁ言いながら校内を回るから即座に捕まえているらしい。



確かにそんな校長が教室に来たら問題だ。



「先生!」


「お、アデルカ、サーシャ。行けるか?」


「はい!」


「よーし。行くかー。」


「あ、あのー。」


「プリネーラとカーディ?どした?」


「私達もご一緒していいですか?」


「俺達は構わんぞ。」


「私達も構いませんよ。」


「やったー!私達も混ざりたくて遠巻きに見てたんですけど、声掛けてみてよかったー!」


「2人は友達だったのか?」


「実はこの授業受け始めた時気が合うなーって思ってそれまで全然知らなかったんですけど仲良くなりました。」


「お、そりゃ嬉しい事だな。」


「はい!」


「兄さん。行くよー。」


プリネーラとカーディを含めた6人で昼食を摂る。



「2人はなんで尻込みしてたんだ?すぐ声掛けてくれれば良かったのに。」


「実は…アデルカ様とサーシャ様がいらしたので…」


「ん?」


「お二人は王族の方ですし、私達は貴族とは言え下流貴族ですので…」


「あぁ…引け目を感じてたんだね?」


「はい。」


「そんなの気にしなくて良かったのに。

それに、様はやめて?今日のキース先生の言葉聞いてたでしょ?これからは私達も友達。様はおかしいわ。」


「と、友達?!」


「えぇ。今日のキース先生の言葉、どれも金言でした。私も少なからず王族としてプライドを持っていました。人を下に見ていた事もあったと思います。

他人を敬わぬ者に他人から敬われる事は無い。

恥を知れ。

正直ドキッとしました。私にもそんな所があったかもと。

一生心に留めておくべき言葉とはこれ程までに心に刺さるのですね。」


「姉さんの言ってること分かる。

私もあの言葉をしっかりと心に刻みつけました。」


「私達は下流貴族ですし平民の方とそぉ変わらない生活なので、どちらかと言うと平民の為にそこまで言ってくださる先生がいる、そんな人もいるんだって希望というか胸が熱くなりました。」


なんとも勢いで言ってしまったが恥ずかしい。

やめちくり。



「私はライル先生のそれが例え奴隷だとしても1人になっても全力で教えるって言葉が胸に刺さったわ。

凄く感度しました。」


「あー。いやー。ははは。本心を言っただけでこれだけ持ち上げられるとこそばゆいよ。」


「本心だからこそ私達の心に刺さったのですよ。私達は御二方に出会えて幸運です。これからもご指導よろしくお願いします。」


「あー、まぁその…冷めちまうし飯食おうぜ!」


「照れるキース先生かわいい…」


ボソッと言うのやめなさいサーシャ。



「それで、アデルカとサーシャには言ったんだけど他の先生の授業ってどんななん?」


「他の先生ですか?

そーですね。もっと粛々と知識を詰め込まれる感じですかね?」


「教室に先生以外の声は無いですし、質問も先生の授業内容が終わってからまとめて…と言った感じですね。」


「ふーん。」


「正直に言ってしまうと詰まらないですわね。」


「なるほど。4人は俺とライルの言葉に感動してたけどそぉゆうこと言う先生っていないのか?」


「思っている先生はいらっしゃるかもしれないですけど、言葉にはしないですね。」


「それどころかあの先生なんてほら!」


「あー、あの先生かー。」


「ん?」


「リピート先生っていう先生がいるんですけど…その先生は平民の出の子を差別するんですよ。結構あからさまに。」


「そんな人がいるのか?」


「はい。私達は下級貴族なので何度か理不尽な事を言われたりしました。」


「それで?」


「とにかく差別の凄い先生で男尊女卑、剣術科は魔法科に入れなかった奴ら、年上は敬え、と。」


「そぉそぉ!今日のキース先生の言葉聞かせたかったわ!

尊敬は押し付けるものでなく自然に集まるものだ!って!」


「ね!キース先生よりずっと歳上なのにキース先生の言葉と重みが違うわ!重みが!」


「んー。そぉなんだ。ちょっと問題かもね?」


「だなー。それとなくパーム姉さんに聞いてみるか。」


「そぉ言えば御二方は校長先生の事姉さんって呼んでますけど実の姉なんですか?」


「いや、違うよ。と言っても僕が1歳ぐらいの時から色々面倒見てもらってて実の姉と変わらない気もするけど。」


「俺達の魔法の基礎はパーム姉さんから教わったんだよ。

魔法以外にも国の事とか色々聞いた。

俺とライルにとっては先生、と言うよりもっと近しい姉さんが1番しっくり来るんだよね。」


「なるほどー!謎が解けました!」


「やっぱり校長先生って凄い人なのね。」


「まぁ6大魔女の1人ですからね。」


「6大魔女?」


「知らないんですか?パーム校長はこの世界にいる女性魔法使いの最強の一角を担ってるんですよ?

魔女と呼ばれて恐れられているんです。

でもパーム校長以外の魔女はその姿も名前も明かしてなくて半分伝説みたいなものになってますけど。」


「へぇー。そぉなんだ?」


「パーム姉さんは魔女って事を認めたの?」


「えぇ。この学校を設立する際に国王に魔女と明かしたそぉです。

魔女は皆6つ全ての属性に適性を持っていて、どんな魔法でも使えると言う話です。」


「面白そうだな。会ってみたいな。」


「まったく姿形が分からないので会っても気付かないと思いますよ?」


「そぉなのか…」


「そぉ言えば、キース先生。ライル先生。」


「どした?カーディ。」


「少し相談があるんですけど…」


「俺達で力になれるなら聞くぞ。」


「ほんとですか?!」


「あぁ。出来る限り協力もするさ。可愛い生徒の為だしな。」


「か、かわっ?!」


「ほらほら。変なとこに引っかかってなくて良いから相談相談!」


「そ、そぉでしたね。

実は私の父の管轄下にある村はこの街から出て少し東に向かった所にあるんです。」


「カーディ毎日外から通ってるのか?!」


「え?えぇ。この学校には多いですよ?

学生寮もありますが歩いて通えない距離では無いですし。」


「そぉなのか…」


「それで、最近その村で畑が荒らされたりするんです。」


「嫌がらせか?モンスターか?」


「わかりません。犯人を目撃した人もいなくて…でもモンスターが来たような痕跡とは違う様な気もします…それでもし宜しかったら1度来て見てもらえないかと…本当なら先生では無く他に頼むべきなのは分かっているんですけど…何分貧しい村でして…」


「冒険者ギルドに頼むのは無理だし衛兵だと塀の外の事には手を貸してくれない。ってところか。」


「は、はい…」


「なんと…お恥ずかしい限りです…」


「アデルカさんとサーシャさんは悪くありませんよ!

それに畑が荒らされたりしてますが人的被害は出てないですし衛兵も動けないと思います。」


「なるほど。そしたらカーディの時間が空いてる時を教えてくれないか?1度行ってみる。」


「本当ですか?!ありがとうございます!」


「あまり期待はするなよ?専門じゃないし見ても分からないかもしれん。」


「分かってます!でも来てくれると言うだけで嬉しいです!」


「私達も行くわ。」


「アデルカさん?!」


「私とサーシャも同行するわ。

確かに塀の外かもしれないけど我が国民である事に変わりはないわ。キース先生の仰った通り、私達も王族として果たすべき義務があります。

王族とはいえ父や母を動かせる程の立場に居ないことが申し訳ないですが…」


「そんなことありません!その気持ちだけで充分です!」


「わたしはもちろん行くわよ。近いし。」


「プリネーラ…ありがと!」


「何を今更。友達が助けを必要としてるなら助けるでしょ?」


「ありがとー!」


「それで?いつ行く?」


「明日だと皆さん都合が悪いですか?」


「明日は…授業も無いし私は大丈夫!」


「俺とライルも大丈夫だな。」


「それじゃあ明日学校前に集合で大丈夫ですか?」


「ありがとうございます!」


「あ、先生達は私達が御迎えにあがります。」


「お、おぉ。分かった。」


「あれ?アデルカとサーシャは先生達の家知ってるの?」


「えぇ。ライル先生のお菓子を頂いた事があるわ。これよ。」


「なんで持ってるんだ?」


「前に作り過ぎた時に渡したやつだね。」


「な、なんと!?ライル先生の手作り?!」


「欲しかろう!?」


「お恵くだせー!」


「ふふふ。良かろう。心して食せ!」


プリネーラとカーディは冷え切ったクッキーを食べる。


どぉやらアデルカはちまちま貰ったクッキーを食べていた様だ。



腐るものでは無いし良いんだがライルに言えばいつでも作ってくれそうなもんだが…やっぱり頼みにくいのか。



「う、うまーーーーー!」


「ほんと!何これ?!美味しい!」


「でしょでしょ?!一日のご褒美に一枚だけ食べるのが私の日課よ!」


「そ、そんな食べ方しなくてもまた焼いてあげるよ?」


「違うんです。たくさん食べてはいけないんです。これは一日終わりにご褒美で食べるくらいじゃないと永遠に食べ続けてしまうんです。」


「な、なるほど。」


「これは是非1度先生達の家にお邪魔しなければ!」


プリネーラは割とズカズカ来るタイプだからこう言うことはハッキリ言ってくる。



嫌味が無いから気持ちが良いくらいだが。



「そぉだなー。じゃあ4人とも次の授業のランキング戦で10位以内に入れたら1袋ずつ焼いて持ってきてあげるよ。」


「お?じゃあ10位以内の奴ら全員に賞品として渡したらどぉだ?」


「あぁ!それは良いかも!」


「なんとー?!これは勝つしか無い!カーディ!」


「えぇ!負けられない戦いね!」


「これは少々本気を出さなければならない様ですね。」


「私も負けない!」


4人の目がクッキーになっている。



ここまで虜にするとはなんかヤバイ粉とか混ぜてないだろうな。ダメ絶対。だぞ?



怒られるから言わないけど。



「モチベーションも上がったし良い時間だな。

そろそろお開きにするか。」


「はい!ありがとうございました!明日はよろしくお願いします!」


「はいよー。」


ひょんな事から明日の予定が決まってしまったがまぁ生徒の為だし良いかと思いその場を後にする。



「白主様、黒主様。」


「ニーナ?」


「はい。」


「どぉしたの?」


「あの。申し訳ないとは思ったのですが先程の話聞いておりまして、少し気になる事が…」


「えっと…塀の外で畑荒らしが出るってやつか?」


「はい。実は私の服屋少し周辺の人達にも買いに来て貰ったりしておりまして、その時役に立つかもしれないと色々な人と話をしておりました。

その中に少しばかり気になる話がありまして。」


「…少し場所を変えるか。店が大丈夫な時間に俺達の家まで来て貰えるか?」


「承知致しました。」


「頼んだ。」


俺とライルはニーナの表情からあまり人に聞かれたくない内容と判断してうちに招いた。



今日は色々と起きる日だと思ったがこぉいうことは重なるもんだと諦めた。



とりあえず家に戻り普段着に着替える。暫くすると両手に色々抱えたニーナとブームがくる。



「なんか大荷物だが…どぉした?」


「先程食材を買って参りました。夕食の準備の時間かと思いまして、私が作ろうかと。」


「そ、そこまでしなくても…」

「いえ。したいのです。」


「あー…」


「ニーナさん。兄さんとお話しがあるんですよね?僕とブーム君で夕食の支度しますのでお話しておいて下さい。」


「そんな!黒主様に料理をさせるなど!」


「僕が作りたいんだ。ブーム君も手伝ってくれるかい?」


「うん!黒のお兄ちゃん手伝う!そしたら後で剣を教えて!」


「こら!ブーム!黒主様は忙しい方なのよ!そんなこと!」


「ニーナさん。大丈夫ですよ。

ブーム君。ブーム君が一生懸命手伝ってくれたらその分僕も一生懸命ブーム君に剣を教えてあげよう。」


「やったー!」


「ニーナさん。気にする事は無い。ライルは好きでやってるんだよ。」


「は、はい…」


まだ少し気になる様だが話を切り出す。



「それで?さっきの話だけど。」


「あ、はい。

実は最近になって塀の外の村の方々も安いからと私の店に顔を出してくれるお客様が増えまして、その方達から話を聞くと、東だけで無く塀の外の村で同様の事件が頻繁に起こっているみたいです。」


「他の村でも?

となるとモンスターの線は消えるな。」


「?

何故ですか?」


「村となるとモンスターとのあれこれは頻繁にあるだろ。恐らく畑なんかにもそれなりにモンスターに対抗する何かをしてるはずだ。

その畑を荒らしたとなるとある程度知恵が働くモンスター。この辺りはそんなにレベルの高いモンスターは出現しないらしいし可能性としてはゴブリン。後はイノシシ型モンスターであるブブルカ位のもんだ。」


「そぉですね。言われてみるとそれくらいですね。」


「どちらも巣を作って一定の土地に住み着くタイプのモンスターだ。

ある村特定かその周辺で畑荒らしとなるとモンスターの可能性もあるんだが他の村もとなるとモンスターの可能性はほとんど無くなる。」


「なるほど…それだけの情報でそこまで…流石は白主様です。」


「それで?それだけなら人に聞かれてまずい話では無いだろ?」


「はい。この話がこの事件につながるかは分かりませんが…

実は衛兵の方が来た際に聞いたのですが、最近王城内で不穏な空気が流れているとのことです。」


「不穏な空気?」


「はい。これは周知の事柄なのですが、アデルカ様とサーシャ様は共に側室の子なのです。」


「そぉだったのか。」


「はい。2人の母親は同じでアデルカ様とサーシャ様が3歳の時病に倒れました。」


「同じだったのか。って事は双子か。」


「はい。そしてお二人が5歳の時に他界されました。」


「なるほど。

となると王城内での暮らしは辛いだろうな。」


「はい。お察しの通りそれは酷い扱いをされているそうです。

父であるトラタニス王も正室である奥方様の手前強く注意できずに放置されている状況と。」


「それでも強く生きているとはあの二人なかなかに素晴らしいな。」


「はい。とてもお優しくて、私の出店にも何度か足を運んで下さった事があります。」


「そぉだったのか。

それで?」


「はい。

アデルカ様とサーシャ様には2人の兄と1人の姉がおります。

その3人が側室の子だからと特に酷くお二人に当たられておりまして、たまに衛兵として王城に向かうと大きな声で"お前達など塀の外で暮らしておれば良いのだ!"と叫んでいるそうです。

事実お二人と結婚される方は半分ずつ塀の外を統轄する役割を与えられる事が既に決定されているという噂を聞いているそうです。

最近は更に酷い扱いになっているらしく…」


「…なるほどな。

繋がるとすればその3人がアデルカとサーシャの統轄する範囲の村に手を加えて統轄する際の付け入る隙を先に作っている。という所か。」


「繋がるかは分かりませんが…」


「……分かった。頭に入れておく。

その兄2人と姉の名前教えて貰ってもいいか?」


「上の兄がシスト、次男がカントーゼ、長女はハーデルムです。」


「分かった。ニーナも危なくない範囲で情報を集めてくれ。」


「仰せのままに。

白主様。」


「ん?」


「私のことをニーナと呼んでくださってありがとうございます。」


「ん。まぁ信用出来る人間だからな。遠慮はせん。」


「有り難きお言葉です。」


「さて。そろそろライル達のところに戻るとするか。」


「はい!」


実はさっきからいい匂いがしてきて気になっていた。



「あ、終わったみたいだね。」


ブームの木剣を後ろから支えて剣術を教えていたライルがこちらに気付いて声を掛けてくる。



「よーし。今日はここまで!ちゃんと練習するように!」


「はい!師匠!」


いつの間にか師弟関係が結ばれた様だ。



「今日はニーナさんが持ってきた食材を使ってポトフを作ってみました!」


「わーい!」


「ポトフ…ですか?」


「あぁ、そっか。こっちではトールって名前だったかな?」


「あぁ。トールですか。……これが…ですか?」


「えっと…なにか変だったかな?」


「あ、いえ。こんな澄んだスープのトールは初めて見ましたので…」


「肉を入れるとどうしても濁るからね。そこは先に下処理したり色々と手を加えて作るんだよ。

ま、食べてみて。」


「いただきまーす!」


「?

あの白主様。

そのいただきまーすとは?」


この下り毎回やるのか?



説明する。



「なるほど…いただきますにごちそうさま。分かりました。

いただきます!」


「いただきます!」


ニーナもブームもいただきます教への入教を果たした。



「なにこれ?!美味しい!これ、本当にトールですか?!」


「おいしーい!師匠のトール美味しい!」


「色々アレンジしたからね!」


「この味は…プシューの実ですか?」


プシューの実とはトマトのこと。



「そっ。今回はプシューベースにして香草をいくつか。さっぱりした味わいに仕上げました!」


「こ、これは…この街1番の料理店でも食べられない程美味しいですよ?!」


「あー。ニーナ。ライルとは話したんだがライルの料理や菓子は外に出さない約束にしてるんだ。色々とあってな。他言無用に頼む。」


「そ、そぉなんですか。勿体ない気もしますが…分かりました。」


「ま、ピアスを付けた役得だとでも思っておいてよ。」


「ありがとうございます!おいしー!」


「喜んでくれたようで良かったよ!」


「お邪魔しま…す?」


「あ、シリア。そぉ言えば来るんだったな。」


「なななな何故ですか?!私というものがありながら!」


「なんのことか分からんがお前も食え。」


「あ、いただきます。」


「シリアには料理のこと伝えてあるから大丈夫だ。」


心配そうに見てくるニーナに答えてやる。



「ではなくて!なぜニーナさんがここに?!」


「なぜ、ですか。そぉですね。既に私の体はキース様のものだから。ですね。」


いや、間違っては無いよ。間違っては無いけど言い方がさ!



「ななな…」


シリアが口をパクパクさせながら長い耳をピコピコさせている。



なんかピコピコ耳可愛いな。



「なんですとー!」


こら。ニーナ。その勝ち誇った顔をやめなさい。シリアの怒りに油を注がない。



「ニーナ。あまり虐めるな。

冗談だから気にするな。ほら、上がって食え。」


暫く食べながら「本当に冗談ですよね?!」と聞きまくられた。



「では私たちはこれで。

ブーム。行くわよ。」


「白のお兄ちゃん!師匠!またねー!」


バタン



「本当に冗談ですよね?!」


「だから本当に冗談だって。」


「信じますよ?!」


「あぁ。」


「……分かりました。」


「うむ。」


「それにしても美味しかったー。

これトールですよね?私にも今度作り方教えてください!」


「うん。良いよ。」


「やったー!」


「それより今日は賞品を決めるために来たんだよね?」


「はい!なにか決めていらっしゃいますか?」


「まず10位以内にクッキーをあげようとしてる。

反応見たいのと既にある程度売り込む準備出来てるからね。」


「んー。それは問題なさそうですね。」


「あとは1位から3位の人達だね。僕が考えてたのは月光花の蜜を一滴小瓶に入れて…」

「月光花?!」


「え?うん。その蜜を…」

「ちょっと待ってください!月光花ですよね?!」


「え?だからそぉだよって…」


「はぁーーー……」


「あれ?僕なんかやっちゃった?」


「あのですね!月光花っていうのは魔素の濃い土地に咲く花で月明かりの届く場所に一輪のみ咲くと言われている花です。

その希少価値は言うまでもなく超超レア!一滴でパーフェクトヒールと同じ効果が得られる蜜を持っていてその価値は白金貨が動きます。

学生にそんなものポンと渡せる代物じゃないです!」


ここで説明するとパーフェクトヒールは対象が死亡していなければどんな欠損も瞬時に治す。最上級魔法。



ヒールは軽傷の完治、ヒールの1つ上スルヒールで欠損は治せないが深い傷を完治できる。他にもヒールの種類はある。



「え?そぉなの?」


「はい。パーフェクトヒールはどんな欠損も、つまり古い欠損のケガも完治させます。皆喉から手が出るくらいに欲しがります。

そんなもの学生に渡したら危険極まりないですよ?!っていうかなんで持ってるんですか?!」


「あ、あはは…」


「やっぱりシリアに来てもらって良かったな。」


「う、うん。」


「まったく…出処は聞かないですけど賞品としては確実にボツです。」


ちなみに月光花はあの森、つまり魔素のめちゃくちゃ濃密な森の月明かりが当たる所に群生していたため沢山確保してある。



俺達がその効果を知ったのは森の走破の際に早い段階で手に入れたスキル、鑑定眼があったためである。



スキル鑑定眼は調べたい対象に集中するとステータスウィンドウと同じようなウィンドウが現れて必要な情報が得られるスキル。



物によっては情報が無かったり必要な情報が欠落してたりするのがたまに傷。



「となるとどんなものが良いか…」


「そぉですね。学生という事を考えるに3位はハイポーション位が丁度いいかと。」


「ハイポーションか。」


ハイポーションはスルヒールの飲み物版。



飲むか傷口にかけると深い傷程度ならば完治する。

飲んだ方が効果が高い。



ポーションと併せて冒険者の必須品らしい。



値段は銀貨2枚。



「それくらいが妥当かと思いますよ?」


「それを基準に考えると2位はモジライトのブレスレットかな。」


「それはいいかもしれないですね。」


モジライトは自身の魔力で1度だけ発動する結界を作り出す鉱石だ。



結界は発動者の前面にのみ出現し中級魔法まで防いでくれる。



発動後はバラバラになって壊れるため1度のみ使用できる。



ブームに渡したブレスレットと似ているが全くの別物。



ブームに渡したのはテークタイト。



テークタイトは魔力を空気中から補充するため自身の魔力は一切必要ない。



どぉやってか分からないが装着している者の身に致命傷クラスの攻撃が降り掛かるとそれがたとえ最上級魔法でも1度だけ防いでくれる。



しかも結界は全面に展開される。



加工しなければどちらも効果を発揮しないが、テークタイトは加工が難しい。出来ないわけでは無いので世に出回ってはいるが金貨数枚が動く代物。



ちなみに自分で加工した。



モジライトは加工も簡単で冒険者の必須品だ。



価値は銀貨4枚程度。



「そぉなると1位はどぉしようか。」


「そぉですね…」


「あ、そぉだ。プトライトのネックレスはどぉだ?」


「あー!それはいいかもしれないです!」


プトライト、これは加工する事で効果を発揮する鉱石で、その効果は下級魔法を1つ保存でき、それを任意のタイミングで使えるというものだ。



他者からの魔法でも保存できる。



保存の仕方はプトライトを持って、魔法を発動させる。するとプトライトがその魔法を吸収し保存する。



その後プトライトに極少量の魔力を流し込むと保存された魔法が前方に対し発動する。しかも吸収さえさせれば繰り返し何度も使える。



戦いの幅も大きく広がるため非常に有用。



これも加工が難しく無いため普通に出回っている。



銀貨8枚程度の価値だ。



パーム姉さんに渡したフラクライトと似た効果だが、フラクライトは魔法では無く魔力を保存する。



パーム姉さんが驚いたのはそこで、現在魔力自体を保存できる鉱石は見つかっていないらしい。



魔力自体を保存するという事は戦闘中、特に接戦の場合に使うと魔力が回復し勝敗を決する。



プトライトと違い魔力を回復するため魔法士に持たせた場合は非常に有用。使う魔法を選べるためである。

もちろん何度も使用可能。



パーム姉さんに渡す時に少量の魔力を貯められると説明したのはあくまでもパーム姉さんの魔力量を見ての話。



魔女と言われる女の魔力はやはり高い。



そんな人の少量は普通の魔道士からしたら大量だ。



つまり全くの別物。



「プトライトのネックレスか…となるとプトライトもモジライトも兄さんが加工して、装飾は僕がする感じでいいかな?」


「だな。」


「え?お二人が作るんですか?」


「あぁ。それくらいは出来るしな。」


「……」


「あとハイポーションは…今回はライルに任せるか。」


「分かった。賞品は1本だよね?」


「だな。」


「あ、あの。」


「え?」


「作るんですか?原料から?」


「あぁ。原料持ってるし。」


「ほんと御二方とも凄すぎて目が回りますね…

普通に加工も調合も出来ないんですけど…専門家に頼むか買うものと思ってました…」


「お?そぉなのか?」


「なんなら見ていく?」


「良いんですか?!」


「別に隠すものでもないし良いよ?」


「いつやりますか?!見学したいです!」


「それくらいなら今からちゃちゃっと作るよ。」


「いまから?!」


「え?うん。」


「日も落ちましたし設備貸してくれるところあるんですか?この家には無いですし…」


「設備…?」


「え?」


「設備とかいるのか?」


「え?逆に無くてどぉ作るんですか?!」


「え、どぉって魔法でちゃちゃっと…」


「えー?!そんなこと出来るんですか?!」


「できるよ。多分その設備でやってる事を全部魔法でやるだけだよ?」


「あーなるほど。常識を当てはめようとした自分が悪かったです。どぉぞやってください。」


「なんか釈然としないが…まぁいいか。

んじゃ見ててやるからハイポーション作ってみ。」


「分かった。」


ライルがアイテムボックスから1枚のフブト草を取り出す。



ハイポーションの原料になる葉っぱだ。



今回は1本分なので1枚の葉っぱのみ。



こんなアイテムはあの森の中層後半からアホほど生えてるのでアイテムボックス内にわんさか入っている。



「フブト草をまずはすり潰して…」


空中でフブト草がゴリゴリすり潰される。



「これで採れた絞り汁を水とあわせる。」


流水で作り出した水と合わせて絞り汁を水に含ませる。



ちなみに普通の水ではダメ。魔法で作り出した水でないと純度が足りずハイポーションにはならない。



「で、水の中から絞りカスとかの余分な物を取り出す。これで濁っていた物が薄い緑色の透明な液体になったら瓶に入れる。」


アイテムボックスから取り出した手のひらサイズの小瓶に入れる。



「蓋をして最後に魔力を注ぎ込む。多すぎても少なすぎてもダメ。このコントロールが難しくてたまに失敗しちゃうんだよね。」


「見ててやるからやってみろ。」


「分かった…これくらいかな?」


「大丈夫そぉだな。」


「よし!はっ!」


薄い緑色だった小瓶内の水が魔力を流し込むことによって綺麗な透き通った水色になる。



「1発成功だな。」


「やった!」


「………ほへー…」


「変な声出てるぞシリア。」


「本当に全部魔法で作っちゃった…」


「最初に言ったよ?」


「そ、そぉなんですけど…

あの、聞いても良いですか?」


「いいぞ。」


「製法は私の知る製法とほとんど一緒だったんですけど、最後の魔力を流し込むのは初めてです。

本来はその工程が空気中に晒して暫く置いておくはずなんですけど。」


「それは空気中の魔素を吸収させるためだな。

この色になるまで放置する所をライルは魔力を流し込んで強制的に変質させたわけだ。」


「なるほど。

となると瓶は通常通り魔素を遮断できる瓶ですか?」


「あぁ。こいつは俺が作った。」


「そ、そこも作ったんですね…」


「気密性の高い瓶を作って魔法陣書くだけだからな。」


「まぁ、確かにいくつかの魔法陣は魔法具なんかに使われてますけど…」


魔法陣の事はあまり解明されていないがそれでも魔法陣を描く事で特定の効果が得られる事を知った人達がいくつかの魔法具を作り出している。



この瓶がその1つだ。



シリアが驚いて?呆れているのはこの魔法具に描かれる魔法陣は本来魔法具作成の専門家にのみ伝えられており門外不出。



つまり一般の人間は知っていないはずのものだからだ。



もちろん出回っている小瓶には魔法陣が見えない様に細工が施されている。



「魔法陣学の生みの親とのことですしそれくらい出来て当たり前なのかもしれないですけど…」


「ま、出来たんだしいいだろ?瓶も市販品と同じ様な物にしたし。」


「同じようなものじゃ無い瓶を作れるという事に聞こえますけど?」


「ん?そぉか?気の所為だ。」


「…まぁいいです。聞くと倒れそうですので。」


「さて。じゃあ後はプトライトとモジライトだな。」


これもあの森には…以下略。



「これは俺がやる。ライルにはちょっと難しいからな。」


「ライル様には難しいって…どれ程のものですか?!」


「ライルはまだ魔力のコントロールが下手だからな。」


「ライル様で下手なら私達はどぉなるのですか…」


「…………

まずはアイテムボックスから素材を取り出します。」


「無視?!せめてなにか言ってくださいよ!

いえ、やっぱり良いです。言われたら立ち直れないです。」


「そぉ気にするな。シリアはセンスが良いからそのうちこれくらい出来るようになる。」


「本当ですか?!」


「それは俺が保証するよ。」


「なんかやる気出てきたー!」


「んじゃいくぞ。どっちも工程は同じだから同時にいくからな。」


「ど、同時に?!」


「まずは2つとも高温で熱して柔らかくさせる。」


ゴーと言う音とともに2つの鉱石が別々に炎に包まれる。



少しすると鉱石が赤くなり柔らかくなる。



「ここに魔力を流し込みながらしっかりと練りながら圧力を掛けていく。」


「ここから更に3つの魔法を使うんですか?!」


「あぁ。火は絶やさずにな。温度下げるとダメになる。魔力量も多すぎても少なすぎてもダメになる。

圧力も同じだ。

魔力量と圧力はそれぞれベストが違うから気をつけること。」


「…」


「よし。これで割れないようにゆっくりと冷やせば完成だ。」


「あ、あの。無理です。」


「できる!諦めるな!諦めたらそこで」

「兄さん。」


「おっと。」


「そんな難しく魔力操作出来ませんよー…」


「ま、少しずつ練習だな。」


「うー…」


割らない様に火加減を調節しながらシリアの頭を撫でてやる。



「えへへー」


ピコピコ耳可愛いな。



「さて。装飾はどぉする?」


「んー。男か女が分からないしシンプルな物にしょうがな。枠を取り付けて紐通すだけとか。」


「だなー。じゃあそっちは任せるわ。」


「はーい。」


「シリアありがとな。助かった。」


「いえ。これくらいなんでもないです!報酬のトール貰いましたし!」


「あはは。」


「それでは私はこれで!」


「あぁ。」


これで賞品も出来たしトーナメント表は後日2人で生徒の実力を加味して作る。



次の授業の準備は整った。



ニーナとの話をライルにした後眠りについた。



ニーナの話が杞憂で終わる事を願って。








「おはようございます。」


「おはよー。シリア。その服似合ってるな。」


「ありがとうございます!」


「やっぱり青い髪に良く似合う。」


「良かったー!」


「そぉだ。

今日はちょっと塀の外の村まで出掛けてくる。」


「塀の外…ですか?」


「あぁ。ちょっと用事が出来てな。」


「そぉですか。何用か知りませんけどあまり大事にならない様にお願いしますよ?」


「俺をなんだと思ってるんだ?」


「ライル様共々歩く天災だとおもってます。」


「酷い言われ様だな。」


「今までしてきた事お忘れですか?」


「………さーて、今日の朝ご飯は何かなー!」


「あ、ライル様。お疲れ様です。」


「ありがと。んー。やっぱりその服似合ってるね。」


「ありがとうございます!」


「ライルおはよー。」


「おはよう。兄さん。

そぉ言えばこのパンも大分バリエーション出てきたね?」


「はい!そろそろ頃合かと思いますので第一回目を来週末頃に企画しようかと思っております。」


「そぉなんだ。材料の手配とかは大丈夫なの?」


「手配の方は既に終わっています。残すところはどのタイミングで行なうか…ですね。」


「一応社会学習の形なわけだしどっかの授業を潰すしかないか?」


「それも考えてはいるんですけど休みの日にやってもいいかと…」


「となるとまるまる一週間後辺りか?」


「はい。パンは既に学食の名物になっているくらい学生には周知されていますし、パン作りの企画がある事も学生にはカードを通して連絡してありますのでそれくらいが丁度良いかと…」


「そぉか。俺達は何か手伝えそうか?」


「先生方、生徒達には前日までに出欠を取ります。

先生方は給料出しますけど大銅貨50枚。

少ないですけど監督のみなので妥当かと…」


「給料貰えるのか?」


「僕も貰えないものだと思ってた。」


「一応監督者としてですからね。

でも先生方の中で参加される方は多くはないかと…」


「休み潰してとなるとな。

ま、俺とライルは参加するから手伝えそうなこもあればどんどん振ってくれ。」


「ありがとうございます!

それでは企画を進めますので今日はこの辺りで失礼します!」


少し嬉しそうに出ていくシリア。



「さーて。せっかくなら生徒にも宣伝と参加してな!位言っとくか。」


「そぉだね。高等部1年の子達にはほとんど全員直接言える場所もあるしね。」


「せんせーい!おはよーございまーす!」


外から元気な声が聞こえてくる。



アデルカだ。



毎回大きな声で呼ばなくても入ってこればいいのに。



おかげでサーシャがいつも横であたふたしている。



「おー。おはよー。ちょっと早いか?パンあるけどあがってくか?今日は蜂蜜パン。」


「はい!もちろん!」


「ライルー。」


「今切り分けて持っていくとこー。」


「相変わらず出来た弟だぜ。」


「いただきます。」


「お?二人共いただきます言ってるのか?」


「はい。あれから毎日いただきますとごちそうさまは欠かさずに!」


「なんか嬉しいな。」


「食べ物、作り手、そして税金を納めてくださっている人々への感謝を忘れないようにとサーシャと決めました。」


「いい事だと思うぞ。さ、食え食え。」


「わーい!」


蜂蜜パンなので少し甘いためお菓子感覚でいけるはず。



恐らく朝食は摂ってきただろうと考えてのことだろうけど1口大に切り分けて紅茶と共に出されていた。



「おいしー!なんかパンじゃないみたい!」


「ほんとだ!おいしいです!」


「うまいだろ?実はそれシリアが作ったんだ。」


「シリアさんが?!」


「あぁ。明日か今日の夕方位にはカードに連絡が来ると思うけど学校主催でそのパンを皆で作ろうの企画を来週末の休みにするんだとさ。」


「遂に決まったんですね?!絶対参加ですわ!」


「私も!」


「ありがとな。出来れば友達とか先輩とか仲良いやつにも声かけて人集めてくれ。」


「はい!楽しみー!」


「沢山集まるように頑張って誘います!」


「ありがとな。おっと。そろそろ時間が来てるな。」


「片付け手伝います!」


「ありがと。じゃあ洗い物よろしく頼んでいいかな?僕はプリネーラとカーディーに渡す分を包んでおくから。」


「はい!」


ライルは本当に気が利くなーと思いながら紅茶を飲む。



違う。俺がやるとむしろ手間が増えると怒られるからやらないだけだ。決して怠惰ではない!



「よし。行くかー。」


「はーい!」


学校に向かう。



道中いつもと違い誰もいない通学路。



アデルカとサーシャも不思議な感じがすると少しワクワクしている様だ。



「「おはようございます!」」


「おはよー。」


「おはよう。」


「休みの日にわざわざありがとうございます!」


「気にしないで。それより温かいうちに渡しておくね。はい。」


「これは?」


「パン。村に行く道中にでも食べてみて。」


「パン…ですか?」


「うん。シリアさんが作ってくれたんだよ。」


「って事はあの食堂で話題の日替わりパンですか?!」


「そ。」


「あれいっつも売り切れで食べられた事ないんですよ!嬉しい!」


「温かいうちに食べる事をオススメするよ。」


「そぉなんですね?!あー…でもやっぱりやめときます。」


「?」


「私長女で下に妹と弟がいるんです。そんなにおいしい物なら2人にも分けてあげたいなって…」


「いい子!サーシャ!カーディーいい子だわ!」


「そぉですね。姉さん。落ち着いて。」


「私のもあげるから2人にあげて!私たちはさっき食べてきたから!」


「そそそんな!アデルカさんから頂くなんて!」


「私のもあげる。」


「サーシャさんまで?!」


「あなたの清らかな心に感動したのよ。ほら。受け取って。」


「あ、ありがとうございます。」


「それに、パンはもう直ぐ自分で作って食べられるよ。」


「え?」


パン作成大会が開かれる事を伝えた。



「ほんとですか?!

それ楽しみー!ね?!プリネーラも行くよね?!」


「もちろん!」


「休みですし兄弟連れて行ったりしたらダメですかね?」


「あー…その発想はなかったな。よし。シリアに頼んでおくよ。」


「やった!」


「…シリアか?」


「え?」


「実は今カーディーから聞いて家族同伴も許すってしたら人集まるし皆で楽しめて良いかもってさ。

んー…そこはシリアの腕の見せどころだろ?

あー…そしたらニーナに頼んでみると良いかもな。

あぁ。よろしく頼む。」


「今の念話ですか?!」


「ん?あぁ。そんなに珍しくもないだろ?」


「そぉですけど。私達には使えないのでなんか羨ましいです!」


「そっか。これはある程度魔力が無いと出来んからな。」


「はい。」


「あ、それより家族同伴の許可出たぞ。

知らせは今日の日暮れには来るみたいだ。」


「やったー!ありがとうございます!」


「お礼はシリアに言ってくれ。

この後実現してくれるために色々動いてくれるんだってよ。」


「悪いことしちゃいましたかね…?」


「いや、案は凄いし何より生徒から出た意見だから採用したいってさ。」


「良かった…。」


「うまー!このパンおいし!」


「プリネーラはほんと自由だな。」


「えへへ。でも美味しいです!はい、カーディーも。あーん。」


「え?あ、あーん。

ほんと!おいしい!」


「アデルカもサーシャもあーん!」


「え?あ、あーん。」


「え、え?!あ、あーん。」


「えへへ。どぉ?おいしい?」


「なんか恥ずかしいですけど…おいしいです!」


「お返しにあーん!しなさい!」


「え?!私は良いよー!」


「だーめ!あーん。」


などとキャッキャウフフの時間が流れる。



そんなこんなで村には直ぐに着いた。



「あら。カーディーお嬢様今日は沢山お友達連れてきたのね?」


「はい!」


「カーディーお嬢様!これさっき畑で採れたんだ!持ってってくれ!」


「そんな悪いです。いつも貰ってますしおじさんが自分で食べて元気付けてください!」


村に入るやいなやカーディーの周りに寄ること寄ること。村人がカーディーを見ると子供も大人も声を掛けてくる。



余程好かれているのだなと感心しているとサーシャがこっそり教えてくれた。



「カーディーさんもプリネーラさんも、自分の村ではあんな感じです。二人共両親の世代からよく領民を見て守る人達でして、2人も分け隔てなく優しいので好かれているんですよ。」


「へぇ。そぉなのか。見習うべき姿。だな。」


「はい!」


どうやらこっちはサーシャの管轄になる予定みたいだ。



恐らく反対側の村についてアデルカが熟知しているはずだ。



「これはこれは!よくぞいらして下さいました!」


「私の父カンプと母テリーヌです。」


「どぉも御丁寧に。こちらは私の兄キース。私はライルと申します。

礼儀作法に疎い為失礼がありましたら申し訳ございません。」


「そんな事は気になさらず。ささ!上がってください!」


両親とも赤い髪を持っており、どちらも人の良さそうな人達だ。



「貴族と言えど下級貴族。」


カーディーの言っていたようにとても豪勢とは言えない暮らしぶりの様だったがそれでも幸せに暮らしていることはカーディー含め家族の笑顔を見れば分かった。



「それで、今日は調査をして下さるとか。」


「えぇ。もちろん専門ではありませんのでご期待にそえられるかは分かりませんが。」


「調査下さるだけで私たちは満足です。もし何もわからずとも先生方の厚意に感謝致します。」


「いえ。それで、件の畑とは…」


「父さんと母さんはここにいて!私が案内するから!」


「そんな。それは失礼だろ?」


「父さん!ついこの間腰痛めてまだ治って無いでしょ?!」


「そぉよ。あなた。ここは私が!」


「母さん!母さんが村に出るとまた色々なもの貰ってくるでしょ?!ここは裕福な村じゃないんだか!母さんもここにいて!」


なんとも逞しい娘だこと。



困ったような顔をしていたが俺とライルがお気になさらずと笑顔を向けるとなんとか引いてくれた。



「まったく!父さんも母さんも私が友達連れてきたからってあんなに喜んで!みっともない。アデルカさんサーシャさんが来るって言ったら村をあげて宴会だなんて言うんですよ?!」


「そ、それは私達も恐縮してしまいますね…」


「この国の姫が来るんだから当たり前だ!なんて言うからそんなのしたら困っちゃうって怒ったらしょんぼりしてたけど。」


「まぁいいお父さんとお母さんじゃないか。大事にしろよ?」


「自分達が自分を大事にしてくれない事にはどぉにもなりませんよー。お父さんの腰も畑仕事手伝ったら痛めて結局皆からお見舞いだと色々なもの貰っちゃったし。」


「あはは。素晴らしい領主様じゃないか。」


「私からしたら後先考えない父親ですよ!」


仲がいいからこそ言い合えるというものだ。




アデルカとサーシャの羨ましそうな目は触れないでおく。



「先生。ここです。」


カーディーが指さしたさきには見るも無惨に荒らされた畑。



「酷いな。」


「えぇ。ここまでとは私達も思っていませんでした…」


「んー、少し調べてみるよ。」


俺とライルが畑に入り状況を調査する。



暫く見てライルを見るとライルも大方分かったようだ。



俺とライルはカーディー達の元に戻る。



「何か分かりましたか?」


「んー。どぉかな。

とりあえず畑はもぉ大丈夫。あと….少し御両親とお話させて貰ってもいいかな?」


「父と母にですか?良いですけど…」


「あぁ。心配しないで。今後の対策とか色々話しておきたいだけだから。」


「そぉですか?分かりました!」


カーディーに着いていく。



するとそこには可愛らしい男の子と女の子が。



どちらも赤い髪でカーディーを見るや走り寄ってくる。



「お姉ちゃんおかえりー!」


「遊ぼ!」


「ただいま。お姉ちゃん今お客様来てるから…」


「あ、大丈夫だよ。僕と兄さんでお父さん達には話をしておくから。

他の皆も一緒に遊んであげたら?」


「え?!お姉ちゃん達も遊んでくれるの?!」


「え?!えーと…」


「えぇ。何して遊ぶ?」


「んーとね。んーとね。お人形さん!」


「そんなのつまんないよ。追いかけっこしよ!」


などとアデルカ、サーシャ、プリネーラを引き連れていく。



困るアデルカと子供にはどもらず素晴らしい対処を見せるサーシャ。



いつもと逆の立場に笑いを堪えながら俺とライルは奥に向かう。



「どぉでしたか?」


「ここでは…出来れば落ち着いて話せる場所を。」


「………はい。それではこちらに。」


何かを察したのか顔つきが変わる2人。



領主と言うだけはある。



「まず。始めに伝えておきます。

今回の件はまず間違いなく人の仕業です。」


「…そぉですか…」


「恐らくですがこの村の人間ではありません。」


「そこは不幸中の幸いですね。」


「順を追って説明しますと、畑を見る限り足跡やその他の形跡はありませんでした。」


「となると人の仕業ではないかもしれない…ですよね?」


「いえ。モンスターは足跡を消したりしません。」


「……」


「つまり人の手で行われた事に間違いは無いと思います。」


「そ、そぉですか…ですがなぜ…」


「そこまでは分かりかねますが…どぉやら最近塀の外の村で同様の事件が多発しているとのことです。」


「うちだけではなかったと?!」


「はい。」


「なるほど…となるとモンスターの線は消えますね。」


「はい。次に犯人は少なくともそれなりの魔法士です。」


「魔法士?!」


「はい。足跡を消すために広域風魔法を使用したものと思われます。

風魔法自体は珍しくはありませんが広域となるとかなり修練を積んでいると思います。」


「そんな…そぉなると魔法学校に通える貴族の仕業だと?!」


「決めつけは良くないですよ。あくまでも憶測の域ですので。」


「は、はい。そぉですよね。

もし他の村にも被害が出ているのであれば不特定多数に対して…ですよね?」


「恐らくは。」


「何故こんな事を…」


「落胆する気持ちも分かりますが今は対策と情報収集が急務です。」


「そ、そぉですね。気持ちを切り替えます。」


「さすがです。

まず対策として交代制で見張りを立てる必要があるかと。」


「そぉですね。見張りは3人位で近隣の村にも話を通しておくべきですよね。」


「それが宜しいかと。

情報収集としては貴族、及び王族からの指示で最近不穏なもの。もしくは不穏な動きをしている貴族の洗い出し。ですね。」


「…やはり疑わしい…ですよね。」


「疑いを晴らすためとお考え下さい。」


「貴族に限定する意味は?」


「広域風魔法を取得しているとなると魔法士としても貴族階級以上に多いので。恐らく実働犯と計画犯は別で計画犯は実働犯よりも上の階級かと思われます。」


「自分の手を汚さず…ですね。」


「はい。杞憂であればそれで良いのです。」


「……はい。分かりました。」


「間違えて貰わないように言っておきますがあなた方自身の身が何よりも大切です。危険を感じるような事は控えてください。

出来る限りで結構ですので。私達も調査してみますがその先の事は信用出来る上の人に任せようと思っていますので。」


「分かりました。慎重に行動します。」


「娘さん達を残してしまうことの無いように約束して下さい。」


「…わかりました。お約束します。」


「ありがとうございます。もし何か分かりましたら学校の服屋のニーナと言う女性に伝えてください。

私達の信頼する人の1人です。」


「分かりました。必ず。」


「それと最後に、この件は出来る限り内密に行いたいので人に漏らすことの無いようにお願いします。」


「心得ています。」


「ありがとうございます。ここからは共に辛い立場になります。解決までの辛抱ですが、苦痛を与える私達を出来れば許して下さい。」


「なにを!あなた方のおかげでこうして行動出来るのです!感謝こそすれ恨むなど有り得ません!」


「えぇ。私も主人に全く同じ意見です。」


「子供達に話さずにいてくれたことにも重ねて感謝を。ありがとうございます。」


「こちらこそありがとうございます。辛いですが共に頑張りましょう!」


「はい!」


相手は王族の可能性がある以上確実な証拠を掴んでも握りつぶされる可能性さえある。



慎重に行動していかないといけないことは2人もよく分かっているはず。



「それではこの話はここで終わりにしましょう。」


「そぉですね。おじさんには疲れてしまいますよ。

それより、カーディーは学校ではどぉですか?」


「どぉ、とおっしゃいますと?」


「あの子は本当によくやってくれておりまして。家では下の子達の世話、外では村の人達の手伝い。本当に迷惑を掛けてしまっている。

そんなカーディーが学校で下級貴族と言われ何かされていないか心配でして。」


「そんな事は無い…とは言いきれませんが。少なくとも私達の授業や前ではそんな事はありません。」


「正直なのですね。」


「真剣に子供について聞いてくる親に嘘をつけるほど腐ってはいないつもりです。」


「本当にいい先生に出会ってよかった…私達も正直にお話しますとカーディーよりも歳下の子が先生と聞いた時は学校に喧嘩でも売りに行こうかと思いました。」


娘を愛する父怖し!



「しかし毎日のようにあなた方の話を聞かされてそんな方がいるのかと感心していた次第です。

実際に会って話してみると私達よりもしっかりしていらっしゃる。」


「過大評価ですよ。」


「いえ。それは謙遜と言うものですよ。

これからも娘をどぉかよろしく頼みます。」


「承りました。必ずや。」


「ありがとうございます。」


「そぉだ。手土産がまだでしたね。

これは僕が焼いたクッキーというものです。

近々商業ギルドの方に売り込むつもりのものなので内密に。

紅茶と共に食べるとおいしいですよ。ぜひご賞味下さい。」


「ほぉー。なんでも出来るんだな。」


「なんでもではありませんけど。」


「ねぇ。どっちかうちのカーディー貰ってくれない?あの子なかなか器量良しよ?」


「そんな、僕達では役不足ですよ。きっといい人が現れます。」


「なんかあなた方2人を取り逃がすといつか物凄く後悔しそうなのよね。」


さすが母親。父のぎょっとした顔を無視して娘を売り込む。



父さん。心中お察しします。



「さて。それでは僕達はこれで失礼します。」


「ありがとうございました。」


「カーディー!先生達帰るわよ!」


「はーい!」


「今日は本当にありがとうございました。」


「いえ。」


「え?!先生クッキーくれるんですか?!先に報酬ですか?!」


「報酬?あぁ。そぉ言えば10位以内に。」


「母さん!食べてみて!」


「ここで?」


「良いから!私も!」


「美味しい!」


「おいしー!」


「カーディー。これ次の先生達の授業で10位以内だったわよね?!」


「うん!」


「確実にに勝ち取りなさい!」


「分かった!」


お母さんまで目がクッキーだ。



「プリネーラにもおすそ分け!」


「やったー!おばさんありがとう!

おいしー!」


どぉやらプリネーラは何度か遊びに来て仲良くなってるみたいだな。



「カーディー!必ず勝ち取るわよ!」


「おー!」


よく分からない所で火がついた女性陣に苦笑いを返して帰路に着く。



「あの。ライル先生。」


「ん?どぉしたの?アデルカ。」


「さっきの畑の件はどぉでしたか?」


「あぁ。うん。多分モンスターじゃなさそうかな。」


「やっぱり。そぉなると人の仕業ですよね?足跡隠すなんて人の仕業です!」


「だね。でもどこの誰かなんて分からないし見張りを立てるように伝えておいたよ。プリネーラの村もそぉしておいた方がいいかもね。」


「こっちもですか?

んー。確かに近いしうちにも来る可能性あるのか。わかりました。父と母に言っておきます。」


「そんな事する人達だから無理して怪我したりしない様にね。」


「はい。盗賊とかなら危ないですもんね。」


「うん。」


「それよりさっきのクッキー美味しかったー。あれをくれるんですか?!」


「いーや。あれに手を加えたクッキー3種類!シーラの実を混ぜ込んだやつにシーシトカの香りを付けたもの。あとはフーカの香りをつけたもの。」


シーラはくるみ。シーシトカは紅茶。フーカはシナモンだ。



「な、なんと!そんな3種類も?!最強ですか?!」


「うん。最強だ!」


「なんとー!これは勝たなければ!」


「サーシャ、私達も必ず勝って持ち帰るわよ!」


「姉さん。もちろんです!」


これは女性陣にクッキーブームが訪れそうだ。



早めに商業ギルドに持ち込むか。



少し歩いてからプリネーラと別れ、4人で学校に向かう。



「さて。じゃあ2人とも気をつけて帰るんだよ。僕達はパーム校長に用事があるから。」


「あ、わかりました!それではまた!」


2人と別れた後校長室に向かう。



「あ、キース様。ライル様。おかえりなさいませ。」


「ただいま。パーム姉さんはいる?」


「はい。いらっしゃいますよ。

あ、そぉだ。先程の家族同伴の件なんですが材料等なんとか手配出来ました。

ニーナさんって何者ですか?」


「助かる。ニーナはお客さんと仲良くなって色々とコネを持ってるらしいからなんか上手くいくかもなーって考えただけだよ。」


「ほんとですかー?なーんか怪しい。ニーナさんのこともいつの間にか呼び捨てになってますし。」


「そぉだったか?」


「………なーんか怪しいですね。」


「気のせいだって。パーム姉さんに用あるから行くぞ。」


「わかりました。

なーんか怪しいんだよなー…」


ブツブツ言ってるシリアを置いてパーム姉さんに会いに行く。



ガチャ


あ、ノック忘れた。


まぁ気にする仲でも無いしいい…か…


「………………失礼しました。」


パーム姉さんが鏡の前であげた服を着てポーズをとっていた。



いや、気のせいだ。



「なんかポーズとってたね…」


「言うな…

て、Take2だ。」


コンコン


「………ゴホン。はい。どぉぞ。」


「失礼します。」


服はそのままだったがデスクの椅子に腰掛けている。



「わー。姉さん似合ってるー。かわいー。」


「もぉ!やめてー!恥ずかしー!」


「あはは!ごめんて!でも本当に似合ってるよ。」


「あ、ありがと…」


「ポーズはその…すごくセクシーだった…よ?」


「もぉ!良いから!何しに来たのよ!」


「あ。うん。

実はちょっと姉さんの知恵を借りたくて。」


「私の知恵?」


「うん。実は今日ちょっとした依頼で塀の外の村まで行ってきたんだけど…」


事の始まりと現状。そして王族が絡んでいるかもしれない憶測まで話す。



「…って事なんだけど。」


「なるほどね。それで?」


「まだ確実では無いけど恐らくこの臆測は正しいと思う。証拠を集めたとしても出来れば公にせずにおきたい。アデルカやサーシャを傷付けたくないんだ。

内々に止めさせることって出来ないかな?」


「なるほどね。確かに嫌われていてもそこまでされたと知ればあの二人には辛いわよね。」


「まだ証拠も何も無いし違う事を望んではいる。証拠集めるにもかなりの時間が必要になると思うしね。」


「そぉね。分かったわ。もし証拠が集まって確証になったらまず私のところに来なさい。

あなた達がそのときどぉしたいのか聞いて私も出来ることはするわ。でも勝手に動いたりしてはダメよ。」


「分かった。ありがと。」


「いいのよ。それにまだ決まったわけじゃないんでしょ?」


「あぁ。」


「なら今はあまり変に勘ぐらずに置くほうがいいわ。とりあえず見張りを立てたら収束しそうならそれでなんとかなるかもしれないし。」


「そぉだね。分かった。」


「あともう1つ。生徒達から上がってきた話でリピート先生って人の話なんだけど…」


「差別…かしら?」


「知ってたの?」


「えぇ。何度か苦情が来て注意はしたのだけど…」


「そっか…まぁ出来れば気をつけて見てくれると助かる。」


「分かったわ。

よし。じゃあこの話はこれで終わり!

そぉ言えばパン祭りはどぉ?」


「そぉ言えばさっきシリアがなんとか目処が立ったって言ってたよ。」


「良かったわ。なんとかなりそうね。

あと授業の方の賞品もなんとかなったって聞いたけど大丈夫そぉ?」


「そっちも大丈夫。」


「良かったわ。

あと2人に言っておきたいことがあるんだけど。」


「?」


「まだ決定では無いけど来週2日の授業の後から週3日の授業になりそぉよ。」


「え?!」


「そんなに驚く所?」


「いや、だってまだ4回の授業しかしてないよ?!」


「一学年ほぼ全員が選択制の授業に自分から出たいと集まったのよ?それくらい予想出来たでしょ?キースはやっぱりかー。みたいな顔してるわよ。」


「予想は出来たけどこんなに早いとは思わなかったよ。」


「生徒達の意向よ。ほぼ決定事項だから頑張りなさい。」


「はーい…」


「さて。今日は休みだし久しぶりにシリア誘って飲みに行きましょうか!」


「お?良いね。」


「そぉと決まれば行きましょう!あ、待って。やっぱり2人の家に行きましょう!」


「うちに?まぁ良いけど。外でも良いよ?」


「んー。いや、2人の家で。」


「?……分かった。

じゃあシリア誘って行きますか。」


「じゃあ僕とパーム姉さんはお酒とか買って行くよ。」


「はいよー。」


パーム姉さんの転移魔法でライルとパーム姉さんは先に買い出しに行く。



俺は校長室をでてシリアの前に立つ。



「あ、キース様。用は済んだのですか?」


「あぁ。シリアは仕事終わったか?」


「ん?はい。今全学生と先生方のカードに情報を送ったところです。まだ少し細々したものは残ってますけどそれはいつでも出来ますね。」


「よし!じゃあライルとパーム姉さんが先に行ってるから飲むぞ!」


「え?!な、なんの話です?!」


「俺達と飲むの嫌か?…悲しいな…」


「行きましょう!今すぐ!お供します!」


「よーし!行こー!」


「おー!」


俺は半ば強引にシリアを連れて歩いて帰宅。



パーム姉さんとライルは少しすると帰ってきた。



「とりあえずなんか軽く作るよ。」


「俺もなんか手伝うか?」


「兄さんは座ってて。手間が増えるから。」


「パーム姉さーん!ライルが酷いこというよー!」


「よしよし。ライルー?」


「姉さんも、うるさいから座っててね。」


「「シリアー!」」


「え?!えーと。よしよし?」


「そんな2人は適当にほっとけばいいよ。お酒飲めるってはしゃいでるだけだから。」


「そんな事は無いぞ!おれはライルの料理を楽しみにしているのだ!なんせ酒に合う!」


「そぉだそぉだー!」


「まったく…はい。とりあえずこれ食べながら待ってなさい!」


皿にはサクサクに焼いたサグル(小麦粉)の生地の上にプシュー(トマト)やらなんやら乗っている。



これがまた酒に合う!



酒の技術はあまり良くない為透明度のあるものは無いが、ビールの発砲が無いもの。こちらではサールと呼ばれていて一般的な飲み屋で出てくるものだ。



他にも奮発すればラーラルというブドウを原料として作られているラーリを買う事ができる。いわゆるワインだ。



これも今回は買ってきた様だ。



サクサク食べてみてごくごく飲む。



ライルも作りながらつまみ食いしては飲んでいる。



「次はこれ!サールに合うよ!」


鶏肉を細かく切って甘辛く味付けして焼いたもの。



めちゃくちゃうまい。



「あ、あー!美味しすぎるよー!ライルは絶対いいお嫁さんになる!」


「姉さん。僕は男だよ。」


「いい旦那さんになる!というか私の旦那さんになってください。」


「断る!」


「キースー振られたー!慰めてー!」


「可哀想に…だが断る!俺は滑り止めかなんかか?そぉかそぉか。パーム姉さんのこと思い違ってた様だ。これからはパームさんと呼ばしていただきます。」


「え?!違うのよ!違うの!そんなー!私が悪かったから許してー!」


「許して?おかしな事を言いますね?私は怒ってなどいないですよ?パームさん。」


「いやー!私のキースがー!ごめんなざいー!」


「ライル。パームさんが泣いてるぞ。慰めてやれよ。」


「え?なんで?パームさんは僕に振られて兄さんに逃げるような女でしょ?嫌だよー。」


「ぶわー!うぞなのー!ごめんなざいー!」


「許して欲しいか?」


「あい…」


「「だが断る!」」


「ぶわー!ジリアー!」


「ほらほら。お二人共そこまでにしてあげてください。」


「しゃーねーな。ほら。パーム姉さん。許してあげるよ。」


「ギーズー!」


「ちょっ!苦しいって!」


そんな事をしているといつの間にかサールが尽きた。



いよいよラーリの出番!



蓋を開けて1口飲む。



ブドウの香りとアルコールが喉を通り非常にうまい。



「おぉ。ラーリうまいな。」


「あ、兄さんずるい!僕にも!」


「お、そぉだな。ほら。」


「ありがと。」


料理も出揃ってライルも席に着いて飲んでいる。



皆でラーリを飲み始めて少しするとその変化は起きた。



「ひっく……」


「ん?シリア?」


「なんれすか?」


「お?」


「わたしになんか用れすか?」


「あらー。こりゃラーリに弱い感じか?」


「よわくないれす!もっとくらさい!」


「お、おぉ。」


「ゴクッゴクッ…はぁー…ひっく…」


「私もー。」


「はいはい。」


「校長!聞いてくらさいよ!」


「聞いてるってばー。」


「わたしも頑張ってるんれすよ!」


「うんうん。ありがとねー。」


「キースさま!私も頑張ってるんれすよ!」


「あぁ。ありがとな。」


「ライルさま!私も頑張ってるんれす!」


「そぉだね。頑張ってるね。」


「うー。ひっく…そぉれすよね…だからこの服もくれたんれすし。ひっく。」


「気に入ってくれたか?」


「もちろんれすよ!気に入らないわけないじゃないれすか!」


「そいつは良かった。」


「パーム校長も毎日着てはポーズ決めてるからきにいってますよー。」


「え?!いつ見てたの?!」


「なーにいってるんれすかー。毎日見てますよー。」


「は、恥ずかしい!」


「姉さんも喜んでくれてて良かったよ。」


「あーもー。ラーリちょうだい!」


「はいはい。」


シリアはラーリに弱く飲むとこぉなるらしい。



それでもラーリが好きで毎度飲むんだとか。



絡むし寝るしで外よりここの方がいいかと場所を決めたらしい。



「先に言ってよ…」


「ちょっと驚かせたくて!」


「まぁいいけどさー。」


「ひっく…うーん…むにゃむにゃ…」


「寝ちゃったな。」


「私達も寝ましょうかー。」


「だなー。帰すのは…無理か。姉さんはライルの部屋に寝てくれ。ライル。布団は2枚あったよな。悪いがよろしく頼む。」


「はーい。姉さん行くよー。」


「まって!ラーリ持ってく!」


「まだ飲むの?!」


「残したら勿体ないじゃない!」


「はぁー。それならテーブルのあまり持ってくから先にいって床に布団敷いといて。」


「さすがライル!分かってるー!」


「シリアは俺の部屋に寝かせるわ。俺はリビングで寝るわ。」


「分かった。じゃあおやすみー。」


「おやすみー。

シリア?立てるか?」


「……………」


「こりゃダメだな。

よっと。」


お姫様抱っこする日が来るとは。酔っ払いだが。



「ったく。よっと。とりあえずこれで………」



何故かシリアががっちり腕をホールド。



胸の谷間に挟み込むな!



「んー…」


「ちょっ、こら。シリア!離してくれ!」


「んー!……………」


「やばい。酷いこと出来ないしなー。ライル達に…いや、自分で何とかするか。こんな場面見せる訳にもいかんか。」


「ん!んー!」


「ぐぎぎぎぎぎ!はぁ、はぁ…なんて力だ。」


「んん!」


「ちょっ!おわっ!」


引っ張られてシリアの横に倒れ込む。



潰さなくて良かった。



と思ったのもつかの間。



何故か体に巻き付かれてホールドされる。



最早手も足も動かせない状況。



「ちょー!シリアー!起きろー!」


「んー…」


「マジで寝てるのかこれ?ってか外せねー!」


「んー!んー!……………」


「あかん。疲れてるのに酒入れてこんなにもがいたら…」


俺は頭が回ってそのまま気を失う。



絞め技って怖いよね。


いや、割とマジで。






「ん、んー……」


私の朝は早い。



休みでもキース様とライル様の朝食を支度して差し上げたいし早く起きて行かないとライル様の朝は早い。



それにしても今日はなんか暖かいし心地いいなー。



布団から出るの難しいかもー。



「…………ん?」


暖かい?



あれ?昨日飲んでてどぉやって帰ったっけ?ラーリ飲んでからの記憶が…



そっと目を開ける。



「?!??!?!!!!」


「……すぅ………すぅ…」


き、キース様が目の前に?!



なんで?!え?!なんで?!



えええっと!昨日多分寝ちゃったんだ!でもなんでキース様が一緒に?!



し、心臓飛び出ちゃう!



「…………?!??!?!!!!」


自分の体勢を確認して本当に心臓が飛び出るところだった。



両手両足でキース様の体に巻き付いてホールドしている。



多分寝てしまった私をここまで連れてきてくれたのに巻き付いて離れなくてそのままキース様も寝ちゃったんだ…



血の気が引くとはこの事かと言うくらい自分の体温が下がった。



「や、やっちゃったよー…」


キース様を見ると寝息を立てている。



少し寝ているところを覗いた事はあるけど本当に綺麗な髪。真っ白で…



でもあんなにカッコイイ事も言うし出来ちゃう凄い御人。



下がった体温が上がる。



「ダメダメ!起きなきゃ!」


そっとキース様から手足を離す。



なんかいい匂いがするー!



ダメよ!シリア!ダメ!



自分を律して外にでる。



心臓が凄い速さで脈を打ってる。



やっぱりあの計画を進めよう。



私は朝食を作り始めた。






「ん、んー………あれ?昨日は……ん?シリアは大丈夫だったのか?」



目が覚めるとシリアの絞め技には掛かっていなかった。



まぁ美女エルフに抱き着かれたのだから役得とか思っとくか。



「ふぁー…おはよー。」


「あ、おおおおはようございます!」


「シリアー?」


「ごごごごめんなさーい!」


「ん。まぁ酒の席の事だし別に良いよ。美女エルフにに抱き着かれた訳だし役得って思っとく。」


「びび美女?!」


「ライルはどした?あとパーム姉さん。」


「あ、はい。パーム校長はまだ寝てます。今日は1日休みなので。忙しい方なので出来れば寝させてあげたいです。

ライル様は昨日遅くまでパーム校長に付き合わされたらしくまだ眠いから2度寝すると部屋に行かれました。」


「あはは。ライルは優しいな。多分朝方までやってたぞ。」


「そぉなんですか?」


「俺も何度か付き合わされた事あるからな。散々付き合わせて最後には酒瓶持ったまま寝ちゃうのがパーム姉さん流だよ。」


「な、なかなか凄いですね…」


「シリアは俺を持って寝たんだし大差ないぞ?」


「ご、ごめんなさーい!」


「あはは。しばらくはこれで遊べそうだな!」


「もー!キース様!」


「冗談冗談!

あ、そぉだ。ちょっとシリアに頼みたい事があるんだけど。」


「なんですか?」


「うちの卒業生の中で広域の風魔法使えるような奴って分かるか?」


「広域風魔法ですか?んー…どぉでしょうか。調べれば分かると思いますけど…」


「出来れば教えて欲しいんだが。

もしかしたら授業で使うかもしれなくてな。参考に色々聞いてみたくてさ。」


「参考にですか?

キース様が…?」


「まぁな。恥ずかしながらどれくらい普通は使えるものなのか知らなくてな。」


「あぁ。なるほど。それなら納得です。」


「うぉい!」


「ふふ。わかりました。急ぎですか?」


「いや。そんな急いではない。」


「わかりました。それでは近いうちにまたまとめた資料お持ちしまね。」


「助かる。」


「本当は個人情報だしいけないことなので内緒にして下さいよ?」


「あぁ。あと一つお願いしたい事がある。」


「?

なんでしょうか?」


「実はクッキーなんだが、そろそろ売り込みに行こうかと思っててな。

俺とライルじゃ相場とかこの世界の常識とか心もとなくてな。一緒に来てくれると助かるんだが…」


「全然大丈夫ですよ!」


「ありがとな。一応商談は俺達がするし何かあれば口出してくれるだけで良いから。日取りが決まったらまた連絡する。」


「はい!」


「じゃあ朝食食べて…今日は何するかなー…」


「あ、あの。」


「ん?」


「その報酬というわけじゃ無いんですけど…

キース様に魔法を見てもらいたいんですけど…」


「魔法?

そぉだな。そんなら今日は塀の外にいってみるか。」


「外…ですか?」


「せっかくの休みだし闘技場じゃなんか授業みたいだろ?外行って練習してみないか?」


「は、はい!」


魔法の練習で何がそんなに嬉しいのか…



朝食を摂るとシリアは1度学校の寮に戻り出直してくる。



杖とかローブを持ってくるそぉだ。



基本的に杖やローブは自身の守りや魔法の変換効率を上げる道具になっている。



戦闘スタイルがそれぞれ決まっており、シリアもそのスタイルで練習したいという事だ。



学校の前で待ったあとそのまま塀の外に向かう。



一応昼食も持ってきた。



とはいえシリアが…だが。



「それで?今日は何を見たら良いんだ?」


「あ、はい。

私の得意属性は水で、火と土も使えます。」


「へぇ。3属性か。なかなか珍しいだろ?」


「そぉですね。少ないという程ではないですけど。

それで私が得意としてる氷魔法がどれくらい使えるのか…もしもっと学べる事があるのならキース様に見ていただきたいんですが…」


「そぉか。分かった。そしたらとりあえず得意な氷魔法でいいからつかってみ。」


「あ、はい!

いきます!」


氷の刃を生み出してそれを前方に向けて発射。



地面に刺さると魔素に戻り拡散していく。



「なるほどな。そいつは1度見たな。」


「は、はい。あの時はまだお二人の実力も知らずお恥ずかしい言葉を吐いていました。」


「気にするな。

それよりシリアは魔法自体の変換効率とか魔力量とかは申し分無いな。改良の余地はあるが現状は大丈夫だ。」


「ありがとうございます!」


「あとはイメージ力、というか魔法に与える情報料を増やせるともっといいな。

例えば同じ魔法を俺が使ってみよう。」


同程度になる様に氷刃撃を放つ。



地面に刺さった氷は魔素に変わらずその場に残る。



「え?!霧散しない?!」


「あぁ。魔法は与える情報量がより現実の物に近くなればなるほど残り続ける事ができるようになる。

これは火魔法であれば燃え続けるし土魔法なら残り続ける。

ライルが作ったハイポーションの場合は変質させることで定着させたから少し意味合いが違うが、それは分かるか?」


「あ、はい。魔法で出てきた物質から影響を受けた物は消えない…つまり火魔法で燃え移った先の火は消えない…みたいな事ですよね?

ライル様の場合は水を作って混ぜ合わせて、更に魔力によって変質、この時に魔法の影響を受けた水に変わるので霧散しない。ということですよね?」


「そぉだ。」


「ですが今回の場合魔法自体が消えない…」


「あぁ。どれくらいこの世の中に近いものを作れるか。それがカギだな。

簡単な方法は実際にその物に触れたり観察したり色々試してみることだ。

もし残り続ける事ができる魔法になると戦術の幅も一気に広がる。」


「ですね…氷ってあんまり手に入らないんですけど…」


「ん?なんでだ?魔法で作れば良いだろ?」


「え?でもそしたら霧散して…あ!」


「分かったか?」


「はい!授業の内容と同じです!

まずは水を作って、火魔法の熱する方向でなくて冷やす火魔法を使って凍らせるんですね!

これなら作り出した水を変質させることになるので普通の氷として残る!」


「正解。既に氷魔法を普通に使えるなら簡単だろ?」


「はい!」


今までは2重の魔法陣を杖の先から出現させていたのに対し今度は1重の魔法陣を2度使う事で氷を出現させる。



単純に1度で行っていた構成を分解しただけだ。



「はっ!

よし。冷た!」


「氷の玉か。飲み物冷やすのにいいな。」


「これなら魔力使うのは1度きりですしこれからの季節には重宝するかも!」


「だな。

よーし。そんじゃ氷で遊ぶか!」


「はい!」


「凍らせる前に水を制御出来ればこんなことも出来るぞ!」


俺はドラゴンの形をした氷のオブジェを作ってみる。



「わぁ!ドラゴンだ!

な、なんか妙にリアルですね?」


「イメージ力だ。」


「な、なるほど…」


「ほらほら。色々試してみろ!」


「はい!」


シリアは楽しそうに氷を作っては色々試している。



俺は原っぱに座ってそれを眺める。



塀から遠くはないし道もすぐそこ。



それほど警戒は必要ない。



「キース様!キース様!」


自分の思う様に出来るとその度にわざわざこっちまで来て見せに来る。



褒めてやるとピコピコ耳発動。



かわゆいやつめ。



昼食をとってからもずっとそんな感じで続けた。



たまにはこんな日も良いかとのほほんと過ごす。



日が落ち始めてきた。



「シリアー。そろそろ帰るぞー。」


「え?!もぉそんな時間ですか?!」


「ほら。日が落ち始めてきたぞ。」


「なんか残念。」


「まぁまた付き合ってやるから。」


「本当ですか?!」


「あぁ。今日の所は帰るぞ。」


「はい!」


ウキウキシリアを連れて家に帰ると夕食を支度するライル。それをテーブルで今か今かと待つパーム姉さんの姿。



「あ、おかえり。」


「キースおかえりー!」


「んぉ?!ちょっ!姉さん!苦しいって!」


「なによー!1日シリアに独り占めさせてあげたんだからこれくらい良いじゃない!」


「怒り方斬新過ぎて対処に困る。」


「今日はもぉキースを離しません。」


「いや。離してくれ。」


「や!」


「ライル。これどぉした?」


「あー、昨日ちょっと虐めた時のこと根に持っててね。ずっと兄さんの帰り待ってたからね。」


「なんだそれ。」


「校長!キース様苦しがってますよ!」


「いーや。離しません。」


「校長!」


「おー。潰れるー。」


シリアの胸もデカいからそんなにされると2人の胸で窒息しそうなんだが。



「兄さん両手に華だね。」


「馬鹿なこと言ってないで助けてけろー。」


「僕今忙しいから。」


「この薄情者!」


「あ、こら。キース。はなれてはダメよ!」


「校長はもっと離れてください!」


「あーやめてけれー。おら潰れるだー。」


結局ライルの夕飯が届くまで続くことになった。



「明日は授業よね?」


「あぁ。」


「剣術科の人達の方が有利じゃないの?」


「そんな事も無いよ。

実力的にはどっちもあまり変わらない。どちらかと言うとセンスかな。」


「そんなものなのね。」


「今はね。パン祭りの方は何か手伝えることありそう?」


「そぉね。現状は特に無いけど当日は色々ありそぉね。

パンの作り方自体の指導もあるし親御さんの誘導。

材料の配達とかね。」


「なるほど。了解した。ライルはパンの作成指導だよな。

となると俺がその他の雑務って感じか。」


「そぉね。パンの作り方がすぐ分かりそうな女性教師を集めて指導したりはシリアがやるからその他の先生と連携取って動いてね。」


「りょーかい。」


夕食を摂った後2人を見送って眠りに入る。






「さてと。今日は忙しくなるな。」


「兄さん。これ。」


「お。良い感じに出来てるな。」


「これで賞品は揃ったね。」


「朝ご飯できてますよー。」


「おっと。行くか。シリアがご立腹だ。」


「何してたんです?」


「今日の賞品が出来上がってたから兄さんに渡してたんだよ。」


「これこれ。」


「わぁ!素敵ー!」


「どれも賞品らしく箱に入れて包むからそれなりにはなると思うけど。」


「十分ですよ!」


朝食を食べ終える頃に声が聞こえる。



「キースせんせーい!ライルせんせーい!」


あぁ。またあたふたしたサーシャの顔が浮かんでくるな。



「はいよー。アデルカ。大きい声出さなくてもノックして中入ってこればいいぞ?サーシャいつもあたふたしてるし。」


「え?」


「あわわわわ!」


「あ、ごめんね。

次からそぉさせていただきます。」


「はいよ。行くかね。」


「はい!今日の賞品何にしたんですか?」


「そりゃ授業まで秘密だ。」


「うー。ライル先生の3色クッキーは?」


「もちろん持ってきたよ。ほら。」


「わー!バック開けただけなのにいい匂いがするー!」


「勝ちます!」


「ぜひ頑張ってくれ。」


俺達はその足で室外闘技場に向かう。



既に半分近くの生徒が入っていて練習試合を兼ねて崩しゲームをしていた。



「おはようございます!」


「お。カーデイにプリネーラ。おはよ。今日は気合い入れてきたか?」


「はい!負けられない戦いがありますから!」


「ははは。

よーし。そろそろ始めるぞー!」


ボーン…ボーン


「よーし。始める前にいくつか注意事項と話があるから1回集まれー。」


「はーい!」


「よーし。集まったな。とりあえず話のほうから。

皆の所に届いてると思うが今週末の休みにパン祭りがある。簡単に言えばパンを作って売る祭りだ。製作は自分達の手で行って買い手は親御さんに一般の人達だ。

参加は自由だがなるべく出て欲しい!俺達も参加する。人数多い方が祭りは面白いからな!

それに今回のパン祭りはこれから学校を卒業してその先に金を稼ぐ様になった時に必ず役に立つ!

特に貴族や王族の連中は金が湯水の様に湧いて出てくるとか思ってる奴も多いからな。パン一個売るのがどれ程大変でお前達が使う金は親御さんがどれ程苦労して稼いだ物かをその一端だけでも認識するチャンスだ。参加しろよー?

平民と言われてる奴らはこれまで手伝いやなんかで散々磨いてきた金稼ぎの技術を貴族や王族に見せつけて鼻で笑ってやれるチャンスだぞ!悔しかったらお前らもこれくらい稼いでみろってな!

悔しかったら参加して稼いでみろ王族貴族!」


「うぉーーー!」


「よーし。

もう1つ話がある。最近塀の外にあまり良くない事件が起きてるらしい。外から来てる連中も外に行く用事がある連中も気をつけろ!

塀の中だって安全じゃないかもしれないから暗くなる前に必ず帰ること!約束してくれ!」


「はーい!」


「よっし。

そんじゃ今から崩しゲームトーナメント戦の説明と注意事項を話すから聞いとけー。」


「きたー!」

「よーし!」


「まずは注意事項からなー。

ルールは簡単だ。相手を崩したら勝ち。別にコケさせる必要は無いから酷いことはしないように。

もし故意的に酷いことした奴は授業参加も取り消すからそのつもりでやれよ!必ず相手へのフォローを入れるように!」


「はーい!」


「次は賞品だ!」


「まってましたー!」


「まず10位以内には3色クッキーの包みを渡す!計10人!これはライルお手製激うまクッキーだ!男子諸君。それはって思ってないか?

ふっふっふ。このクッキーを食えば世界がかわるぞ。天にも登る気分だ。食ってみたいかー?!」


「おーーー!」


「よーし。

そんじゃ3位から順番に賞品を説明していくぞー。

まず3位はハイポーション!深いキズならこれで1発完治だ!」


「わー!あれ手が届きそうで届かないのよね!」


「次は2位!モジライトのブレスレット!」


「うぉ?!モジライトかよ!欲しー!」


「ってか2位でモジライト?!じゃあ1位は?!」


「1位はプトライトのネックレス!」


「マジかよ?!やばくねーか?!」


「素敵なデザイン!私欲しい!」


「貴族や王族にとっちゃ安いもんかもしれんがこいつは買い与えられたもんじゃなく勝ち取った物だ。意味合いが全く違う!それは勝ち取った者にしか分からんぞ?!

パン祭りを終えたらこれらがどれ程高価なものか分かるようになるはずだ。

お前ら!これを勝ち取りたいか?!」


「うぉーーー!」


「それじゃ勝ち抜け!勝って手に入れろ!」


「やってやるぞー!」


「負けないわよ!」


「負けた奴は潔く負けを認めて勝ち残った奴らの応援しろよ!」


「はい!」


「それじゃあ皆こっちに注目してください!」


「これがトーナメント表です!番号が振ってありますので同じ番号の人と組んでください!始めの合図で一斉にスタートです!」


「120番の人ー!」


「あ、俺だ!」


「よろしく!」


「おぅ!」


「全員組み終わりましたね。それでは…

始め!」


「ぐぉー!」


「ぐぎぎぎぎぎ!なんのーー!」


「あ!」


「おっと。大丈夫か?」


「あぁ。ありがとな。俺の負けだ!悔しー!」


「お前の分まで勝ってくるぜ!」


「任せた!」


一回目で150人


2回目で75人。


3回目で37人。プラスシード1人。


シードはランダムで決めた。


4回目で19人。



負けた人達は隅に座って残っている人達に応援を投げたり喝を投げたりしている。



自分を負かした選手を応援したり友達を応援したりと色々だが皆負けても気持ちよく応援している。



初めから参加していた9人が全員残っている。



実力的にそれぞれが当たらないように別けたがまさか全員残るとは思っていなかった。

ちなみに最初に聞いていた序列は同じようにトーナメントで行われる魔法祭と舞踏祭の去年の順位。



つまり順位が低くても相手が強ければ順位も下がってしまう。そのためあまり参考にはならないとパーム姉さんから聞いた。



残りの10人もなかなかの腕前。



その中には俺が怒った時の貴族の男と平民の女も混じっている。



アデルカの話ではあれからも貴族の男がよく教えていたらしい。



ここからはクッキーを掛けた対決になる。



1人シードを選ぶ事になってプリネーラがシードになった。



喜び方が怖いほどだったが名誉の為に敢えてここでは言わない。



残りの18人の対戦。負ければ何も無し。勝てばクッキー確定!



平民の女の子はアデルカが相手。



アデルカ以外の試合が終わり、残ったのは先に授業に出ていた7人プラスプリネーラ、そして貴族の男が残った。



「おおおお願いします!」


「お願いします。ほらそんなに緊張しないで。お互いに全力でクッキーを狙いましょう!」


「は、はい!」


いや、一応もっと高価なもの用意したんだけどなー…



「始め!」


「く、うー!」


「やるわね。

でも!はっ!」


「あわわわわわ!」


「おっと。大丈夫かしら?」


「あ、はい。残念。負けちゃいました。

でも全力で出来ました!ありがとうございます!」


「えぇ。こちらこそ。いい勝負だったわ。」


最後は笑顔で握手とか輝かしい光景だな。



「はい!ここでクッキー取得者はこの10人に決まりました!」


「おー!おめでとう!」


「あいつあんなに強かったのか?!」


「はーい。それじゃあもう一度組んでください!」


「はーい!」


5組が組む。



カード内容は


アデルカvsジジ


サーシャvsプリネーラ


バンズvsナルフ


カーディーvsバンドール


ラカスvs貴族男


「それではここからは実況を私校長ことパーム姉さんと!」


「え?!ええ?!えっと…シリアが行います!」


「あはは!良いぞー!パーム姉さん!」


パーム姉さんノリノリだな。



ん?いつの間にか闘技場前に沢山人が?



他の学年や中等部、小等部の子達まで見に来ている。



手招きをして観客席に座るように促す。



続々と入ってきて半分位は埋まってしまった。



「さぁさぁ盛り上がって参りました!

第1回崩しゲーム大会!

まずはこのカードー!

我ら高等部が誇る剣術科エース!アデルカー!トラタニスー!」


「良いぞー!やれやれー!」


「対するは高等部の真面目っ子ジジ!ハルシウスー!」


「真面目っ子って…なんか恥ずかしい2つ名ね…」


「さぁ。シリアさん。このカードどぉ見ますか?」


「そ、そぉですね。アデルカさんは前回の舞踏祭優勝者。体の使い方には自信があると思います。

対するジジさんは真面目になんでもコツコツ頑張る子だし今回も自力を磨いてここまで上がってきましたからね。注目のカードですね!」


シリアもノリノリ?!



しっかりパーム姉さん拡声魔法と投影魔法使ってるし。最早祭りだな。



あれ?あの視界の端に映るのはニーナか?なんか売り子してるし。ちゃっかりしてんなー。



「ブーム君もマスコットキャラクターみたいでなかなか売れてるみたいだよ。」



ブームが売り込んで買って貰ったらニーナが品物渡すのか。



なかなかやりおる。



「さぁ。それでは両者構えて!」


「今日こそあなたに勝つわ。」


「望む所よ。」


「始め!」


「ん!……くぅ!」


「……くー!」


「おっと!両者1歩も譲りません!」


「はー!」


「おっとここでジジが動いた!力でねじ伏せに行く!」


「……はぁ!」


「おーっと!アデルカここで渾身の反撃が決まったー!

勝者アデルカー!」


「……負けたわ。」


「また、やりましょ。」


「えぇ。」


「笑顔で握手ー!なんと涙ぐましい光景でしょうかー!皆さん拍手をお願いします!」


会場から拍手が上がる。



「さぁ続きまして、このカード!

高等部1年魔法科の可愛いみんなの妹!サーシャ!トラタニスー!」


「み、皆のじゃないですよー!」


「対するはなんでもハッキリ言っちゃうおてんば娘!プリネーラ!ワルドー!」


「やぁやぁ!みなさん!どーもどーも!」


「シリアさん!こちらのカード、どぉですかね?やはり力の無いサーシャちゃんが1歩不利ですかね?」


「そぉですね。確かに不利ですがサーシャちゃんは芯が強い子なので侮れませんよ!

プリネーラさんも魔法科でも体動かす事が好きなので強いですね!」


「さぁそれでは両者構えて!

始め!」


「にょーーー!」


なんだそれ。掛け声かプリネーラ。



「く、くぅー!」


「やはり力の勝るプリネーラ有利か!いきなり押さえ込みにかかったー!」


「ふふふ。私の勝ちよサーシャ!」


「甘い!はぁ!」


「おょ?!」


「おーっと!これは驚きだーー!勝ったのはまさかのサーシャ!相手を誘い込んで引っ張り勝ちだー!」


「悔しー!油断したー!」


「私の勝ちです!」


「負けたー!サーシャ!1番取りなさいよ!」


「はい!」


「さぁ!続いてはこちらのカード!

筋肉隆々!肉体万歳!バンドール!ヒープー!」


「うぉーー!」


「対するは漢とは俺の事!ナルフ!カヌレー!」


「うぉーー!」


「さぁなかなか暑苦しい戦いですがどぉですか?!」


「そぉですね。ただただ暑苦しいです。」


「おっと解説が雑だー!」


会場から笑いが起きる。



「って言うのは冗談です。どちらも真面目な子達で実力もあります。どちらも力自慢。単純な力押しの勝負になるかと。」


「なるほどー。それではいきましょう!構えてー!

始め!」


「ぐぉー!」


「なんのーー!」


「ぐぎぎぎぎぎ!」


「ぬーーーー!」


「互いに押して押されて!拮抗しています!」


「良いぞー!負けるなー!」


「押し潰せー!」


「ずあー!」

「だぁーー!」


「おぉっと、これはどちらが勝ったんだ?!両者共に倒れているー!」


「はぁはぁ…」

「はぁはぁ…」


「ライル審判の判定は!」


「バンドール!」


「勝ったのはバンドールー!」


「うぉーーー!」

「くそーー!」


「いい試合だった。」


「次は負けない!」


「いつでもこい!」


「おぉっと!ここで熱く拳を合わせる!

ついつい私も拳を握ってしまったー!」


またもや会場から笑いと拍手が。



「さー!続いてはこちら!

いつも誰かの為に動いている熱血女子ことカーディー!ノルマー!」


「カーディー頑張ってー!」


「対するはこちらもいつも活発に動き回る男!バンズ!カードルー!」


「これは面白いカードですね。どちらも魔法科ですが女性対男性の勝負。

男性が有利に見えてもあくまで体の使い方が重要なこの競技、カーディーは誰かの為にあらゆる事をそつなくこなすので強いですよ!」


「やはりパーム姉さんも女!カーディーを応援したくなりますがここは平等にいきましょう!

それでは構えて!

始め!」


「く!」


「男の方が有利な事に変わりは無いさ。」


「おっと!やはり力の差は埋められなかったか!」


「カーディー!弟と妹に自慢するんでしょー!」


「おっと!ここで友人の激が飛ぶー!」


「ま、負けられないー!」


「なっ?!」


「おーっと!勝負ありー!勝者カーディー!」


「あー!やっちまったー!」


「ライル先生!解説お願いします!」


「今のはカーディーさんが捻りを加えてバンズ君の腕から一瞬力を逃がしたんです。

そこに一気に力を込めて崩したんですね。上手いですよ!」


「なるほどー!これは高等技術だー!こんな所に思わぬ伏兵がー!?」


「やったー!」


「負けたよ。おめでとう。」


「ありがとう!」


「さぁさぁ次で今回の対戦最後のカード!

クールな男子!しかしその実は優しいイケメン!ラカス!ホイルデンー!」


「………」


「対するはキース先生を激怒させた男!貴族男子ー!」


せめて名前で呼んでやれよ。しかも激怒させた男って…

本人申し訳なさそうに出てきてるよ。



「ナルフは序列は低いですけど実力はかなりのもの。対して貴族男子は心を入れ替えて酷く当たった女の子に今では優しく教えているそうで頑張り屋さんですよ!」


「おっと!ここで貴族男子の説明が入ったが、そんな事より勝負だー!

構えてー!

始め!」


「おおぉ?ぉおお?うわーっ!」


「おーっと!一気に勝負を決めたー!勝者ラカス!

ライル先生!」


「今のはラカス君が素早く手を動かす事で相手に力を入れされるタイミングを作らせず押し切ったんですね。」


「なんとー!クールなスピードスターだったー!」


スピードスターって…ネーミングセンスが…



「さぁ!ここで5枚のカードが出揃いました!

少し休憩を挟みます!」


「いやー、なかなか面白いな!」


「俺はあのラカスって奴が良いな。」


「いやいや、やっぱアデルカ様でしょ?!」


「ここは大穴でサーシャちゃん!」


シード選手を決めようか総当りにしようか考えているとバンドールがやってくる。



「先生。」


「お?どした?」


「さっきの試合で手首を痛めてしまいました。」


「大丈夫か?!」


「いえ。保健室に行きたいので棄権します。」


「そんな事しなくても治してやるぞ?」


「いえ。痛めたのは自分のせいです。他の人達は回復魔法を使わずに戦うのですからそんな事はできません。」


「真面目なやつだな。」


「すいません。不器用でして。」


「僕も兄さんも君のようなひとを不器用とは呼ばないよ。正直で優しい人だ。」


「すいません。ありがとうございます!」


「パーム姉さん!」


「おっと?!ここで緊急速報です!なんと先程の試合で手首を痛めてしまった様でバンドール選手が棄権になるそうです!」


「大丈夫でしょうか?」


「先生!俺が連れていきます!」


「先程の対戦相手のナルフが手を挙げました!なんという友情!昨日の敵は今日の友!皆さん!2人に盛大な拍手をお願いします!」


「良くやったぞー!」


「カッコよかったわー!」


「これはキース先生からの内緒話ですがどぉやら退場したバンドール君は自分だけ回復魔法を受けるのはフェアじゃないと拒否!

怪我が酷くなり相手選手に要らない心配をかけるくらいならと潔く棄権を進言したそうです!」


「素晴らしい精神ですね!見習いましょう!」


「そぉですね!

それでは続いての対戦カードを紹介しましょう!

まずはアデルカvsラカス!続いてはサーシャvsカーディー!」


「うぉーーー!」


「さぁ!それでは早速1試合目!先程は序列1位の貫禄を見せつけたアデルカ!

それに対するはスピードスターラカス!」


「どちらもかなりの実力派。ラカス選手は速攻で倒しきりたい所ですね!」


「それでは構えて!

始め!」


「……」


「く!はっ!」


「アデルカ一瞬崩されそうになりますがなんとか立て直す!

おっと!こ、これは凄い!ラカス選手のスピードについて行っているー!」


「凄いですね!」


「すげー!なんだありゃ!」


「速すぎて目で追えないぞ!」


「くっ!」


「おーっと!ここで勝負ありー!勝者アデルカ選手!」


「負けた…ありがとうございました。」


「こたらこそ。」


「ライル先生!」


「あ、はい。今のはラカス選手の速攻を凌いだアデルカ選手が隙を見て崩した形ですね。

拮抗していただけに素晴らしい試合でした。」


「凄かったぞー!スピードスター!」


「さて!続いてはサーシャちゃん!とカーディー!」


「サーシャちゃん頑張ってー!」


「カーディー負けるなー!」


「それでは両者ー!

始め!」


「……」


「おっとこれはー?!互いに見合っているのかー?!ライル先生!」


「はい。今は互いに押し所を見極めてる状態ですね。

決まるのは一瞬になるとかと思いますので目を離さないように!」


「今までと打って変わってしずかな試合!

だが互いに隙を探る一撃狙い!さぁどぉなる?!」


「……………はぁ!」


「やぁ!」


「おーっと!決まったーーー!勝者!サーシャちゃーん!」


「負けたーー!」


「あ、危なかったです!」


「惜しかったー!でも全力でやれたよ!ありがと!」


「こちらこそ!うわわわわ!」


「おーっと!握手からの抱擁ー!うらやまけしからーん!」


笑いが溢れる。



「さぁ!ここで3位決定戦ですが…?

ここでキース先生からラカス選手の棄権が言い渡されました!

理由はなんと満足したからハイポーションはカーディーに上げてくれとの事ー!

なんとにくい演出ー!ラカスのイケメーン!

客席の中にも頬を染める女子がー!やりやがったラカスー!」


笑いが止まらない。



「さぁそれでは最後のカード!

その強さは本物だった!剣術科序列1位!アデルカー!

今日こそは姉を倒してみせる!我らの妹サーシャちゃん!

なんの因果か実の姉妹対決!」


「サーシャ。やる様になったわね。」


「姉さん。今日こそ勝ちます!」


「両者構えてー!

始め!」


「はっ!やー!」


「く!やー!」


「おーっと!一気に決まるかと思われたこの試合がなんと拮抗しています!

スピードと力で押す姉に対して柔らかさでいなす妹!

なんと素晴らしい試合でしょう!」


「はぁ!たー!」


「くぅ!はー!」


「両者1歩も譲りません!どちらが勝つのかー!」


「「はぁーー!」」


「決まったー!近差でアデルカの勝利ー!」


客席から歓声と拍手が上がる。



「ライル先生!」


「はい!素晴らしい試合でしたね!どちらも1歩も引かなかったです。ですが最後のフェイントに引っかかったサーシャさんが立て直す前に決められましたね。」


「素晴らしい!

皆さん!今回の参加選手全員に今一度拍手をお願いします!」


1層大きな拍手と歓声が上がる。



全員でお辞儀してこの祭りは幕を閉じた。



会場から人がいなくなると全員を集める。



「おーし。お疲れ様ー。」


「惜しかったなー!」


「あそこでこぉしてれば!」


「まだまだ熱が冷めんかもしれんがとりあえず賞品渡すぞー!クッキーから!10位までの奴ら集合ー!」


「まってましたー!」


「はい。どぉぞ。」


「ついに!遂に私の手元に来たのね!」


「うぉーーー!」


貴族男子が例の女の子に手渡していたのは見ないふりをしておく。



「さぁ!そんじゃ3位!カーディー!」


「はい!」


「頑張ったな。おめでとう!」


「はい!ありがとうございます!」


「2位!サーシャ!」


「はい!」


「驚いたぞ?おめでとう!」


「ありがとうございます!」


「そして1位はアデルカ!」


「はい!」


「素晴らしかった。おめでとう!」


「ありがとうございます!」


「3人に拍手!」


パチパチパチ


「おーし。安くても自分で手に入れた感想はどぉだ?」


「はい!こんなに価値のある物は他にありません!」


「私も、大事にします!」


「ははははははいぽーしょんー!」


笑いが溢れる



「それぞれそれの重さを噛み締めてると思うが先に言っておく。

それらは自身の事を守ってくれる道具だ。

確かに重くて大切な物だとは思うがもし何か危機が迫った時は迷わず使うこと!大事にし過ぎて怪我したらあげた意味が無いからな。約束してくれ。」


「「「はい!」」」


「よし!えーっと。まだ時間あるな。」


「先生!」


「ん?」


「よろしければで良いんですが、先生達に何かして欲しいです!」


「俺達に?」


「はい!」


「んー。そぉだな。今日はみんな約束守って頑張ったしたまには良いか。」


「そぉですね。でも何をしたらいいか…

あっ!そぉだ!兄さん!あれやろあれ!演武!」


「あれか?良いぞ。」


「先生、演武ってなんですか?」


「はい。演武というのは僕達の故郷で伝わる武術で決まった型を演じるものです。少し実戦的ですけど。」


「おもしろそー!」


「あれやるの?!私好きなんだよねー!」


「校長先生は見たことあるんですか?」


「あるある!なんて言うか…すっごく綺麗よ!」


「先生!それみたいです!」


「分かった分かった。今日だけの特別だからな!」


「やったー!」


「んじゃ危ないから離れてろー。」


「はーい!」


「よっと。」


ピキピキピキ


「え?!キース先生?!」


「ん?あぁ。こりゃ氷魔法で作った刀…俺達の故郷の剣だ。」


「ライル先生の剣と同じ形!」


「あぁ。そぉだ。ライル。」


「おっと。」


俺とライルは氷の剣を持って構える。



ライルから剣術を軽く教えて貰った時にこの演武も覚えた。



「いくよ!」


「あぁ!」


俺とライルはほとんど実戦の様な迫力で演武を始める。



刀を合わせ、避け、斬る。



もちろん決まった型だから決まった様に避けるし刀を合わせる。



演武なので速すぎず遅過ぎずのスピード。



生徒にも充分目で追える速度だ。



たまに響く氷の剣と氷の剣のぶつかる高い音のみが響く。



さほど長くは無い演武の為5分程度で終わりを迎える。



「と。こんな感じだ。」


「あれ?皆口開けてどぉしたの?」


一瞬時魔法使ったかと焦るくらい生徒の動きが止まっている。



パーム姉さんのニヤニヤで違うと気付いたが。



「えっと、おーい。」


「はっ!すいません先生!み、見惚れてました!」


「そんなに凄いことしたか?」


「はい!なんて言うのか…すごく洗練された技と言うのはこんなにも綺麗なんですね。まるで薄氷の上で踊っているような神秘的なまでの美しさを感じました!」


「お、おぉ…なんか恥ずかしいな。」


「恥ずかしいことなどありませんよ!ここまで美しい剣を私達は見た事がありません!」


「あ、ありがとうございます。」


「ま、まぁこんな所だ!」


「キース先生って剣術も凄いんですね?!」


「ん?いや、剣術に関してはライルの足元にも及ばんよ?」


「比較対象が凄すぎるんですよ…」


「そぉなのか?」


「うーん。僕も自分をそんなに凄いとは思わないけど兄さんははっきり言って天才だからなー。剣術もやっぱり人よりは凄いんじゃないかな?」


「まったく実感無いな。」


「ライル先生だって魔法凄いんですよ?!」


「え?僕の魔法?兄さんの足元にも及ばないよ?」


「いや、だから比較対象が…」


何故か学生達に呆れられた。



「釈然としないが…まぁ良い。

そろそろ時間だな!

これで今回の授業は終わりにする!」


「ありがとうございましたー!」



ボーン…ボーン


「さてと。とりあえず1個目の山は越えたな。」


「後はパン祭りだね。」


「その前に授業がある事忘れるなよ。」


「分かってる。」


「せんせーー!」


「おぉ。アデルカ。サーシャ。よく頑張ったな。」


「やりました!」


アデルカもサーシャも誇らしげに賞品を持ってくる。



「カーディーは…ラカスのとこか?」


「はい!納得出来ないって行ったみたいです。

でもラカス君は"良いから受け取っとけ"って言って出てっちゃったから。最後は何回もお礼言ってました!」


「ラカスも粋なことするなー。」


「せんせー!」


「噂をすれば影…だな。

よぉカーディー。よく頑張ったな。」


「は、はい!プリネーラの応援のお陰です!」


「私は応援しただけよ?」


「それが力になったんだよ!」


「ま、なんにせよ皆よく頑張った。せっかくだし飯でも食ってクッキー食いに行くか?」


「おー!」


「あ、そぉだ。アデルカ、サーシャ。賞品着けてやるよ。」


「え?」


「そぉだね。アデルカさん。こっちに。」


「サーシャ。おいで。」


「「はい!」」


俺はサーシャに、ライルはアデルカに賞品を着けてやる。



「「おめでとう!」」


「「あ、ありがとうございます!」」


「よーし!飯行くかー!」


「おー!」


俺達は昼飯に向かった。



昼飯の間はトーナメント戦の事で盛り上がった。



周りにいる学生もその事で話が持ちきりの様だ。



あれだけ派手にやればそれも仕方ない事だ。



授業のあるアデルカ達と別れて紅茶を飲んでいると、



「白主様。黒主様。」


「おぉ。ニーナ。」


「お疲れ様です。」


「ありがとな。立ってなくて良いから座れよ。」


「ありがとうございます。」


「ニーナ上手く稼いでたな?」


「お気付きになられてたのですか?!

お恥ずかしい…」


「そんな事は無いよ。なかなか上手い手だって感心してたんだから。」


「ありがとうございます。」


「それで?」


「はい。前の話とは別件なんですが…」


「ん?」


「実は相談がしたいと剣術科の先生が黒主様を紹介して欲しいと…」


「僕を?」


「はい。マーズ-シスタニカと言う先生です。」


「マーズ…さんですね。分かりました。」


「出来れば白主様にも共に相談に乗って欲しいそうなんですが…」


「ん?俺もか…剣術には詳しくないが話くらい聞くぞ。」


「ありがとうございます。日時は御二方に合わせるとの事なのですが。」


「明日か明後日だね。どちらでも良いけど…じゃあ明日の昼過ぎに学校前で待ち合わせ…は良くないかもね。

ニーナさん。ウチまで案内頼んでも良いかな?」


「仰せのままに。」


「よろしくな。」


「はい!」


「そぉだ。ニーナにも色々世話になってるからな。

これを渡しとく。」


「これは…?」


「イジスタイトを埋め込んだ髪留めだ。

加工によって疲労回復と体力回復魔法が微小ながら常時得られる物だ。あまり綺麗な鉱石じゃないから中に埋め込んで装飾してある。一応1人で作ったもんだから気に入るか分からんが良かったら使ってくれ。」


「なんと、こんな私に…これ程のものを頂けるなんて…ありがとうございます!」


「おいおい!泣くな泣くな!俺が泣かせた悪者みたいだろ?!」


「す、すいません。嬉しくてつい…」


「喜んでくれて良かったよ。着けてやるから後ろ向け。」


「は、はい!」


俺は緩く縛った三つ編みを留めなおしてやる。



「ニーナさん似合ってますよ!」


「ほ、本当ですか?!ありがとうございます!

私は本当に幸せ者です。」


「そんじゃ俺達は帰るからさっきの件はよろしくな。」


「はい!」


俺とライルはその足で校長室に向かう。



扉を開くと珍しく虚空を見つめてボーッとするシリアが見える。



「シリア?大丈夫か?おーい。」


「はっ?!こ、これはキース様!お恥ずかしい所を!」


「珍しいな。」


「い、いえ…その…先程の演武を思い出していまして…すごく綺麗でした。」


「ありがとな。」


頭を撫でてやるとピコピコ耳。



頭にスイッチでもあるのだろうか?



「ちょっとパーム姉さんと話あるから寄ってくわ。」


「あ、はい!紅茶お持ちしますか?」


「そんなに時間取ら無いから大丈夫。」


「分かりました。」


コンコン


「?!…ガシャ……は、はーい!」


「姉さん。」


「あ、あらキース!ライル!いらっしゃい。」


「何してたの?」


「ん?なんの事かしら?」


「いまガシャって…」


「な・ん・の・事かしら?」


「いえ。なんでもありません。」


「よろしい。それで?」


「うん。今日はちょっと聞きたいことがあってきたんだよ。」


「なに?」


「マーズ先生についてなにか知ってれば教えて欲しいんだけど。」


「マーズ…剣術科教師のマーズ-シスタニカ先生ね?」


「うん。」


「何かあったの?」


「いや、何かありそうな感じだったから少し情報入れときたくて。」


「そぉ…マーズ先生は元々明るい性格の先生なんだけどハッキリ言うタイプの先生じゃないから色々考え込んで最近は元気が無いみたいね。

噂では例のリピート先生とも何かある様な事を聞いたわ。」


「あの差別主義者の?」


「言い方はあれだけどそぉね。

表立ってやってるわけじゃないから注意も出来ないし心配してた所よ。」


「そぉなんだ。」


「生徒達の反応は半々ね。」


「半々…か。」


「そうね。あまり人のプライベートに足を突っ込み過ぎないようにね?」


「分かってるよ。ありがとう。」


「えぇ。何かあれば聞くから言ってきなさいよ?」


「うん。ありがと。」


俺とライルは話を聞いた後帰宅する。



夕飯を食べながら少し話す。



「マーズ先生の事なんだけど…」


「あぁ。」


「兄さんの意見を聞かせて欲しい。」


「そぉだな。

恐らくリピート先生の嫌がらせはほぼ確定だな。

加えて貴族階級でリピート先生の事を支持してる差別主義者を集めてその生徒達にもマーズ先生を虐めさせてるって所かな。」


「……」


「助けたい気持ちも分かるが軽はずみな行動はするなよ。

まだ話も聞いてないしな。」


「分かってる。」


「分かってないだろ。お前こぉいうイジメとかになると線が切れるからな。

俺も似たようなもんだが手を出したら余計に悪化する事もある繊細な問題だからな。」


「…分かったよ。気をつける。」


「ん。明日話してからだから今は考え過ぎるな。」


「うん。」


言っても無駄な事は分かっているがとりあえず言っておく。



無言で部屋に入るライルを見送ってから眠りにつく。





「おはよー。」


「おはよー。兄さん。」


「おはようございますキース様。」


「おはよー。シリア。

毎日来ると大変だろ?大丈夫だぞ?」


「え?!」


「おぉぉぉ!す、すまん!そんな泣きそうな顔するな!嫌な訳じゃなくて心配しただけだから!」


「…良かった…私の楽しみなので…」


「そ、そぉか。これからも頼むな。」


「はい!」


なんだよ。来るななんて言えるわけないだろ。あんな顔されたら。



「最近はずっとあげた服着てくれてるんだな。」


「もちろんです!」


「そいつは嬉しいね。パーム姉さんも毎日着てくれてるしあげた方からすると嬉しい限りだ。」


「毎朝どれ着るか選ぶのが楽しいですよ!」


ルンルンしながら朝食作る美女エルフ。



絵になるなーとか考えてると朝食が出来上がる。



「あ、そぉだ。シリア。明日クッキーの売り込みに行こうかと考えてるんだが時間作れるか?」


「あ、はい!大丈夫ですよ!」


「それじゃあ明日の昼過ぎによろしく頼む。」


「はーい!」


シリアが学校に向かったあとライルのクッキー作成を紅茶を飲みながら見る。



試作品として作るためそんなに量は作らない。



クッキーが焼けるいい匂いがしてくる。



「よし!後は冷やして詰めればOKかな!」


「3色クッキー作ったのか?」


「うん。学生の反応も良かったしこの3種類で行こうかと思ってね。」


「美味かったからなー。」


「今回も余分に作ってあるからマーズ先生が来たら一緒に食べてもらおうかと。」


「そりゃいいな!」


「僕は昼食作るけど兄さんは?」


「ここでだらだらしてる。」


「はいはい。」


ライルは昼食を作り始める。



掃除、洗濯、料理。家事のことについてはライルがやっている。



基本的に魔法は俺の方が上手いが家事全般に対する魔法、つまり洗濯する時の魔法とかはライルの方が圧倒的に上手い。



上手いと言うか俺が下手。

面倒くさくなって一気にやろうとしたりすると服が伸びたり部屋が逆に散らかったりと大変な事になる。



俺としては綺麗になったんだから良いんじゃないのか?と思うが気に入らないらしい。



なんとも家事とは難しい物だ。



俺一人なら関係ないがライルは絶対にそれを許さないからな。



前世でも一人暮らしをしていた俺のところに初めて来た時のあいつの反応は"掃除!する!"だったからな。



感動の再開とは程遠かったイメージしかない。



つまり家事全般はライル任せ。



シリアが来るようになって分担したりしているが。



昼食を食べてゆっくりしていると、


コンコン



「はーい!」


「あ、あの。マーズ-シスタニカと申します!」


「あぁ聞いてるよ。上がって。ニーナありがとな。」


「いえ。それでは私はこれで。」


「は、はい!失礼致します!」


ショートソードを腰に下げ、パーマの入った少し長めの茶髪。



背は高くもなく低くもない。



ハッキリ言って美人さんだと思うが何が気に入らないのだろうか。



「どぉも。俺はキース-フラクネル。あっちで紅茶入れてるのが弟のライル-フラクネルだ。

相談ってことは聞いてるけど立ったままじゃなんだし座ってくれ。」


「は、はい!」


俺よりも歳上なのに腰の低い人だ。



「そぉ緊張しないで大丈夫ですよ?

紅茶でも飲みながら1度落ち着きましょう。

お茶菓子も作ったので良ければ食べて感想聞かせてください。」


「あ、はい!

……お、おいしい!これすごく美味しいです!」


「クッキーって言うんだ。良かった。美味しく焼けたみたいだね。」


「紅茶も美味しくてよく合いますね!」


「それは良かった。」


こぉいう人を安心させたり緊張を解す術はライルに適わないなーと感心する。マーズ先生も大分緊張が解れて落ち着いた様だ。



そりゃ年下とはいえ男二人の家に上がるんだから緊張するわな。



「それで?僕に相談があるって聞いたんだけど。」


「あ、はい。

単刀直入に聞きますが!私にも生徒達が授業を楽しくできる方法を教えてください!」


「授業を楽しく?」


「はい。私の力不足で何人かの生徒が授業詰まらないとか分かりにくいと言われてしまって…情けないとは思いますが生徒達のために少しでも力不足を解消できればと思いましてここに来ました。」


「なるほど。

正直に言いまして普通に授業をしているだけなのでコツとかは分かりません。

力になれるのであれば協力は惜しまないつもりですが。」


「実は昨日の室外闘技場の授業を拝見させて頂きました。許可も無しに申し訳ございません!」


「それは別に良いですよ。頼まれてても間違いなく許可してましたし、それに多くの人が入る事を許可したのは兄です。それには先生方も入っているのでなんの問題もありませんよ。」


「あ、ありがとうございます!

それでこれが授業?って思うくらい笑いとか、何より学生が皆楽しそうにしている事が素晴らしいなって。

私は高等部2年を担当しているのですが情けない事ですが少しずつ授業を受けてくれる生徒が減ってきてしまっています。」


「それが自分の力不足のせいだと言いたい訳ですね?」


「はい。事実だと思います。

私は平民の出ですし、貴族の剣術の様に綺麗な戦い方を知らないので…」


「なるほど。それが生徒達に受け入れられないと思ってるわけですね。」


「はい。なのでご教授願えないかと。」


「……分かりました。」


「本当ですか?!」


「はい。ですが教えろと言われても何を教えたら良いのかが分かりません。

そこで、互いに授業を見せ合うのはどぉでしょうか?」


「授業を見せ合う?」


「はい。僕達はマーズ先生の授業を、マーズ先生は僕達の授業を見るのです。昨日の室外闘技場の件は特殊な状況でしたし普段の授業の方が参考になるかと思います。

僕達はマーズ先生の授業を見てどこが悪いのかなど意見も出しやすくなると思いますので。」


「は、はい!是非お願いします!」


「分かりました。申請書はこちらで出しておきますので次の僕達の授業に参加してください。

こちらは…そぉですね。本来の姿を見たいので投影魔法に音声を付けてマーズ先生に魔法を掛けさせて頂けると有難いです。」


「別室で見るということですか?」


「はい。生徒達は僕たちがいると本来の様に振る舞えないかもしれないので。」


「わ、分かりました。力ない所を見せるのが恥ずかしいなんて言ってられないですよね!お願いします!」


「はい。それと出来れば、僕と手合わせして頂けませんか?」


「え?!て、手合わせですか?!」


「あくまでも手合わせですよ。酷いことはしませんしこんな美人さんを傷物にしたくはないので。」


「び、美人?!」


「えぇ。少しだけお願いします。」


「あ、あぁぁ!は、はい!」


上手いこと乗せたなー。



「それでは少し塀の外に移動しましょうか。」


「状況的に転移魔法だな。」


「て、転移?!」


「兄さんごめん。でもやっぱり見ておきたい。」


「分かってる。いくぞ。」


ぐにゃりと世界が歪むとシリアと氷魔法を練習した場所に出る。



「て、てん…い…?

あの!転移魔法って?!」


「そんな事は気にしなーい気にしなーい!」


「マーズ先生。構えてください。」


「ひっ!」


カチャ!


ライルからの殺気を感じ取って即座に距離を置きショートソードを構える。



素晴らしい反応だ。かなりの使い手。



「では、打ち込んで下さい。」


「……」


マーズ先生は切り込む隙が見当たらないのか恐怖からなのか動く事が出来ない。



「動けないですか?それではこちらから行きます…よ!」


地面を蹴ったライルの手には土魔法で作った石の剣。



もちろん全く全力では無いがマーズ先生にはライルが突然目の前まで飛んできた様に見えただろう。



「?!!!

はぁ!」


キーン!


「く、くー!」


ライルの斬撃を受けると同時に後ろに飛ばされて何とか着地するが手が痺れてしまったようだ。



「お疲れ様です。」


「え?!」


「大体分かりました。やはりマーズ先生はお強いですね。」


「今ので?!それに一方的にやられただけですよ?!」


「いえ、最初に殺気に対する反応と次に自分の出来ること、出来ないことを理解して咄嗟の一撃にも対処した。完全では無いにしても素晴らしいの一言ですね。」


「う、嬉しい…ですね。亡き父から教わった平民の剣ですが。」


「そぉなんですか?」


「はい。」


「ならばそのお父様もよほどの使い手だったんですね。体捌きを見るに余程優れた剣術の様だ。お強かったでしょ?」


「はい。近隣の村では敵はいなかったです。

モンスターが出ると父が討伐するのが当たり前でした。」


「素晴らしいですね。良き父と師を同時にお持ちだった様ですね。」


「はい。病気で死ぬまでは毎日稽古を付けてくれました。」


「素晴らしいお人だ。マーズ先生の性格を見るに腕があったのに驕らず素晴らしい人格者というのも見て取れます。」


「はは。ただの気のいいおじさんでしたよ。」


「それでは戻りましょうか。」


「はい!」


またしても転移魔法で帰宅する。



最早転移魔法については考えない様にしている様だ。



「いきなり手合わせして貰ったり失礼しました。」


「そ、そんな事は気にしないでください!頼んだのは私の方ですから!」


「ありがとうございます。

それではマーズ先生は…明日の午前中が授業ですね。拝見させて頂きます。僕達は明後日の午前中ですので是非お越しください。」


「はい!お願いします!

ありがとうございました!」


最後まで礼を言って出ていったマーズ先生。



「んー。とりあえず落とし所は付けたけど問題は多分マーズ先生には無いんだよねー。」


「だろうな。普通に素晴らしい先生だと思うし実力もある。教師として教える分には充分なスペックだな。」


「確かにこの国の授業は面白くないのかもしれないけどそれはほかの先生も同じなんだよなー。」


「気付いてても敢えて気づかないふりしてるんだろうな。」


「そこを認めちゃうと教師としてやって行く自信が無くなっちゃうんだろうね。」


「まぁ出来る限り協力はしよう。」


「うん。とりあえずは明日…だね。」


俺とライルはマーズ先生の事を出来るだけ助けると心に決めて眠りについた。



「おはよー。」


「あ、おはよー。シリアさんにマーズ先生の授業見学申請書渡しといたから。」


「お。サンキュ。」


「シリア。おはよ。んで悪いな。早速今日から見させてもらう約束してるから今日から見ちゃうけど。」


「申請書はただの紙ですし何かあった時の為の物ですから。本人同士で許可してるなら出して頂けれは問題ありませんよ。」


「ん。了解。あ、今日の昼過ぎからよろしく。」


「クッキーの売り込みですよね?分かりました。また来る時に連絡します。」


「はいよー。」


「わたしはちょっとこれから仕事ありますのでこれで失礼致します!朝食はテーブルに作ってありますので。」


「ありがとな。頑張れ。」


「はい!」


シリアはパタパタと外に走る。



朝食を終えて紅茶を飲んでいるとライルが一通り家事を終えてリビングに来る。



「よーし。んじゃそろそろ魔法掛けるぞー。」


俺はリビングから魔力を辿りマーズ先生に魔法を掛ける。



魔法は自身から()()()()()()掛ける事は非常に難しいとされている。



リビングで2人、紅茶を飲みながら投影魔法を見る。



「はい!席に座ってくださーい!」


マーズ先生の声が響く。



しかし席に着く生徒はほとんどいない。



パーム姉さんの半々でも良く言っていたのだ。



「皆さん!」


「うるさいぞ!平民の分際で貴族に盾突くな!

授業やりたいのならば勝手にやっておれ!」


「…」


何度も注意や説得はしていたがそれでも直らず、結局騒がしい中授業を開始する。



だが誰一人として聞いていない。



ほとんど聞こえない程の声で授業をする教師とそれを無視して喋り続ける生徒。



遂にはその頭に色々な物がぶつけられ始める。



ゴミやら何やら、バレないようにあまり、硬い物は投げないがそれでもほぼ全員の生徒からものを投げつけられる。



「やったぜ!100点!」


「ひゅー!やるなー。次は俺だ!」


「えー。私が狙う番でしょ?」


最早学級崩壊と言う様なレベルは超えていた。



よく今まで我慢できたなと感心する程だ。



ガチャッ

「おい。どこに行く。」


「ふー…ふー…」


「落ち着け。今行って助けても同じ事だ。おまえの手でなく自身の手で解決させるべきだ。」


「ふー…ふーーー…」


手を離す。止めなければ生徒を全員切り捨てていたかもしれない。



それは俺もマーズ先生も望んじゃいない。



ライルは常に口調も丁寧で優しい。



だが()()()のはいつもライルの方が早い。



剣術を修めているだけあって道徳に反した事は基本的に許せないタイプ。



余程酷くなければ怒る程度で済むがキレさせると相手が誰であろうと向かっていってしまう直情的な所がある。



「見られないなら部屋に行ってろ。」


「いや。見るよ。ごめん。もぉ取り乱したりしないから。」


「……分かった。」


そこから1時間以上酷い状況を見続けた。



逃げる様にチャイムと共に部屋を出たマーズ先生を最後に投影魔法を終える。



「ごめん。僕マーズ先生の所に行ってくる。」


「1人で行かせるかよ。俺も行く。」


「ありがと。」


「気にするな。」


俺はライルと共にマーズ先生の所に向かう。



マーズ先生は校舎の影にいた。



誰も来ないであろう暗い場所で膝を抱えて座っている。



「マーズ先生!」


堪えきれずに走り寄ったライルを見て少し赤くなった目を驚いたように見開いた。



「あ…ライル先生…」


「マーズ先生。」


「すみません。情けない所をお見せして…」


「情けなくなんか無いですよ!よく頑張って立ち続けました。僕はあなたを心から尊敬します。」


「…ありかとう…ござい…ます…」


ライルの言葉に我慢できずに静かに泣き出すマーズ先生。



ライルはその間ずっと背中をさすっていた。



「すいません。ありがとうございます。

もぉ大丈夫です!」


「はい。」


「なにも…言わないんですね?」


「何も言えないだけです。」


「ふふふ。ライル先生は本当に優しいですね。」


「どぉなんでしょうか…」


「キース先生は今日はいらっしゃらないんですか?」


「え?

あー…多分近くで見てくれてますかね。人が来ないように。」


「キース先生も本当にお優しい。

ダメですね!こんな事で泣いてちゃ上手くいくものもいかなくなります!」


「…」


「私はもぉ大丈夫です!明日はよろしくお願いします!」


なんとか立ち直って走り去っていく。



「兄さん。」


「お?」


「僕はどぉ言えば良かったんだろ。」


「人付き合いの事で俺に聞くとはな。

たぶんだれが同じ立場にいても何も言えないか表面的な優しさを取り繕うしか出来なかったと思うぞ。」


「…」


「お前にしてやれるのはここからどぉするか。だろ?」


「うん。そぉだね。」


気持ちを落ち着かせながら帰ろうと歩いているとニーナが寄ってくる。



「おぉニーナ。」


「おはようございます。

先程走っていくマーズ先生を見ましたが…」


「今日は授業があったんだ。」


「…そぉですか。

すいません。私もたまたまあそこで泣いているのを見つけて御二方に相談してはどぉかと進言したので…」


「いや。謝ることじゃないよ。むしろ知らせてくれて僕は感謝してる。」


「感謝など…また何も出来ずに御二方に頼むしか方法が分からなかったもので…」


拳を強く握るニーナ。



ライルに聞こえないようにニーナに喋りかける。



今聞かせると何するか分からない。



「ニーナも見たのか。」


「はい。あの光景には悪意しかありませんでした。」


「…恐らくだが俺の予想では後ろで糸を引いてる奴がいる。恐らくリピート先生だ。

違う可能性もあるが少し情報を集めて貰えるか?」


「喜んで…もし同じ先生ならば然るべき鉄槌を下して頂ける様にお願いします。」


「そこは任せろ。」


「ありがとうございます。」


ニーナと別れて帰宅する。



ライルは怒りを沈める事に集中している様だ。



「さて。とりあえず明日の授業に出てもらってからマーズ先生の事は考えよう。」


「うん。」


「気持ちを切り替えろ。今はどぉやっても動けないんだ。」


「ふー…そぉだね。分かった。」


「それでこそライルだ。

そろそろシリアが来ると思うが…」


「キース様。」


「噂をすれば。シリアか?」


「はい。今そちらに向かっています。昼食はとられましたか?」


「いや、まだだ。」


「それならば最近見つけた良いお店があるのでそこでランチなどどぉでしょうか?」


「良いね。じゃあうちに来たら3人で向かうか。」


「はい!」


シリアからの念話を切る。



「シリアが美味い店知ってるから行こうってさ。

気分転換に今日は外食だ。」


「わかった。」


しばらくするとシリアが登場。



「…あれ?どぉしました?」


「ん?」


「ライル様何か機嫌が良くないような…」


「ちょっとな。あまり触れるな。気分転換も兼ねた外食だ。」


「…はい。分かりました!落ち着いた雰囲気のお店なので気分も和らぐかと。」


「助かるよ。

ライルー!行くぞー!」


「はーい!」


3人で街中へと向かう。



商業ギルドに向かう途中にある店で外から見ても落ち着いた店。



入るといい匂いが漂ってくる。



そこでシリアの助けを借りてなんとか気分転換して元に戻ったライルを連れて商業ギルドに向かう。



周りより大きく立派な建物。中も綺麗に掃除されているし清潔感のある所だ。



受け付けに向かうとキレイなお姉さん達が立っていて笑顔で色々な人に対応している。



もっと前世の朝市の様なイメージをしていたがギャップにワクワクしてしまう。



お上りさんだね確実に。



赤髪のお姉さんが対応してくれるようだ。



「こんにちは。本日はどぉいったご用件でしょうか?」


「商品の売り込みをお願いします。」


「売り込み…ですか?失礼ですが身分証などお持ちでしょうか?」


「あ、はい。」


3人ともカードを渡す。



「暫くお待ちください。」


奥に消える。



「売り込みってあんまりないんですよ。」


少し対応が変だった事を疑問に思ってるとシリアが答えてくれた。


「失礼しました。身分証をお返しします。キース様、ライル様、シリア様ですね。本日はお越しいただき誠にありがとうございます。

それで今日はどぉいった商品の売り込みでしょうか?」


「ライル様が発案されたクッキーという名の菓子になります。」


「菓子…ですか?分かりました。それではこちらへどうぞ。」


どぉやら教師が菓子を売り込むとは思っていなかったらしく少し驚いた様だった。



別室に通され、待つこと数分後、扉が開く。



「あ、そのままでいいですよ。

私はここのギルドマスターをやっています、ニルマ-レイサントと申します。

こちらは副ギルドマスターのテレオ-ダージュです。よろしくお願いします。」


ギルドマスターは茶髪ロングを上でまとめていて切れ目の美しい女性だ。ちなみに胸は…やめておこう。



副ギルドマスターは長めの金髪で清潔感のあるイケメンと言った感じ。



「それで、今日は魔女様の所から菓子の売り込みと聞いたんですけど。」


「あぁ。それでギルマスが出てきたのか!」


「キース様?」


「あ、すまん。ついな。」


「あはは。面白い人ですね!」


「おう!俺はキース、こっちが弟のライル!んでこのエルフがシリアだ。よろしく。」


「はい。」


「今日は僕の方から菓子を提案しようと来ました。

学校とは完全に関係ありませんので期待させてしまったのなら申し訳ない。」


「いえ。それよりも菓子…ですか?」


ギルマスが驚いているのには理由がある。



シリアからも聞いたがこの国での菓子と言うのは貴族が主に嗜む物で平民には売れない。



理由は単純だ。高いのに腹が膨れないから。



食うのもやっとな平民には贅沢な物だからだ。



つまり限定された場所にしか売れない。



つまり儲けがあまり見込めないという事だ。



それを敢えて売り込みに来るのはお上りさんやバカの類がほとんど。しかも新規となるとギルドからしてみてもあまり相手にしたくない。



しかし、今回はかの有名な魔女の下につく教師からの売り込み。



無下に扱ったりしては今後の経営に支障をきたしかねない。



そこでギルマス、副ギルマスが顔を出す事で体裁だけでも整えようとしたわけだ。



つまり追い返す気満々。



知らない振りをして商品を聞いたりしてこっちの反応を見て断り方でも考えているのだろう。



そこにきて俺の無作法な喋り方、しかも12のガキ、少なくとも口角をひくつかせている副ギルマスはさっさと帰れと言いたそうだ。



無作法な喋り方をしたのはこっちもギルドだからと信用していないから。



やり手でなければ商談はこちらから破棄する。



そしてやり手とは少なくとも無作法な者だからと感情を顔に出して追い返す者でなく良いものならば無作法な態度でもそこからチャンスを掴む者だと思っている。



「今日紹介したいのはクッキーと名を付けた菓子です。とりあえず1度食べてみて下さい。」


「はい。それでは…

サクッ………美味しい!」


「味は3種用意しております。」


「どれも美味しいわ!」


「ギルマス!」


「なに?美味しいものは美味しいわよ。あなたも食べてみなさい?」


「結構です!」


「さて、単刀直入に言いましょう。

これの製法と販売の権利を売りたいのです。」


「なるほど…」


「製法はまだ教えられませんがはっきり言って安いです。

平民が気軽に手を出せるほどには。」


「平民が?!」


「何をバカな!」


「テレオ!黙りなさい!」


「くっ…」


「お見苦しい所をお見せしました。申し訳ありません。」


「気にしてないから続けてくれ。」


「くっ…」


「ありがとうございます。

もしそれが本当だとしたらどれくらいの値段で売れるとお考えですか?」


「恐らくこれくらいが妥当かと。」


「………分かりました。それでは売上の3%をそちらに毎月支払うのはいかがでしょうか?」


「ふむ。俺達はここでなくても良いんだ。とりあえず反応を見たかったのもあるしな。

それに副ギルマスは気に食わないらしい。

また機会があれば会うこともあるでしょう。それでは…」

「お待ちください!7%!7%までならなんとか!」


「ギルマス?!」


「黙りなさい!あなたは今の状況が分かっていないわ

!これは今までの商談の中でも一二を争う商談よ!」


「な?!」


「あなたの態度が気に入らないとその商談相手が帰ろうとしているのよ!

キース様は最初からあなたの反応を見る為にわざと言葉遣いを悪くしていたのに気づかないの?!

商人としての根性を叩き直してあげましょうか?!」


「ひっ!」


「申し訳ありません。これはこちらの完全な落ち度です。テレオについては再び教育し直します。許して頂けるのであればそちらの取り分は決めて頂いて構いません。どぉぞその製法と販売権を売っていただけないでしょうか。」


「ぎ、ギルマス?!」


「次に何か言ったらあなたを地獄に落とすわよ。」


「は…はい…」


「なかなか見込みのありそうなギルマスだな。」


「うん。僕も良いと思う。彼女になら売ってもいいかな。」


「私もここならばよろしいかと思います。」


「シリアが言うなら間違いないな。」


「ありがとうございます!」


「それじゃあこっちの取り分は5%で。」


「え?!」


「別に虐めたい訳じゃないんだよ。副ギルマスが最初から帰って欲しそうだったからギルマスもそんななら困るしふっかけただけ。

俺達はこれくらいで充分。」


「だね。それに5%と言ってもそれなりになるくらい売ってくれるんだよね?」


「それはもちろん。お任せ下さい。」


「うん。分かった。じゃあ今回はニルマさんの顔を立てて売ります!」


「本当にありがとうございます!」


「その変わりじゃないけど変に値段を釣り上げないで欲しいんだ。なるべく庶民にも楽しめる菓子として広めて欲しい。」


「私もそこに惹かれましたので。大丈夫です。」


「さすがギルマス。だな。」


「恐縮です。」


「これは俺達のお節介かもしれないが…このクッキーの諸々をテレオさんに任せてみてはどぉかと思う。」


「この様な者に任せてもよろしいのですか?」


「ニルマさんがいれば余程安心だし、何より間違いは人の性だ。それを悔いて直せるかで人の価値は決まると思ってる。間違ったこと自体は責めるつもりは無い。

なんか教師っぽくなったな。ま、お節介と思ってくれ。」


「いえ。お心遣いに感謝致します。

貴方様の様な教師がいる学校ならばもう一度学び直してもいいかもしれませんね。」


「ニルマさんみたいなやり手の生徒なんて扱いに困りますよ。」


「ふふふ。

さて、キース様もライル様もあなたに任せて良いと仰って下さってるわ。

どぉする?」


後ろを向いてるが恐らく顔は般若かな。



「ひっ!

は、はい!誠心誠意頑張らせて頂きます!」


「頼みます。お互いに良い関係を築きましょう。」


「はい!」


「それで、なんですけど。」


「はい?」


「もし他にも同様に売り込めるものがあれば私が直に承りますので必ずこちらにお持ち頂きたいと思いまして。」


「くっ…あはははは!

良いぞ!ニルマさんなら任せられるな!」


「僕も納得だね。一回目の商談でそこまで言うギルマスなんてなかなかいないよ。気に入った。」


「ありがとうございます。」


「くっくっくっ。あー笑った!

ニルマさん良いわー!商談も終わったしそっちも素の喋りで良いぞ?」


「そぉですか?では。

まったくウチの副ギルマスか迷惑掛けてほんと申し訳ない!これからも仲良くして欲しいのでよろしくです!」


「あぁ!その喋りの方がいいな。これからもよろしく!」


「僕もそっちの方が良いかな。こらからも何かあれば必ずここに持ってくるよ。」


「ありがとー!そぉだ!いい紅茶があるんだけど、飲んでく?」


「飲みます!」


「シリア?」


「だってー!このクッキー紅茶に合うんですもーん!」


「そぉよね?!絶対そぉだと思ったわ!

紅茶用意させるからちょっと待ってて!

副ギルマス!」


「は、はいー!」


「まったく。私が自ら教えたのに怠けて…ビシバシやらないといけないわ!」


「程々にな。」


「いいえ!商人は戦場で戦ってるの!血反吐吐いて足腰立てなくなるまでしごいてやるわ!」


「副ギルマス。ご愁傷さま。」


そんなこんなでなんとか商談成立。



友達が増えてシリアの紅茶友達も増えて帰ることに。



ちなみにクッキーは1週間で全て終わらせて販売開始させるとの事。



突貫にも程があるだろと言ったが副ギルマスが倒れるだけだから大丈夫と笑っていた。



商業ギルドマスター恐るべし。



シリアにお礼のクッキーを持たせてその日は一段落した。



まだいくつか問題は残っているがとりあえずと言った感じだ。



ライルも思う所があるのだろうがそっとしておくことにする。



明日はマーズ先生を交えての授業。



少しでも助けになる事を願って眠りに落ちる。

第3部 学園編 Ⅱ 投稿です!



読んでくださった方々ありがとうございます!



いくつか問題が出てきましたね。



これをどうやって解決していくのかなー。



第4部で見ていきましょう!



それでは次話でまた会いましょう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ